インバウンドビジネスセミナー in 山形-訪日インバウンド新潮流-

Written by JNTO

2017年12月7日、山形テルサにて「インバウンドビジネスセミナー in 山形 訪日インバウンド新潮流~稼げるインバウンド 注目の有望市場~」が開催されました。欧米豪市場の訪日旅行者がもたらすメリットや受け入れ側の課題、地域への波及効果について、さまざまな観点から解き明かしました。

目次

競争相手は国内ではなく、世界の時代

まずは冒頭JNTO志村務総括理事が、政府が観光立国の政策を進める意義について説明した後、「この場をきっかけに、2020年までに訪日外国人旅行者数4000万人、訪日外国人旅行消費8兆円という目標に向けて、地域と連携した取り組みを推進していきたい」と呼びかけました。

JNTO志村務統括理事の挨拶でスタート

基調講演には、インバウンドコンサルタントのポール・ハガート氏が登壇。多くの外国人旅行者が集まる北海道ニセコ町在住のポール氏から見た「欧州豪市場の旅行者が求める要素」として「フレキシビリティー(柔軟な対応)」「コト消費(リアルな体験)」「長期滞在できる仕組み(町ぐるみの取り組み)」の3つを紹介しました。

特に3つ目の「長期滞在できる仕組み」について、「日本は長期滞在型のリゾートが少なく、富裕層に向けた滞在したくなる仕掛けが不足している」と指摘。「欧米のリゾートは開発に規制を設け、ゆったりした滞在ができるように設計されています。雪質や山の地形から言うと、日本には“スーパースキー場”になってもおかしくないリゾート地がたくさんあるのにもったいない!」と強調します。

日本屈指のスキーリゾート地である山形の蔵王についても、「今や競争相手は国内ではなく、世界のスキーリゾートです」と断言。最後は「柔軟なマインドとアクションで、海外から多くのお客様を迎えましょう」と結びました。

インバウンドコンサルタントのポール・ハガート氏

 

官民連携の取り組みで、インバウンドの先進地に

続いて、事例紹介を行ったのが、徳島県三好市にある「大歩危・祖谷いってみる会」会長の植田佳宏氏。三好市は人口減少が著しい過疎地域でありながら、官民が連携した取り組みで多くの外国人旅行者を獲得しているインバウンドの先進地です。

「10年前から官民連携の取り組みを進め、昨年の外国人宿泊者数は約15,000人と10年で27倍に。秘境の地ではありますが、毎日どこかに海外の方がいる地域になりました」と話します。

三好市における欧米豪の宿泊者数は、10年で約11倍に増加。欧米豪の旅行者を取り込むポイントとして、「景観を残し、再生すること」「歴史・文化を訴求すること」「その背景にある暮らしを見せること」「地元の人との交流を大事にすること」の4つを挙げました。

それらを実践した成果について、「地域の高齢者が観光の主役となったことで、みなさん生き生きとし始めて、地域が活性化してきました。また若い移住者がカフェやゲストハウスを始めるなど、新たなビジネスも生まれています」と言う植田氏。過疎地域でも、官民が連携して世界に通用する観光地域づくりを行えば、成果が生まれる――。そんな希望を感じさせる事例紹介でした。

次に、JNTO調査・コンサルグループの清水雄一から、欧米豪市場のデジタルマーケティング・調査事例の説明があり、盛況のうちに前半が終了しました。

「大歩危・祖谷いってみる会」植田佳宏会長

 

パネルディスカッション~稼げるインバウンドとは~

後半は、ファシリテーターにJTB総合研究所の黒須宏志氏、パネラーにPayment Card Specialistの松田典久氏、長野県白馬村にある「しろうま荘」支配人の丸山俊郎氏、おもてなし山形取締役の斉藤隆秀氏を迎え、パネルディスカッションが行われました。

今回のテーマは「稼げるインバウンド」。東北6県の外国人のべ宿泊人数を見ると、特にここ数年で青森、岩手、宮城が伸びており、山形は差を付けられています。これには空港の立地や宿泊施設の単価といった要因が考えられますが、これから観光先進県・山形県として、どのようなインバウンド戦略を行っていけばよいのでしょうか。

まず黒須氏は、「山形はどういうターゲットを狙っていけばよいのか?」という質問をパネラーのみなさんに投げかけました。

「稼げるインバウンド」をテーマにしたパネルディスカッション

 

・オーストラリアとアメリカを重視せざるを得ない(斉藤隆秀氏)

