HOME JNTOの事業・サービス 地域インバウンド促進 地域の皆様へのお知らせ

インバウンドビジネスセミナー in 松江-訪日インバウンド新潮流-

インバウンドビジネスセミナー in 松江-訪日インバウンド新潮流-

インバウンドビジネスセミナー in 松江-訪日インバウンド新潮流-

2月13日、島根県松江市にあるくにびきメッセにて、「インバウンドビジネスセミナー in 松江 訪日インバウンド新潮流~稼げるインバウンド 注目の有望市場~」が開催されました。訪日外国人旅行客がもたらす地域への経済効果などについて、さまざまな観点から有識者の方々にお話しいただきました。

多彩な観光資源を持つ島根県がやるべきことは、“説明すること”

夕景で知られる宍道湖と街並みが織りなす美しい情景から、“水の都”と呼ばれる島根県・松江市。その宍道湖にほど近い会場で行われた今回のセミナーには、開場と同時にたくさんの参加者が来場し、挨拶を交わしたり、名刺交換をしたりするなど、開始前から早くも賑わいをみせていました。

セミナーは、JNTO理事の山崎道徳による挨拶から始まり、訪日インバウンドの動向について語られました。注目したのは、訪日外国人旅行者の都道府県別の宿泊状況です。観光庁による平成28年の調査によると、島根県は年間5.8万人(※1)という結果で、福井県に次いで最下位レベルの数値。しかし、「観光のポテンシャルとはまったく別の話。外国人は、“日本食”や“歴史・伝統文化体験”などを期待して訪日しているんです。島根には観光資源がバランスよく揃っていますよね」と山崎理事。誘致するためには、すでに揃っている貴重な観光資源を整備する必要性があることを強く訴えかけました。

続く基調講演で登壇したのは、株式会社ジャーマン・インターナショナル 代表取締役のルース・マリー・ジャーマン氏。ハワイ出身で、1988年にリクルートに入社以来30年日本に在住する同氏は、企業の顧客獲得と経営戦略に貢献するとともに、全国各地域のインバウンドプロモーションの第一線でも活躍しています。

「ルーシーと呼んでください!」と、快活な自己紹介でスタートした講演ではまず、世界屈指の観光地であるハワイと日本にはたくさんの共通点があり、将来は日本もハワイのようになるだろうとの喜ばしい未来像の話がありました。「訪日外国人の本格的な増加はまだまだこれから。今、大きなチェンジのチャンスです!」。

そして、このチャンスをつかむために日本人は、「もっと説明する必要がある」と続けます。「日本と同じ常識を持つ国はひとつもありません。だからといってその都度相手に合わせて変わる必要はない。でも、理解されないことが多いからこそ、もっと説明しなくてはいけません」と指摘。例えば、日本の職人が伝統技法によって製作した名刺入れと、100円で購入できるような名刺入れが並べて売られているとき、同じ説明カードしか置いていないことを事例に挙げ、「それでは違いがわからず、最終的に購入には至らない。皮の種類、技法や加工の説明など、詳細が書かれた紙を横に置いてみてください。そうすることで物の良さが伝わり、購入して自国へ持ち帰ってくれます。そして、その人自身が広告塔となり、また人へと宣伝してくれます」と説明しました。

講演の途中には、「求めてくれるものを探すのではなく、求めていただきたいものは何かを第一に考えてほしい。売りたいものは何?どうやって説明、発信する?」と参加者に投げかけるシーンも。そして最後は、外国人とのコミュニケーションのための簡単な英語をレクチャーし、笑いが巻き起こる中、講演は締めくくられました。

※1:観光庁『宿泊旅行統計調査・平成28年1月~12月分(確報値)』参照。統計値は、従業者数10人以上の施設に限る

株式会社ジャーマン・インターナショナル 代表取締役 ルース・マリー・ジャーマン氏

 

成功を収めるふたつの事例から学ぶインバウンドの考え方

続いての登壇者は、徳島県三好市にある「和の宿 ホテル祖谷温泉」の代表取締役社長であり、「大歩危・祖谷いってみる会」の会長、植田佳宏氏です。今から11年前、典型的な過疎地であり、外国人旅行者も年間500人ほどだった三好市は、現在は約2万人が押し寄せる有名観光地へと変貌を遂げています。植田氏からは、訪日インバウンドが増えたきっかけや、メインターゲットである欧米豪の外国人を取り込むポイントなどが語られました。「ありのままの文化や景観を見せて、そこには必ず地域住民の人たちを介在させることが大切です」と植田氏。民間組織、DMO団体、行政が一体となってプロモーション活動を行っていることも、今日のインバウンド効果をもたらしたと紹介しました。

