HOME JNTOの事業・サービス 地域インバウンド促進 インバウンドノウハウ

地域のサステイナブルな取組を観光の魅力に―日本版 持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)とは(後編)―

地域のサステイナブルな取組を観光の魅力に―日本版 持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)とは(後編)―

地域のサステイナブルな取組を観光の魅力に―日本版 持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)とは(後編)―

日本版 持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)をご存知ですか。持続可能な観光の推進に資するべく、各地方自治体やDMOの皆様が多面的な現状把握の結果に基づき、持続可能な観光地マネジメントを行うための観光指標として、観光庁が2020年に策定したものです。こちらの記事では、JSTS-Dの策定や普及に取り組む観光庁外客受入担当参事官室の大野一様へのインタビュー(後編)を掲載します。観光を通じたサステイナブルな地域づくりにご関心のある方はぜひご参考ください。 ※所属・役職は取材当時の情報です。

前編は下記の記事でご覧いただけます。

観光を通して地域に貢献したいと考える旅行者もいる

──持続可能な観光において特にどの分野が重要になってきているのでしょうか?

「まず、前提としては取り組む地域において情勢や思い描くまちの未来図は異なると思いますので、それぞれの地域において重要だとする分野は異なるものだと考えています。

トレンドとしては、様々なサステイナブル・ツーリズム関連の記事を見ていると、JSTS-DのセクションDの『環境』が注目されていると感じます。たとえば、いわゆるフライトシェイム(飛び恥)、飛行機に乗るとその分CO2を排出するので飛行機に乗って旅行するような人は恥だ、という考えがヨーロッパでは多くなってきています。

つまり、そういった観光客は旅行に行くことによって自分たちは害になりたくない、自分たちが行くことによって地域に貢献したいとまで思っているということです。このポイントを押さえれば、受け入れ側として環境に配慮した取組をしているというのはアピールになるため、地域貢献のための旅行商品やツアーを作ってみるとおもしろいと思います。

日本人は謙虚なので『こんなことでお金を取ってはいけない』という考えをもつ傾向にありますが、逆転の発想をもってほしいなとも思います。たとえば、阿寒湖には天然のマリモの天敵である外来種のウチダザリガニというのがいますが、海外では高級食材です。阿寒の住民にとってはただの害でしかなかったものですが、レストランの高級食材として提供することで商品になっています。

高知県では、珊瑚を守るために天敵のオニヒトデを地元のダイバーだけでは駆除しきれないので、観光客であるダイバー向けに駆除ツアーをモニター実施しました。地域がお金を払って駆除するのではなく、お金をいただいて観光客に地域貢献してもらう仕組みです。他に、阿蘇の草原をマウンテンバイクで走るアクティビティでは、観光客にアクティビティ中に5分間のごみ拾いを義務づけていますが、これまでに参加者からの反発はなく、賛同する意見が多いとのことです。これらのように、地域のためになることをしたいと思っている人が世界に一定程度います。そのような人を呼び込むためにも、逆転の発想をもった商品形成も考えてみたらよいかもしれません。

モノ消費からコト消費へ変化してきているといわれますが、今は旅行も体験型が求められる傾向にあります。だからこそ、その地で暮らす方々との交流であったり、伝統的な食事であったり、地域ではすごく当たり前のことが商品になります。東京から田舎に行って星空を見たい人にとっては、『この丘から満天の星空が見えます』というのもひとつの商品になるのです。同時に現地の人が歴史やストーリーも語ると、交流も生まれ、旅行者の満足度も高まっていくと思います」

──住んでいると当たり前だと感じている魅力を発見することにもJSTS-Dは役立ちますか?

「『A10 プロモーションと情報』の『③求めるターゲット層の誘致拡大に向けた新商品の開発に地域発意で取り組んでいること』においてその点に触れています。また、『C2 有形文化遺産』や『D1 自然遺産』は、自分たちが守りたい文化財や自然は何かという気付きになるのではないでしょうか。JSTS-Dは、地域で大切にしてきたものに気がつき、そこから商品を生み出していくことにつながっていくツールだと思っています」

──自然遺産についての最近の日本の成功事例をいくつか教えてください

「文化財との共存として、岐阜県白川村の事例をご紹介します。白川村では葺替えを何百年も行っているという伝統を踏まえ、茅の葺替えの体験ツアーを実施しています。観光客が手慣れた労働力になることは考えにくいですが、旅行者にお金を払ってもらい、茅を鎌で刈ってもらっています。

