インバウンドビジネスセミナーin稚内〜訪日インバウンド新潮流〜

Written by JNTO

2017年11月9日、稚内市総合文化センターにてJNTO主催のインバウンドビジネスセミナーが行われました。欧米豪市場の訪日旅行者が地域にもたらすメリットと受け入れ側の課題について、濃厚な情報が満載の半日に密着しました。

インバウンド時代に求められる観光のあり方とは

基調講演に登壇したのは、インバウンドコンサルタントのポール・ハガード氏。彼は「日本は完全にインバウンド時代に入った」と断言します。欧州豪市場の旅行者が求める3つの要素として以下の内容を挙げました。

1.フレキシビリティ(柔軟な対応)

訪日旅客の一番の目的は「日本を味わい、日本人と触れ合うこと」です。欧米豪の旅行者は個人旅行者が多く、普段は体験できないようなサービスでもゲストのリクエストに応じる柔軟性を期待しています。

2.モノ消費からコト消費(REALな体験)

彼らが求めているのは「ありのまま本当の姿」を体験できるアクティビティです。そして、日本でしか味わえないありのままの体験をSNSでシェアする、今やこれが1つの旅の目的なのです。

3.長期滞在できる仕組み(町ぐるみの取組み)

海外ではインバウンドを意識した長期滞在の仕組みがあるのが一般的です。特にスキー場ではアフタースキーに麓の街へ飲みに出かけ、その日の出来事を語らう文化があります。日本でもニセコは街全体でこの文化を取り入れ、成功したといいます。

爆買いに代表されるモノ消費に比べ、欧米豪インバウンドはコト消費をする傾向があり、さらに7泊程度の長期滞在が一般的。そのため最大のメリットは交通・宿泊・サービスなど地元にお金が落ちることだといいます。

インバウンドコンサルタントのポール・ハガード氏

訪日インバウンドの課題とは何か?

欧米豪市場に目を向けるメリットがわかったところで、私たちはどのような課題を解決すべきなのでしょうか?

まず、日本には7泊程度のインバウンドを意識したリゾート地がほとんどなく、環境は最高でもサービスや価格が中途半端だといいます。特に海外の富裕層を集客し、長期間滞在させる仕掛けがまだ足りません。ニセコでは1泊100万円のラグジュアリースキーハウスを用意したり、サイクリングコースを整備したりして「集まりも趣味もできる所」を提供しています。

そして、最も重要なことはコミュニケーション文化の違いを理解することです。例えば、注意を促すときは特に、否定的意見をはっきり伝えるロシアなど間接的な表現を好む日本ではトラブルが起きやすくなります。つまり表現に文化的な違いがあることへの理解が必要なのです。ポール氏はインバウンドの根源は人なので、どうコミュニケーションを取り、どう喜ばすかだけだと聴衆を激励し、壇上を後にしました。

山の麓の過疎地を世界に通用する観光地域へ

「私たちは官民のベクトルを合わせ町の課題に取り組んでいます」と事例紹介を始めたのは、徳島県三好市にある「大歩危・祖谷いってみる会」の植田佳宏会長。ミシュラン2つ星を獲得した祖谷渓谷など美しい自然景観を持つ一方、三好市は人口27,088名の過疎地です。交流人口を増やし過疎を止めるというミッションのもと、10年前に官民連携が始動しました。

知名度や二次交通など地方観光の課題は山積しています。そこで観光の現場を知る民間が戦略を練り、旅客受入れ態勢を一般社団法人が整備、行政が予算を取る。堅い連携のベースには「誰のために」「目標をどこにおき」「ターゲットは誰で」「何のための観光を」「誰がやるのか」という綿密な意識の共有と、「世界に通用する観光地域づくり」という高い目標があります。このように役割分担をして、古民家で談笑する篪庵(ちいおり)体験ツアーやホテルでの阿波踊り体験など多様なサービスやPR活動を繰り広げているのです。

植田会長は言います。「私たちの特徴はただ観光資源を見せるのではなく、必ず地域の人が介在することです。地域全体でお迎えすることを徹底しています」。箱物をつくるのではなく、地域住民を巻き込み、景観・文化・暮らしありのままの姿を復元してでもお見せする、こういったスタイルが大歩危・祖谷でしか味わえない魅力を醸成しているのでしょう。

結果として三好市は、対2007年比の外国人宿泊者数は27倍の14,828名、民泊も合わせると約23,000名と人口に匹敵する旅行客が訪れ、ジャパン・ツーリズム・アワード2位、徳島県内で最も移住者の多い地域へと成長しました。地域の観光にかける本気度が伝わる取り組みでした。

