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春日部の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

春日部の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

春日部の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ

2017年11月1日、春日部市民文化会館において、「春日部の訪日インバウンドの未来を考えるワークショップ」が開催されました。このワークショップは、JNTOが今年度から取り組む、地域で行うワークショップシリーズの第一弾。初回となる春日部市のワークショップには、総勢36名の方々が参加しました。約5時間のワークショップ、その様子をレポートします。

浅草と日光に挟まれた立地を生かし、ベッドタウンから脱却する!

アニメ『クレヨンしんちゃん』の舞台として知られる埼玉県春日部市。都心から約1時間とアクセス良好で、首都圏のベッドタウンとして確固たるポジションを築いています。しかしその一方で、「ベッドタウンとしてのイメージが強すぎる」「インバウンドに関わる地元プレーヤーが少ない」「そもそもインバウンドに対する関心が薄い」という悩みも。せっかく浅草と日光という二大観光地に挟まれているのだから、その立地を生かして、ぜひともベッドタウンからの脱却を図りたい――、そんな思いで、今回、ワークショップを開催することを決意しました。

石川良三市長による挨拶でスタート

まずは、春日部市の石川良三市長が「観光資源の情報を効果的に発信し、多くの方々に来ていただけるような街にしたい。一緒に春日部の未来を考えましょう」と挨拶。その後、早速、インバウンドの全体像を把握するためのオープニングセッションがスタートしました。JNTOの山崎道徳理事が、インバウンド施策の重要性、現状、経済効果や事例について丁寧にレクチャーしていきます。なかでも注目を集めていたのが、インバウンド施策の具体的な成功事例。ガイドとともに自転車で飛騨の里山を巡る「SATOYAMA EXPERIENCE」や、徹底したおもてなしで外国人観光客の心をつかむ「平安楽」という小料理屋の取り組みが紹介されました。

JNTO山崎理事によるインバウンド施策の重要性や最新動向、事例の紹介

「『SATOYAMA EXPERIENCE』は参加者8名の小さなサイクリングツアーです。回るのは、田んぼ、湧水、農家、この3つだけ。にも関わらず外国人観光客から大人気で、常に予約がいっぱいの状態だと聞いています。『平安楽』は、お客さんの好みを聞いて料理を提供してくれる小料理屋さん。食の好みや宗教などに細かく対応してくれ、また料理が出てくるまでの待ち時間に折り紙などでおもてなしをしてくれることで人気となりました。どちらも、稲作の風景や食といった一般的な資源を活用し、人の力で観光魅力へと高めた事例です。人が人を楽しませればそれが観光になるんですよね」と山崎理事は言います。この話に、参加者たちも納得の表情。特別なイベントや施設だけでなく当たり前の景色が観光資源になることを知って発想の扉が開いたのか、早速、アイデアをメモする様子なども見受けられました。

 

春日部市が抱える課題や、強み・弱みとは? 現状を知り、基礎を固める

続く座学には、株式会社JTB総合研究所・主席研究員の黒須宏志氏が登壇。まずはプロモーションを考えるための段取りと、どのような公的機関と連携すればよいかといったことが説明されました。

「プロモーションはいきなりやってうまくいくものではありません。組織作づくり・目標づくりを経て、資源・商品づくりを行い、そして移動手段の整備や地域の合意形成を行って、初めて機能するものなんですよね。また、お客さんを外国から日本に呼ぶのか、空港から地域に呼ぶのか、呼ぶのは団体客か個人客かということも考慮しなければなりません。考えなければいけないこと、やらなければいけないことが非常に多いのです。だからといって尻込みしてはダメ。まずはできることから、とにかく一歩踏み出すことが大切だと思います」。こう呼びかけ、心構えについて語ったあとは、いよいよ参加者がもっとも気にしている、春日部市の課題整理へ。豊富なデータとともに、春日部市のインバウンド事情が今抱えている問題点や、強み・弱みについての解説がなされました。

「東京は外国人宿泊客の1/4が集中する宿泊地。春日部は、その東京から1時間でアクセスできるとても恵まれた場所にあるのです。なのに、埼玉県の外国人宿泊者数は極端に少ない。これは決して悪いことではなく、むしろポテンシャルが高い、伸び代があると考えられる事柄なのではないかと思います。一方、弱みとしては、『東京から1時間の圏内には、鎌倉、横浜、川越、高尾山といった知名度・競争力の高い観光地が多くある』こと、『埼玉県自体の訪問率が南関東に比べて低い』ことが考えられます。強み・弱みをしっかり把握し、誰に・どこで・どんなふうにプロモーションしたらよいかを考えて、羽田・成田からやってき外国人観光客をうまく取り込んでいきたいですよね」。

その他、参加者が考える課題や、強みや弱みを外国人目線でブレイクダウンすることの重要性などが語られ、グループワークに向けての土台固めが進められていきました。

 

白熱したグループワークで、春日部市ならではの観光コンテンツを開発!

