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世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模(JNTO独自調査結果概要)(後編)

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模(JNTO独自調査結果概要)(後編)

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模(JNTO独自調査結果概要)(後編)

JNTOでは、訪日旅行促進に向けて、世界の旅行市場に関するデータ収集・分析や調査事業等を行っています。この記事では、2021年にアジア、欧米豪・中東諸国において実施した各市場の旅行者の意向等に関する独自調査「22市場基礎調査」の結果のポイントをご紹介します。

(前編はこちらから)

旅行者は旅行先でどのようなことを体験しているのか?訪日旅行での特徴は?

訪日旅行の特徴を把握するため、①旅行タイプ と ②体験した観光コンテンツについて、訪日旅行と日本以外への海外旅行での傾向を比較する分析を行いました。

①旅行タイプ

海外旅行実施者が「訪日旅行をした際」、「日本以外への海外旅行をした際」、それぞれどのようなタイプの旅行(「周遊旅行」「都市滞在」「ビーチリゾート滞在」「ウィンターリゾート滞在」など)であったか調査しました。調査結果での「各タイプの割合」および「訪日旅行と日本以外への海外旅行での割合の差」から、各市場における海外旅行の傾向および訪日旅行の強みや伸びしろのあるタイプを分析しました。

訪日旅行のタイプの傾向をみると、東アジア・東南アジア地域の旅行者は「都市滞在」「周遊旅行」「テーマパークなどの訪問」が多く、欧米豪・インド・中東地域における訪日旅行では「都市滞在」「周遊旅行」の割合が高いことがわかりました。さらに「周遊旅行」について詳しくみると、東アジア・東南アジア地域では「各滞在地で一泊」する周遊旅行の割合の方が高い一方で、欧米豪・インド・中東地域ではこのタイプは少なく、「連泊」での周遊旅行の割合が高いことも、この調査結果からうかがえました。

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

訪日旅行と日本以外への海外旅行の旅行タイプ

 

訪日旅行と日本以外への海外旅行での割合の差に着目すると、「都市滞在」「周遊旅行」「ウィンターリゾート滞在」「テーマパークなどの訪問」「文化・スポーツイベント、祭り等」「ウェルネス、スパリゾート滞在」タイプではおおむね日本以外への海外旅行を上回っていることがわかります。一方、日本以外への海外旅行では「都市滞在」「周遊旅行」に次いで多い「ビーチリゾート滞在」は、訪日旅行ではかなり少なくなっています。

こうした市場ごとの旅行タイプの違いや日本以外への海外旅行との違いを踏まえたプロモーションが有効であると考えられます。

②観光コンテンツ

直近の訪日旅行と直近の日本以外への海外旅行、それぞれで「体験した観光コンテンツ」と、その中で「楽しい・興味深いと思ったもの」を調査しました。そして楽しい・興味深いものとして選択率の高かったものを「満足度が高い観光コンテンツ」と整理。そこから訪日旅行での各観光コンテンツの体験率および満足度と、日本以外への海外旅行での同観光コンテンツの体験率および満足度の差を踏まえて評価し、主なものを下図のように4象限に配置しました。

このように各観光コンテンツの「訪日旅行」と「日本以外への海外旅行」での体験率・満足度を比較することで、①の旅行タイプと同じように、訪日旅行の強みと弱みを確認することができます。また、東アジアや東南アジアなど各エリアの結果を比較することで、ニーズの違いを把握することもできます。

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

東アジア市場

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

東南アジア市場

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

欧米豪・インド・中東市場

 

まず各地域の右上の象限に着目すると、「伝統行事・祭体験」は、全ての地域において、訪日旅行での体験率・満足度ともに、日本以外への海外旅行での体験率・満足度より高いことがわかります。また、「温泉・湯治」と「アニメ聖地」は東アジアと東南アジア地域で、「高速列車・ローカル線」は東南アジアと欧米豪・インド・中東地域で、「テーマパーク」は東アジア地域で、「庭園・花」「武道体験」は欧米豪・インド・中東地域の市場で、訪日旅行での体験率・満足度ともに、日本以外への海外旅行での体験率・満足度より高いという傾向がみられました。これらの観光コンテンツは、日本が他国・他地域と比べて競争優位と捉えることができます。

