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地域の資源を活かすアドベンチャーツーリズム③(Adventure Travel Trade Association (ATTA)へのインタビュー後半)

2020年01月09日 (木)

Written by JNTO

北海道を中心にその取り組みが全国に拡大しつつあるアドベンチャーツーリズム (AT)。今回はAT業界最大の団体であるAdventure Travel Trade Association (ATTA) のシャノン・ストーウェルCEO、ジェイク・フィニフロック アジア担当部長、またATTAの日本のコンタクトパーソンとして活動されている國谷裕紀アンバサダーのインタビュー記事(後半)をお送りします。

目次

※インタビュイーのプロフィールは前半のインタビュー記事をご覧ください。

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特別な経験の提供に向けて、マインドセットを転換する必要

(ー最近、日本ではATへの関心が高まってきました。ATTAの理念を踏まえると、経済的な側面とその他のサステイナビリティの側面(環境・社会)の双方に関して、ATが日本でどのように発展することを期待していますか。)

ストーウェルCEO「ATを日本で広げることは、多くのステークホルダーを整えて関係者を巻き込むことになります。ATTAが直接その役割を担うとは考えていませんが、私たちからは専門家やマーケットとのつながりを提供できます。これは世界中でATTAが得意とすることで、何年もかけて得た知識があり、技術的なアドバイスが可能な者もいます。さらに、実際のマーケットにつながっていることが強みで、単純なアドバイスだけなく、計画を支援し、ビジネスとしての発展につなげることができるのです。すでに一緒に実践してきていますが、私たちATTAの目標は、日本の公的機関や民間企業、NGOといった多くのステークホルダーを巻き込んで、ATの発展のために一緒に働き続け前進することです。」

シャノン・ストーウェルCEO

フィニフロック アジア担当部長「ツーリズムにおけるリスクのひとつは、過度な商業化で、大企業によって中央集権化されてしまうことです。ATTAの哲学のひとつに、脱中央集権化があり、私たちは地域の小さなオペレーターを大事にしています。地域のオペレーターは、合理化や時間短縮や安価なツーリズムとは離れて、価値のある地域の環境を守る姿勢を持っています。小さな企業を助け、小規模なグループを推奨し、より長く深い経験を提供することは、私たちの哲学のひとつです。これはディスティネーションにとって良いことで、経済的な価値を維持していくことができますし、旅行者もそれを望んでいるのでマーケットにも良いことです。旅行者は一律にベルトコンベヤで流されていくような旅行を望んでいません。」

「旅行者は、旅行先での観光やアクティビティと同じように、理性的で最高の人間同士のつながりを持ちたいと思っています。海外から来る旅行者にどのようにしてこのような経験をしてもらうかは、日本にとって挑戦かもしれません。なぜなら日本は、物事を正しく費用対効果高く行うために、効率性や協力、過程を慎重に検討することに強みを持っていると思うからです。ここから、より人間的な部分を広げて、経験の提供を重視していくためには、マインドセット(物事の見方)を変えることが必要になります。日本は非常におもしろい場所です。中国市場に対しては、中国の急速な経済・市場成長からのプレッシャーを受け、パッケージ化されたシンプルで短期間の、大衆向けで低価格のツアーを提供し、経済的な利益と旅行者を増やしています。一方で、欧米豪市場に対しては小さなグループのゆっくりとした旅行に価値を見出しています。日本は同時に双方の市場を見つけたのです。課題は『長期的な目線で日本の観光をどのように発展させていきたいか』ということです。これから多くのことを検討しなくてはならないでしょう。」

ジェイク・フィニフロック アジア担当部長

フィニフロック アジア担当部長「素晴らしいATディスティネーションの中には、インフラが整っておらず、荒れた道路を通って行かなくてはいけないような場所で、ATを発展させようとしているところもあります。このような場所には自然なAT経験が存在するのです。日本にもこのような場所があると思いますが、どのように発展させていくべきか考えることがチャレンジだと思います。今回のインタビューを通じて考えたのですが、日本は島国という環境下で長年かけてユニークな文化を発展させてきました。西洋人からすると、このような文化を持つ日本でなにかを見つけたり経験したりすることは特別な楽しみなのだと思います。洗練された文化が日本にはあり、これらはとても注意深く扱われるべきです。日本文化を構成する多様な要素が、異なる形で各所で見られることは非常に魅力的です。たとえば、アメリカの地方出身の私はシンプルなデザインにとても魅力を感じます。また会席料理では一皿一皿の味だけでなく見た目にも気がくばられており、多くの人が経験したいのではないかと思います。」

(ー四季があることも日本の特徴ではないかと思います。)