今回のワークショップのメインプログラムであるグループワーク。6名でひとつのグループを作り、架空の企画会社という設定をもうけ、まずは春日部市に外国人観光客を誘致するためのコンテンツ開発を行いました。

本題に入る前に自己紹介を行って、軽くウォーミングアップ。その後、会社名を考える作業に入りました。春日部っ子のことを「べーべー」と呼ぶことから着想した「株式会社BEBE」(べーべー)、メンバーの名前の頭文字をつなげた「株式会社MINTYS」(ミンティーズ)、春日部の「春」と「日」を英訳した「株式会社スプリング・デイ」など、個性豊かな会社名がずらり。ファシリテーターを務める株式会社創造開発研究所の齊藤誠氏も、「小技の効いた会社名が多く、なんだかワクワクしています。活発な議論や斬新なアイデアが期待できそうですね!」と笑顔でコメントしていました。

続くグループワークでは、春日部市の観光資源をとにかくたくさんピックアップし、付箋に書く作業にトライ。多い人は20枚以上ずらりと付箋を並べていました。ある程度ピックアップできたら、次はメンバーの付箋を持ち寄ってダブリを排除し、「魅力あるコンテンツ順」に並び替え。1位~5位程度まで順位をつけて、1位の観光資源を中心に観光コンテンツを考える作業に移っていきました。

白熱したディスカッション

順を追って協力しながら観光資源を整理していったこともあり、観光コンテンツを考える話し合いではあちらこちらで白熱したディスカッションが! 「春日部市には宿が少ないので、民泊を活用してはどうか」「いやいや、いっそのこと宿泊は東京に任せて、私たちは『ワンデイトリップ』を売り出そう」「静と動の組み合わせというのも面白いんじゃないか?」「農業体験を全面に押し出してアグリツーリズムを展開しよう」など、次々とユニークなアイデアが飛び出しました。地元のバス会社に勤務する方が「臨時バスを運行します」と断言し、大いに盛り上がるグループも。こうした議論の末、約1時間のワークで、春日部市の魅力がたっぷり詰まった観光コンテンツが完成しました。

グループごとにプロモーションプランを策定

 

SNSを使ったプロモーションで、外国人の心を引き寄せる

休憩を挟んで行われた第2部では、プロモーションの方法が検討されました。ワークの前に軽くPRの手法、ターゲットについての考え方、場所や予算についての講義があり、講義の内容を踏まえた上で2回目のグループワークへ。PRに必要な情報を1枚の紙にまとめることができるシートを使って、個別にプロモーションプランを策定して行きました。

次はプロモーションシートを隣の人に回して、発想を広げていく作業にトライ。他人のアイデアを知ることで新しい視点を取り入れ、また、人の目を通すことで内容をブラッシュアップしていくことを狙いました。この作業をグループ内で3周分行った上でディスカッションし、最後に十分に練り上げたプランを模造紙にまとめる作業を行います。

4時間強のワークの末に完成した、各社渾身の観光コンテンツとプロモーションプランたち。最後に代表者が前に出て、模造紙とともにその内容をプレゼンテーションしていきました。半日弱のワークショップでしたが、全グループがしっかりと観光コンテンツとPRプランをまとめあげ、発表へとこぎ着けることができました。

ワークショップ終了後には、参加者から「春日部を知る事ができ、ルートも発見できた!」「いろいろなことを考える時間になった。春日部のためのアイデアを今後も考えていきたい」などの前向きなコメントが聞かれました。春日部市の魅力、可能性を存分に感じることができ、モチベーションもグッと上がった様子。今後の展開に大いに期待が持てそうな、貴重な1日となりました。

 

