インバウンドビジネスセミナー in 静岡-訪日インバウンド新潮流-

Written by JNTO

2017年11月30日、静岡県の静岡市民文化会館にて、「インバウンドビジネスセミナー in 静岡 訪日インバウンド新潮流~稼げるインバウンド 注目の有望市場~」が開催されました。訪日インバウンドの第一線で活躍する方々による講演や事例紹介、パネルディスカッションの様子をお届けします。

外国人の心に響く「日本のアイデンティティ」は地方にある

日本を取り巻くインバウンドの現状を伝え、訪日観光客が地域にもたらす効果をさまざまな観点から解き明かしていく今回のセミナー。自治体関係者やDMO法人、交通事業者、銀行員、学生など、多種多様な参加者で会場は賑わいました。

はじめに、JNTOの山崎道徳理事が登壇し、インバウンドが日本にもたらすメリットについて解説。純増の経済効果が見込めることや、地方に安定的な雇用を生み出せること、日本人が日本の魅力を再確認し、自信を取り戻せることなどを効果として挙げました。

次いで、英国出身でNHK番組『英語でしゃべらナイト』などの英語監修を務め、現在は日本の地方活性化にも積極的に取り組んでいるアダム・フルフォード氏の基調講演がスタート。静岡県を観光した際、悪天候でほとんど見えない富士山をおもしろがって撮影したエピソードを紹介し、「皆さんが見ている日本と、外国人が見ている日本は違います。外国人が何を見ているのかを考えることが非常に大切です」と話しました。

フルフォード氏は、今後注目すべきインバウンドのマーケットとして、ミレニアル世代(1980年代から2000年初頭に生まれた世代)を挙げます。この世代の人口は、米国だけでも8~9千万人。労働人口における最大の割合を占め、なかでも子連れのファミリー層は旅行市場で最も大きな伸びを見せているそうです。

「この人たちが求めているのは、観光ではなく“感交(感動×交流)”。そして、ユニークな体験を世界中の友だちにシェアしたいという欲求があります。たとえば、私たちが企画している「雪下ろしのお手伝い」のワークショップは外国人にいつも好評です。ほかでは得られない体験を作り、シェアしやすい環境を作りましょう」と同氏は言います。

さらに、「感交」の事例として、山形に住むおばあさんの話を聞くプログラムを実施した時のエピソードを紹介。話を聞いた外国人の若者が、「日本に初めて出会った気がする」と非常に感動していたそうです。「例えば富士山も大事ですが、その近くに住んでいる人の話を聞くことのほうが、彼らにとっては一番の思い出になり、シェアしたいエピソードになるはずです」。

最後に同氏は、地元住民の話を外国人に外国語で伝える「異文化間コミュニケーション」をサポートする人の存在が重要であり、その手段として、静岡に長く住んでいるALT(外国語指導助手)とCIR(国際交流員)の有効活用を提案。ただ英語で話せるだけの存在としてではなく、静岡の未来を一緒に考え、アイデアを出し合えるパートナーとして手を組むことが大切だと述べました。

「何のために観光で稼ぐのか。それは、日本のアイデンティティを守るためだと私は思います。日本のアイデンティティは地方にあります。もし地方がなくなったら、日本らしさを識別できなくなるでしょう。ぜひ地方の力を未来につなげてください」と、参加者に前向きなメッセージを投げかけて、フルフォード氏は壇上を後にしました。

アダム・フルフォード氏による基調講演

 

世界中で「ここでしか味わえないこと」を発掘しよう!

次の登壇者は、徳島県三好市にある「大歩危・祖谷いってみる会」の植田佳宏会長です。人口27,088名の過疎地だった三好市を、人口に匹敵する約23,000名の観光客が訪れる人気の観光スポットに変え、徳島県内で最も移住者の多い地域へと成長させた事例を紹介。「主役は地域の人たち。余計な箱は作らず、ありのままの暮らしを見せることが大切」「外国人は単に美しい景色を見るだけでなく、その背景にある歴史や文化を知りたがっています。そこをきちんと説明できる体制づくりが必要」「我々は世界の観光地と比べられています。世界中で“ここでしか見られないこと、できないこと”を発掘しましょう」と述べました。そして、インバウンドに取組むにあたり、「①誰のためにするか(例:地元の人たち)、②目標(例:世界に通用する観光地に)、③ターゲット市場(例:アジア、欧米豪など)、④何のためにするか(例:過疎化対策)、⑤誰がやるのか(例:官民連携で)」を明確にすべき、とインバウンド事業を成功させるためのエッセンスを伝えてくれました。

