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静岡の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

静岡の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

静岡の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

2017年12月20日、静岡市民文化会館にて、「静岡の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ」が開催され、静岡で観光業に携わっている方を中心に、総勢36名が参加しました。

静岡を“通過”するゴールデンルートの観光客を、いかに引き込めるかがカギ

自然や歴史、食など、競争力の高い観光資源に恵まれ、抜群の知名度を誇る富士山の展望を有する静岡県。訪日客のゴールデンルート上に立地し、富士山静岡空港などインフラも充実しています。

一方で、訪日観光客全体の26.8%がゴールデンルートを通るにもかかわらず、静岡県に訪れる人は訪日観光客全体のわずか5.4%。さらに、個人旅行のリピーターが増えた結果、東京やゴールデンルートなどの定番観光スポットからローカルな地域へと訪問地がシフトし始めています。静岡を通過するゴールデンルートの観光客にどうやって足を止めてもらうか、個人旅行者にどうやって静岡の魅力を伝えるか。そこが、静岡のインバウンドを左右する大きな課題だと考えられます。

ワークショップはJNTOの山崎道徳理事による挨拶からスタート。インバウンド施策の重要性や現状の課題、トレンドなどについて詳しく解説し、インバウンド施策の具体的な成功事例について紹介しました。

事業の主旨やポイントを押さえたところで、いよいよグループワークと座学に入っていきます。参加者に与えられたミッションは、6〜7人のグループを組んで“静岡をPRする会社の社員”となり、同地域に外国人観光客を呼び込むためのモデルツアーとプロモーション方法を考案すること。

株式会社創造開発研究所の髙橋誠氏がファシリテーター役を務め、まずはグループごとに会社名を考える作業へ。「お茶割り」や「世はここに居る」、「頂上社」など、オリジナリティのある会社名が次々と決まります。外国人の参加者が考案した「Sea Zoo OK!」というユニークなネーミングも。初めて顔を合わせるメンバーながら、スタートから積極的にアイデア交換を行い、すぐに全6グループの会社名が出揃いました。

 

ターゲットを明確に設定し、その人たちに響く観光資源を選び抜くことが大切

続く座学には、株式会社JTB総合研究所の黒須宏志氏が登壇。まず、今回のワークショップ参加者の事前アンケート回答で「静岡の魅力を世界に発信したい」というコメントが多かったことを紹介。「海外の方が地元の居酒屋に来て、地元の方の隣に座って食事する風景を実現したい」「外国人が静岡の良さを認めてくれることで、地域住民の自信につなげる」など、具体的な目標意識を持ってワークショップに参加されている点に大きな期待を寄せました。

黒須氏は、ターゲットを明確に設定することの大切さを解説。「団体ツアー客か個人旅行者か、何を求めて日本にやってくるのか、交通手段や宿泊地、入国空港はどこかなど、ターゲット像を具体的に絞っていきましょう。そして、その人たちを引きつける力のある静岡の素材は何かを厳選していきましょう」とアドバイスしました。

座学を終えた後は、グループごとにターゲットを設定し、その人たちを惹きつける観光資源を各々が考え、思いつくままに付箋に書き出していきます。さすがは観光資源が豊富な静岡だけあって、どんどん付箋の数が増えていき、なかなか書く手が止まりません。ようやく書き出しが終わると、次はグループでターゲットに刺さる観光資源を検討し、観光ルートを組み立てていきます。日本史に詳しい人が「日本の歴史が好きなアメリカ人なら、古典の世界によく登場する宇津ノ谷峠なんかがいいんじゃないかな」と話したり、アメリカ人の参加者が「おでんは好きだけれど、子どもはあんまり食べないかも。大人はお茶割り、子どもはお茶ソーダなんてのはどう?」と提案するなど、きちんとターゲットを意識しながら、自分が持っている情報を提供している様子が印象的でした。

こうして、それぞれのターゲットに合わせた6つのモデルツアーが完成しました。

各グループでオリジナリティ溢れる観光ルートを考案

 

キャッチコピーからSNS活用まで、プロモーション戦略をレクチャ-

休憩をはさんだ後半は、「インバウンドプロモーションの考え方」と題した座学からスタート。株式会社JTBコミュニケーションデザインの宮口直人氏が登壇し、プロモーションの基本や成功させるための秘訣、SNSの使い分け方などをレクチャーしました。

さらに、フリーランスライターのノーアム・カッツ氏が「SNSは全部使うよりも、ターゲットによって絞ったほうが効果的です。誰にどんなメッセージを届けたいのかが大事。たとえばTwitterなら、短い文章で詳しくは語れませんが、気軽にリツイートやフォローをしてもらって、すぐに拡散させることができます。Instagramは写真や動画で心を動かすことができるので、言語の壁があるときにおすすめです」と、SNSのプロモーションについてアドバイスをしました。

