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JNTO地域セミナー(2022年度上半期)「サステナブル・ツーリズムの地域への浸透」開催レポート

JNTO地域セミナー(2022年度上半期)「サステナブル・ツーリズムの地域への浸透」開催レポート

JNTO地域セミナー(2022年度上半期)「サステナブル・ツーリズムの地域への浸透」開催レポート

JNTOでは、各地域でインバウンドに携わる方々に向けて、2022年7月13日に「地域セミナー」をオンラインで開催しました。“サステナブル・ツーリズムの地域への浸透”をテーマに、3名の外部講師を招いてサステナブル・ツーリズムを地域で実践すべき理由や、具体的に何から始めれば良いのか、実践事例をもとにご紹介。セミナーには400名を超えるインバウンド実務担当者にご参加いただきました。本記事では、セミナーの概要として各講演内容を要約して掲載します。

基調講演「サステナブル・ツーリズムの動向と地域の課題を解決するための観光とは」

JNTO地域セミナー(2022年度上半期) 一般社団法人JARTA代表理事
高山 傑(たかやま まさる)
1969年生まれ、京都市出身。カリフォルニア州立大学を卒業後、12年以上海外に滞在、約60カ国700都市を訪れる。現在は一般社団法人JARTAの代表理事、観光庁持続可能な観光ガイドラインアドバイザーとして持続可能な観光の国際基準査定と普及に携わるほか、文化財を活用した観光推進にも携わり、日本の美しさを次世代につなげる活動に着手している。

 

―サステナブル・ツーリズムの理念について

 サステナブル・ツーリズムにおいては、自然、文化、社会、政治等の全ての分野において持続可能であるだけでなく、観光産業としても経済的に成り立つことが求められています。地域環境を後世に残せるように、長いスパンで考えていく観光がサステナブル・ツーリズムであると言えます。これまでの観光の目標は観光客を増やすことでしたが、ややもするとオーバーツーリズムにつながってしまいます。こうした数の論議ではなく、少数が訪れる観光地でも経済効果を最大限に還元できるよう、節度ある観光に転換し、より多くの地域住民の支持を仰ぎ、地域の特色を助長し、持続可能な開発目標に寄与する観光の発展に切り替えていきましょう。

―地域でサステナブル・ツーリズムを実践すべき理由

観光を活用することで、空き家問題やフードロス問題をはじめとするさまざまな社会課題の解決につながる可能性があります。観光のための地域づくりをするのか、それとも地域のために観光に力を入れるのか、どちらなのでしょうか。観光は目的ではありません。経済的なことを考えるのではなく、地域に支持され、環境にも優しい観光に取り組んでいくことで、よりサステナブルになり、地域のDNAを守ることにもつながるのです。

JNTO地域セミナー(2022年度上半期)

 

―サステナブル・ツーリズムの取組を始めるには

サステナブル・ツーリズムの取組を始めるには、国際基準(GSTC-D:Global Sustainable Tourism Criteria for Destinations)を勉強いただくことが第一歩となります。GSTC-Dには4つの分野(持続可能なマネジメント、社会経済のサステナビリティ、文化的サステナビリティ、環境のサステナビリティ)に対する項目が設定されており、GSTC(グローバルサステナブルツーリズム協議会)が主催する公式研修にご参加いただくと、3日間のカリキュラムを通して全てのカテゴリについて学ぶことができます。

また観光庁では、GSTC-Dを基に国際基準に準拠した観光指標として『日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)』を作成しています。当ガイドラインは無料でダウンロードできるため、是非手に取って見ていただきたいと思います。

実際にサステナビリティを考えた時に、時として、地域のなりたい姿というのは決まっているものの、あまりにも現実とかけ離れているということがあります。認証取得をゴールとするのではなく、自分たちの地域の現状を把握するためにGSTC-Dを使うのもひとつの手ではないかと思います。

JNTO地域セミナー(2022年度上半期)

 

 

事例紹介①「千年の草原の創造的利活用による阿蘇の持続的な景観保全と観光振興」

JNTO地域セミナー(2022年度上半期) 阿蘇市経済部まちづくり課課長
石松 昭信(いしまつ あきのぶ)
1969年生まれ、阿蘇出身。阿蘇町役場で、“道の駅阿蘇”構想、阿蘇市全体を屋根のない博物館に喩えた“ASO田園空間博物館”の組織化や設立に携わる。2005年に公益財団法人“阿蘇地域振興デザインセンター”に出向、“阿蘇くじゅう観光圏”の形成に携わったほか、“阿蘇ユネスコ世界ジオパーク”の認定にも貢献。現在も第一線で持続可能なまちづくりの取組に尽力している。

