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海の京都観光圏の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

海の京都観光圏の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

海の京都観光圏の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

2017年11月30日、京都府舞鶴市の舞鶴赤れんがパークにて、「海の京都観光圏の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ」が開催され、総勢37名が参加しました。約5時間にわたって行われたワークショップの様子をレポートします。

「もうひとつの京都」としての魅力を、世界に発信しよう!

日本海に面する京都府北部地域は、数々の神話の舞台となり、古来より大陸との文化交流の窓口として栄えた歴史と文化が息づく土地。この5市2町(福知山市、舞鶴市、綾部市、京丹後市、宮津市、伊根町、与謝野町)における地域活性化と観光振興を目指して策定されたのが、「海の京都観光圏」です。

日本三景のひとつである天橋立をはじめ、国の天然記念物および名勝に指定されている琴引浜、伊根の舟屋などの観光資源に恵まれ、海産物を中心とする食資源や温泉施設も充実。近年は自動車道や埠頭などの交通基盤も整備され、観光圏としての気運はますます高まっています。

その一方で、京都市と比較するとこの地域に宿泊する外国人観光客の数はまだまだ少なく、「海の京都」自体の知名度も高いとは言えません。今後、「もうひとつの京都」としての存在感をいかに高めていくかが課題となっています。

ワークショップは、舞鶴市長の多々見良三氏による挨拶からスタート。「舞鶴市の交流人口数が6年前は152万人だったのに対し、2017年は300万人近くまで増加しました。舞鶴若狭自動車道と京都縦貫自動車道の完成、京都舞鶴港の整備といったインフラの充実はもちろん、引揚記念館の資料がユネスコの世界記憶遺産に登録されるなど、様々なソフトの整備や発信に効果が出ていると感じています。とはいえ、世界的にはまだ知られていない地域。5市2町連携によるスケールメリットを生かした観光プロモーションを推進し、この地域の魅力を世界に発信していきたいです」と、今後さらなる成長が見込まれるインバウンド分野に対する意気込みを語ってくれました。

多々見舞鶴市長の挨拶でスタート

続いて、インバウンド施策の重要性や現状の課題、トレンドなどについて、JNTOの山崎道徳理事が丁寧に解説。京都府に宿泊する外国人観光客の97%が京都市に泊まっているというデータを示し、「課題は浮き彫りです。京都に滞在される方々をいかに自分たちの地域に呼び込み、泊まっていこうと思わせるかが勝負です」と呼びかけました。

事業の主旨やポイントを押さえたところで、いよいよグループワークと座学に入っていきます。参加者に与えられたミッションは、6〜7人のグループを組んで“海の京都観光圏をPRする会社の社員”となり、同地域に外国人観光客を呼び込むためのモデルツアーとプロモーション方法を考案すること。

株式会社創造開発研究所の齊藤誠氏がファシリテーター役を務め、まずはグループごとに会社名を考える作業へ。丹後の浦島伝説をモチーフにした「株式会社 龍宮城」や、メンバーいちおしの観光スポットをストレートに表現した「雲海」など、全6グループの会社名が出揃いました。

グループごとにつけられたユニークな会社名

 

「ターゲットに響く資源とは?」を考え抜いて、独自の観光ルートを作ろう

続く座学には、株式会社JTB総合研究所の後藤直哉氏が登壇。まず、今回のワークショップ参加者の事前アンケート回答で「新たな産業を起こし、地域での雇用機会を増やす」「海の京都観光圏の魅力を世界に発信する」「外貨の獲得と市民が誇りを持ってもらえることに期待」など、前向きなコメントが多かったことを紹介し、「主体的な参加者が多いことにワクワクしています」と述べました。

さらに、海の京都観光圏の強みとして「外国人が訪日する大きな動機となる“温泉入浴”“伝統・文化”に対し、多くの温泉地や観光スポットを保有している」点、弱みとして「京都市からの交通が不便」「観光地としての認知度が低い」「地域全体に波及するような周遊観光促進ができていない」点を指摘。その上で、「一言で訪日外国人と言っても、人によって魅力に感じる観光資源は異なります。どんなターゲットに、どんな素材がヒットするのかを考えることがとても重要なのです」とレクチャーしました。

座学を終えた後は、グループごとにターゲット設定と観光資源の発掘に取り組みます。「50代の英国人夫婦。初来日で、日本には10日程度滞在予定。富裕層でゆったりとした大人の旅を満喫したがっている」など、具体的なターゲット像を策定。ターゲットが決まったら、その人たちを引きつける観光資源を各々が考え、付箋に書き出していきます。

「伊根の舟屋」、「丹後ちりめん」、「海の幸」など定番の資源が上がる一方で、「宮津バーガー? 何それ?」と、地元の人も知らない資源が出てくることも。付箋が出揃ったら、その中からターゲットにふさわしい観光資源をグループ内で精査し、モデルツアーを組み立てていきます。

