上質な観光サービスを求める旅行者のニーズに対する日本の地域の可能性(後編)

2021年10月14日 (木)

Written by JNTO

JNTOの調査*では、欧米豪5市場の富裕旅行者は約340万人で旅行者全体のわずか1%程度ですが、旅行消費額は約4.7兆円で約13.1%を占めています。この340万人のうち、訪日富裕旅行者のシェアはまだ低いのが実情ですが、今後の戦略次第では日本における富裕旅行市場は成長の可能性に満ちていると言えます。上質な観光サービスを求め、これに相応の対価を支払う富裕旅行者の需要獲得に向けて、インバウンド事業に携わる自治体やDMOの担当者は、どんな点に留意して準備を進めると良いのでしょうか。前編に引き続き、富裕旅行市場に精通した株式会社クリル・プリヴェFounder & CEOの髙野雅臣氏にお話を伺いました。*2017年に欧米豪5市場(米国、英国、豪州、ドイツ、フランス)に対して実施。2016年のクレジットカードの取引データに基づき分析。

目次

前編は下記の記事でご覧いただけます。

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上質な観光サービスを求める旅行者のニーズに対する日本の地域の可能性(前編)

JNTOの調査*では、欧米豪5市場の富裕旅行者は約340万人で旅行者全体のわずか1%程度ですが、旅行消費額は約4.7兆円で約13.1%を占めています。この340万人のうち、訪日富裕旅行者のシェアはまだ低いのが実情ですが、今後の戦略次第では日本における富裕旅行市場は成長の可能性に満ちていると言えます。上質な観光サービスを求め、これに相応の対価を支払う富裕旅行者の需要獲得に向けて、インバウンド事業に携わる自治体やDMOの担当者は、どんな点に留意して準備を進めると良いのでしょうか。富裕旅行市場に精通した株式会社クリル・プリヴェFounder & CEOの髙野雅臣氏にお話を伺いました。*2017年に欧米豪5市場(米国、英国、豪州、ドイツ、フランス)に対して実施。2016年のクレジットカードの取引データに基づき分析。

富裕旅行者の誘客にあたってのポイントは高度な人材

―富裕層を誘客するにあたって、日本、そして地域が解決すべき課題は何でしょうか?

「富裕層の多様なニーズに応えるための高度な人材が不足していることが課題だと考えています。たとえば、世界の富裕旅行市場では『トラベルデザイナー』という旅行全般のコンサルタントの存在が定着しています。トラベルデザイナーとは、顧客一人ひとりの要望に応じて旅程をプランニングし、気配りの行き届いた至高の旅をアレンジするプロフェッショナルを指します。自分自身でもファーストクラス、ビジネスクラスのフライトを利用し、高級ホテルに滞在して、さまざまなカテゴリーのレストランで食事をするなど上質な旅の体験を蓄積し、その実体験を基に顧客のニーズに応じた旅行プランをテーラーメイドで提案します。

また、顧客の旅行が始まってからは旅の進行状況を随時確認し、現地スタッフと連絡を取り合い、お客様がストレスなく快適な旅行が継続できるようにサポートします。旅の『目利き役』であり、同時に『コンシェルジュ』でもある。それがトラベルデザイナーなのです。日本にも、まだ数は少ないもののトラベルデザイナーが活動しています。富裕層の顧客を抱え、日常的に対応しているトラベルデザイナーは、顧客のニーズ、誘客動線、現地での受け入れ、緊急時の対応などのノウハウを豊富に持っています。ぜひ、こうしたプロフェッショナルとの連携をおすすめしたいですね」

―連携だけでなく、地域においても富裕層への対応ができる人材がいると心強いですね。

「『富裕旅行者向けガイドの育成』は中長期的な課題です。高い語学力はもちろん、日本の文化・歴史・伝統について『自分の言葉』で語ることができる深い教養、現場の状況にふさわしい立ち居振る舞い、顧客の要望を最優先にどんなシチュエーションにも対応できる準備と想像力など、求められる素養、スキルは多岐にわたります。いわば『人間力』を養うわけですから、育成には長い時間が必要となります。地域の事情に精通し、富裕層対応が可能なローカルガイドは、『地域のファン』づくりのための大切なアンバサダー役となってくれます。時間とコストをかけて育成していく価値は十分にあると思います」

 

富裕層のニーズを深く掘り下げ、独創性のある「唯一無二のコンテンツ」開発を

―富裕層に、地域の観光コンテンツを知ってもらうには、どんな方法がありますか?

「まずは『自分たちの地域の“売り”はなにか?』を理解することです。時には、ターゲット、コンテンツも含めた見直しが必要だと考えます。私は2021年3月に、観光庁とともにトラベルデザイナーを派遣する事業を行いました。全国20ヵ所の地域DMOに、富裕旅行に実績を持つトラベルデザイナーを派遣し、トラベルデザイナー自身が担当者と連携の上、視察プログラム(滞在先、食事、体験コンテンツ、ルート選定)を企画します。そして、現地訪問後(2泊3日)に評価・改善点などの調査報告書を提出することで、『顧客視点を有したコンテンツ』の付加価値向上へつなげようという事業です。この派遣事業の結果、DMOが『売り』だと考えるコンテンツが必ずしもトラベルデザイナーの琴線に触れず、地域が気付いていないコンテンツにこそ魅力を感じるという事例が、多くの地域で見られました。

地域の本当の魅力は、地域の中からは見えにくい傾向があります。たとえば海外富裕層の目線で地域本来の魅力や、他地域との差別化ポイントを見出すことができるトラベルデザイナーなどと協力して、地域の魅力を効果的に発信するためのストーリー作り、戦略を見つけてみてはいかがでしょう。そのためには、地域における各分野の専門家と連携し、コンテンツを深く理解することから始める必要があると思います。

現在、多くの自治体やDMOが実施しているFAM Tripについても、戦略と方法を検討する余地があります。私自身も富裕旅行関連の商談会に参加することがありますが、誘客の決め手となる、決定権を持つキーパーソンを的確に取り込めていないと感じます。FAM Tripを開催するためには、実施までの多大な準備、多くの方々が長時間携わる調整作業、当然コストも発生します。努力の成果を実らせるためにも、富裕旅行者のニーズと地域の魅力を把握し、時には気づきを与えてくれる、誘客につなげてくれるトラベルデザイナーや上質ガイドをしっかり選別し招集する施策を、改めて見直してみてはいかがでしょうか」

―富裕層を地域へ受け入れる際のポイントはありますか?

