インバウンドビジネスセミナー in 高知-訪日インバウンド新潮流-

Written by JNTO

2月9日、高知県の高知城ホールにて「インバウンドビジネスセミナー in 高知 訪日インバウンド新潮流~稼げるインバウンド 注目の有望市場~」が開催されました。訪日インバウンドの第一線で活躍する方々による講演や事例紹介、パネルディスカッションの様子をレポートします。

世界のトレンドは「何もない」「人もいない」場所での自分だけのリアルな体験

このセミナーは、いま注目されている欧米豪からの訪日外国人旅行者をはじめ、各国からの訪日外国人旅行者がもたらす地域への効果を、さまざまな視点で解き明かしていこうという趣旨のもの。官公庁や自治体関係者のほか、観光業や交通業に携わる方などを中心に、多様な参加者で賑わいました。

初めに登壇したのは、JNTO理事の山崎道徳。近年の訪日インバウンドの動向や地域が欧米豪からの訪日外国人旅行者の誘客に取り組む意義、実際に訪日外国人旅行者を誘客する地域の取り組み事例などが語られました。

続いて、本日の基調講演のスピーカーであるインバウンドコンサルタントのポール・ハガード氏が登壇。11年前から北海道ニセコに移住して、訪日インバウンドに関する活動をしている同氏は、日本のツーリズムの現状を述べた後、「日本の課題は、富裕層を獲得しきれていないこと。地域に滞在する仕掛けが不足しているのも問題です」と指摘しました。また、世界のツーリズムのトレンドについて、「レジャーや旅行関連の支出が増え、特に高級宿泊施設への関心が高まっています」と語り、食、アート、スリルのある体験など12個のキーワードを挙げて各々の特徴を解説しました。

さらに、ニセコで行われているインバウンド取り組み事例を紹介し、「何もないのが、ニセコの良いところ」だと分析。「何もしないことは現代人にとって究極な贅沢となります。また、“ここでしか味わえないリアルな体験”も大切です。例えばニセコでは、アイヌと日本文化を融合させた宿泊施設が海外観光客に人気を博しています」と報告しました。

最後に、日本人と欧米人とのコミュニケーションや表現方法の違いについて解説し、「訪日外国人旅行者を増やすには、文化の違いを理解することも大切です」と述べて、壇上を後にしました。

インバウンドコンサルタントのポール・ハガード氏

 

「よさこい」をフックに、高知のインバウンドの取り組みを広げよう!

続いて、長野県山ノ内町で訪日インバウンドの市場開拓に取り組む株式会社WAKUWAKUやまのうち・代表取締役社長 岡嘉紀氏による事例紹介が行われました。同氏が手がけているのは、情報発信と未活用物件の取得・改修・賃貸を2本柱とするインバウンド施策。昨年度は、訪日外国人旅行者を主な対象とした宿泊施設の整備のほか、世界的にも有名になった温泉に浸かるニホンザル「スノーモンキー」をフックにさまざまな情報発信を行いました。「さらにハード面とソフト面、両面での展開を行って、自律的に観光を通じて地域を活性化させることを目指しています」と語りました。

株式会社WAKUWAKUやまのうち・代表取締役社長 岡嘉紀氏

二つ目の事例紹介は、高知県のお隣り・徳島県で「徳島市阿波おどりステイ」と称する活動を行う株式会社パソナによるもの。同社の地方創生特命アドバイザーの勝瀬博則氏が登壇し、年数回程度のイベント開催時など宿泊施設が不足することが見込まれるときに有効な「イベント民泊」という仕組みを発表しました。「阿波おどり開催時のイベント民泊は約6割がインバウンド客で、経済効果は約900万円にも上りました。高知の方もまずは“よさこい”の時期にイベント民宿を考えてみてはいかがでしょう?」と具体策を提案しました。インバウンドに取り組みたいが、宿泊施設の不足に悩む地域の解決策のヒントとなりそうです。

