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地域の資源を活かすアドベンチャーツーリズム②(Adventure Travel Trade Association (ATTA)へのインタビュー前半)

2020年01月08日 (水)

Written by JNTO

北海道を中心にその取り組みが全国に拡大しつつあるアドベンチャーツーリズム (AT)。今回はAT業界最大の団体であるAdventure Travel Trade Association (ATTA) のシャノン・ストーウェルCEO、ジェイク・フィニフロック アジア担当部長、またATTAの日本のコンタクトパーソンとして活動されている國谷裕紀アンバサダーのインタビュー記事(前半)をお送りします。

目次

国内でも広がるアドベンチャーツーリズム (AT) への関心と取り組み

地域の資源を活かした、環境・社会文化・地域経済に貢献する持続可能な観光の形態として、ATの取り組みや関心が国内でも高まってきています。これから国内でのATの取り組みを進めるにあたり、2019年10月に来日されたストーウェルCEO、フィニフロック アジア担当部長にお話を伺いました。また日本のATにおいて、今必要と考えられる実際的なアクションについて、國谷アンバサダーにお話を伺いました。

※Adventure Travel Trade Association (ATTA)についてはこちらの記事をご覧ください

(関連記事)地域の資源を活かすアドベンチャーツーリズム①(Adventure Travel World Summit 2019の報告)
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シャノン・ストーウェル (Shannon Stowell) CEO

米国・コロラド州出身、シアトル在住。米国環境試験研究所、アウトドア&AT用品事業等への従事を経て、2004年よりATTA CEO。Global Sustainable Tourism Councilの役員を3年間、米国ハイキング協会の役員を4年間務めた経歴を持ち、ツーリズムに関する基調講演も国連やTED等で実施。米国の旅行専門誌AFARが世界のためになる旅行の創出に貢献した者を称えるために2016年に創設したトラベル・バンガードにおいて、2019年サステイナビリティ部門で選出。

ジェイク・フィニフロック (Jake Finifrock) アジア担当部長

米国・アラスカ州出身、シアトル在住。中国貴州省での10年間滞在を含め、4大陸での居住・勤務経験があり、中国語が堪能。2018年1月よりATTAアジア担当部長として、アジア地域とATTAの持つグローバルパートナーのネットワークとを結び、サステイナブルなパートナーシップの構築に尽力。

國谷 裕紀アンバサダー (JTB総合研究所 主任研究員)

2013年よりJTB総合研究所でコンサルタントとして従事。2016年よりATTAと連携したコンサルティングを通じて日本におけるATの普及啓発に取り組み、北海道運輸局、北海道経産局、長野県観光機構、九州観光推進機構、沖縄観光コンベンションビューロー等のAT関連事業の設計・運営を受託。日本アドベンチャーツーリズム協議会(事務局:JTB総合研究所)の設立に尽力。2019年5月に日本初のATTAアンバサダーに就任。

ワクワクすることを追い求めた結果、ATにたどり着き、そして責任に気づいた

(ーストーウェルCEOのキャリアは観光業界ではないところから始まっています。ATを取り組み始めたきっかけやキャリアの転換点はどこにありましたか。また既存の観光の問題をどのように考えたのでしょうか。)

ストーウェルCEO「私は生物学の学位取得後、環境科学分野で8年間働きました。その後、アウトドアレクリエーションが大好きだったので、アウトドアギアの通信販売を始めました。より自分が楽しい方向にキャリアが向かったということですね。このプロセスの中でATTAについて知り、学び、ATTAのメンバーになりました。ただ、ATTAはこの時、休眠状態でほとんど活動していない状態でしたので、2年かけてATTAの当時の運営者と話をつけ、2004年にATTAを引き継ぐことになりました。ATTAを引き継ぐに至ったモチベーションは、AT企業同士がお互いにつながることに多くのポテンシャルを感じたこと、またアウトドア産業は成功しており健全な環境であると見えたことでした。当初はATTAでの活動が楽しいということがモチベーションでしたが、時が経つにつれて、観光業界をより責任あるものとすることが自分の使命やミッションだと思うようになりました。最初はワクワクするために始めたことでしたが、責任になったのです。」

(ーATTAを始めた時から、旅行業界の経済的な側面と環境保全の側面の良いバランスを取ろうと考えていたのですか?)

