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「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022 @ルガーノ(スイス)」開催レポート

「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022 @ルガーノ(スイス)」開催レポート

「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022 @ルガーノ(スイス)」開催レポート

2022年10月3日~6日、アドベンチャーツーリズム/アドベンチャートラベル(AT)の国際サミット「アドベンチャートラベル・ワールド・サミット(ATWS)」が、スイスで開催されました。世界の旅行会社や観光関連事業者、メディアといった関係者が一堂に集結し、商談会やATツアー体験、ネットワーキングを実施JNTOも出展し、日本のATを紹介しました。本記事では、サミットに参加したJNTO職員がその概要についてレポートします。

世界から旅行関係者が集まるアドベンチャートラベル・ワールド・サミット

アドベンチャーツーリズム/アドベンチャートラベル(以下AT)とは、アクティビティ、自然、異文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される体験型旅行(※)。アクティビティを通じて地域の自然・文化を体験することにより、旅行者自身が「未体験の、多様な価値観」に触れ、自身の内面に変化がもたらされるような旅のスタイルです。
※Adventure Travel Trade Association(ATTA)による定義

ATTAが主催するアドベンチャートラベル・ワールド・サミット(ATWS)は、ATに関する世界最大規模の商談会・イベントです。2005年のシアトル開催に始まり、カナダ、ノルウェー、ブラジル等毎年場所を変えて開催されており、2021年のATWS2021はついに日本(北海道)で開催。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて "バーチャル開催" となりましたが、オンラインで多くの関係者が参加しました。また、ATWS2023も再び北海道で開催されることが決定し、今度こそリアル開催で、日本に多くのAT関係者が訪れることが期待されています。

アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022

ATWS2022は、10月3日~6日にスイス南部の町ルガーノで開催され、世界64か国から、約800名ものAT関係者が集まりました。今回のテーマは "Air. Water. Fire. Earth." 日本からもJNTO含めて約70名の観光関係者が参加し、来年度の北海道開催に向けて、日本各地のATの魅力を伝えてきました。

●ATWS2022スケジュール

アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022

ネットワーキングを重視し、サステナビリティに配慮されたATWS2022

●大会プログラムと関連イベント

会場ではメインホール等で様々な基調講演や分科会が行われました。テーマは「テクノロジーと観光」「野生生物観光と生物多様性」「運輸・航空業界における気候変動対策」「観光産業の復興における女性の役割」等。講演「Our World in Transition(過渡期にある我々の世界)」では、産業革命後の経済や生活の変化、環境やエネルギーの問題にも触れながら、人類が生態系を変化させる一番の要因となっている今、観光にも「Less is better」の考えに変革が必要だと述べました。観光客の数やGDPを追い求めるのではなく、地域のことを考え責任ある旅行をする人を呼び、公共交通機関を使ってゆっくり地域を知ってもらう観光へ。持続可能な観光、ひいては持続可能な社会に向けて、我々の決意が必要であると参加者に訴え、励ます強いメッセージが感じられました。

アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022

ラウンドテーブル(ファシリテーターの進行のもと、車座で自由に意見交換する会)では、「コンテンツマーケティング」「アウトドアギアと観光」「旅行の決済プロセスと顧客満足度」「旅行会社のカーボンラベル取得」「自然保護に必要な資金活用」といったテーマをもとにディスカッション。参加者は各国の状況や自身の経験を共有しながら意見交換し、その内容はグラフィックレコーディングにより整理されて掲示されました。

朝には会場近くの広場でヨガや瞑想(メディテーション)、昼にはプロの写真家による撮影ワークショップやルガーノ市内散策ツアー等も用意されていました。

各講演等の合間には、「ネットワーキング・ブレーク」として、軽食を片手に雑談したり、各国・企業のブースを回ったりする時間が設けられていました。 ランチやレセプションパーティーでもテーブル・椅子はあえて用意されておらず、会場各所で立ち話をしたり外でピクニックのように座ったりして、各自が流動的に動きながら活発に交流。このように、ATWSでは、一般的な旅行博や商談会と異なり、参加者同士がカジュアルに広くコミュニケーションをとってネットワーキングすることを大事にしていました。

アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022

●Pre-Summit Adventure

プレ・サミット・アドベンチャー(PSA)は、ATWS開催国でサミットの前に開催される数日間のアドベンチャーツアーで、今回は9月28日~10月2日の期間で4泊5日のツアーが13コース用意されました。PSAでは日替わりでジップラインやカヤック、パラグライダー等の複数のアクティビティ、伝統的な楽器や時計作りの体験、朝昼晩の様々な食、特徴ある宿への宿泊等を通して、各地域の自然や歴史や文化を深く学んでいきます。また、PSAには5段階で難易度(レベル)が設定されており、カジュアルなものから、一定の経験やスキル・体力が必要なものまで、参加者がツアーを選ぶ際の参考になるよう配慮されています。そのうちJNTO職員が参加したツアーについてご紹介します。

・"MARTIGNY AND THE RÉGION DENTS DU MIDI"(レベル3)