株式会社パソナ 地方創生特命アドバイザー 勝瀬博則氏

続いてJNTOが手がける事例紹介として、JNTO インバウンド戦略部 調査・コンサルティンググループの清水雄一が登壇。訪日外国人旅行者へのプロモーションを効果的に行うための手段のひとつとして、「デジタルマーケティング」のプレゼンテーションを行いました。「行動履歴を表すビッグデータとともに、SNSなどから導き出されるデータを基に属性に応じた特性を分析します。そして、そのマーケティング結果を活用し、ターゲットに合わせた周遊プランの提案などを行っています。最近では訪日外国人旅行者同士のオンラインコミュニティーを活用し、その行動特性を定性的に分析するなど、皆さまの効率的なプロモーションに役立てていくための新しい取り組みも始めました。お気軽にご相談ください」と、参加者に利用を呼びかけました。

 

求められているのは、「いまだけ、ここだけ、あなただけ」を満たすコンテンツ

最後のパートとして、インバウンドの第一線で活躍する有識者の方々によるパネルディスカッションが行われ、前半で講演を行った株式会社WAKUWAKUやまのうち 岡嘉紀氏と株式会社パソナ 勝瀬博則氏に加え、有限会社フルフォードエンタープライズ 代表取締役 アダム・フルフォード氏、高知県 観光振興部 副部長 吉村大氏、ファシリテーターのJTBコミュニケーションデザイン・宮口直人氏の計5名が登壇しました。

インバウンドの第一線で活躍する有識者の方々がパネルディスカッションに登壇

 

●欧米豪市場に対して地域の魅力を発信するためには?

まず、高知県の魅力を洗い出し、世界に向けてどのようにプロモーションしていけば良いのかが話し合われました。

・海外にも広がっている高知のキラーコンテンツ「よさこい」(吉村大氏)

高知県の外国人旅行者の延べ宿泊数を見ると、平成25年は24,820人泊でしたが、平成28年は75,400人泊と約3倍に増加しています。その要因を、「外国のクルーズ客船の寄港が増えているというのもありますが、高知が誇るキラーコンテンツはなんといっても“よさこい”です」と語る吉村氏。近隣国でPR活動を行う「よさこいアンバサダー」の認定数も、13カ国15チーム42名に上るなど、世界各国に「よさこい」の活動は広がっています。

・「貢献」を目的とした外国人旅行者も増えるのではないか(アダム・フルフォード氏)

ツーリズムのトレンドとして、経験や体験から発展して「貢献」というキーワードも出てきています。フルフォード氏は、地域のコミュニティーと一緒に何かしたいという外国人旅行者も増えてくるのではないかと指摘し、さらに、「高知県には帰国子女もいますので、英語ができる地元の子どもたちが外国人旅行者との交流を担うジュニアアンバサダーとして活動するのもひとつのアイディア」と話しました。

参加者に対するアンケートでは、「欧米豪のお客様を魅了する高知の魅力とは?」という質問に、「よさこい」のほかにも「四万十川」「郷土料理」「サイクリング」「人」など、さまざま回答が寄せられました。

・高知の人はお酒が大好き。それだけで面白いコンテンツに(勝瀬博則氏)

隣県・徳島生まれの勝瀬氏も、高知県の最大の魅力は人だと断言。「美しい自然は日本全国どこにでもあるし、さらに、世界中どの地域にも存在するが、人の多様性は唯一無二のもの。高知の人はお酒が大好き。“二日酔いにならないと帰してくれない県”というだけでも面白いコンテンツになるはずです」と語りました。

・自然と人、郷土料理、そして体験が織りなす新しい観光地(岡嘉紀氏)

長野県の湯田中渋温泉郷でインバウンド活動を行う岡氏は、「自然も人も、その地域特有のものです。自然と人に、郷土料理、旅館、体験などの要素が組み合わさって、魅力的な観光地となるのではないでしょうか」との考え方を示しました。

また、宮口氏は、「魅力的な文化やコンテンツを、どのようなストーリーでつないでいくのか。そして、どのように発信していくかが大切」と、参加者に課題を投げかけました。

●高知県の訪日外国人旅行者の受け入れ環境整備

では、外国人旅行者の受け入れ環境はどのように整備していけばよいのでしょうか。

・Wi-Fi環境の整備などに加え、基礎語学研修にも力を入れている(吉村大氏)

高知県では、ハード面、ソフト面の両面から、環境整備に取り組んでいます。ハード面は、Wi-Fiルーターの貸し出しやトイレのユニバーサル化、津波避難案内板の設置など、ソフト面は、基礎語学研修やビジネスセミナーを軸に活動を行っています。「県で取り組んでいる研修は、民間企業と連携して開催しています」と吉村氏は話します。