昨年の山形における国籍別のべ宿泊者数のデータをみると、台湾が突出して多いことがわかります。また平均滞在日数、消費額をみると、台湾からの旅行者は滞在日数5日、消費額10万円以下といずれも減少傾向にある一方、オーストラリアは13日、アメリカは8日と長期滞在の旅行者が多く、その分消費額も高い傾向にあります。この結果から、「この2カ国を重視せざるを得ません」と話します。

長期滞在を狙う場合、欧米豪は重要なターゲットになる(松田典久氏)

これまで2社のカード会社で、日本のキャッシュレス化を牽引してきた松田氏。山形県における2015年の国籍別消費額(全業種)によると、中国、韓国、台湾という順位になりますが、これを業種別に見ると、宿泊では、全業種でランク外だったアメリカが5位に浮上し、交通でもアメリカが3位にランクインします。「消費額をカテゴリーに分けるとこれほどの違いが出る。今後の施策を検討する上で参考にしてほしい」と投げかけます。

また訪日旅行者の東京での滞在日数のデータをみると、中国、韓国は3~5日の滞在に対して、欧米は6~8日と滞在日数が多く、「長期滞在を狙う場合、欧米豪は重要なターゲットになるでしょう」と話しました。

魅力をもっと訴求すれば、宿泊者数は増えていくはず(丸山俊郎氏)

長野県の国籍別のべ宿泊者数は、山形と同じく台湾が28%とトップで、次いでオーストラリアが16%。中でも白馬村にはオーストラリアからのスキー客が格段に多く、その割合は長野県トップの台湾に迫ろうとする勢いです。

冬季の宿泊客の大半が外国人旅行者という「しろうま荘」で支配人を務める丸山氏は、「オーストラリアの方々は、強度が高い自然の中で行うアクティビティに価値を覚えますが、その嗜好は欧米の方もほぼ同じ。樹氷やパウダースノーなど、山形のスキーリゾートの魅力をもっと訴求すれば、宿泊者数は増えていくはず」とアドバイスしました。

 

インバウンドで稼ぐための方策とは?

狙うべきターゲットについて共有した後は、インバウンドで稼ぐための課題や方策について、話を深めていきました。

・地域全体でお客様をつかんでいくことが大切(斉藤隆秀氏)

宿泊施設の事業者は、インバウンドによって収益アップが実現できるのでしょうか。例えば、岩手県雫石町の宿泊施設では、年間通してほぼ同じ水準の稼働率となっており、国内需要が少ない時期に外国人旅行者が入り込み、うまくフォローができています。一方、山形の蔵王、上山、天童は稼働率が高い時期がバラバラですが、「これらをひとつのエリアとしてまとめると、年間通して高い稼働率を保てる可能性があります」と話します。

「蔵王は1~2月に稼働率が上がる一方、近くの上山温泉は2月が一番苦しい時期。蔵王と上山が連携し、蔵王で宿泊を断ったお客様を上山に送迎するなど、地域全体でお客様を掴んでいくことが大切です」と斉藤氏。宿泊施設の事業者は、稼働率を平準化することが最も収益性増につながるとし、「その方法論としてインバウンドを捉えることが不可欠」との見解を示しました。

・ストレスなく買い物ができる状況をつくることが急務(松田典久氏)

消費を促すために必要なのは、キャッシュレスという観点。訪日経験のある外国人へのアンケートでは、カード加盟店のマークが掲示されているお店を好む割合が83%という結果もあります。

また、日本に滞在した外国人旅行者の不満として、クレジットカード・両替は16.1%で4位。特に地方では、訪問者の35%が「クレジットカード・両替に困った経験がある」と回答し、「ストレスなく買い物ができるような状況をつくることが急務でしょう」と指摘します。

さらに松田氏は、カードに加盟する効果について、「現金の支払いより、購買単価が30%上昇する」という調査結果も示しました。カード決済の導入が単価アップにつながるという気づきから、参加者はキャッシュレス対応の大切さを改めて実感したようでした。

・経済面だけでない効果がインバウンドにはついてくる(丸山俊郎氏)

インバウンド戦略で成果を上げている丸山氏は、そこから生まれたいい影響について、このように話します。「海外の方が長期滞在してくれることで、国内需要の少ない平日が稼働し、年間の稼働率が平準化しました。また多くのお客様は、B&Bのスタイルを前提とし、昼と夜は外食されるので飲食産業が潤い始め、カフェやバーを始める若い人が移住するきっかけになっています」。

さらに飲食や宿泊業を始める海外の人も増え、「若者が帰って来たいと思える村」になってきたそうです。「経済面だけでない効果がインバウンドには必ずついてきます。ぜひ積極的に取り組んでほしい」と結びました。

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