 

―阿蘇市の取組について

阿蘇市は、GSTCの認証機関のひとつであるGreen Destinations が発表する『2021年世界の持続可能な観光地100選』に選ばれました。評価された点は主に、①野焼きボランティア活動を通してサステナビリティを向上させる、②草原における新しい持続可能なビジネスモデルの構築、③あか牛のブランド化と繁殖牛の増加による草原保全、という3点の取組が挙げられます。

2020年には国土交通省の「観光地における新規市場の開拓・多角化に向けた実証事業」を活用して、阿蘇カルデラツーリズムと称したコンテンツ造成にも力を入れ、それらを踏まえて2泊3日の旅行商品を開発、2022年から発売を開始しています。それに伴い、滞在する宿泊施設の改善も必要であると認識し、“既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業”を活用して6件の宿泊施設を改修しました。例えば、宿泊施設にあった宴会場をラグジュアリーな2部屋に改修するなどしています。

現在は「『千年の草原』を活用した阿蘇ツーリズムの持続可能な観光コンテンツ強化事業」に着手し、アクティビティ事業者などが草原を活用する際の取り決めとなる持続可能な観光ガイドラインの策定をポイントに整理をしています。またその他にも、阿蘇市の地域観光拠点再生計画を策定して、地域一体となった観光地の再生および観光サービスの高付加価値化事業に取り組んでいます。

JNTO地域セミナー(2022年度上半期)

 

―GSTC公認トレーニングプログラムについて

昨年度、阿蘇市ではGSTC公認トレーニングプログラムを受講し、先程の基調講演でお話された高山先生をトレーナーとしてお招きしてグループワークやフィードワークを行いました。2泊3日のカリキュラムを通して、GSTCの基礎を学ぶことができ、改めて取組の幅の広さを思い知らされました。また、地域内の多種多様なステークホルダーの方々に参加いただけたことが大きな成果だったと思います。

2022年もまた、『世界の持続可能な観光地100選』に「千年の草原をサステナブルに保全・活用する阿蘇の景観保全と観光地域づくり」でエントリーしました。持続可能な観光地への取組は、まさしく継続が大切なので、続けてエントリーすることで地域のブランド化を図っていきたいと考えています。

 

 

事例紹介②「持続可能な観光地をめざす、弟子屈町の取組」

JNTO地域セミナー(2022年度上半期) 弟子屈町サステナビリティ・コーディネーター
木名瀬 佐奈枝(きなせ さなえ)
奈良県生まれ。1996年に19歳で弟子屈町へ移住。弟子屈町でアウトドア関連会社を20年以上共同経営した後、現在は弟子屈町の地域振興とSDGs推進を目的として活動する一般社団法人TESHI-COLORの代表理事を務めて、持続可能な観光地づくりに取り組む。釧路川のほとりの原野に建つワラの家に暮らす。

 

―弟子屈町のこれまでの取組について

2008年に観光を基軸としたまちづくりを目指して、住民主体のまちづくり団体“てしかがえこまち推進協議会”が発足しました。“誰もが自慢し、誰もが誇れるまち”を活動ビジョンとして、これまでに町民/事業者向けの各種講習会の開催や子どもたちに対する人材育成等を行ってきました。さらに“てしかがえこまち推進協議会”が主体となり、エコツーリズムを推進していくために定める地域の指針『エコツーリズム推進全体構想』を策定しました。

全体構想がエコツーリズム推進法に基づく認定を受けると、地域でできるようになることがいろいろあります。その中のひとつが“特定自然観光資源の指定”です。指定すると、独自の立入制限による保護が可能になります。2020年には、硫黄山の噴気孔を特定自然観光資源に指定しました。これにより制限区域に立ち入ることができる認定ガイド制度を創設。トレッキングツアーの販売を開始し、ツアー代金の一部を自然保護に充当する仕組みを整備しています。

環境省が日本の国立公園を世界水準の旅行目的地にすることを目指して2016年度から推進している“国立公園満喫プロジェクト”では、全国34の国立公園のうち、先行して8公園が選定されています。その中のひとつに阿寒摩周国立公園が選定されました。選定理由にはエコツーリズム推進全体構想がポイントとして挙げられています。このプロジェクトはソフトとハードの両面から、地域に大きな変革をもたらし、当初は無関心だった町民も次第に自分事と感じる意識の変化をもたらしました。