「うちの地域はカニが強みだけれど、子どもは食べにくいかもしれないから、今回は外そう」「のんびり過ごすのが旅の目的なら、丹後の雰囲気は合いそうだよね」など、座学で学んだ「ターゲットが魅力に感じる観光資源を考える」を早速実践しているグループもありました。

海の京都観光圏の観光資源を書き出す

外国人視点のアドバイザーを務めたフリージャーナリストのホイ・セリナ氏は、「観光ルートにストーリーを感じさせることが大切。外国人はその土地の食事や自然、歴史にどんな繋がりがあるのかを知りたがっています。雑誌の編集者はおもしろいストーリーを聞くと、記事にしたくなるし、私たちはおもしろいストーリーを読むとそこに行きたくなりますよ」とアドバイス。それを受けて、自分たちの観光ルートにどんなストーリーがあるかを各グループが吟味し、それぞれのターゲットに合わせた6つのモデルツアーが完成しました。

 

プロモーション方法を決め、いよいよプレゼンテーションへ!

休憩をはさんだ後半は、「インバウンドプロモーションの考え方」と題した座学からスタート。株式会社JTBコミュニケーションデザインの久野通広氏が登壇し、プロモーションの基本や成功させるための秘訣、SNSの使い分け方などをレクチャーしました。続くグループワークでは、前半で立案したモデルツアーのプロモーションを検討。講義の内容を参考にしながら、キャッチコピーやキービジュアル、プロモーション方法を固めていきました。

こうして個性豊かな6つのモデルツアーとプロモーションプランが完成。最後は各グループのプレゼンテーションが行われました。

ワークショップ終了後には、「新しい視点が開けた」「普段の業務とは違うことを考えるきっかけになり、良い刺激をもらいました」といった前向きな意見が多数寄せられました。今回のワークショップをきっかけに、海の京都観光圏のインバウンドがどのような発展を遂げるのか、今後の展開に注目です。

各グループによる発表の様子

 

各グループの発表内容

・ほくほく京都(株)

「insta女子の丹後」

韓国の20~30代女性グループをターゲットにした、“シェアしたくなる”スポット満載の旅。1日目は五老ヶ岳公園の絶景をバックに“インスタ映え”する写真をパシャリ。ランチは舞鶴ふるるファームの自然食メニューで、ヘルシーブームに沸く韓国人女性の心を掴みます。午後は舞鶴自然文化園や天橋立のフォトジェニックなスポットを巡り、観光と撮影を堪能。2日目も経ヶ岬や立岩、兜山などの美しい景色を楽しんでもらいます。キャッチコピーは「インスタ伊ー根ジョワヨ!!」。「ジョワヨ」は韓国語で「いいね」の意味。ブログ活用やインスタグラムのハッシュタグに「ジョワヨ」をつけて拡散を狙います。

ほくほく京都(株)

・(株)シープロ

「GENTEN(Origin of Japan)」

初来日で長期滞在する米国ファミリーをターゲットに、2泊3日の旅を提案。初日は赤れんが倉庫や天橋立、傘松公園などの定番スポットを観光し、民泊で日本人や日本の文化に触れてもらいます。2日目は漁師体験や琴引浜の鳴き砂、ちりめん小物作りなど、子どもが楽しめる体験メニューを用意。3日目は竹田城跡の雲海を観光した後、出石そばを食べて帰ります。キャッチコピーは「和・WA・わお!—京都の原風景—」。ちりめん機織りを着た米国人女性(和)、鳴き砂の風景(“鳴き”を“笑い”に変えてWA)、天橋立を股のぞきして驚く男の子(わお!)を組み合わせてキービジュアルを作り、SNSやポスター広告で展開します。

(株)シープロ

・シーパラダイス

「家族で満喫 丹後の旅」

台湾の親子3世代ファミリー(5~6人)で、歴史や文化への関心が強いリピーターがターゲット。初日は西舞鶴でかまぼこ作りを体験した後、舞鶴港とれとれセンターで海の幸ランチを堪能。午後は琴引浜を観光し、夜は肌がつるつるになる温泉と絶品カニ料理を楽しんでもらいます。翌日は天橋立や伊根の遊覧船を体験したのち、丹後鉄道で福知山へ。福知山城のライトアップが有名なほか、繁華街も充実しているので、夜は父子で一杯やるのもおすすめ。キャッチコピーは「あれも京都 これも京都 みーんな京都」。親孝行の旅をイメージしたプロモーション動画を配信します。

シーパラダイス

・株式会社POKOPEN

「海の京都で酒と匠の技に溺れるツアー」

28歳のフランス人カップル。ファッションに興味があり、お酒好きな人がターゲットです。初日は天橋立からレンタサイクルで傘松公園を周遊。海鮮とワインを楽しんだのち、海上タクシーで伊根に移動し、舟屋に宿泊するというスペシャルな体験をしてもらいます。2日目は与謝野町で着物体験、ミサンガ作り、京丹後の野菜ランチを満喫。その後、夕日ヶ浦の日帰り温泉でロマンチックな日没に浸ってもらいます。最終日は兜山で絶景を眺めながらランチをして、木下酒造でお酒を嗜んでもらいます。キャッチコピーは「パリコレ気分でkawaiii〜!!!」。ちりめんの着物をフランス人に着てもらい、パリコレ風にランナウェイする様子を動画で配信。そのほか、ファッション雑誌の特集記事にもプロモーションを展開します。