「大歩危・祖谷いってみる会」会長 植田佳宏氏

休憩を挟んで行われたのが、株式会社パソナ 地方創生特命アドバイザーの勝瀬博則氏による講演。認知症を患った旦那さんと二人で地方の古民家に暮らす73歳のおばあさん“みちこさん”が、古民家を外国人に宿泊施設として提供し、成功を収めている事例を紹介しました。「食事なし、電気なし、鍵なし、風呂もなし。あるのは昔の日本の暮らしだけ。何もないことが大きな価値になっているんです」と勝瀬氏。地方で暮らす高齢者でも、工夫次第でインバウンド誘致に参画でき、収益を上げて生活を安定させることができるという実例です。また、異文化交流を通して生活の張り合いにもつながるというメリットももたらされています。「今は個人の時代。インターネットがあれば一人ひとりが発信できるようになり、こうしたインバウンドを実現させることもできるんです」と力強く訴えかけました。

株式会社パソナ 地方創生特命アドバイザー 勝瀬博則氏

最後に登壇したのは、JNTOのインバウンド戦略部 調査・コンサルティンググループの清水雄一。JNTOによるデジタルマーケティングの活用事例と、「Japan Travel Online Community(JTOC)」を活用した定性調査の試みについて紹介を行いました。JTOCとは、欧米豪の旅行者もしくは日本在住者がオンライン上に集まり、自由にディスカッションできるプラットフォームのこと。「JNTOが投げかけたテーマに答えてもらったり、深掘りしたい話題はチャット機能で詳しく聞いたりすることができるなど、旅行者の価値観の発見をすることが可能です。地域の皆様にはマーケット調査にぜひ活用していただきたいです」と、参加者へ積極的な利用を呼びかけました。

 

パネルディスカッションで、島根県がインバウンドで稼ぐ方法を探る

セミナーの最後には、講演を行った植田佳宏氏と勝瀬博則氏に加え、インバウンドコンサルタントのポール・ハガート氏、山陰インバウンド機構 代表理事福井善朗氏の4名を迎えてのパネルディスカッションが行われました。ファシリテーターを務めるのは、株式会社JTBコミュニケーションデザイン コンサルタント宮口直人氏。大きく3つのテーマに基づきながら、さまざまな意見交換が行われました。

なお、今回のパネルディスカッションでは、登壇者と参加者の双方向型の意見交換を行うため、参加者のスマートフォンや携帯電話を利用して、リアルタイムに意見を集めるという試みが行われました。

4名の有識者を迎えて行われたパネルディスカッション

 

●島根県のこれからの課題は、すでにある“本物”に対してストーリーを付け加えること

最初にパネラーの皆さんに投げかけられたのは、「欧米豪のマーケットに対する魅力的な地域資源とは?」というテーマ。まずは福井氏から、「島根県ならびに山陰のインバウンドの伸び率は好調に推移していますが、数がまだまだ少ない。全体の7割をアジアからの観光客が占めており、それ以外の欧米豪などからの観光客の実態ははっきりとはつかめていません」と現在の概況について話がありました。

・山陰には“本物”がある(ポール・ハガート氏)

出雲大社で有名な島根県には数々の神話が残されており、そのストーリーを楽しみながら巡る神社や史跡は人気の観光スポットになっています。また、古代から続く製鉄の伝統技法「たたら」も、近年大変注目を集めています。「外国人旅行者は“本物”を求めて日本を訪れます。山陰には、本物と呼べるものがたくさんあると思います。例えば、神話。これほどの歴史があり、ストーリーのある神様の話を聞けるところはほかにありません。そして、たたら製鉄の刀や包丁もありますよね。こうした伝統工芸品はクールジャパンの代表的なものです」とハガート氏が外国人目線での意見を述べました。

ここで、参加者に対しても「欧米豪のお客様を魅了する島根県(山陰地方)の魅力とは?」と題した最初のアンケートが行われました。「出雲神話」「出雲大社」「たたら製鉄」「石見銀山」といった、歴史を感じさせる資源に対する意見が多数寄せられるなか、「漁師さん、農家さん」といった住民にスポットを当てた意見や、「松江の茶文化」「透明度の高い海」「山の幸」などの意見もあがりました。

・観光資源にストーリーを生み出し、物語に育てあげる“人”が必要(勝瀬博則氏)

しかし、参加者からの意見に「待った!」を出したのが勝瀬氏です。「今、挙げていただいたいずれのものにも、僕は賛成しません」と、目の覚めるような意見が飛びます。「島根にあるほとんどのものが、ほかの地域にもあるからです。では、何が必要なのか。それぞれの資源に対してストーリーが必要なのです。そのストーリーを作るのは人です。だから、一番大切なのはストーリーを作れる人であって、本物の物語に育てていく人なんです」と述べました。

さらに宮口氏が、「たくさんの資源があり、素晴らしい地域です。素材はあるわけで、あとは料理をする人が必要ということ。そして、料理の腕前を発揮するのは今日参加いただいた皆さんですね」と投げかけました。

●外国人旅行者を受け入れるために必要なこととは?

