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オーダーメイドの旅で、顧客満足度を最大化する(前編)

オーダーメイドの旅で、顧客満足度を最大化する(前編)

北海道宝島旅行社は2007年から、アクティビティ予約サイトの運営やオーダーメイドの旅行サービスを手がけてきました。そして、この間に培った、北海道各地にあるアクティビティや農業・漁業体験といったコンテンツ資源の発掘や体験ガイドとのネットワークが、アドベンチャーツーリズム(AT)の旅行サービスにつながっています。地域資源を発掘・活用し、体験型観光に生かしていくためには何が必要なのか? 同社の代表取締役社長・鈴木宏一郎さんにお話を伺いました。

お客様にとってベストな旅行プランの提案は「ヒアリングが命」

―はじめに、会社設立に至った背景、社名に込められた思いについてお話しください。

大学時代、バイクで北海道を旅行した時に、豊かな自然や地域の人たちのあたたかさに魅了されました。それで「いつか絶対に北海道に住もう」と思っていたんです。その後、39歳のときに前職を退職して、北海道に引っ越しました。創業したのは2007年。社名には「北海道は宝の島。その宝を活用して地域を活性化していくんだ」という思いが込められています。

当初は「北海道の特産品を通信販売して、地域にお金を落とせないか」等と考えていたのですが、この分野は既存サービスが多い、いわゆるレッドオーシャンです。そうではなく誰もやってないことをやらなければ、ということで、観光分野に活路を求めたのです。

北海道には、ラフティング、カヌー、乗馬、野菜収穫体験、陶芸などといった「体験型観光」を生業としている方がたくさんいます。北海道の山、森、川が大好きで、その価値を伝えながら地域の保全、自然保護につなげたいというガイドさんも多いです。ただ、既存のパッケージツアー、マスツーリズムの世界ではなかなか商売にならない。前職時代に北海道支社勤務となり、そういった方々と多く知り合っていましたので、「何か彼らのためになる事業ができないか?」というところから、まずは「体験型観光事業者の販促支援」ということで『北海道体験』というポータルサイトを立ち上げました。その後、2010年に政府の『ビジット・ジャパン・キャンペーン(訪日外国人旅行促進キャンペーン)』が始まり、北海道でもインバウンド観光振興が盛んになりました。これをきっかけに、「お客様のご要望を聞いて、インバウンドの方々にオーダーメイドの旅を提供する」という現在のスタイルができあがったのです。

 

オーダーメイドの旅で、顧客満足度を最大化する

同社が運営するウェブサイト (左)『北海道体験』 (右)『HokkaidoTreasure』

 

―インバウンド向けのオーダーメイドツアーは、どのようにプランニングしているのですか?

プランニングにあたっては、とにかく「ヒアリングが命」です。最初に、これまでどんな海外旅行を経験してきたか、何に感動したのか、今回の北海道ではどこを訪ねて何をしたいのか、旅を通じてどんなことを実現したいのか、などを徹底的にヒアリングします。その上で、「12月の北海道に7泊8日で訪れるなら、これがベストプランですよ」と提示します。そこから、提示したプランに対するお客様の要望を聞いて、さらに調整していく......。格好良く言えば、そのお客様のためだけの「世界にひとつだけの作品」を作っているようなものです。

 

オーダーメイドの旅で、顧客満足度を最大化する

同社が提案するオーダーメイド旅行プラン例(一部)

 

当社では営業スタッフを「トラベルコンサルタント」と呼んでいて、彼らがお客様とメールで50回以上やり取りを繰り返して、ひとつのオーダーメイドツアーをつくり上げていきます。コロナ禍では、Zoomなどのより便利なツールも活用してヒアリングを行いますが、お客様の要望を丹念に聞き取るというプロセス自体は変わりません。

もちろん手間はかかりますが、こうしたやり取りの中で、お客様とスタッフの信頼関係が生まれるというメリットもあります。空港に迎えに行くと、お客様が「うちの家族の今回の旅行を作ってくれたのは、あなただったのか!」と感激して、ハグしてくれることもあります。また、スタッフにおみやげを持ってきてくださることもしばしばです。こうした関係を通じてリピーターになっていただけるお客様もいます。オーダーメイドツアーのサービス提供でなければ味わえない喜びです。

本来、旅行業者の付加価値は、「ホテルを代わりに予約してあげる」ということではありません。それはOTAを使えば自分でできてしまう。お客様の要望を徹底的に聞いて、「あなただけのためのベストプラン」を用意することで、お客様が気づかない価値に気づかせてあげる、お客様の夢を実現する......これこそが、旅行業者が生み出すべき付加価値だと思います。

 

アドベンチャーツーリズムの目的地として、日本は「宝の山」である

―アドベンチャーツーリズム(AT)における北海道、そして日本のポテンシャルについて、どのように評価されていますか?

"アクティビティを通じて地域の自然・文化を体験することにより、旅行者自身が未体験の、多様な価値観に触れて、自身の内面に変化がもたらされるような旅のスタイル"というATの概念を初めて知ったとき、これこそが自分たちがずっと提供し続けてきたものだ、と感じました。

自然アクティビティに限らず、例えば、日本では冬の気候が厳しい地域では、昔から独特の方法で保存食をつくり、不足しがちなビタミンや栄養素を摂取してきた。ある地域では自家採種によって100年、200年と作物の種を受け継いでいる。このような「本物の日本の地域の暮らし」を体験することもATだとするなら、日本はまさに"宝の山"ではないでしょうか。北海道はもちろん、日本全国に本当に大きなポテンシャルがあると思います。

また、ATでは、お客様の要望によってフレキシブルに予定をコーディネートすることが求められます。募集型のツアーでは、アクティビティの好みも体力も異なるお客さんが集まりますから、例えば、「体調が悪いので休憩したい」という人がいる一方で、「これじゃ物足りない。もっと走りたい!」という人も出てくるでしょう。これではお客様に満足をご提供できるはずがありません。

そこで、今日は天気が良くないけれど明日が晴れそうであれば、「これから予定しているカヌーは明日に延期して、今日は違う時間の過ごし方をしましょう」といったプログラムの変更を、ツアーオペレーターやスルーガイド、地元のアクティビティガイドが連動して調整していくのがATです。つまりATとは、「個人を対象とした、受注型の、ガイドサービスによるオーダーメイドツアー」なのです。その意味では、従来のマスツーリズムのイメージから脱することが重要だと思います。

ATの世界では"Less is more"という言葉があります。メインになりそうなコンテンツは1日に1つ、多くても2つ。そうしないと、顧客が求める「トランスフォーム体験」にはなりません。景色を見るだけなら30分で通過してしまうようなスポットでも、説明を聞いて、体験して、感動して......というプロセスで過ごすことで、時間もお金もかかる。つまり地域への経済波及効果が高いわけです。こうした視点から地域資源を見直してみることで、日本のポテンシャルはさらに高まるのではないでしょうか。

 

(後編に続きます)