フィニフロック アジア担当部長「四季の移り変わりで文化が変化することもおもしろいですね。日本は自然・異文化体験・アクティビティというATの三要素において、とても強い文化的要素があると思います。日本の方々はこの文化をごく当たり前のことだと思っているかもしれませんが、世界中の多くの人にとっては、オペラや歌のようなパフォーマンスとは違いますが、とても刺激的で魅力的なことなのです。観光は過度な開発やデザインをされすぎると、得られる経験を自然なものとして感じることができません。自然なものであると感じさせる要素を維持していく必要があります。」

日本のAT推進に向けた課題とは

(ーコンサルティングを通じて日本におけるATの普及啓発に取り組まれている國谷アンバサダーに伺います。ATは地域の課題を解決するための手段としても期待されていますが、ATTAのおふたりがお話くださったようなツーリズムを実現するための、実際的な課題はどこにあるでしょうか。また地域においてはどのような体制・取り組みが必要だとお考えですか。)

國谷アンバサダー「ストーウェルCEOとフィニフロック部長がすでに統合的な観点で意見を述べてくださっていますので、おふたりのご意見をもとに、私が現在の日本の観光における課題であり、かつATが日本に解決手段をもたらしてくれるものと考えている下記3点を軸にお話したいと思います。」

1.市場の多様化の推進
2.観光で実現したい定性的な目標設定と顧客ターゲティングの明確化
3.上記から導ける観光自体の再定義と人材育成

國谷 裕紀アンバサダー

1.市場の多様化の推進

「欧米が中心市場であるATに取り組むことは、これまで国内旅行者、近隣アジア諸国からの訪日外国人旅行客と変遷してきた市場をさらに多様化させるとともに、地域を中心とした観光の実現に貢献できると考えます。従来の日本の観光産業は日本人をターゲットとして成立していたと思いますが、戦後から2000年頃までは所得水準やビザ、LCC等の安価な交通手段が普及していなかったことなどを背景に、観光産業がインバウンドよりも日本人顧客に注力することは自然なことでした。そして近年、人口減少による日本市場の縮小が避けられず、同時に、官民の努力と外部環境の変化等により日本を訪れる外国人旅行客はアジアを中心として3000万人を超えるようになりました。ここまで短期間で急成長を遂げた点は世界に類を見ない成功例ではないでしょうか。

近隣アジア諸国のお客様は引き続き重要ですし、今後も大切にしていくべきです。同時に今後、観光が日本経済をけん引する重要な産業としてさらに成長するためには、政治、経済等の不確定要因を考慮して、潜在的市場規模の大きい欧米市場を取り込む必要があることは周知の事実です。地域に軸足を置いたATは、欧州・北米・南米を中心市場として、世界の観光の主体的なあり方へとなりつつあります。AT市場に取り組むことは、顧客の多様化という観点のみならず、観光先進国を目指す日本が、世界の先進的な観光を実現していく機会としても好ましいと考えます。」

2.観光で実現したい定性的な目標設定と顧客ターゲティングの明確化

「観光が脚光を浴び、2020年4000万人/8兆円、2030年6000万人/15兆円という訪日外国人旅行客数と旅行消費額の定量目標を明示して、国をあげて経済活性化への貢献が目指されています。同時に、経済効果以外に観光振興を通じてなにを実現したいのかという点は、フィニフロック部長が指摘されたように、今後さらに議論されるべきだと考えています。実現したい目標に向けたターゲットの明確化も必要です。ご存じの通り、都市部や一部の観光地ではオーバーツーリズムがすでに顕在化しているか、その兆候が現れています。たとえば北海道では、

『スキー人気が続く地域では地価・物価が上がり、古くからの居住者が生活しにくくなってしまった。』

『美しい田園風景が人気の地域では、農業を知ってもらうために受入環境整備やPRもしたが、あまりに多くの観光客が殺到して、心ない観光客に農地を荒らされてしまい、農家の方が人気のコンテンツであった木を切り倒した。』

などの事例を先日現地で伺ってきました。これが自分の住む地域だと想像してみると、確かに観光客の方々は地域産品の購入や観光などを通じて地域にお金を落とし、地域を活性化してくれるかもしれません。しかし、四六時中、生活圏が観光客で混雑していたら、心からの歓迎ができるか考えてしまいます。一方で、数名の外国人観光客が、たとえば地元の飲食店で店員さんと一生懸命コミュニケーションをとろうとしていたら親近感も沸きます。特に地方でそのような触れ合いがあると、よりうれしいだろうなと思います。その方がもし1週間滞在していて、2度3度と会えたら、私だったら声をかけて、友達になってみたいと感じます。旅行者が比較的長い旅行期間を、精神的にも地域の方と近い形で過ごすことで、こうした機会の提供につながりうることも、ストーウェルCEO、フィニフロック部長がおっしゃるATの訴求ポイントのひとつだと思います。

また、大都市でもATを楽しむ機会はありますが、地方においてこそ、顧客にも地域にも、双方に価値を提供できることがATの特徴だと思います。ストーウェルCEOがおっしゃったように、定性的な目標は明快な結果が出しづらく、測定にもより手間がかかるでしょう。だからこそ議論を尽くして、そうした指標を設定・構築していくことが今後の日本の観光政策でより重要だと考えます。」