「大歩危・祖谷いってみる会」植田佳宏会長

続いて、JNTOの清水雄一が登壇し、今注目を集めているデジタルマーケティングの活用事例についてプレゼンテーションしました。同氏は、デジタルマーケティングと従来のマーケティングとの違いについて、「スマートフォンやSNSを活用して、対象者の反応をリアルタイムのデータとして蓄積できる」点、「潜在的な訪日客とのつながりを強化できる」点を指摘し、「直接お客様とつながることができる時代になったのです」と語りました。さらに、JNTOが作成した「広域周遊プラン プランニングガイド」を紹介。これは、訪日外国人の動態分析をもとに、移動実態に即した周遊ルートをエリア別にまとめたもの。「JNTOではデジタルマーケティングの専任部署を新設しました。今後、JNTOが所有するデータ分析の強化や、ビッグデータを保有する外部事業者との連携を強め、皆さまのプロモーションに役立てていきたいと思いますので、お気軽にご相談ください」と呼びかけました。

講演に熱心に耳を傾ける参加者の皆さん

 

高速道路乗り放題パスに、ラグビーW杯開催、新規訪日客を取り込む絶好のチャンス

セミナーの最後には、有識者の方々によるパネルディスカッションが開かれました。DMO 法人として静岡県のインバウンド施策を推進する静岡ツーリズムビューロー(TSJ)のディレクターを務める府川尚弘氏、株式会社パソナの地方創生特命担当として活躍される傍ら、客室備え付きの無料スマートフォン「handy」を提供するhandy Japan株式会社C.E.O.の勝瀬博則氏、岐阜県飛騨市で飛騨古川の里山をサイクリングする「SATOYAMA EXPERIENCE」など地域資源を生かしたツーリズムを企画する株式会社美ら地球の山田拓氏の3名がパネラーとして登壇。株式会社JTB総合研究所の黒須宏志氏によるファシリテーションのもと、大きく2つのテーマを設けて、各々の知見を交換し合います。

最初のテーマは、「静岡県の重点マーケットとは?」。

府川氏は、「TSJとしては、今後オーストラリア、香港、タイの需要が伸びると考えているので、そこに力を入れていきます。開拓市場はカナダ、米国、英国、ドイツなどの欧米市場を中心に、それぞれのニーズに合わせた施策を展開。一方、アジアは韓国の方々が国内旅行感覚で日本に訪れるようになったので、CIRの知見を活用して韓国に受けそうな静岡の魅力をピックアップし、韓国人の主要な情報ツールであるデジタル上で届けていきます。また、静岡県は台湾の学校をはじめ教育旅行を積極的に実施しているので、カナダの体験旅行会社と連携するなど、この分野の販路拡大を計画しています」と、国ごとの重点施策を共有しました。

さらに、2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップに向けて、すでに実施しているプロダクトマーケティングを紹介。「東京や横浜のホテルが予約でいっぱいになったとき、静岡に宿泊すればバスや新幹線で気軽に日帰り観戦ができます。ラグビーをきっかけに、日本に興味がなかった外国人もやってくる絶好の機会。特に距離が近いアジア、オーストラリア、ニュージーランドの新規訪日客にラグビーワールドカップ観戦目的の訪日旅行は今後かなり人気が出るのではないかと考えています」と府川氏は述べました。

勝瀬氏は「ときにチャンスは向こうからやってくる」と話し、2017年10月13日に訪日観光客向けの高速道路定額乗り放題パス「Japan Expressway Pass」が発売スタートしたことを紹介。「ゴールデンルートで静岡を素通りしていた観光客、しかも二次交通を持った観光客が静岡にやってくる可能性が高まりました。この方々をいかに静岡に呼び込むかを考えていただきたいです」と話しました。さらに、Japan Expressway Passを利用する方の多くが個人旅行者で、情報収集にスマートフォンを活用している点を指摘。「スマートフォン片手に旅行する方の5割が、当日に行く場所を決めるというデータもあります。つまり、京都に行こうと思っていた人が、当日急に行き先を変えて静岡に来るかもしれないということ。今後、デジタルマーケティングの重要性はますます高まるでしょう」と述べました。