別の角度ですと、パウダースノーを観光資源とするニセコ町には、国内外から多くのスキー客が訪れていますが、スキー客の安全にも配慮して『ニセコルール』というニセコでのスキーを楽しむ上での独自のルールを策定し、スキー客にそれを遵守させることで、安全を確保しながら自然と共存しています。海水浴場の環境保全という点では、湘南の由比ヶ浜などが行っているビーチ環境認証であるブルーフラッグの取得といった取組があると思います」

日本版 持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D) は下記のリンクよりご覧いただけます。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001350849.pdf

日本版 持続可能な観光ガイドライン( JSTS-D)

日本版 持続可能な観光ガイドライン( JSTS-D)

 

日本は世界と比べてサステイナブル能力が高い

──観光庁のモデル地区に選ばれた5地域がすべてGreen DestinationsのTOP100に選ばれましたが、観光庁はモデル地区に対してどのようなサポートを提供したのでしょうか?

「エントリーのための支援金と、英語の翻訳補助です。エントリーシートを記入するために、観光庁が補助し、ネイティブの翻訳者に正しい訳をつけてもらっています。また、Green Destinationsも様々な項目があるので、レポートの書き方を有識者とともにアドバイスやレクチャーしています。レポートを書く時になって新しい取組を始めても間に合いませんから、今あることを書いていただいています。それにはやはりステークホルダーとの繋がりがすごく大切で、たとえば白川村だったら白川村役場だけのことを書くのではなくて、民間も含めた地域全体の取組を書いていただくようにしています。

仮に自治体の取組がゼロであっても、周りの民間事業者や観光協会がしっかりと取り組んでいれば地域としてのレベルが高いこともあり得ます。まずは自分の地域が何をしているか知ること、ステークホルダーとの関わりをしっかりもつということが重要です」

──白川村や京都は世界遺産や文化財など豊富なところですが、そうではないところがTOP100に選ばれるという可能性はあるのでしょうか?

「可能性はあると思います。TOP100を見てもらうとわかると思いますが、聞いたことのない都市名が多く出てきます。取り組むことに対して迷いがあるところや、うちは有名な観光地ではないのでできないと思っているところにこそ、JSTS-Dに取り組んでほしいと思っています。

また、今回のモデル地区は、北は北海道から南は沖縄まで、県があり、市があり、町・村があり、三浦半島のような連合の地域もあります。地域も形態も観光資源としてのウリもバラバラだったにも関わらず全地域が受賞できました。エントリーする際にGreen Destinationsから、沖縄県と三浦半島は範囲が広すぎるということと、複数の自治体があることで調整を図ることが難しく、TOP100に選ばれれば世界でも非常にレアなケースであることを言われました。ところが、蓋を開けてみたら全地区受賞できたのです。しかも、今までこれに向けて準備をしてきたということでもありません。ということはつまり、日本の自治体というのは、自分たちが思っている以上にサステイナブル能力が高いのではないかと思います。日本の中で比べると当たり前に映ることかもしれないですが、世界と比べると日本はどの自治体も恥ずかしくないほどの力をもともと持っているのだと考えます。したがって、やったらやっただけ評価されるという自信をもってもらいたいなと思います。

文化財であったり自然環境であったり社会経済であったり、もっているものは違っても、どの地域ももともとのポテンシャルがあります。様々な地域の取組を見てきましたが、サステイナブルな取組を特に表明していないところでも、日ごろ意識せずにやっていることが実はJSTS-Dの項目に紐付くということがあると思います」

 

政府と地域が一体となった持続可能な観光の推進を世界にアピール

──今後JSTS-Dをどのように展開されていくか展望をお聞かせください

「認知度がまだ低いので普及促進が必要です。そのために、先ほどのモデル事業の成果を観光庁として発表していき、取り組めばこのようないいことがあるということをしっかり伝えていきたいです。2021年度はモデル地区を増やし、さらにパワーアップして取組を進めて行きたいと思っています。

そして、取組をそれぞれ進めていただいて、諸外国に政府も地域も一緒に頑張っているということを知ってもらい、海外のWebサイトや旅行記事などで日本にはサステイナブルな観光地が多くあるといった評価をいただけたら成功かなと思います。しかし一番は、繰り返しになりますが、50年、100年先に自分たちの暮らす町が望む形であり続けることです。それに気付いてひとつでも多くの地域が永続的に取組をしていただければ嬉しいです」