ハラールやヴィーガンなど。食の多様性をインバウンドの強みに(前編)

2021年10月27日 (水)

Written by JNTO

在住外国人の増加とともに訪日外国人の増加によって対応を迫られることが増えた「フードダイバーシティ(食の多様性)」。宗教上の理由から口にできる料理に制限がある人々の他、ヴィーガンやアレルギーなどを理由に、食べない、食べられないものがある人の数は相当数に上ります。フードダイバーシティへの対応を複雑で難しいと考える飲食店や観光関係者が多い中、「フードダイバーシティへの対応は決して難しくない。新しいお客様や優秀な人材を得るための重要なキーになる」と考えるフードダイバーシティ株式会社代表取締役の守護彰浩氏にお話を伺いました。

目次

後編は下記の記事でご覧いただけます。

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ハラールやヴィーガンなど。食の多様性をインバウンドの強みに(後編)

在住外国人の増加とともに訪日外国人の増加によって対応を迫られることが増えた「フードダイバーシティ(食の多様性)」。宗教上の理由から口にできる料理に制限がある人々の他、ヴィーガンやアレルギーなどを理由に、食べない、食べられないものがある人の数は相当数に上ります。フードダイバーシティへの対応を複雑で難しいと考える飲食店や観光関係者が多い中、「フードダイバーシティへの対応は決して難しくない。新しいお客様や優秀な人材を得るための重要なキーになる」と考えるフードダイバーシティ株式会社代表取締役の守護彰浩氏に、前編に引き続きお話を伺いました。

フードダイバーシティは、もはや対岸の出来事ではない

—まずは日本におけるフードダイバーシティの現状について教えてください。

「フードダイバーシティが注目されるようになった背景には、在住外国人の増加が挙げられると思います。私が以前に勤務していたインターネット関連サービスの企業では、外国人スタッフが増えて2010年には社内公用語が英語になりました。このように日本企業の多くが人材をグローバルに求めるようになり在住外国人が増えましたし、インバウンドによる訪日外国人旅行者も増加、さらには外国人だけでなく日本人の中でも多様性が進んで、それに伴い食のグローバル化やフードダイバーシティの概念も広く知られるようになりました。

『フードダイバーシティ株式会社』には多くの相談が寄せられますが、ムスリム(イスラム教信者)の留学生からは『日本の◯◯大学に留学するが、周辺にハラール(ムスリムが食べられる食材や料理)を提供する店はあるか』、ムスリムの就労者からは『上司からお酒を飲むことを強要される』といった相談を多くいただいています。企業のグローバル化は急速に進んでいますが、フードダイバーシティへの理解の進み方はゆっくりだというのが現状です。しかし、まったく進んでいないのではなく、少しずつですがその重要性を理解して対応しているところも増えています」

—地域がフードダイバーシティに対応するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?

「飲食店や宿泊施設、自治体にとっては顧客の間口が広がります。イスラム圏というと中東エリアを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、東南アジアは人口の約半分がムスリムです。また欧米人にはヴィーガンやベジタリアンが多くいます。MICE(Meeting会議、Incentive travel報奨・招待旅行、Convention&Conference大会・学会・国際会議、Exhibition展示会)などの団体を獲得しようと動く場合やインバウンドの需要を見込むなら、こうしたフードダイバーシティへの対応は不可欠ではないでしょうか。

一方で企業にとっては、世界中から優秀な人材を確保することができます。ムスリムの人口は約16億人、ベジタリアンやヴィーガンの人口は約6億人いるとも言われています。もし社員食堂がハラールやヴィーガンに対応していたら、職場環境は働く人にとって重要な要素ですから大きなアピールポイントになります。実際、大阪に本社のあるメーカーが社員食堂をハラールやヴィーガン、グルテンフリーなどフードダイバーシティに対応したところライバル会社よりグローバルに人材を確保できたという事例があります。フードダイバーシティは企業にとって大きな武器になりえるのです」

 

「相違点」ではなく「共通点」を見ることで、フードダイバーシティの捉え方が変わる

—飲食店がハラール対応をしようとしたけれど、禁忌が多くまた厳しくて挫折したという話を耳にしたことがあります。フードダイバーシティを言うは易し、行うは難しという印象がありますが、いかがでしょうか?

