専門家に聞く、海外DMOの最新事例

2019年11月06日 (水)

Written by JNTO

「海外DMOの取り組み事例を知る機会がなかなか得られない」「先進的な取り組みを知りたいが誰に聞けばいいか分からない」。そうした悩みを抱える地方自治体やDMOの方は多いのではないでしょうか。今回はワールド・ビジネス・アソシエイツの丸山芳子氏に、米国や欧州におけるDMOの取り組み事例、地域の役割、最新トピックなどの話を伺いました。丸山氏は米国のDMO最大の業界団体DI(Destination International)が主催するDMO幹部対象資格用研修CDME (Certificated Destination Management Executive)を日本人で唯一受講した、海外DMOに関する専門家です。

目次

欧米のDMOで重要視される「アドボカシー」という概念

欧米では、DMOの存在意義は「生活の質を良くするための手段である観光を、地域住民を巻き込みながら発展させる活動」に変わりつつあります。そのような考え方の中で重要視されているのが「アドボカシー」です。アドボカシーとは、観光地域づくりの文脈では、地域住民や行政、事業者などのステークホルダー(利害関係者)への説明、合意形成、メディアへの働きかけなどを指す概念。辞書に載っている「擁護」や「支持」からさらに広い意味合いを含んでいます。

「米国カリフォルニア州ニューポートビーチのDMOでは、2020年に向けた活動方針について、地域のステークホルダーと一緒に作成し、事業計画(Business Plan)としてまとめました。DMOは計画策定にあたってワークショップを重ね、地域住民らの理解を得ながら約1年かけて完成させました。地域のステークホルダーに、現状の地域づくりについて理解を図りつつ、多くの人を巻き込んで作成したことで、実効性が高い内容になっています。実際に、完成した事業計画を見てみると、『顧客中心の事業計画』の章では、『観光客(レジャートラベラー)』『MICE関係者(ミーティングプランナー)』に並んで、『ローカルコミュニティ』が加えられています。すなわち、DMOにとって地域社会とは、顧客の位置づけなのです」と丸山氏は言います。

※ニューポートビーチDMO 事業計画 2019 & 2020 Destination Business Plan

「このように地域住民を巻き込み、合意形成をしながら計画を作り上げていくこと、これはまさにアドボカシー活動のひとつです」。アドボカシーは米国のDMOにおいては重要な位置づけがなされており、「CEOが行う業務の9割はアドボカシー活動であるべき」と言われるほどです。

丸山氏はDMOが “観光が地域の課題に対しどのような解決ができるか”という視点を持つこと、それを実現するために多くのステークホルダーを巻き込むアドボカシー活動が、日本でも広く行われるようになってほしいと期待を込めます。

海外のDMO事情について日本でトップレベルの情報を有し、欧米各地のDMOと幅広いネットワークを持つ丸山氏

ニーズが多様化する現代に求められるターゲットの明確化

観光の発展には、こうしたアドボカシー活動を行っているということを前提に、効率的なマーケティング活動が不可欠です。さまざまなデータを活用したインバウンド誘致策や問題解決策について、『「日本版DMO」形成・確立に係る手引き』にも、「データは観光地域の現状と課題を把握する上で不可欠なものであり、戦略の策定・実行、評価検証に至るまで活用しうる重要な指標」と記載されています。こうした対策を拡充するのに重要となるのが、データを分析して多様化するニーズを的確に捉え、観光商品のターゲットを明確にすることです。

「ターゲット設定に悩む地域は、年齢や性別、職業といったデモグラフィック属性(人口統計学的な特徴のこと)だけを参考にしていることが要因だと感じています。マスを対象としたテレビ広告が主流だった時代は『F1層(20〜34歳女性)を狙ったCM』などデモグラフィックデータを活用したプロモーション戦略が行えました。しかし、ニーズが多様化する今日、さらにインバウンド旅行者も含めてターゲット設定を考える時は、ライフスタイルや行動特性の想定が欠かせません」と、丸山氏はターゲット設定時の問題点を指摘します。

「たとえば、米国ケンタッキー州ルイビルのDMOでは、2008年に新しく『バーボン・カントリー』としてのブランドづくりをしました。その際ターゲットとしたのは、“自分を若いと感じていて、自由にお金を使うことができ、旅行と外食を愛し、新しくてユニークな体験を求めるベビーブーマー世代”というものでした。

ルイビルのDMOでは、設定したターゲットに対し、市内でバーボンのブランドを50種類以上揃えるレストランやバーを認定し、『ケンタッキー・バーボン・トレイル・パスポート』に掲載しました。ケンタッキー・バーボン・トレイルとは、旅行者が6店舗を回ると記念品がもらえるスタンプラリーです。当初このパスポートは、地元のお店でもバーボンを50種類揃えるのがなかなか難しかったため、8店舗からスタートしました。しかし、ターゲットが楽しめる観光地域づくりの結果、旅行者がお店を回遊する実績が認められたことから、掲載店舗は10年で約5倍に増加しました。一方、ルイビルのブランドをバーボンというアルコールに設定したことで、学校の生徒や教会など宗教関連のグループ旅行の誘致は積極的に行えなくなりました。ターゲットをはっきりさせることは、アピールしないターゲット像を決定することでもあります。

ルイビルでは、リサーチ担当の部長を設置し、記念品と引き換えに回収したパスポートに記載された顧客情報や訪問店舗を分析しています。その他に、年1回の来訪者調査、3~5年に1回の顧客アンケート調査と経済波及効果測定のほか、デジタルメディアの分析や、観光案内所に設置したキオスク端末など、さまざまな手法を組み合わせて、旅行者の満足度やマーケティングの効果測定を行っています」。調査・観光商品開発・プロモーションを一連の取り組みとして考えることで、訴求力の高い観光商品を生み出すことができるのです。