各グループの発表内容

・株式会社スプリング・デイ

春日部の伝統工芸品・挿絵羽子板を中心に観光コンテンツを企画。工房の見学や制作体験などをしてもらい、その後、春なら桜並木、夏なら夏祭りというように、四季のイベントへ誘導します。最後に赤沼ロマンビールや地元産の枝豆を食べる食体験へ。ターゲットは台湾の若年層。PRはSNSとブログを通じ、「外国人が羽子板を制作する様子」「羽子板の美しさを伝える動画」を発信することで行います。

株式会社スプリング・デイ

・株式会社BEBE

ニューヨーク・タイムズで取り上げられた龍Q館と、欧米人に人気のラーメンを楽しむショートツアーを企画。ターゲットは欧米系の20~40代カップル。PRは、SNSで活躍するインフルエンサーに協力を要請して実施。有名外国人インフルエンサーにツアーを体験してもらい、春日部の街を暮らすように楽しんでいる動画をUPしてもらいます。

株式会社BEBE

・株式会社ウィステリア

藤、龍Q館、首都圏外郭放水路といった、春日部の王道的観光資源を組み合わせたプランを立案。ターゲットは台湾の若年層。まずは藤の美しさや外郭放水路の迫力を伝えるインパクト重視のディスプレイ広告を配信。クリックしてくれたユーザーに対し、より詳細なコース紹介動画を配信することでPRを実施します。

株式会社ウィステリア

・株式会社オニギリ

欧米系ファミリーをターゲットに「アグリツーリズム春日部」を立案。田んぼの真ん中にグランピング施設を設置し、農作業やおにぎり作りなどを体験してもらいます。PRはSNSを活用し、体験者のインタビューやツアーの魅力などを動画で発信することで実施。また、「ギネスに挑戦!」などの企画も行います。

株式会社オニギリ

・株式会社麦わら

春日部名産の麦わら帽子をかぶって体験するサイクリングツアーを提案。挿絵羽子板の工房見学、イオンでの買い物などを経て、温泉に宿泊します。ターゲットは台湾の若年層。PRは台湾の紙媒体、SNSで実施。人気ライター、現地ブロガーなどに協力してもらい、体験レポートなどを発信します。

株式会社麦わら

・株式会社MINTYS

伝統工芸やショッピングなどをバランスよくミックスしたプランを立案。『クレヨンしんちゃん』でおなじみのララガーデンや伝統産業体験などを楽しんでもらい、最後に道の駅で食やショッピングを体験してもらいます。ターゲットは台湾の中年層。PRはSNSなどを使い、動画を配信することで実施します。

株式会社MINTYS

 

発表の講評

・アドバイザー/外国人ジャーナリスト ジョン・マシューズ氏

「観光資源はどこにでもあるものです。特別な施設や仕掛けは必要ありません。その土地の人との交流や、観光客が少ない静かな環境でさえ、観光資源になり得る可能性があるんですよね。そう考えると、『アグリツーリズム春日部』のグランピングツアーは、とてもよいアイデアだと思いました。またPRについてですが、もしSNSに取り組むなら、1回で終わりにはしないでほしい。特に地域の人をフォーカスしたストーリーを大切に、ぜひ継続して取り組んでほしいなと思いました」

・共栄大学教授 石川美澄氏

「あまり盛り上がらなかったらどうしようと思っていましたが、いろいろな視点を持った方が集まって活発な議論を交わしてくださり、とても大きな可能性を感じました。今日の議論を忘れず、より人にフォーカスしてストーリーを発信することができれば、きっと春日部にしかないインバウンドが進められるはず。今後の展開を、心から楽しみにしています」

・JNTO理事 山崎 道徳

「皆さんのすごいところは、素材を組み合わせてストーリーを作り、立派なメニューにしているところ。中でも、匂い、風、味わい、手触りなど、五感で文化を感じさせるメニューが多いところに脱帽しました。すべての会社がそのようなプランを考え、積極的に打って出ようと考えている。地元愛に満ち溢れた方々の、地元愛に満ち溢れたプランに出会うことができ、私にとっても大変貴重な1日になりました。本当にありがとうございました」

ワークショップの内容を視覚的に記録したグラフィックレコーディング

 

ワークショップスライド画像
1.インバウンドの動向・トレンドについて
2.ワークショップの流れ
3.座学①インバウンドを想定したコンテンツとターゲット層の検討
4.座学②インバウンドプロモーションの考え方