島根県の魅力的な観光資源と、ストーリーの作り手が必要である点を再確認した会場では、2つ目のテーマ「外国人旅行者を受け入れるために整備すべきこととは?」について話し合いが行われました。

・真っ先に目指すべきことは「コミュニケーション能力の向上」(福井善朗氏)

外国人旅行者を受け入れるための環境整備で、一般的によく求められるものは「サイン・標識」や「Wi-Fi環境の整備」。しかしこれらは、国や県が主体となって整備が進められていくため、徐々に改善されることが予想されます。福井氏は、「島根県に必要なのは“コミュニケーション能力”」だと指摘します。事例として、山陰インバウンド機構で取り組んでいる「山陰地域限定特例通訳案内士」の育成についての紹介がありました。

ここで宮口氏からは、「受け入れの整備について、ほかの地域で取り組まれた参考になる例はありますか?」と、パネラーへ質問が投げかけられました。

・宿泊施設などの受け皿を整えたうえで、観光客を呼び込むべき(勝瀬博則氏)

勝瀬氏からは、徳島県徳島市で実施された「イベント民泊」についての紹介がありました。毎年行われる阿波おどりの時期に合わせ、不足していた宿泊施設の問題を解消するために民泊を実施し、経済効果をもたらした事例です。「整備というと多言語対応やWi-Fi整備を考えがちですが、地域によってはまず、きちんとお金を落としてもらえる体制づくりから始めてもらいたいですね。そうでないと、人が来てくれても稼げません」と指摘します。

島根県にも、10月の神在月の時期や花火大会の季節には、県外からもたくさんの人が集まります。そうしたときに、島根にじっくりと滞在してもらえるような受け皿を整備しておく必要があることがわかりました。

そしてさらに、参加者アンケートを実施。「外国人旅行者を受け入れる上で不安なことはどのようなことでしょうか?」という問いに対し、多くの意見が集まったのはやはり「コミュニケーション」の課題でした。

・コミュニケーションを大きな壁だと思う必要はない(ポール・ハガート氏)

アジア圏の人は、相手の言葉の行間を読みながらコミュニケーションをとる傾向がありますが、欧米豪の人はまったく逆。その点を理解して、「欧米豪の人たちには、シンプルにポイントを伝えることを意識すれば大丈夫です。あとは身振り手振りがあれば、確実に思いは伝わります」と、頼もしい意見を呈してくれました。

・英語を話せなくても大丈夫!まずはやってみることが大切(植田佳宏氏)

徳島県三好市で旅館を経営する植田氏の経験のなかでも「実際は、なんとかなった」のだそうです。「英語を話せる従業員は一人もいなかったので、受け入れる前は確かに不安がありました。でも、今はまったく問題はありません。受け入れる前からあれこれ考えるとネガティブな話ばかりになりがち。まずはやってみて、それから出てきた課題に向き合えばいいのです」と語りました。

●外国人旅行者が少ない地域がインバウンドで稼ぐための方策

最後のテーマは、「地域に経済効果をもたらす“稼げるインバウンド”とは」です。観光客が島根に来たとき、どのようにして経済効果を生み出せばよいのかということについて話し合いが行われました。

・「県民一人当たりの観光で稼ぐ消費額」で日本一を目指しましょう!(勝瀬博則氏)

最初に勝瀬氏から、「島根県は東京よりも勝っていることがあるが、それは何だと思いますか?」という問いかけがありましたが、参加者の皆さんは首をひねるばかり。実は、ある観光統計上の調査報告で、「県民一人当たりの観光で稼ぐ消費額」が東京と比べて島根県の方が高い額になっているのです。

「東京は一人当たり約16万円ですが、島根県は約18万円。島根は東京よりも生産性の高い地域なのです。つまり、観光客にもっと消費してもらえる体制をつくれば、たくさんの人を呼ぶ必要はなく成功する可能性があるということです。ストーリーを作って、価値を上げ、観光客が少なくても稼げる地域にしていくことが可能です。トップは京都で41万円。ほんの2倍ほど観光効率を上げるだけで京都を追い抜けます。日本で一番を目標にしていくと、これは大変なことになりますよ!」と、島根の皆さんが今後、取り組むべきことを示唆しました。

・商品についてしっかりと伝え、価値を理解してもらえれば消費につながる(ポール・ハガート氏)

またハガート氏は、「日本に来る観光客は、思い出も買いたいと思っています。だから、ルーシーさんのお話にもありましたが、買い物の場には必ず商品の説明を置いておくことが大切です。そして、駅などで外国人旅行者の目に触れるように、しっかりとアピールすることも必要。価値を理解してもらえれば、たとえ高額であっても消費してくれるはずです」と、現在の島根に不足しているものを指摘しました。

最後に、アンケートで寄せられた質問のなかにあった、「外国人に対して、『サンキュー』『ありがとう』『だんだん(ありがとうという意味の方言)』の中で、どのフレーズを使ったら響きますか?」という問いに対して、ジャーマン氏が回答。「『だんだん、サンキュー』が、頭に残るようなフレーズでよいと思います。『あの店に行くと、なにかおもしろいことを言うよ』と話題になるのを狙いましょう! それから、出雲には出雲そばがありますよね。欧米豪の人々は、和食に関して詳しくなってきています。だから、出雲そばというのはひとつのフックになると思います。吸引力となるよう徹底的にアピールしていくと成功するはずです」とアドバイスし、なごやかなムードのなかでセミナーが終了しました。

参加者もスマートフォンや携帯電話を利用してリアルタイムで意見を出し合った

 

セミナーの開催概要はこちら