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今注目のOTAに聞く① ~Trip.com Group編~ コロナ禍を経た今、中国人旅行客にとって魅力的な訪日旅行とは

今注目のOTAに聞く① ~Trip.com Group編~ コロナ禍を経た今、中国人旅行客にとって魅力的な訪日旅行とは

今注目のOTAに聞く① ~Trip.com Group編~ コロナ禍を経た今、中国人旅行客にとって魅力的な訪日旅行とは

インターネット上で24時間、旅行者が自分の都合の良い時にいつでもアクセスして商品を検討・注文できるOnline Travel Agent(OTA)。コロナ禍を経て、今後もますます活用されることが予想されます。今回は、日本の魅力の発信方法、また旅行商品の作り方など、中国をターゲットとしたい方々に向けた最新情報を、中国に基盤を持つOTA「Trip.com Group」の唐澤人傑氏に伺いました。

中国では実店舗より強いOTA

―はじめに、中国各地でのOTAの普及状況を教えてください。

中国は他の国と比較して、オンラインに頼る傾向が非常に高いですね。実店舗よりもオンラインで旅行予約する人が多く、さらに私たちのユーザーに関して言うと、オンラインの中でもモバイルでの利用が80%を超えています。

また、中国は広く、そもそも都市によってデジタルデバイスの普及率が異なります。モバイルの普及はまだこれからというところも多いですが、上海、北京、深圳のような高所得者が多いエリアはモバイルの普及率が高く、OTAの利用率も高くなります。

―その中で、Trip.comグループはどのような事業展開をしているのでしょうか。

Trip.comグループは、1999年に上海で設立された世界最大級のOTAで、グローバルな旅行に関するありとあらゆる旅行商品をワンストップで提供するプロバイダーです。ツアー旅行、宿泊施設、航空券、アクティビティ、トラベルガイド等といった旅行に関するありとあらゆる商品とサービスを提供しています。中国国内では業界で20年以上培ったノウハウを活かし、中国人旅行者のニーズを汲み取ったサービスを提供しています。例えば中国ではビザ代行申請の需要が高いので、こうしたサービスを行ったりもしています。

また、私たちはOTAでありながら、中国国内に約5,000の実店舗も有しています。ただ、実店舗があるといっても、スタッフがデバイスを使ってお客さまに代わって予約システムにアクセスし、ご要望の商品の予約をするというスタイルなので、利用しているシステムは同じです。この点では、日本の旅行代理店の店舗とは少し業務が異なると思います。

 

コロナ禍を経た今、中国人旅行客にとって魅力的な訪日旅行とは

中国(簡体字)版旅行予約サイト『Ctrip』

 

 

ショッピングより「経験」を買う中国人旅行客

―中国市場において、日本への旅行にはどのような魅力があると捉えられているのでしょうか?

日本は、安全性や利便性から家族旅行の目的地として好まれる傾向が高いです。かつて中国人旅行客には爆買いのイメージが強くあったと思いますが、今、中国人旅行客が日本で最もしたいことはショッピングではありません。Ctripの海外個人旅行向けパッケージ、現地ツアー・観光スポットのチケットの予約データに基づくリサーチによると、1位は桜や紅葉の景観観賞、2位は温泉とウィンタースポーツ体験、3位が寿司などのグルメと着物の着付け体験という結果が出ています。

日本以外の海外旅行先でいうと、タイやシンガポール、インドネシアといった東南アジアも人気がありますが、ここに“四季”はありません。日本の魅力はやはり四季の美しさなのだと思います。韓国も日本同様に四季はありますが、日本は韓国よりも国土が南北に長く、さまざまな土地柄や地域特性を活かした楽しみ方やコンテンツがあります。そのあたりが日本の大きな強みなのだと感じます。

―具体的にどのようなスポット・体験の人気が高いのでしょうか?

コロナ禍以前は、東京・箱根・富士山・名古屋・京都・大阪という、いわゆるゴールデンルートを巡るツアーに人気が集まっていました。あとは北海道や福岡ですね。中国からの直行便が多く就航している空港やハブ空港がある都市とその周辺は行きやすいので、集中する傾向がありました。

FIT(個人旅行客)の場合は、やはり日本に来なければ見ることができない桜や紅葉が有名な場所への3〜4泊程度の短期旅行ですね。家族旅行のシーズンである夏休みの期間であれば、海水浴を目的としたものや、ミュージアムや歴史ある町めぐりなどの教育につながるような場所への需要も高かったです。

アフターコロナの訪日旅行に関しては、私たちが持つ、中国の国内旅行の動向から今後のアウトバウンド旅行者の傾向を分析するデータから、団体旅行より個人旅行にシフトするであろうということが読み取れます。そして個人旅行に関しては、名所を訪ねるこれまでの観光の枠を超えた、よりパーソナライズされたユニークな体験やアドベンチャートラベルのような、特別な経験を求める傾向が増加すると見ています。

特にコロナ禍を経て、「小グループ、少人数」「密集の回避」へのニーズが高まり、これに「カスタマイズ」を加えた3つがキーワードになってくると考えています。「密集の回避」という意味では、アウトドアでの体験といったニーズも高まるでしょう。

 

中国の実情にあった商品づくりを

―近年の中国人旅行者の顕著な変化は他にもありますか?