一方で山田氏は、「個人旅行者のデジタルマーケティングは潮流として注目していくと同時に、私たちのプログラムには旅行会社経由のお客様も大勢参加されます。なので、チャネルごとにマーケティングの方向性を考えることが大切なのではないでしょうか」と話しました。

有識者の方々によるパネルディスカッション

 

地域住民と信頼関係を構築し、「ローカルエクスペリエンス」を発信することが大事

パネルディスカッション、2つめのテーマは「インバウンドでどう稼ぐのか?」。

府川氏は、市場に選ばれるためのマーケティングではなく、静岡が市場を選ぶマーケティングを目指していることを説明します。「訪日旅行者全体の5%しか静岡を訪れていないので、まずはそれを6%に引き上げる。そして、その6%の人たちに静岡のいちばん良いもの、いちばん感動できるものを、いちばん高く買ってくれる人たちに売れば、そのほかの市場もついてくると思っています」。

具体的な取り組みのひとつとして、静岡県内での観光体験プログラムを扱う旅行会社、観光団体、地域 DMO 等が企画・販売する着地型商品を掲載する海外向けウェブサイト「Mount Fuji Travel」を紹介。「私どもがやりたいのは、個人でやるよりもよりオフィシャル感のある静岡ツーリズムの棚を用意して、みなさんの観光資源を並べて商品化すること。私たちはツアー開発やプロダクトマーケティングまでサポートします。質の高い商品を作り、その価値がわかるお客様に適正価格で販売。さらに事前・事後アンケートをとってツアー改善と販売拡大を狙います」と話しました。

続いて、徳島県徳島市の阿波踊りに合わせてイベント民泊を立ち上げた勝瀬氏が、事例を紹介。徳島市は宿泊施設が非常に少なく、4日間で人口25万人に対して「120万人が訪れる阿波踊りが市や地域住民にとっては負担となっていました。そこで、イベント開催中の数日間だけ民泊を許可する取り組みを市とパソナが協働で実施。4億円近くの累計赤字を抱えていたイベントが、1千万円近くの経済効果を出すイベントに生まれ変わったのです。「単純に人をたくさん呼べばいいのではなく、きちんとお金を落としてもらう仕組みを作ることが重要です」と勝瀬氏は言います。

「素晴らしい成功事例だと思いますが、地域住民にとっては初めての民泊で不安や抵抗感もあったと思います。そのあたりは苦労されました?」と黒須氏が聞くと、「本当に泊めて大丈夫か。逆に本当に泊まって大丈夫かという不安は大きかったと思うので、双方のマッチングや足りない部分のサポートを非常にきめ細かく行いました。そこは、パソナという人材派遣会社ならではの知見を生かせたポイントだと思いますね」と勝瀬氏は答えました。

同じように、地域住民と信頼関係を築きながら事業を展開してきた山田氏。「僕らはよそ者集団ですから、地元の方々からの理解が欠かせません。公道を使ったツアーなので法律的には大丈夫ですが、心情的なケアが重要なのです。具体的にはツアーに定員を設けてコントロールしたり、別のルートを作って一箇所の負荷を減らしたりするなど、急激な変化は避けるようにしています」。さらに、「大切なのは、地域資源を活用させてもらうだけでなく、その資源をどう守っていくのか、住民の方々と一緒に考えること。ゲストのハッピー、地域事業者のハッピー、住民のハッピー、そして若者のハッピー、4つのハッピーを大事にしながら、長い年月をかけて信頼関係を作っていきました」と語りました。

黒須氏は、「私はこれこそが、21世紀の観光だと思います。今、世界中の旅行者が最も求めていることのひとつが、“ローカルエクスペリエンス”。地元の人のありのままの暮らしを見たり、その暮らしに参加してみたり、日本で言えば古民家に泊まったりなど、そういう体験が必要とされているのです。日本は海外から、ローカルな人々との交流が難しいというイメージを持たれています。これを払拭して強みに変えていくのが、勝瀬さんや山田さんのやってきたこと。静岡のインバウンド観光がこれからどのような盛り上がりを見せるのか、楽しみにしています」と話し、セミナーを締めくくりました。

多くの参加者で賑わいを見せた静岡でのセミナー

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