ストーウェルCEO「環境保全についての知見はありましたが、正直、最初は旅行業界のことを良く知らなかったので、ATTAを始めた際には良いバランスをとることを目指していたわけではなく、徐々に目指していくようになりました。段々と、旅行はディスティネーションを壊しうるものでもあり、また同時にコミュニティーや環境、野生生物を助けるものだと気づきました。多くの人の助けを得て、数年かけてそのことに目覚めていったのです。私の仲間の多くが同時期にATの潜在力に気づいたと思います。今、旅行が良いことのために世界を変える大きなポテンシャルを持っていること、また同時に旅行が世界に害を与えうることはとても明確になっていますので、ATが持つ潜在力も明確になっているのです。」

「私たちは、旅行者数からだけでは本当の成功を得ることはできないと考えています。もし旅行者数だけに注目すると、旅行者が与えうるインパクトやディスティネーションのインフラが対応できるかどうか、という点を見失ってしまいます。これは物理的なインフラ、自然の環境収容力の双方で言えることで、つまりディスティネーションがそれだけの数の旅行者を受け入れることが可能か、ということです。旅行者数だけでなく、他の数多くの指標でも測るべきだというのが私のポイントです。収入もそうですし、その他にも生物などの環境指標を用いることもできます。こうすると指標は確実に複雑になりますので、多くの組織が売り上げや旅行者数だけの測定を行ってしまう理由のひとつだと思います。なぜなら、今の社会の健全性を測るということはとても難しいことだからです。ただ、観光の問題として取り上げられる事例の多くは、旅行者数の測定だけが重要ではないことを示しています。たとえばバルセロナでは、インフラの対応能力を超えて、多くの観光客が来すぎてシステムが悲鳴を上げたことに疑問の余地はありません。このような状態では測定よりも、ケアや問題解決のための行動が必要です。」

価値ある旅行をより健全にするための学びの機会を

(ーATWSのクロージングセッションでは、前UNWTO事務局長のタリブ・リファイ氏が、観光がもたらすネガティブな影響を認識しつつ、「旅行をやめるのではなく、正しい方法で旅行することを人々に説いていくべき」とお話されました。旅行することの意義をどのように考えますか。またこの課題に対してなにかヒントやアイデアはありますか。)

ストーウェルCEO「旅行には多くの価値があるものだと思っています。ディスティネーションにとって、明らかに経済活動の機会ですし、人々が出会って理解していくことができるので、誤解による争いが減るといった平和への手段でもあると思います。個人個人にとっても旅行は、心を開き、日常生活から離れることで、より健全な人間になることができます。このように、旅行は多くのポジティブな側面が個人、また社会においてあると思うのです。リファイさんのご指摘の多くに賛成していて、私たちは旅行をより健全なものにしていくべきで、旅行をやめるべきではないと思います。いずれにしても、旅行をやめるということはなかなか起こらないだろうと思いますし、観光は成長を続けるでしょう。」

「観光が抱える課題を乗り越えるために、たとえば、より健全な旅行をするための学びの機会をもたらすることも選択肢のひとつだと思います。旅行者がよりスマートに旅行できるように、同時に、旅行会社やホテルなどが顧客を正しく受け入れられるようにトレーニングすることもアイデアのひとつです。現在のATTAのプログラムは観光業界に焦点を当てていますが、将来的には旅行者に対するプログラムにも取り組む可能性があります。」

シャノン・ストーウェルCEO

ーATTAはATの3要素と5つの旅行者の経験を示しています。最近の状況を考慮すると、改めてどのようにATを表現できますか。)