「富裕旅行者が求めるAuthenticity(真正的)なコンテンツや対応を、さらに増やす必要があります。『茶道体験』『忍者体験』など、旧来型の日本文化体験に加えて、近年の若年富裕層の増加を踏まえ、若年層のニーズに合った現代アート、エンターテインメント、多様性を持ったグルメなどのコンテンツ創出が不可欠です。

特に日本をよく知り、リピートが多いアジアの富裕層にとっては、自国と日本の文化に共通点が多く見られることから、一般的な文化体験コンテンツでは新鮮味に欠けるという指摘があります。たとえば、単にガイドや通訳から一般旅行者向けの説明を聞くだけではなく、『その道30年以上の匠から直々に教えてもらいたい』『人間国宝の師範から直接指導してもらいたい』といった特別な対応を求めているのです。ニーズを深部まで掘り下げ、独創性のある『唯一無二のコンテンツ』を開発することが必要です」

―注目の集まるサステイナビリティについて、富裕旅行市場ではいかがでしょうか?

「環境に対する配慮も大切なポイントです。以前、アメリカ西海岸のエージェントに日本の旅の印象をヒアリングしたところ、『日本はプラスチックが多すぎる』という答えが返ってきました。確かに日本は、どこへ行ってもペットボトル飲料が目に入ってきますし、ホテルアメニティもプラスチック製のものが主流です。しかし、サステイナビリティに対する人々の意識が高まる中、特に富裕旅行者は、ハイブリッド車の採用やフードロスへの対応、プラスチック製品の排除などの環境負荷低減に率先して取り組むサプライヤーを優先して選ぶ傾向があります。対策を怠れば顧客離れを招きかねないという危機意識が必要です。

トラベルデザイナー、エージェントへの報酬についても再考が必要です。日本は、他国に比べて送客手数料が低いため、トラベルデザイナーやエージェントには『メリットが少ない旅行先』と評価されています。これまでのマスツーリズムの考え方から脱却し、付加価値の高い旅行サービスを提供することで、一人ひとりの顧客満足度を高めることで高価格化するなどの検討が必要だと思います」

 

富裕旅行は、地域資源を未来につなげるための力になる

―富裕層を呼び込むことで、地域にとってどんなメリットがあると考えられますか?

「日本は少子高齢社会に突入し、人口減少や経済規模の縮小が予測されています。特に地方では、地域に根付いた文化や伝統が衰退し、消滅の危機にさらされています。富裕旅行者を地域へ呼び込むことは、こうした傾向に歯止めをかけ、雇用促進や伝統文化の継承など、地域の活性化に寄与する可能性を秘めています。

メリットはインバウンド収入だけにとどまりません。伝統産業や地域特有の文化などの地域資源を再発掘することによって新たな産業が生まれ、若者の活力が発揮され、他地域から移住してくる人たちが増えることも期待できます。富裕旅行は、貴重な地域資源を未来につなげるための力になると考えています」

―最後に、インバウンドで富裕層を狙う地域の方々へメッセージをお願いします。

「宿泊、飲食、アクティビティ、交通など、観光に関連する事業者は裾野が広いため、現在は多くの方々が生き残りを賭けてコロナ対応に尽力されていることと思います。この時間を活用して、キーパーソンとの接点づくりなどに取り組むことで、アフターコロナにおける富裕層の需要獲得に向けた進化のきっかけにしていただきたいと思います。アドバイスなど支援の必要があれば、ぜひご相談ください」


株式会社クリル・プリヴェ Founder & CEO 髙野 雅臣
大手ホテルで要職歴任の後、代議士秘書に。その後Preferred Hotel Group日本代表、2011年に株式会社クリルマネジメント創業、その後、株式会社クリル・プリヴェを創設。観光庁上質インバウンド観光戦略検討委員会有識者委員、観光庁インバウンド富裕層滞在促進 タスクフォース委員、東京観光財団富裕層観光促進アドバイザーなどを歴任。


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上質な観光サービスを求める旅行者のニーズに対する日本の地域の可能性(前編)

JNTOの調査*では、欧米豪5市場の富裕旅行者は約340万人で旅行者全体のわずか1%程度ですが、旅行消費額は約4.7兆円で約13.1%を占めています。この340万人のうち、訪日富裕旅行者のシェアはまだ低いのが実情ですが、今後の戦略次第では日本における富裕旅行市場は成長の可能性に満ちていると言えます。上質な観光サービスを求め、これに相応の対価を支払う富裕旅行者の需要獲得に向けて、インバウンド事業に携わる自治体やDMOの担当者は、どんな点に留意して準備を進めると良いのでしょうか。富裕旅行市場に精通した株式会社クリル・プリヴェFounder & CEOの髙野雅臣氏にお話を伺いました。*2017年に欧米豪5市場(米国、英国、豪州、ドイツ、フランス)に対して実施。2016年のクレジットカードの取引データに基づき分析。

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