JNTO地域セミナー(2022年度上半期)

―弟子屈町の最近の取組について

弟子屈町らしい持続可能な観光を推進するために、『弟子屈町観光振興計画』を策定しました。この計画にはGSTC基準を導入し、観光業にゆかりのない町民にも自分事として捉えていただくために、“今日からできる町民アクション”も掲載しています。私自身は、サステナビリティ・コーディネーターとしてJSTS-Dに基づく地域の診断・評価(アセスメント)と分析を行っています。診断を実施することで、地域の現状の把握や、これから取り組むべきことが明確になります。JNTO地域セミナー(2022年度上半期)

 

弟子屈町では、さまざまなサステナブルな体験ツアーを造成していますが、造成にあたって大切にしているポイントは、①リアリティのある体験(アクティビティだけでなく、暮らしや文化を学ぶ要素がある)を提供する ②地域内循環の促進、地域への還元があること ③参加者が自宅に帰ったあとも“自分の暮らし”を見つめるきっかけとなる体験を提供する、の3つです。自然体験だけでなく、地域の“日常性と結びついた体験”“歴史や文化を学ぶ体験”を提供することが、サステナブル・ツーリズムの推進には大切な要素だと考えます。

サステナビリティとは“未来と過去をつなぐもの”。売り手良し、買い手良し、社会良しの“三方良し”からさらに環境良しの視点を加えて、これからは“四方良し”に進んでいければと考えています。JSTS-Dはすぐにダウンロードできるので、サステナビリティの自己診断はどの町でも明日からできます。観光地域づくりに近道はないので、地道な取組をずっと続けていくことが大切です。

 

 

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、視聴者からいただいた質問を基に講演を行った3名の外部講師が回答を行いました。

<質問1>
サステナブル・ツーリズムへの取組が遅れている地域ですが、欧米豪のインバウンドが多いこともあり、サステナブル・ツーリズムへの取組が急務と感じています。サステナブル・ツーリズムに関して、予算の乏しい観光協会やDMOができることは具体的にどのようなことがあるのでしょうか。

木名瀬氏:何から始めたら良いのか分からないという状況であれば、まずは地域内での受け入れに向けた計画を立てるのが良いかと思う。地域のステークホルダーの方々に集まっていただき、現時点でどのような受け入れが可能なのか、今後どのような体制を整えていくべきなのか等について話し合い、地域の方々にとって自分事として捉えていただくことが重要だ。

石松氏:“サステナブル・ツーリズム=新しく何かを作らなければならない”という感覚を無くしてほしい。現在行っているツーリズムをいかにサステナブルに転換していくかという視点で考えてみては。

高山氏:方針や戦略のみだと、実際にお客様が来てもサステナブル・ツーリズムに取り組んでいるのかが分からない。事業者の方々に協力を仰いで両輪で取り組まなければならない。事業者の方々にサステナブル・ツーリズムについてご理解いただく研修等はそこまでお金はかからない。

 

<質問2>
長く続けるために、どのようなモチベーションでサステナブル・ツーリズムと向き合っていけばいいのか教えてください。

高山氏:子どもたちが大人になった時に、この環境があるのだろうかと考える、普通のまちづくりと同じ視点。観光だけがサステナブルということはありえないので、まずは自分が子どもの模範になる大人になり「このまちに住んで良かった」と思えることが大事。郷土愛をモチベーションにしてほしい。

石松氏:私も、郷土愛が大事だと考える。地域の中で何が課題で、何を守っていくかを見つけることが大切。観光分野、まちづくりの分野でコンテンツを作って、地域が循環できる取組をつくることが続けられるポイントだと思う。

木名瀬氏:何のためにサステナブル・ツーリズムに取り組むのかが大切なところ。トレンドだからということでは根付かない。今ある自然や文化をより良いかたちで残していきたいという思いや、ここを誇れる場所にしたい、ここに住み続けてほしいというのがモチベーションになる。

 

以上の回答をいただき、上半期の地域セミナーは終了となりました。


下半期にもJNTO地域セミナーを実施する予定です。詳細につきましては後日お知らせいたします。皆様のご参加を心からお待ちしております。

2021年度JNTO地域セミナー(上半期)実施報告の記事はこちら。
2021年度JNTO地域セミナー上半期オンライン実施報告(海外プロモーション)
2021年度JNTO地域セミナー上半期オンライン実施報告(デジタルマーケティング、SDGs)