3.上記から導ける観光自体の再定義と人材育成

「1と2を踏まえて、観光を従来の枠組みを超えての産業としてのイメージをより明確に描いていくためにも、とりわけ地域の方々と一緒に汗をかいて仮説と検証を繰り返しながら実現を目指せる人材育成が不可欠です。残念ながら現時点ではそうした人材のあるべき姿が明確ではないことが課題と考えています。ATの推進を通じて地域の皆様のお考えに触れてきた中で、その地域や近隣エリアはもちろん、日本全体を俯瞰して従来の観光産業のプレーヤーとあわせて、特に地域の観光に関わる産官学の大小のプレーヤーを巻き込み、一体となれる取り組み体制と、その体制を推進できるような人材が必要だと考えています。」

課題は地域ならではの価値ある経験の提供とコーディネーター人材の育成

(ーこれからATに取り組みたいDMOや自治体が参考にできるような、ATの取り組み事例や成功例があればご紹介いただけますか。)

國谷アンバサダー「先日沖縄で体験してきた、海岸でのキャンプとサバニ(沖縄伝統のサメ漁漁船)体験が好例と思います。ATのプロフェッショナルであるATTA会員のツアーオペレーター4名と10日間ご一緒し、ビーチでキャンプを行いました。ビーチ自体も美しいのですが、付属施設には温水シャワー、トイレも完備され、なおかつ施設のスタッフの方々も本当に親切丁寧で、テントの張り方から、各種アクティビティの準備、美味しくて豪華で雰囲気も最高な夕食・朝食と、私の人生で一番素晴らしいキャンプを体験させていただきました。ところが、参加者からの評価は高くなかったのです。理由は、至れり尽くせりすぎることと、便利ではあるもの施設が国道沿いにあり、自然の中でキャンプをしている雰囲気をなくしてしまうからということでした。」

ATTA会員のツアーオペレーター

「翌日はキャンプを行ったビーチから、サバニという沖縄伝統の漁船を復元した船で、2時間ほど一緒にクルーズをしました。地元ガイドの方から、実際の漁の仕方や、昔はクジラが捕れると山から見ていた村人が海岸に集まってきて一緒にクジラを解体したこと、サンゴ礁と海の色の関係、サバニを作れる人は現在ほとんどおらず一艘作るのに180万円かかるなどの話を聞きながら、一緒に櫂をこぎました。途中の浅瀬で船をとめて皆で海に飛び込んだり、航行中に見えるビーチを指さして、あそこでランチができたら最高だなどと、皆さん大変興奮して楽しんでいました。その後あらためて、参加者にキャンプとサバニ体験の意見を聞くと、

『サバニという沖縄ならではのものを、その歴史や背景、使用方法や現況を聞きながら、ガイドさんと一緒に汗を流して漕ぐからこそ価値が高まる。途中、風がなくなって漕ぐのが大変だったけど、むしろそうした大変さがなければ体験した気になれないんだよ。今後はクルーズの途中のサンゴの多いところでシュノーケリングしたり、陸からのアクセスが困難なビーチにサバニで上陸して、地元ならではの食材を使ったランチなどを組み込んだりしてくれたら顧客はすごく喜ぶ。』

『キャンプは、機材もスタッフも素晴らしいのだから、このサバニで陸からは行くのが困難なビーチまで行き、(機材は別の船で輸送するにしても)そこでキャンプをしたらいいのに。そうすれば一気にAT顧客が喜ぶものになるよ。』

なるほど、最もだと思うと同時に、今後日本でATを推進するにあたって、ATトラベラーがなにに価値を感じるかの重要な示唆でした。」

サバニ(沖縄伝統のサメ漁漁船)体験

「最後に、このように各地でATの取り組みを地域の皆様と実施していて感じることは、各コンテンツとそれを提供されるガイドさんは素晴らしいのに、それを広域で俯瞰し、顧客の要望に添ってカスタマイズするなど最適化し、顧客とのコミュニケーションを英語で支援できるようなプレーヤーが現状はほとんどいないということです。そうした役割を担うには、語学力はもちろん高度なマーケティングスキルとあわせて、地域の方々と汗をかいて地道な根回し・準備等を行うことにも喜びを感じられるような人材が必要です。私はコーディネーターという仮称で呼んでいますが、こうした人材をどのように確保・育成していくかは、今後日本でATを推進し、世界に向けたプロモーションをしていくにあたって大きな課題だと考えています。」

2回にわたり、ATTAのシャノン・ストーウェルCEO、ジェイク・フィニフロック アジア担当部長、國谷裕紀アンバサダーのインタビュー記事をお送りしました。地域の皆様がATに取り組む際の一助となれば幸いです。また今後、具体的なATの取り組み事例をご紹介する予定です。

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