HOME JNTOの事業・サービス 地域インバウンド促進 地域の皆様へのお知らせ

JNTO地域セミナー(2022年度下半期)「地方誘客と観光消費額の拡大に向けて~高付加価値化の取組~」開催レポート

JNTO地域セミナー(2022年度下半期)「地方誘客と観光消費額の拡大に向けて~高付加価値化の取組~」開催レポート

JNTO地域セミナー(2022年度下半期)「地方誘客と観光消費額の拡大に向けて~高付加価値化の取組~」開催レポート

JNTO(日本政府観光局)は2月9日、自治体、DMO、観光関連企業のインバウンド業務関係者などを対象とした「JNTO地域セミナー」をオンライン開催しました。今年度2回目となる今回のテーマは「地方誘客と観光消費額の拡大に向けて~高付加価値化の取組~ 」。高付加価値化に取り組む2人の講師を迎え、ニッチ市場を目指す必要性や観光消費額の拡大のために必要なことを聞きました。本記事では、セミナーの概要として各講演内容を要約して掲載します。

基調講演1「今、日本が目指すべきニッチな観光開発を考える」

地域セミナー_画像2 合同会社 GOTOKU代表
アレキサンダー・ジョエル・ブラッドショー氏
略歴:英国シェフィールド出身。リーズ大学卒業後、大手IT企業ORANGEでシステムエンジニアとして勤務後、2005年来日。株式会社島津興業に入社。海外営業部長を務める。同社を2022年9月退職。観光コンサルティングの合同会社GOTOKU代表、鹿児島県海外広報官も兼任しながら、観光庁、文化庁による補助事業の選定委員、採択事業者における有識者も務める。同年10月からは内閣府クールジャパンのプロデューサーに就任。

日本全国で同じようなコンテンツを作っている

最近、全国各地をまわって気になるのは、着物、抹茶、温泉など、似たようなコンテンツが多いことです。少なくとも、海外の旅行者には区別が難しい。最近、トレンドのアドベンチャートラベルもSUPや自然の中でのヨガばかり。なぜ、この地域でこの体験をするべきかが伝わってこないのです。エンターテイメント目的で商品化された安っぽいコンテンツではなく、「本物」の地域らしさ、この地域を訪れるべき価値を探してください。

"ヒト、モノ、カネ、情報"の「所有」から、"共感、意味、価値、関係性"を大切にする「共創」へと、人々の価値観が変化しています。旅行においても、物見遊山的にコンテンツを楽しむのではなく、訪問先の地域コミュニティに入り、人と人とのつながりを大事にする。このような観光が、これからの主流になるでしょう。なかでも付加価値が高いのは、通常はアクセスできない「人、場所、経験」です。例えば、職人とマンツーマンで話す機会や、寺や庭園、博物館の非公開エリアへの入場など、特別な体験へのアクセスを可能にするコンテンツを作ることが今後は必要だと思います。

こうした観光は、「ニッチ・ツーリズム」や「SIT(Special Interest Tour)」と呼ばれます。大勢の人が同じ目的で同じ主要観光地を目指すマスツーリズムとは対照的に、比較的少人数が一般の観光客が行かないマイナーな場所を目指すので、地方への旅行需要分散につながります。例えばバードウォッチング、長距離の本格的なサイクリングやスイミング、武道、日系人が自分のルーツを辿る旅、砂漠や密林でのサバイバルツアーなど、ジャンルは幅広く、専門誌や専門旅行会社もあります。また、富裕層向けのラグジュアリーツアーも、ニッチの一つです。予算的に、万人向けではありませんからね。

文化観光の第一ステップは「理解してもらうこと」

現在、私が力を入れているのは、芸術、伝統文化、工芸品などを見る旅、「文化観光」です。英国のヘリテージ・トラストによると、文化観光において重要なのは、まず旅行者に「理解」してもらうこと。伝えたい情報をきちんと説明することが第一ステップです。そこから「関心」が生まれ、「価値」が伝わり、「満足」へとつながります。満足度が高ければ、もっと詳しく知りたくなる。こうして、だんだんと深いところへと、らせん状に興味を深めてもらえるモデル作りに取り組んでいます。