ストーウェルCEO「ATTAは通常、ATの構成要素を『自然』『異文化体験』『アクティビティ』と定義しています。自然の中に入り、文化とつながり、そこでアクティビティを行う、というのが、私たちが定義したATです。定義する際には消費者である旅行者を調査しました。何千もの旅行者のATへのモチベーションについて、ATトラベラーがどのような理由で旅行したのかを調べましたので、このATの定義は消費者である旅行者ベースです。現在のATの定義は12年前にできたものですが、調査を行い必要に応じてアップデートしています。ただ、現時点ではこの定義を変えることは考えていません。」

ATディスティネーションとして、旅行者の心に響く経験を提供しうる日本の多様性

(ー次に日本についてお聞きします。ATディスティネーションとして日本の魅力はどこにあると思いますか。また日本での最も印象的な経験はどのようなものでしたか。

ストーウェルCEO「日本には興味深いことがたくさんあるので、これが一番だと責任を持ってお伝えすることは難しいです。私はどこがトップでどこがボトムか、という物差しで測ることはほとんどしません。力のある経験こそが一番意味のあることだと考えています。たとえば、今回、九州のシイタケ農家で体験したことは、ただただとても良い経験でした。農家の方の生活やこれまでの歴史を知るだけでなく、ゆっくりと話をしながら一緒にシイタケを料理したことで、お互いの理解を進めることができました。とても心温まる経験でしたので、私はこの経験が非常に特別だったと思うのです。ゆっくりと過ごし、皆さんとつながり、そして私たちの多くがまだほとんどが知らないことを学ぶことができた、とても特別な経験でした。」

シイタケを焼きながら参加者同士でコミュニケーション

「ディスティネーションで得られる最高の経験は簡単には手にいれることができません。日本以外の例では、たとえば砂漠にいるとても希少なサイを多くの人が見に行きたいと思って旅行します。私も2回訪れましたが、初回は見ることができませんでした。2回目にようやく見ることができ、これはとても特別な経験でした。時にこのような経験は信じられないほど素晴らしいものですが、得るまでに多くのことが必要です。旅行ではこのようなことがいつも起きてほしいと思います。シイタケ農家での経験のように、最高の経験はとても特別なものとなり得るのです。同時に、これらの経験はとても個人的なものでもあります。私が素晴らしいと感じた経験が、必ずしもすべての人に同じだけのインパクトを与えるとは限りません。たとえば人里離れた場所で、50km自転車で走ることが誰かにとっての素晴らしい経験になるかもしれません。」

(ーディスティネーションからすれば、すべての人の響くポイントは違いますのでなかなか難しい点ですね。

ストーウェルCEO「日本は驚くほど多様な文化や環境にあふれています。北に行けば、ヒグマやサケ、アイヌ文化が、南の沖縄に行けば琉球文化やダイビングがあります。多様性は日本の素晴らしい強みです。多様性だけでなく、日本の文化は大切に継承されていますので、旅行者がそのような文化を十分に体験することができるのです。」

(ーフィニフロック アジア担当部長も何度も来日されていますが、これまでの経験で印象的なものはありましたか。

フィニフロック アジア担当部長「今回の来日が7、8回目だと思います。これまでアフリカ、ヨーロッパ、北米、アジア諸国と多くの場所を経験していますが、日本では新しい経験をたくさんしてきました。特に北海道の阿寒湖、知床半島などでの冬の経験は際立ったものでした。流氷を見ることができたと同時に、流氷が海洋生物に栄養をもたらし、陸上生物とも連鎖しており、さらにはアジア大陸やロシアともつながる特有の生態系を作り上げていることを理解することもできました。」

(ーフィニフロック アジア担当部長は道東と同じように寒冷地であるアラスカご出身ですが、道東に魅力を感じられているのが興味深いです。)