「6〜7年ほど前は厳格な対応を迫るようなセミナーが多く開かれていた印象があります。イスラム教徒は豚肉とアルコールを口にできません。当時は、ムスリムに対応するために飲食店はハラール認証を取得しなければならないと言う人が多かったと思います。認証を取得するためには、ムスリム向けのハラール食材(ムスリムが口にできるよう処理されていると認証機関によって認められた食材)を準備し、豚肉を使ったまな板や鍋などの調理器具を併用するのもいけませんから、ムスリムへ食事を提供するために厨房や調理器具を分け、冷蔵庫も別にして管理しなければならない。『あれをしてはいけない』『これをしろ』とさまざまなことを要求していました。間違ったことではないのですが、日本でこれらの対応をするのは非常に難しいので、『できないよ!』という声が挙がるのも当然だったと思います。日本の現状に見合っていない、適さない方法だったのではないでしょうか」

—フードダイバーシティ株式会社では、どのようなアドバイスをされているのでしょうか?

「私がよく話すのは、『違いよりも共通点を見る』ということです。一般の制限のない食事とハラールやヴィーガンといった食事を別々にとらえると大変ですが、それぞれに食べられるものを共通点として見ながら考えるととてもわかりやすくなります。

フードダイバーシティ株式会社資料より(このように見ると大変です)

フードダイバーシティ株式会社資料より(このように見ると大変です)

フードダイバーシティ株式会社資料より(違いよりも共通点を見る)

フードダイバーシティ株式会社資料より(違いよりも共通点を見る)

共通項となるのがベジタリアンの食事です。野菜と卵、乳製品を食べるベジタリアンの食事を準備したら、そこにハラール肉や魚介類を加えて、アルコール成分が含まれるみりんなどの調味料を抜いたらムスリムが口にできるハラール食ができます。またベジタリアンの食事から卵と乳製品、はちみつなどを抜けばヴィーガン用の食事ができます。アレルギーを引き起こす食べ物も卵や牛乳、魚介類が約7割を占めているので、ヴィーガン対応ができれば7割のアレルギーの方への対応もできることになります。このように共通点から整理すると、難しいと思っていたフードダイバーシティが意外にシンプルに思えるようになるのではないでしょうか。

フードダイバーシティ株式会社資料より(フードダイバーシティの考え方)

フードダイバーシティ株式会社資料より(フードダイバーシティの考え方)

食材以外にも気をつけなければならないこと、たとえばハラール専用の厨房のあるなし、専用の包丁やまな板を使用しているか否かといった対応については、どこまでできていて、どこの対応ができていないかを明確にします。ムスリムも他の宗教の信者でも、厳格に戒律を守る人から寛容な人までその幅はとても広いものですし、旅行先で自国同様の対応を求める人もそれほど多くありません。店のポリシーをはっきりと告げることがとても大切になります。たとえばハラールについてならメニュー表に『ハラール認証店ではありません。厨房はひとつですが、豚肉に関しては調理器具を分けています。食肉と調味料はハラール認証のものを使っています。食器は共通のものを使用しています』のように、どんな対応をしているかを明示します。そしてあとはお客様に店を利用するかどうかを判断してもらうのです。これは万一トラブルが起きた際にも店側の保険にもなります」

フードダイバーシティ株式会社資料より(ムスリム対応のポリシーを策定する)

フードダイバーシティ株式会社資料より(ムスリム対応のポリシーを策定する)

フードダイバーシティ株式会社代表取締役 守護 彰浩
1983年石川県生まれ。千葉大学卒業後、世界一周旅行を決行。2007年楽天株式会社に入社。2014年フードダイバーシティ株式会社を共同創業。日本国内のハラール情報を世界中のムスリムに届けるポータルサイト「HALAL MEDIA JAPAN」を立ち上げる。2016年から4年連続して、ハラールにおける国内最大級のトレードショー「HALAL EXPO JAPAN」を主催。その他ベジタリアン・ヴィーガン・コーシャ・グルテンフリーなど世界中の多様な食文化を持つ人々に情報を届けるための活動やさまざまな食の禁忌に対応するための講演会なども多数行う。2017年から現在まで流通経済大学の非常勤講師も務める。2020年11月に総理大臣へ直接観光政策を提言した。


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