・年商2,000万円という可能性を秘める地域の民泊事業(勝瀬博則氏)

超高齢化・少子化する地域の未来を支える観光業として、勝瀬氏はアクティブシニアによる民泊を提案。「古い日本家屋での宿泊体験」「ホストは老夫婦」「近隣で最も高い価格設定」「食事の提供はしない」という民泊の事例を紹介し、「宿泊客の8割が外国人。年商は、2016年が425万円、2017年が700万円、2018年が2,000万円見込み」だと紹介しました。「いまだけ、ここだけ、あなただけ」を実践するだけでOKと語る勝瀬氏の事例報告に、多くの参加者がインバウンドの大きな可能性を見出したはずです。

さらにここで参加者アンケートを実施し、「外国人旅行者を受け入れる上で不安なこと」の声を集めたところ、結果は「言葉の違い」「コミュニケーションの方法」を不安視する声が圧倒的。そのほかにも、「交通機関」「治安」「高知県人の消極性」など、さまざまな声があがりました。

・地域の不安を一掃できるのは、人材しかない(アダム・フルフォード氏)

参加者たちの多くの不安に対して、「これらの課題をすべて解決できるのが人材」だと断言したのはフルフォード氏。「これからはインクルージョンの時代。例えば、企業の新人研修の一環で人材不足の村の仮村民になってみるというアイディアはどうでしょう。村民たちと生活を共にし、田植えなどを手伝いながら、外国人への観光案内をしたり、飲み過ぎた人たちの介抱をしたり……。その土地に根づいたリアルな体験を日々積んでいくことは、インバウンドの不安を払拭するうえでも非常に効果的だと思います」と語りました。

・最初は不安でも、まずはやってみることが大切(岡嘉紀氏)

フルフォード氏の発言に、自身も長野県で人材の育成に取り組む岡氏も賛同。「私たちの取り組みでも、廃業した旅館が住宅になりました。小さくてもいいからリアルな体験を積み重ねて、成功事例を少しずつ増やしていくことが大事です」と、参加者に呼びかけました。

●どうしたら、訪日外国人旅行者を相手に稼ぐことができるのか?

最後に、受け入れ態勢が整って外国人旅行者が増えたとき、どのように経済効果を生み出せばよいのかを議論しました。

・最初にコストのかかる施策はやめたほうがいい(勝瀬博則氏)

「高知県がいかに効果的に稼いでいくか」という問いに、阿波おどりのイベント民泊で大きな経済効果を巻き起こした勝瀬氏は、「自然は観光資源としては考えやすいと思うが、最初のコストは少なく。例えば、美しい清流に10万人の観光客が押し寄せたとしたら、ゴミが増えて莫大なコストがかかる。それより、1万人の観光客から美しい景観に見合う入場料をいただくことを考えたほうがいいのでは?」とコストをかけずに効果的に観光業を発展させるノウハウをレクチャーしました。

・高知新港へのクルーズ客船でのおもてなしで稼ぐ(吉村大氏)

海外からのクルーズ客船が高知新港に寄港する際のおもてなしに取り組む高知県は、外国人観光客の満足度を上げるために地元の商店街と高知県、高知市の職員で協議を行っています。吉村氏は、「クルーズのお客様により、商店街のアパレルショップの売上が上がっている」と分析しています。

・日本古来の風景が失われる前に、地域の情報を語り継ぐことが必要(アダム・フルフォード氏)

インバウンドを考える上では、お金も大事ですが、価値というテーマも重要です。「誰もが不安を抱えながら生きている現代は、旅先での出会いに注目が集まっている」と指摘し、続けて「日本古来の風景の触れ、地元のおばあさんと話すといったことに大きな意味があります。地域の風景や文化が失われる前に、情報を記録していかなければならない」と話したフルフォード氏。

さらに、「合気道、茶道など、日本に根づいている“道”という考え方は、非常に魅力的な観光資源。これを活かすために、まずは道を自分の足で歩いてみること。そして、新しい道を開拓してほしいと願っています」と語り、セミナーを締めくくりました。

 

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