ルガーノから電車で5時間ほどかかる小さな町マルティニーとダン・デュ・ミディ地方が舞台。朝から晩まで移動や宿を含めて全行程をアテンドする「スルーガイド」と、各アクティビティ・スポットで専門的な案内をする「アクティビティガイド」「スポットガイド」が連携して、少人数のツアー参加者を案内します。
それぞれの町に到着した際は、地域全体を俯瞰して把握できるよう、スルーガイドが観光地や主要な体験コンテンツ、周遊チケット等を紹介しました。このようにPSAでは、参加者であるバイヤーが実際に旅行商品として検討するために必要な情報を伝えることも重要です。
ツアーでは、キャニオニングやE-バイク(電動マウンテンバイク)、セントバーナード博物館の見学等、多くのコンテンツを体験できました。また、食事はチーズフォンデュ、地元のジビエ、ある時期しか食べられない伝統料理など、地産地消や特別感にこだわって選定されていました。
各アクティビティでは、スルーガイドとアクティビティガイドが常に連絡をとりあい、時間調整をしながら進みます。最初にアクティビティガイドがしっかりと難易度や機材の使い方等、安全上の説明を行うため、初心者でも安心して参加できました。そして、休憩スポットやペースが遅い参加者のフォロー、途中リタイアできる体制も用意されていました。このように、参加者のレベルや難易度に合わせて、ツアーの全参加者が満足できるような工夫が求められます。
また、各博物館では職員による解説がありましたが、事前の案内やツアー内でツアー全体のストーリーやコンセプトが語られることはありませんでした。ATでは、アクティビティを通して参加者一人一人の興味関心を引き出し、自分で考えさせ、気になることは質問させた上で伝えるという形がとられます。この方法は、ガイド側が最初から伝えたいことを全て教えるよりも、参加者の探求心への刺激、より深い学び、達成感、感動等を与えることができます。

アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022

●Day of Adventure

デイ・オブ・アドベンチャー(DOA)はATWS大会開催都市から日帰りできる範囲のAT体験ツアーで、今回は43コースが用意されました。大会参加者は全員、事前に申し込んだ自分の好きなコースに参加します。ハイキング、カヌー、パラグライダー、バンジージャンプ、料理、ヨガなど、PSA同様にDOAもアクティビティの種類やレベルは様々に用意されており、それぞれルガーノ周辺の魅力を味わえる選択肢となっています。1つは女性限定のツアーもありました。

・"E-MOUNTAIN BIKING THE EMERALD VALLEY"(レベル3)

ルガーノから電車とバスで1時間ほどの場所にある渓谷沿いのサイクリングコースを、E-バイクで走るツアー。初心者向けのコースでしたが、石造りの小さな村や滝などを巡りながら、舗装された車道、砂利道、岩や木の根でボコボコした道など多様な路面を楽しめ、牛や羊に遭遇したり吊り橋を渡ったりとスリルも満点。2時間ほど緩やかな坂を登り、地元レストランでランチを食べ、30分ほどで下りました。ツアー参加者は25名ほどで、移動時や休憩時間には参加者同士が自由に話し、各国の自然や今までに参加したATツアーなどについて情報交換していました。その後の大会期間中もDOAで仲良くなった人と会場で交流が生まれるなど、DOAも重要なネットワーキングの場・きっかけであると感じられました。

アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022

●サステナブルへの配慮

スイス政府観光局が今後の観光における持続可能性を重視し、"Swisstainable(サステナブルなスイス)"を掲げていることもあり、今大会もサステナビリティへの配慮がとても重視されていました。

  • 参加者には紙と紐でできたネームタグと瓶詰のレモン水が配布されるなど、プラスチックやペットボトルの不使用。
  • 食器やグラスも基本的に使い捨てでないものを使用。カトラリーもシルバー又は木製。
  • 会場にはウォーターサーバーが設置され、マイボトルに給水。自販機はなし。
  • 食事はすべてベジタリアン対応で統一。実際のベジタリアンは参加者のうち10%程度だそうですが、より環境負荷を減らす選択。地産地消のメニュー。サイドメニューは連日同じものにするなど食品ロスの削減。
  • 電子パンフレット、電子名刺による紙の削減。
  • ホテル等から会場への移動やDOAでの移動では、公共交通機関の利用が推奨され、参加者全員に乗り放題チケットが配布。

「チーム・ジャパン」として日本のアドベンチャートラベルをPR

●ジャパン・ラウンジ

本大会開催中、JNTOは基調講演などが行われるメインホール前に、「ジャパン・ラウンジ」を用意。日本酒の試飲提供をしたり、日本の自然や文化を動画やポスター、デジタルパンフレットなどで紹介したり、来年の開催地である北海道をはじめ、東北、長野、京都、四国、沖縄などの観光関係者が日本各地のATのPRを行いました。

訪日経験者からも未経験者からも「来年のATWS開催に合わせてぜひ訪れたい。」との声が多く聞かれました。また、来場者のニーズや興味としては、長距離のトレッキング、ハイキング、自転車、カヤック、釣り、ロッククライミング、航空機、小規模な船の旅、野生生物の写真撮影、温泉、日本文化、アイヌ文化、信仰、など多岐にわたっていました。来年はアジア初のリアル開催ということもあり、欧米とは異なる日本の自然や文化というものを多様なアクティビティを通じて伝えることが重要だと感じました。