フィニフロック アジア担当部長「本当にそう思います。道東はアラスカやカナダ、またアメリカ中央部との類似点があり、似ている動物もいます。でも日本文化とアイヌ文化によっておもしろさが加わっていると思います。海にはクリオネもいますよね。流氷を中心とした生態系を学びながら、アクティビティとしてドライスーツを着て、海の上に浮かぶ流氷の上を歩きまわったことはとても素晴らしい経験でした。アクティビティそのものに加え、他の人と一緒に体験することで、人と人のつながりができ、一緒に学ぶことでまた違った魅力的な経験が作られるのだと思います。沖縄の海洋生態系にも魅力を感じていて、北海道と沖縄を比べるととてもおもしろい旅行になります。」

知床での流氷ウォーク体験(北海道経産局提供)

「また、長野でのトレッキングは目を見張るような経験でした。滝行は、今までの旅行での最もスリリングな経験のひとつでした。とてもユニークで、見事で、美しささえ感じるものでした。一番印象的なのは、ここにはごく少数の人しか訪れていないこと。(小声で)正直、このままであると良いなと思っています。一番人気な場所にはなってほしくないです。私の秘密の場所にしたい。新しい場所を見つけることは価値のあることで、観光客が簡単に見つけられない場所に行くことができたとき、それは新しいとても特別な経験になります。つまり、他の人に素晴らしいものを伝えることと、素晴らしいものをそのまま維持していくことのバランスが必要です。実はアクセスが難しいことは喜ばしいことでもあるのです。日本は人口も多くインフラも整備されていますので、旅行することが比較的容易だと思います。これは同時に、人気になりすぎるリスクがあるとも言えます。」

長野で滝行を体験するフィニフロック アジア担当部長(中央)

「興味深い例としてブータンがあります。ブータンでは旅行許可を得るために高額な費用がかかります。限定された人数の人しか入ることができませんし、得た財源をどのように分配するか注意深く検討されています。国に多くの資金を入れることで、エクスクルーシブな旅行を提供しています。日本に提案する意図はありませんが、おもしろいモデルだと思います。社会は国の規模によって異なりますし、目標も違うことは明らかです。でも貴重で価値のあるものを維持していくという点については、心に止めておく必要があります。アクセスが容易になると、人々から貴重なものとして見られなくなってしまい、価値を失ってしまう可能性があるのです。そこには考慮しなくてはいけないなにかがあると思います。」

(ー多くの人が自然豊かな知床でヒグマを見たいと思い訪れますが、一方で、ヒグマに餌をあげてしまう人もいます。容易なアクセスが地域に大きな問題をもたらすことは難しくはないと思います。)

フィニフロック アジア担当部長「米国には有名なヨセミテ国立公園があります。クライミングできる岩場にたどり着くことは簡単ではありませんがアクセスが可能です。ただ、混雑でクライマーが危険に晒されることを避けるため、訪れるためにはかなり前に許可を得ておく必要があります。許可の取得は容易ではないですが、同時に、貴重な経験を得ることができるのです。第一に安全であること、そして楽しむことができ、環境負荷も減らせます。」

「一方で、短い行程で安いツアーのトレンドがヨセミテ国立公園に存在しています。サンフランシスコからヨセミテ国立公園に短時間立ち寄ってラスベガスに行くような行程です。ヨセミテ渓谷に立ち寄るため、何千もの人がインフラの整っていない小さな場所に密集し、洗い場や水が過剰に使用されてしまい、まるで駐車場の様です。手つかずの自然は大好きですよね。でも夏の週末などは酷い状態です。私だったら行かないことを提案します。国立公園自体ではなくツアーオペレーターがこの場所をターゲットにしてしまっているのです。でも10月の火曜日に訪れたら、きっとほとんど他の人を見かけることもなく、素晴らしい経験をすることができるでしょう。バランスを考えた制度を通じて、その場所の価値を揺るがないものにしなくてはいけません。魅力的な場所を不健全で魅力のない場所にしてはいけないのです。」

地域の資源を活かすアドベンチャーツーリズム③(Adventure Travel Trade Association (ATTA)へのインタビュー後半)」に続きます。

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