DMOが抱える財源と人材の課題解決のヒント

必要な人材の具体的条件を定義する

こうしたDMOの活動には、それぞれ適切な人材を素早く確保する必要があります。「どういった人材が足りないかを明確にすることで人材不足を解決できることがあります」と丸山氏。米国には、「職務記述書」で仕事の業務範囲を定義する企業文化があるため必要な人物像は明らか。日本と同じように人材不足の課題は抱えていますが、“より適切な人材をいかにして確保するか”に頭を悩ませているのです。ここには、問題解決のための「適切な人材」を見極めるという点にヒントがありそうです。

宿泊税以外での財源確保

人材確保に加えて、世界共通で問題視されているのが財源確保。「宿泊税は日本でも注目され始めていますが、宿泊税の導入には徴収や納付に関わる費用が発生します。ドイツのハイデルベルクでは、宿泊税導入による税収増とホテルのフロントや事務所での徴税にかかる追加費用の試算がそれほど変わらなかったことから、宿泊事業者が導入に反対しました。そこで、代替案として、ハイデルベルク城の訪問者の9割が市外からの旅行者だったという調査結果をもとに、入場料を値上げして財源にしたという事例があります。茨城県の偕楽園も今秋から入園料を徴収し、その収入を偕楽園の魅力を高める対策費に充てることにしたということです。日本でも宿泊税を検討する自治体が増えていますが、宿泊税にこだわらず、観光地の入場料など宿泊税以外での財源確保を検討しても良いのではないでしょうか」。

日本版DMOに求められる柔軟な評価制度

「DMOを機能させるために重要なのは、“組織のあり方”ではなく“地域でなにをするか”。米国のDMO最大の業界団体DI(Destination International)の観光地域マーケティングに関する認証制度DMAP(Destination Marketing Accreditation Program)では、予算や人的リソース、デスティネーションの規模や環境に応じて、双方向で要件を満たすように指導をしています。それは机上で確認する画一的な基準ではなく、地域の事情に合わせた柔軟な評価制度です。これらが実現できれば、規模は小さくてもしっかりとマネジメントされたDMOが全国に広がるのでは」と丸山氏は感じています。

2019年DI年次総会の様子

「責任ある観光」の時代へ

米国DMOでは観光地の保全を啓発

丸山氏が2019年7月に参加したDI年次総会で印象に残っているのが、分科会で紹介された旅行者や地域住民への観光地を保全するための啓発映像。世界の人気観光地でオーバーツーリズムや旅行者の理解不足による地域資源を毀損する行為が危ぶまれるなか、コロラド州やハワイ州のDMOが旅行者向けに制作したものだそう。

「近年米国では、旅行者に観光地を尊重してもらうためにこういった啓発映像が作られ始めています。旅行者への単なるお願いで終わらず、視聴者が最後まで見たくなり、行動変容につながるような手法が取られていることも、マーケティング活動としてクオリティが高いといえます。特に、コロラド州の動画は、地元でもキャンペーンを行ったことで地域住民の認知度も高く、地域全体を巻き込んだ意識改革ができた点で戦略的に取り組まれたものでした」と丸山氏は言います。

      ※コロラド州による観光保全の啓発映像 Care for Colorado – Are You Colo-Ready?

サステナブルな観光に向けてDMOができること

旅行者の増加は、環境破壊だけでなく、地域住民の生活を脅かす問題も深刻化しています。コペンハーゲンのDMOではこうした現実を世界の人たちに知ってもらおうと、「地域の人たちを大切にしよう」というマスタープランを作成し、さらにデンマーク語ではなく世界中から来る旅行者への理解を促すためにあえて英語で策定しました。

※コペンハーゲンDMOが作成したマスタープラン strategy towards 2020

「日本では旅行者の経済波及効果の必要性が認知されてきていますが、欧州ではさらにその先を行っています。具体的には、地域の持続性を尊重できる旅行者を誘致する必要性です。たとえば、ポーランドでは日本の旅行客がありがたがられます。それは旅行の目的が買い物ではなく、ワルシャワでの音楽や文化を理解したいというものだから。自分たちが守り続ける文化や自然を大事にしようと共感してくれる旅行者を受け入れることは、単純に消費額を高くするだけのマーケティング活動よりも、観光地域にとってより意義があるものと受け止められるようになっています」と丸山氏は言います。

地域文化や自然を深く理解し、安全に心地良く、観光を楽しんでもらい、同時に地域はサステイナブルに発展する。このような観光振興の新しい視点に対してDMOはなにができるのでしょうか。「世界的には、旅行者数を増やすだけでなく、自然環境への配慮や地域への貢献度を高く持つ『レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)』という考え方が主流になってきました。他国の事例にもアンテナを張って、地域で抱える課題に対して、観光はどんな貢献ができるか一緒に考えていきたいと思います」。

<丸山芳子氏プロフィール>

株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ チーフ・コンサルタント。中小企業診断士。UNWTO(国連世界観光機関)や海外のDMOの調査、国内での地域支援など、観光に関して豊富な実績を有する。

海外DMOに関する専門家。特に米国のDMOの活動等に関して、日本でトップレベルの情報を有し、米国、欧州各地のDMOと幅広いネットワークを持つ。官公庁等における観光関連の調査、DMO等での地域支援の実績が豊富な他、DMO業界団体であるDI(Destination International)主催のDMO幹部対象資格用研修CDME (Certificated Destination Management Executive)の日本人唯一の受講者。企業勤務時代は、衛星放送局、マーケティング会社において、調査・分析、プロモーションなどのマーケティング分野での豊富な業務経験を積む。

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