ブース来場者の声

  • 現在は日本の旅行商品の取扱いはないが、日本でのラグジュアリー層向けのアクティビティを探している。(米国)
  • ローカルのコミュニティに興味がある。どんな取り組みをしていてどんな体験が得られるのか知りたい。(カナダ)
  • ハードなアクティビティよりも、文化や歴史人々の暮らしに興味がある。(ドイツ)
  • 既に日本のツアーをいくつか取り扱っているが、新たな数日間のトレッキングコースを探している。(フランス)
  • 日本のサステナビリティについて知りたい。(英国)
  • ファミリー向け旅行のウェブライターで、日本にも何度か訪問したことがある。子供たちのお気に入りの旅行先で、ぜひまた日本に行きたい。(米国)
アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2022

また、ジャパン・ラウンジを訪れた各国のバイヤー(アウトバウンドオペレーター)・メディアに対して任意アンケートも実施し、以下のような結果が得られました。(すべて複数回答可)

  • 「日本国内でATを体験したいエリア」としては、バイヤーの8割、メディアの9割が北海道を挙げ、次に沖縄や京都も多くの票を獲得しました。また、九州や四国など他のエリアもそれぞれメディアの半数が興味を示しており、日本各地のATに興味を持たれていることがわかりました。
  • 「日本のATで楽しみにしている体験」については、ハイキング&トレッキング、職人文化、食事など、ATの中でも日本ならではの文化的体験を期待する回答が多く、さらにメディアで一番多かった回答はマインドフルネスでした。よって、自然アクティビティだけでなく日本ならではの文化を通じたマインドフルネス的な体験を見せることが訴求につながると考えられます。
  • 「訪日旅行時の課題」としては、バイヤー・メディアともに約半数が「言語の壁」を挙げ、次に旅行費、移動時間・距離が挙げられました。既存の観光従事者の英語力向上や、外国人を含めた多言語対応可能な人材の獲得、また時間と費用をかけて来るだけの価値・意義を、より明確に打ち出していくことが重要だと想定されます。

アンケート回答者に配布した日本らしいギブアウェイ(八重山みんさー織の名刺入れ、木曽木材の箸、今治タオル等)には訪れたバイヤーの興味も高く、日本の文化の紹介等ネットワーキングのきっかけになり、さらにアンケート回収率の向上にもつながりました。

●ジャパン・プレゼンテーション

大会最終日、最後の基調講演の前に、来年の北海道開催に向けた20分間のプレゼンテーションを実施。冒頭に空手演武を披露した後、まず、JNTOが日本の自然やそれに根ざした文化の多様性や独自性を、次に、北海道が北海道知事からのメッセージや北海道の地理や文化等の様々なデータを紹介し、日本、そして北海道のATの魅力をアピールしました。時にはジョークも交えた講演には会場から笑いや拍手がわきおこりました。
その後、ハンドオーバー・セレモニーとして、スイスチームから日本チームへ、大きなカウベルの贈呈があり、参加者全員に来年度の北海道開催についての印象付けができたのではないかと思います。

ATWS2023に向けて

JNTOでは、Webサイト「JAPAN ADVENTURE」にて、日本各地のATについて、モデルルートやアクティビティ等を紹介しています。今後もコンテンツの拡充や広告による積極的な情報発信などを図っていく予定です。また、日本各地でAT層向けの動画も撮影しており、JNTO公式YouTubeで現在、以下2つの動画を公開しています。

FIND ADVENTURE in Japan(60秒)
大都市から豊かな自然までの距離がとても近い日本特有の環境について、様々な風景や体験のシーンを織り交ぜながら伝える動画。ATWS2022のJNTOプレゼンテーションで使用。

JAPAN ADVENTURE SPOTLIGHT(30秒)
北海道、東北、長野、静岡、四国、九州の独自の風土やユニークな体験シーンをまとめた日本のATの多様性を伝える総合版動画。


JNTOでは、引き続き国内AT関係者の皆様と連携しながら、ATWS2023北海道に向けて準備を進めるとともに、ATデスティネーションとしての日本の情報発信に努めてまいります。
ATはこれからのコンテンツやツアー造成に取り組む際の重要なキーワードのひとつです。日本をより深く・より楽しく・よりアクティブに楽しみたいと考える訪日旅行客を今後ますます増やしていくためにも、ATについて日頃から少しでも関心を持っていただけますと幸いです。ぜひ一緒に進めてまいりましょう。


【参考リンク】
・JNTOアドベンチャートラベル紹介ページ(英語)https://www.japan.travel/en/sports/adventure/
・JNTO国立公園アドベンチャートラベル紹介ページ(英語)https://www.japan.travel/national-parks/adventure-travel/
・ATWS2023 Hokkaido Japan(ATTA公式ページ)https://events.adventuretravel.biz/summit/hokkaido-2023