Ctrip利用者にアンケートを取ったところ、アフターコロナにおける持続可能な旅行への重要性を10人中8人が認識しており、そのうち67.7%が、持続可能な旅の選択肢にもっとお金を払うことに前向きであると答えています。中国は広く、いろいろな人がいますから、中国全土でこうした傾向が見られるというわけではありません。

またCtripは数あるOTAの中でも、価格よりも旅行のクオリティを求める人が多く利用するプラットフォームだという点は注視しなければいけませんが、サステナブル・ツーリズムやアドベンチャートラベルへの需要は今後さらに高まるのではないかと思います。

―中国からの旅行者を受け入れるにあたって、日本側はどんな点に注力すべきだと感じていますか?

旅行先として選ばれるためには、自分たちの魅力をしっかりと伝えるコンテンツをつくり、それを発信してターゲットに届けることが重要になります。先ほども言いましたが、中国は人口が多いので、中国人すべてに刺さるような発信をするのは難しい。そこで、自分たちの特徴に合う、もしくは来て欲しいと求める旅行者、例えばそれは富裕層なのか若者なのかなどのターゲティングを行って、そこにマッチする魅力的な発信がしっかりできれば、効果的な誘致ができるようになると思います。

OTAで販売するにあたっては、閲覧のしやすさをはじめとした、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)を向上させることが重要です。Ctripではユーザーのコア年齢層が16〜45歳と若く、モバイル利用者が80%以上を占めているので、モバイル専用アプリを開発して、24時間どこからでもスムーズにアクセスできるようにしています。中国人は日本人よりもせっかちなところがありますから、こうした国民性に配慮して、ただ閲覧・購入がしやすいようにするだけでなく、リードタイムを限りなく短縮させる、たとえば商品を購入した後2秒以内に「オーダーを受け付けました」とフィードバックしたり予約を確定させたりできるような対応を推奨し、またそれを実現させるための技術導入もしています。

現地においても、多言語への対応はもちろんのこと、モバイルにも対応しているといいですね。せっかくモバイルで商品の購入をしているのに、現地に来たらいきなり紙の入場券に引き換えなければいけなかったりするとストレスになります。モバイルに対応したインフラの整備が進めばより良いと感じます。

これまで日本は国内の需要だけで商売をすることができていましたが、少子高齢化が進み、今後は国外からの需要に頼らざるを得なくなってきています。海外と足並みを揃えたインフラの整備は欠かせないものとなるでしょう。

―中国でも情報を集める際にはSNSを活用する人が多いのでしょうか。

いわゆるSNSを使って情報を集める傾向は日本と同じだと思います。ただし、日本と同じツールを中国でも同様に使えるわけではありません。例えば中国からYouTubeにアクセスしても見ることはできませんし、サーバによってはアクセスしてもなかなか開かないものもたくさんあります。中国のネットユーザーのデータをチェックすると、接続に13秒以上かかると閲覧するのをやめるということがわかっています。こうした中国の特徴をふまえて、動画やコンテンツを配信することがまず重要ですね。

Ctripでは中国で閲覧できるWeibo、WeChat、Red、TikTok(抖音)といったSNSのプラットフォームに公式アカウントを開設しているので、中国にいる多くの人に情報発信することが可能です。また、2022年3月にはJNTOの上海事務所と連携して、日本の東北エリアをテーマにライブストリーミング配信も行いました。コロナ禍で旅行することができない中で、東北にどんな新しいコンテンツができているのか、感染対策はどのように行われているのか、臨場感ある体験をライブで配信することによって「コロナ禍が落ち着いた時には東北に行きたい」という意欲を喚起することができたと思います。

 

コロナ禍を経た今、中国人旅行客にとって魅力的な訪日旅行とは

Trip.com Group CMO Bo Sun(左)、JNTO上海事務所 山田泰史所長(右)

 

ほかにも中国版Twitterと言われる『Weibo』に、日本の都道府県のアカウントを開設してその代行運営などもしています。このように中国の特殊性を鑑みて、適切に対応できる事業者とタッグを組むことは大事かもしれないですね。

アフターコロナの訪日旅行は、団体旅行よりもよりパーソナライズされた個人旅行が増えていくのではないかと思います。個人的な印象にはなりますが、大都市圏から少しだけ離れた地方に対する需要が増すのではないでしょうか。日本にはさまざまな魅力にあふれた場所がたくさんあるので、魅力を喚起させて我々に伝えてもらえたらと思います。


Trip.com Group マーケティング部 市場開拓・マーケティング戦略 日本地区本部長 唐澤人傑
日本市場向けに、アジア・パシフィック地域をはじめとした訪日インバウンド客へのアプローチ、プロモーション等を手掛け、市場獲得に関するソリューション等のアドバイシングサービスを展開。Trip.com Groupで培ってきた知識を活かし、オンライン事業の運営と顧客誘致のノウハウを熟知。長年海外でコンサルティングと市場開拓の経験を持ち、旅を日常とするワールドトラベラー。
Ctrip Group トラベル・エクスペリエンス事業部 シートリップ・グルメ兼シートリップ・コンテンツ日本地区首席代表、Ctrip 日本 ホテル事業部 シニア マーケット マネージャーを経て2019年10月より現職。


 

OTA特集第2弾(台湾編)はこちら。