株式会社POKOPEN

・雲海

「海の秘湯と癒しの旅」

香港の30~40代女性グループで、癒しとリラックスを求める個人旅行者がターゲットです。初日は天橋立を観光してから、夕日ヶ浦温泉に移動。岩牡蠣やまゆパックを堪能した後、海岸に設置されたブランコで夕日が沈む風景を楽しんでもらいます。2日目は伊根の青の洞窟でシーカヤック体験と古民家宿泊、3日目は農業体験をしてもらい、癒しの時間と自然との触れ合いをお届けします。キャッチコピーは「地元の人だけが知る癒し ここにあり!」。夕日ヶ浦の夕日をバックに、女性2人がブランコに座っているシルエットをキービジュアルに据えて、自然と触れ合える旅のイメージを訴求します。

雲海

・株式会社 龍宮城

「龍宮の玉手箱」

英国50代の富裕層夫婦向けに、ゆっくりのんびり過ごせる大人の旅を考案。ゴージャス感を演出するため、移動はハイヤーまたはタクシーを利用します。舞鶴の魚源という定食屋でランチを済ませてから、訪日観光客に人気の海上列車を体験してもらい、天橋立を観光。その後、伊根の浦嶋神社に移動し、ガイド付きで浦島伝説を紹介します。2日目は丹後半島で浦島伝説ゆかりの地を巡り、握りずし体験や鳴き砂体験を堪能。夜は京丹後のおかみさんの宿で、カニ料理や季節の海鮮、地酒を振舞います。キャッチコピーは「時空を超える宝箱」。海外向けにはトレジャー(宝)とジャーニー(旅)を掛け合わせた「トレジャーニー」というコピーを展開し、動画プロモーションや海外の宝くじと連動したキャンペーンで集客を狙います。

株式会社 龍宮城

 

発表の講評

・株式会社JTBコミュニケーションデザイン 久野道広氏

「“鳴き砂”を“笑い砂”と言い換えてキャッチコピーに落としこんだり、宝箱という明確なコンセプトで旅のストーリーを描いていたりなど、随所に工夫が感じられて素晴らしいと思いました。驚いたのは、どのグループも必ず伊根を観光コースに入れていたこと。調べてみると、伊根の舟屋の風景が、世界で最も美しい湖畔と言われるオーストリアのハルシュタットに似ているのです。非常に高いポテンシャルを秘めた観光資源だと思うので、ぜひ皆さんの力で盛り上げていってください」

・フリージャーナリスト ホイ・セリナ氏

「韓国人女性をターゲットにした観光コースは、ストーリーがしっかりできていましたね。“ネイチャー”、“ヘルシー”、“ビューティー”と、キーワードごとのつながりも強いと思いました。アメリカ人向けのかまぼこ作り体験もいいですね。材料や作り方を知らない人がほとんどだと思うので、私たちにとっては新鮮で発見のあるプログラムです」

・株式会社JTB総合研究所 後藤直哉氏

「マーケティングの考え方に、プロダクトアウトとマーケットインというものがあります。プロダクトアウトは、商品・サービスの開発において作り手の論理や技術を重視する考え方。マーケットインはお客様のニーズを重視する考え方。地域連携や事業者同士の連携は、マーケットインの考え方でないとなかなか成り立ちません。今回6チームのアウトプットがそれぞれ違ったように、同じ観光資源でもターゲットを変えれば切り口は変わります。だからこそ、訪日観光客の目線で自分たちの観光資源を再確認することが大切なのです」

・JNTO理事 山崎道徳

「今回のワークショップを通して、みなさんの地域がいかに観光資源に恵まれているかを実感しました。だからこそ、次のふたつの視点を意識していただきたいと思います。ひとつは、“人”です。訪日観光客は、人の魅力を求めています。そして、京都市との違いを知りたがっているのです。もうひとつは、“夜”。訪日観光客は日中だけでなく、夜もじっくり楽しみたいと思っています。“夜はこんなに素敵な炉端がありますよ”と伝えられたら、観光地としての魅力はさらに増すのではないでしょうか。“ジョワヨ”や“匠”や“原風景”など、素晴らしいキーワードがたくさん出てきましたね。ぜひ、今回のアイデアを磨いていただき、ほかにはないストーリーを完成させてください。そうすれば、みなさんの思い描いたターゲットが大勢、海の京都観光圏に訪れるようになるでしょう。そのときを楽しみにしています」

ワークショップの内容を視覚的に記録したグラフィックレコーディング

 

ワークショップスライド画像
1.インバウンドの動向・トレンドについて
2.ワークショップの流れ
3.座学①インバウンドを想定したコンテンツとターゲット層の検討
4.座学②インバウンドプロモーションの考え方