地域セミナー_画像3

文化観光のメリットは、文化の継承に貢献できることですが、反面、観光化が過ぎれば伝統文化の崩壊を招くデメリットもあります。その地域の伝統文化を継承している方々に文化観光として見せることを理解していただくことが重要なので、しっかり時間をかけて話を聞くことが不可欠です。望ましい文化継承のあり方などを理解した上で、観光コースを作る必要があります。

ただ、これは簡単ではありません。「なぜ、伝統文化を観光客に見せなくてはいけないのか? 」「観光に利用されるだけでは?」と警戒されることもあるし、宿坊や寺社などは宗教上の課題があることもあります。伝統文化を継承している方々に観光がもたらす良い効果を説明したり、旅行事業者側が受入人数を変更したり工夫できる点を考えたりする必要があります。

市場開拓についても、最近は、オンラインのグループや専門雑誌などニッチなファンとつながるルートを見つけることは、比較的簡単になりました。しかし、仲間の一員だと認めてもらい、自分たちが作ったツアーの情報を掲載してもらえるような関係を構築するには時間がかかります。

ニッチ分野のファン層、本当に興味がある人にメッセージを届けること、面白いコンテンツを提供することが、これからの地方の観光を支えていくのです。

 

基調講演2「地域の、地域による、地域のための観光付加価値アップ~ツーリズムを通して地域をサステナブルに!~」

地域セミナー_画像5 株式会社 北海道宝島旅行社
代表取締役社長 鈴木宏一郎 氏

略歴:1965年北九州市生まれ。㈱リクルートに17年間勤務後、北海道にIターン。2007年4月㈱北海道宝島旅行社設立。道内オーダーメイドツアーサービス、観光地域づくりコンサルティング、EBサイト「北海道体験」の運営等に取り組み、第2回日本サービス大賞「優秀賞」受賞。「地域未来牽引企業」選定。北海道観光審議会委員。次期札幌市観光まちづくりプラン検討委員。2021年12月GSTC-Iの国際認証団体TRAVELIFEのPartner登録。

誘致する客層や観光スタイルは地域主導で決める

北海道には多彩なアクティビティやプログラムがあります。弊社は、これを単品で販売するのではなく、海外富裕層のお客様の要望に合うように組み合わせてオーダーメイドのツアーに仕立て、付加価値を高めることを目指してきました。ただ景色を見たり、美味しいものを食べたりするのではなく、ガイドサービスを通じて、地元の人の解説を聞き、知らなかった価値を学びます。さらに体験や交流を通じて、旅行者自身の気付きや自己変革を促します。そこに「お金を払ってもよい」という付加価値が生まれます。

ただし、「来るものは拒まず」という訳にはいきません。地域への経済波及効果だけでなく、地域に敬意を払い、がんばっている人たちを応援してくれるようなお客様のために、私たちはオーダーメイドの旅行を届けているからです。

理想の観光スタイルや、誘致したい顧客層は、地域主導で決めていかないとだめです。外部の旅行事業者や専門家からヒントをもらうのは良いですが、地域の価値を、地域の手で、ツアー商品として仕上げることが重要です。地域に意思が無いと、オーバーツーリズムにつながるなど困ることになります。

また、造成したツアーを提供する際に、車もガイドもエージェントも地域外からという状況では、観光資源という地域の宝に対してフリーライドを許すことになります。少しずつでも地域内の割合を高めることが大事なポイントです。お客様に地域に長く滞在してもらいお金を落としてもらうには、ツアーコーディネート機能は地域が持たなければなりません。

プロモーションは広域で連携して

一方、プロモーションやマーケティング、送客では、はじめは外部との連携が必要になります。県や市町村単位で作ったホームページを使って、全世界に向けたオンライン・マーケティングを展開しても、やはり限界があります。

北海道も、世界から見れば小さい島の一つ。海外マーケット向けに、さらに付加価値を付けるためには、北海道だけでなく、関東や関西などと組み合わせたルートの提案も必要です。そこで各地域に強い旅行事業者が連携して日本全体をアピールし、営業・受注する仕組み、各地の観光系中小企業が主体となったバリューチェーンを確立したいと考えています。

観光は、地域の課題を解決し、地域を良くするための大切な道具です。観光地を作るのではなく、観光の力で、人口減の地域を活性化し、訪れた観光客も喜ぶ、そんなツアーを目指しています。地域住民と旅行者との交流を通じて、地域の人々の郷土愛やいきがいを生み出すことも、観光の役割です。