続くグループワークでは、前半で立案したモデルツアーのプロモーションを検討。講義の内容を参考にしながら、キャッチコピーやキービジュアル、プロモーション方法を固めていきます。

こうしてターゲットのニーズにマッチした6つのモデルツアーとプロモーションプランが完成。最後は各グループのプレゼンテーションが行われました。

各グループの代表者による発表

ワークショップ終了後には、「新しいアイデアが生まれました」「グループで取り組むことで、従来では気づかなかった発見があり、とても楽しかったです」といった意見が寄せられました。今回のワークショップで得たノウハウを生かして静岡のインバウド事業が盛り上がり、地域がさらに発展していくことを楽しみにしています。

ワークショップを終えた参加者の皆さん

 

各グループの発表内容

・世はここに居(お)る

「富士山がずっと見えてるツアー」

ターゲットは台湾人ファミリー。歴史・文化への関心が強く、季節を感じる体験や風景を楽しむことが好きな人に、旅行中ずっと富士山を楽しんでもらうツアーを提案します。1日目は浅間神社を観光後、とろろ汁を食べてもらい、午後は茶摘み体験。夜は梅ヶ島温泉またはグランピング施設に行き、家族で静岡の星空を眺めながら富士山を堪能します。2日目は日本平を観光後、久能山東照宮で特別な富士山を見てもらい、最後はエスパルスドリームプラザのちびまる子ちゃんランドで子どもと楽しんでもらう旅路です。キャッチコピーは「ずーっと富士山をケータイしよう。」。旅路で富士山が見える瞬間を動画で編集し、台湾の人が好きなブロガーやYoutubeでの拡散を目指します。

世はここに居る

・頂上社

「Shizuokaカンパイツアー」

ラグビーワールドカップで初来日する、オーストラリア人40代男性の友達グループをターゲットに、お酒に酔いしれる旅をお届けします。スタートは浅間神社で着物を着て必勝祈願。地ビールで乾杯が始まります。その後、ウイスキー工場で自国のウイスキーと飲み比べをしたり、わさび漬けを作りながら日本酒を楽しんだり、飲兵衛にはたまらない旅が続きます。2日目は日本の文化を知ってもらうため、茶摘み体験や久能山東照宮への参拝、清水すしミュージアムで握り体験を行い、夜はクルーズ船で再び乾杯。飲み足りなければ、おでん街を案内します。キャッチコピーは「勝っても負けても人生で最高の二日酔いが待ってます」。元ラグビー選手のレコメンドを起点にして拡散を狙います。

頂上社

・静岡にこにこ

「レキシ・サブカル一気見にこにこツアー」

歴史やサブカルチャーに興味のあるフランス人夫婦またはカップル。20代~40代がターゲットで、桜がきれいな4月を想定しています。初日はお茶摘み体験や駿府城公園の桜を見学。フランス人はマイペースなので、そのあとは日本平ホテルでゆっくり過ごしてもらいます。2日目は久能山東照宮を参拝。午後は静岡ホビースクエアでサブカルチャーを満喫してもらいます。キャッチコピーは「Shizuoka l’autre Japon!」「l’autre」は「異なる(other)」の意。東京=日本のイメージを持つフランス人に、違う日本があることを伝えます。

静岡にこにこ

・スルガオリジナル

「スルガ欲張りツアー これぞスルガオリジナル」

食への興味が強いタイ人の4人家族がターゲット。個人旅行なので公共交通機関を利用します。ツアー時期は富士山がきれいに見える1月~7月で、テーマは富士山と食に絞ります。移動は基本的に清水港まぐろきっぷとタクシーで、1日目はお茶摘み体験や久能山東照宮、静岡おでんなどの定番観光を堪能。2日目はちびまる子ちゃんランドで遊んだり、いちご狩り体験をしたり、子どもと楽しめるプログラムを用意します。キャッチコピーは「まぐろキップでスルガにGO」。タイで有名な口コミサイト「PANTIP」で、人気モデルに旅行記を書いてもらいます。

スルガオリジナル

・お茶割り

「これであなたも静岡人!~Wanna be Shizuokan?~」

初めて日本を訪れるアメリカ人ファミリーで、ローカルな体験をしたいと思っている方々に、暮らすような旅を提案。初日は梅ヶ島温泉やわさびパスタを楽しんだ後、この旅のメインとなる用宗の古民家をリノベーションした宿に泊まってもらい、散策などを楽しんでもらいます。2日目の朝がこのツアーの目玉。地元のお母さんが手づくりで作る釜揚げしらすを味わいます。その後、タミヤ模型の本社でプラモデルの見学とお土産を買い、最後は日本平ホテルで富士山を眺めます。キャッチコピーは「おかえり、静岡。~at home trip~」。割烹着を着たお母さんがあたたかいごはんを用意しているキービジュアルで、暮らしの旅を訴求します。

お茶割り

・Sea Zoo OK!