また、左上の象限(日本以外への海外旅行と比べて訪日旅行での体験率は低いものの、体験した方の満足度が高い観光コンテンツ)をみると、東アジアと欧米豪・インド・中東地域の市場で「ローカルフード」があがっており、日本の各地域でのさまざまな食文化の体験が訪日旅行の満足度の向上に繋がる可能性が示唆されます。このような観光コンテンツについては、情報発信等のプロモーションを更に強化し、訪日旅行での体験率を上げることで、競争優位となり得ると考えられます。

なお、本調査では、結果にメリハリが出るよう「体験した観光コンテンツ」は60以上の選択肢から上限なく複数選択できるのに対し、「楽しい・興味深いもの」は体験したものの中から上位3つまでしか選択できないという設計としました。よって、日本以外への海外旅行に比べて満足度が低いという結果が出ている観光コンテンツについては、訪日旅行で体験した他の観光コンテンツとの相対的な比較の結果という部分もあると捉えています。

今回の調査では「楽しい・興味深い」観光コンテンツの上位3つに選択されなかった理由の把握を行う設計としていませんが、観光庁の訪日外国人消費動向調査や各地域・施設で実施されているアンケート調査結果等とあわせて、各地域における観光コンテンツの競争力強化の方向性を検討する際の材料の1つとして、この分析結果もご活用いただければと思います。

 

国内の地方エリア訪問の可能性は?

調査では、日本を11エリアに分け、将来の訪日旅行で訪問したいエリアを複数回答式で聴取しました。結果は下図のとおり、東アジアや東南アジア地域では7割超の海外旅行実施者が、大都市(東京、大阪・京都)以外の地方エリアを訪問したいと回答。

これらの地域は地理的にも日本に近く、日本の地方エリアへの直行便があること、また何度も訪日するリピーターが多いことが関係していると推測されます。ただ、それら地域においても海外旅行実施者の多くは地方エリアのみならず大都市への訪問も希望していることから、地方エリアと大都市の組み合わせでの訴求が重要といえるでしょう。

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

将来の地方エリア訪問希望率

 

一方、地理的にも遠く、旅行先としての日本の認知率も相対的に低い欧米豪・中東地域では、地方エリアへの訪問希望率は相対的に低くなっています。訪日未経験の方も多い市場のため、大都市やゴールデンルートの訪問を希望する旅行者が多いこと、また、そもそも日本の地方エリアにどういった観光コンテンツがあるか把握できていないこと等が背景に考えられます。

しかし、近距離旅行である東アジア・東南アジア地域の旅行者よりも平均滞在期間が長いという傾向もあり、また先にご紹介した旅行タイプでも、欧米豪・インド・中東地域においては周遊旅行のうち「各滞在地で一泊」より「連泊」の割合が比較的高いことから、大都市やゴールデンルートと地方エリアを組み合わせた広域の周遊ルートを検討・発信していくことは有効と考えられます。

また、「ウィンターリゾート滞在」や「ネイチャーアクティビティ」等は、全体に占める割合は低いものの日本以外への海外旅行に比べて訪日旅行の旅行タイプとして多いことから、地方エリアの魅力を訴求する際の一つの要素となり得るかもしれません。このように、今回の調査でうかがえる海外旅行の主目的、旅行タイプ、体験率・満足度の高い観光コンテンツなどの地域ごとの特徴等も踏まえて、皆様の事業に役立てていただけますと幸いです。

2022年4月公表の調査結果概要では「市場別の地方エリア訪問希望率」の結果のみを紹介していますが、賛助団体・会員専用のサイトには、さらに詳しく「各地方エリア別の訪問意向」等の分析資料も掲載しておりますので、賛助団体・会員の皆様はぜひご覧ください。

今後の予定について

22市場基礎調査で収集したコロナ禍前の各市場からの訪日旅行を含めた海外旅行についてのデータは、各国・地域との往来が再開した現在、インバウンドの受入体制を整備するうえで参考にしていただけるものと考えています。

また、定点観測をしていくことで分析できることもあると考えており、JNTOでは現在、コロナ禍を経た海外旅行傾向や訪日ファネルの変化等を把握するための調査を実施しています。次の調査は2023年度にかけて実施予定のため、分析結果をご紹介できるのは少し先となりますが、今後もインバウンド旅行誘致に取り組む地方自治体やDMOの皆様の今後の取り組みの検討に資するような情報を提供してまいります。

参考リンク

「22市場基礎調査」報道発表資料(2022 年 4 月 28 日)
https://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/r_20220502_1.pdf

 

(前編はこちらから)