「稼げるツアー」4つの条件とは

私が「稼げるツアー」を造成するために大切だと思うことは4つあります。まず1つ目は、日本だけでなく、世界でオンリーワンであること。一見、難しそうですが、よく考えれば、どこの地域も唯一無二です。地球の摂理、山や川がどう形成され、動植物や人間はどう暮らしてきたのか。そうしたストーリーを語ることが出来るかが勝負です。必ずしも特別な資源や歴史遺産が必要ではありません。

また2つ目として、商品化する際は、持続性を担保しているかにも注意します。そして3つ目は、三ツ星のコンテンツです。海外から飛行機で向かうだけの価値が必要ですから、コンテンツはやはり単品では厳しい。五感を刺激する体験や食事を複数、組み合わせるべきでしょう。

最後に、悪天候などの際、他の代替プランを提案できる臨機応変なコーディネート力も重要なポイントです。これには日頃からの地域ネットワークや困ったときに頼める人間関係が不可欠です。

地域セミナー_画像4

 

地域の観光の高付加価値化を目指すためには、みんなで役割分担する仕組みをもっと整備するべきだというのが私の考えです。地域の観光施設や飲食店、宿泊施設、ガイドなどの「プレイヤー」、DMOや観光協会などの「地域コーディネーター」、そして海外との窓口になる弊社のような「ツアーオペレーター」の3者がそれぞれの役割を認識し、お互いに連携することが不可欠です。

 

ディスカッション&質疑応答

時間がかかることを覚悟しつつ、まず行動を

2つの講演に続く後半のディスカッションでは、ブラッドショー氏と鈴木氏が、ニッチ市場の開拓や、付加価値を高める上での課題について意見を交換。また参加者から寄せられた質問にもコメントしました。

両氏ともにこれからの課題として挙げたのは、観光産業における人材育成。鈴木氏は「人が育たないと、高付加価値化も掛け声で終わってしまいそうで心配」、ブラッドショー氏も「面白いコンテンツ作りをしている事業者はいるが、レベルの高いガイドを育てるためには、少なくとも5年ぐらいかかる。それが一番大きな問題」と指摘。次世代を担う若年層からの関心が高まるように、観光業の魅力をアピールし、クリエイティブで情熱ある人材が集まる産業を目指すことも重要だとの見方を示しました。

高付加価値を実現する上で欠かせないガイドの条件についてブラッドショー氏は、「まず言語能力。特に、富裕層の対応では必須です。コミュニケーションスキルや、ある種の演技力、感動的なストーリーの語り部のような役割も兼ねるので、クリエイティビティも欠かせない」と語りました。

試行錯誤を繰り返しながらブラッシュアップ

ニッチ市場を狙ったマーケティング手法や参考データに関する質問では、「正直、事業着手前にデータで事業の必要性を示すことは難しい。ある程度は勘でやり、最初にいらしたお客様の反応を見ながらブラッシュアップを重ねるしかない」とブラッドショー氏。ニッチ市場に関する有益なデータはなかなか見つからない上、「例えばバードウォッチング人口が分かっても、その人たちに日本まで来る予算があるか、日本に興味あるかまでは分析できない。当然、失敗もあるが、大きな予算はかけずに、少しずつ進めていくこともできる」と自身の経験を振り返りました。

最後に、地域の宝を発見するためのアドバイスとして、鈴木氏は「見慣れているものは、どうしても価値を感じづらい。オホーツクの流氷が一例です。だから外から来た第三者の視点が役に立ちます。もう一つは、自分でも他の地域へ旅行や視察に出かけてみること」。ブラッドショー氏は「外を見て、地元を見て、自分の立ち位置を理解すること。表層だけではなく、なぜそこに価値があるのか分析できるトラベル・デザイナー的なセンスがあるとさらに良い。また、調査だけで終わらず、実際に行動してみることも大切です」と話しました。

 

以上のディスカッション&質疑応答を以て、下半期の地域セミナーは終了となりました。

今後もJNTO地域セミナーを実施する予定です。詳細につきましては後日お知らせいたします。皆様のご参加を心からお待ちしております。