「Shizuoka “komi-komi” tour」

アメリカ人50代夫婦と10代の子どもを想定したファミリーツアー。日本に2週間滞在するうち、静岡には1泊2日で訪れます。旅のスタートはアメリカ人らしく焼肉から始まり、抹茶アイスや浅間神社、おでんなどを楽しんでもらいます。

この旅のポイントは、シークレットツアーであること。どこを観光するのか、参加者はわかりません。具体的な施策としては、静岡のいろいろな名産物を男の子に食べさせる、子ども向けのスマホゲームを用意。クリアするとクーポンが出てきて、ミステリーツアーに参加できます。キャッチコピーは、「Hungry for the Real Japan?」。どこに行くのかはわからないけれど、ゲームに出てくる食べ物や観光スポットを必ず体験できるツアーです。

Sea Zoo OK!

 

発表の講評

・株式会社JTBコミュニケーションデザイン 宮口直人氏

「皆さん、ターゲットのニーズを絞った素晴らしいツアーを考案してくださったと思います。ラグビーワールドカップと必勝祈願をくっつけたのはとてもユニークでしたね。体験できるお酒につながりが生まれると、もっと良くなると思います。お茶割りチームは、あえて富士山を出さずに、暮らす旅というストーリーを作っていたのがとても良かったです。僕も用宗に行きたいと思いました。Sea Zoo OK!チームのシークレットツアーですが、海外ではシークレットツアー専門のツアー会社もあるほど、けっこう流行っているんですよ。旅は非日常を提供するものなので、旅路をシークレットにして驚きを与えることは理にかなっています。地元の人をゲームに登場させてもおもしろいかもしれませんね」

・フリーライター ノーアム・カッツ氏

「アジア人にちびまる子ちゃん、欧米の人にわさびパスタなど、ターゲットにヒットするコンテンツがよく考えられていると思いました。全体的に若干ハードスケジュールに感じるところもあるので、イベント数には気を付けたほうがいいかもしれません。そして、いちばんの観光資源は皆さん、地元の方々です。外国人は現地の方々とコミュニケーションを取りたいので、ぜひその要素をプログラムに盛り込んでいただければと思います」

・株式会社JTB総合研究所 黒須宏志氏

「季節まで絞っているチームがいくつかありました。旅行のプロモーションを考える上では、非常に重要な要素ですよね。Shizuokaカンパイツアーはお酒好きなオーストラリア人の心をくすぐるツアーだと思います。スポーツ観戦で来日しているので、もう少しアドレナリンが出るアクティビティを入れても良さそうですね。私はお茶割りチームのツアーがいちばん素敵だと思いました。メジャーな観光スポットを避けて、確信を持ってメインディッシュを絞っている。さらに、初めて日本を訪れる方向けに富士山はきちんとおさえている。素晴らしい内容だったと思います。メインを絞れば絞るほど、企画はシャープになる。ぜひ、これを覚えていただけるとうれしいです」

・株式会社創造開発研究所 髙橋誠氏

「どのチームもターゲットに合わせてテーマを絞り込んでいたと思います。静岡にこにこチームは、歴史とサブカルチャーを盛り込みながら、ロマンチックな要素も入れるなど、フランス人がどんなことに興味を持つのかがよく練られていましたね。その中でも、お茶割りチームはテーマ設定がよくできていました。お茶ソーダやタミヤ模型の見学など、子どもに対するケアもできていて素晴らしかったと思います。Sea Zoo OK!チームのクーポンの発想もユニークで非の打ちどころがないのですが、チーム名に“Zoo”が入っているので、ぜひ日本平動物園をプログラムに入れていただきたい、ということだけ注文しておきます(笑)」

・JNTO理事 山崎道徳

「食に対する造詣が深く、静岡県民の人柄や物語が見えてくる発表だったと思います。皆さんに共通する課題として挙げたいのが、夜の“アフターおでん”をどうするか。飲める人はずっと飲み続ければいいのですが、そうではない人も夜遅くまで、なんなら24時間楽しめる場所を、ぜひ考えていただきたいです。これは静岡のみならず、日本全体の課題だと思います。今回作っていただいた皆さんのアイデアは、JNTOが静岡市にフィードバックしつつ、1年後・3年後ぐらいのタームでそのアイデアがどう生かされて、静岡を観光する人の流れがどう変わったのか、デジタルの力も生かしながら見ていきたいと思います。今回のワークショップはこれで終わりではなく、ここからが始まりです。また3年後、お会いできる日を楽しみにしています」

ワークショップの内容を視覚的に記録したグラフィックレコーディング

 

ワークショップスライド画像
1.インバウンドの動向・トレンドについて
2.ワークショップの流れ
3.座学①インバウンドを想定したコンテンツとターゲット層の検討
4.座学②インバウンドプロモーションの考え方