徳島県三好市「大歩危・祖谷いってみる会」植田佳宏会長

パネルディスカッション〜お客様目線で考える日本最北端、稚内〜

ファシリテーターにJTB総合研究所 黒須宏志氏、パネラーに稚内市長の工藤広氏、All About Japan編集長マイケル・カナート氏、ワールドラグジュアリーホテルアワード世界第1位に輝いた丸山俊郎氏を招き、パネルディスカッションが開催されました。「誘客力日本3位の北海道は今や世界的観光ブランド。道央に偏在した需要をどう稚内に引き込み、どう稼ぐのか? 鍵はお客様目線です」とし、まずはマイケル・カナート氏から外国人目線の意見を伺いました。

パネルディスカッション

・稚内にいかないとヤバいよ!と思わせたら勝ち(マイケル・カナート氏)

37都道府県を回った日本通のマイケル氏。彼は新しい土地に行ったら何がユニークで特別なのか、何が体験できるのか探すと言います。ホームページの固定情報とSNSで写真を活かした拡散力を組み合わせ、魅力を多言語対応で宣伝することが重要だと語りました。

「“日本の果て”というと遠く感じるけど、日本のはじまりと考えるとイメージが変わります。日本を全部見たいなら稚内に行かないとヤバいよ!と思わせることが大事」とマイケル氏。稚内は遠いというイメージを覆すクリエイティブな視点に、会場がワッと湧きました。

・旅で得たキラーコンテンツの育て方(丸山俊郎氏)

「訪日旅客の消費内容を見ると、平均27,112円と買い物に競争力がある一方で“コト消費” の核心部である娯楽サービス(スキー、博物館、ゴルフ、観光ガイドなど…)は10,578円と日本全体的に少ないのが現状」と黒須氏。

多くの体験型サービスを企画・提供してきた丸山氏の目に、稚内の観光コンテンツはどう映ったのでしょうか。豪州最東端バイロンベイを例に次のような見解を示しました。

「大陸で初めて2000年を迎える街」として人気を博したバイロンベイは、駐車場から15分くらい歩きます。宗谷岬は駐車場からとても近い、もっと勿体つけていいのではないでしょうか? 圧倒的な自然美に感動するのもよいのですが、なぜ綺麗なのか、その歴史や背景を多言語で説明し、発信するだけで価値を上げることができます。散策ルートを作り込めばもう1泊させることができると思います。

「そもそも体験型の資源が何かを知ることが難しいのだが、ひとつ海外や外に出てみることで視点が変わる」と丸山氏は言います。ワーキングホリデーや多くの実践を通して得た丸山氏の洞察力に何度も頷かずにはいられませんでした。

・日本最北端を弱みに捉えていた(工藤広稚内市長)

稚内市は平成26年に年間宿泊数1万人泊という目標を達成し、平成28年利尻礼文を含めた約7泊の北海道周遊モデルコースを策定。行政としてインバウンドへ前向きな姿勢を示している一方、街全体として気運は高まっていないのこと。「国の支援期間も限られているので、地元で何をできるのか考えて取り組んでいきたい」と工藤市長は言います。

今回のディスカッションを経て市長は「地元の人間として改めて反省しました。日本最北端をどうしても弱みに捉えていた。公益的なストーリーを考えてみたい。地に足をつけて、ターゲットを絞り、文化や価値観の違いを学びながら、外国人の方が安心して訪れることのできる町を目指していかなければいけない」と結びました。

稚内市総合文化センターで開催されたインバウンドビジネスセミナー

今必要なマーケティングとは

最後に、JNTO清水雄一氏からデジタルマーケティングの必要性についてお話がありました。 欧米豪市場をはじめ個人旅行者増加には、地元の居酒屋から観光地まで誰もがスマートフォン1つで情報収集できる時代になったことが背景にあります。これを受け入れる側の目線でみると、勘に頼らずとも、オンラインで旅行者の反応を確かめながらPR活動ができるようになったといえます。

さらに清水氏によると、過去に閲覧したウェブサイトの情報や旅客の移動実態など、いわゆるビックデータから旅行者の趣向や行動パターンを分析したデジタルマーケティングによって、効果的なプロモーションが打ち出すことができます。JNTOは、分析結果と地域資源とを組み合わせた周遊プランの策定や海外への情報発信などを支援しており、インバウンド対策に頭を抱える自治体や企業の心強いサポーターといえそうです。

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