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[2016年度調査] 訪日外国人旅行者の旅行動態とモデルルートづくりについて

[2016年度調査] 訪日外国人旅行者の旅行動態とモデルルートづくりについて

[2016年度調査] 訪日外国人旅行者の旅行動態とモデルルートづくりについて

今回は「東北」と「瀬戸内」を例に、訪日外国人のモバイル端末から得られる位置情報データを使って、魅力的だと感じてもらえる周遊ルートを作ってみましょう!

>東北エリア 広域周遊プランニングガイドはこちら<
>瀬戸内エリア 広域周遊プランニングガイドはこちら<

 

日本政府観光局では、訪⽇外国⼈の日本各地への誘客に向けて、オープンデータ等で市場別の基本的な旅行実態を踏まえた後、訪⽇外国⼈の地域間での旅行動態の把握や、国籍等の属性別に求められる観光資源の洗い出し、データ分析やフォーカスグループインタビューなどを行い、モデルルートの作成方法を開発しました。

「この日程でこんなことが体験できるんだ!」と、地域の魅力を感じてもらえて、且つ実現可能性の高いルートをつくるためにはどのような点に注目していくと良いのか、順を追って見ていきましょう!

訪日客の総数は、2017年において2,800万人を突破するなど順調な伸びを示していますが、現在でもその多くは「ゴールデンルート」と呼ばれる首都圏や関西圏等大都市圏に集中しています。訪日客を日本各地へ誘致し、その地域での消費を拡大させるためには、テーマ性・ストーリー性を有する魅力ある観光地域をネットワーク化し、訪日外国人旅行者の滞在日数に合わせた広域観光周遊ルートを形成することにより、訪日外国人旅行者の周遊の促進による地域の活性化を図り、その素晴らしさを海外に伝播させることが重要です。その一環として、観光庁においては、地方への誘客を目的としたゴールデンルートに代わる周遊ルートとして、訪日を強く動機づける「広域観光周遊ルート」11エリアを認定し、海外へ積極的に発信する「広域観光周遊ルート形成促進事業」を平成27年度から進めています。

今回は、個人旅行者(以下「FIT旅行者」とします)の旅行動態を、ビッグデータを活用して把握すると共に、地域ならではの魅力のうち、具体的な周遊を動機付ける興味・関心のトレンドに合致するのはどのようなものかを捉えることで、観光周遊ルートの潜在的なニーズについて調査していきます。また、今回の調査では「東北」「瀬戸内」を対象とし、各地での訪日客の訪問実態等をより把握するべく、地域の観光を活性化するDMOである「東北観光推進機構」および「せとうち観光推進機構」とも連携しながら、これまでの調査結果や知見をもとにルート作成の基本モデルを設計・開発しています。あなたの地域でも運用な可能なモデルとなっていますので、今後のルートづくりやプロモーション活動にご活用いただければ幸いです。

周遊ルート設計のためには、「旅行実態」、「ターゲットニーズ」、「観光資源」の3者を踏まえたルート設計が必要です。そこで、ルート作成のステップとしてそれらを把握し、調査等を行っていきます。

以下では、東北エリアに関するモデルルートづくりの流れを例として見ていきます。

①旅行実態を知る・・・ビッグデータやオープンデータ等の様々なデータから訪日外国人観光客の行動パターンを探り、彼らにとって、受け入れやすい滞在日数・滞在地パターンを把握します。

まず、観光庁の訪日外国人消費動向調査から、東北エリア内で「来訪者の多い国・地域」を見ると、最も来訪者数が多い台湾人は日本滞在中の平均宿泊数が5泊程度、都道府県の訪問数は2.3県となりました。また、最も日本滞在日数が長く、訪問数が高いのはオーストラリア人で、12泊程度で3.9県となりました。このように、宿泊数の差ほど、訪問県では差がつきません。1回の訪日旅行に際して、概ね2-4県の訪問という旅行実態が浮かび上がってきます。

次に、動態のビッグデータをもとに、東北エリアに滞在した人の詳細な動態を把握していきます。「日本旅行時の総滞在日数と東北エリア内滞在日数」の関係を調べると、台湾に多い全旅程6日の場合は平均滞在日数2.64日、オーストラリアに多い全旅程13日の場合は平均滞在日数3.67日という数字が出てきました。このように、訪問県数と同様、日本旅行時の総滞在日数の長さはさほど影響せず、東北エリア滞在日数は2~4日という実態が見えてきます。

また、東北エリア周遊を含む旅程の場合、その多くは関東エリアとのコンビネーションで形成されます。一般的な東北エリア滞在パターンでは、台湾については、1日目は東北と関東で半々、間の2~4日目は東北エリア、5~6日目が関東エリア、というパターンが見えてきました。またオーストラリアについては、旅程は全国各地とのコンビネーションで形成され、5~7日目に東北エリアが相対的に高くなり、8日目は東北と関東で半々というパターンが見えてきました。

次に、現状の周遊・滞在パターンを踏まえ、どうしたらエリア内の滞在を増やせるか考えます。「成田・羽田空港からの入国者」を対象に、入国初日の宿泊地の違いによって、その後の旅程の範囲がどのように変わる点に着目・分析してみました。その結果、「入国初日、東北に宿泊した人」は「割合は少ないものの存在する」こと、「その後の旅程が東北に集中する」こと、が把握できました。「入国初日、東北宿泊させること」が大きなヒントになりそうです。

続いて、成田・羽田空港からの入国者のうち「入国初日、東北に宿泊した人」が、「どの市区町村に宿泊したか」を分析しました。その結果、仙台・青森・盛岡を中心に宿泊していることから、新幹線駅のある主要都市が選ばれていることが把握できました。入国初日は日本までの空路移動の時間もあり、疲労状態が濃いことが想定されます。本来であれば入国地周辺に宿泊したいところを、さらなる移動を強いることになります。「非常に魅力的な宿泊地であること」と「交通手段が確保されていること」をきちんと伝え、心理的な負担を下げる工夫が必要になります。

以上のように、日本での総滞在日数に関わらず、東北エリアでの滞在パターンは「3~4日程度、滞在県数は2県程度」が旅行実態に即した現実的な日程と考えられます。

次に、宿泊県の組み合わせパターンと滞在地の組み合わせパターンから、よく旅行されている組み合わせパターンを確認します。動態データのうち、夜間に滞在していた記録を「宿泊」と定義し、まず宿泊地としての関係の強い県の組み合わせを把握します。また、昼間30分以上の同地点での記録を「滞在」と定義した場合の、24時間以内の市区町村間の移動状況から、東北の各県間の関係の強さを把握しました。これらを組み合わせると、「関連性の強い宿泊県パターン」ならびに「その宿泊県パターンと関係の強い滞在県(訪問地)」、加えて「宿泊県間の移動経路となる可能性の高い市町村」が判明します。一つを例としてあげると、青森県へ宿泊した場合、秋田県や宮城県にも宿泊するパターンが多く、滞在県(訪問地)としては岩手が選ばれる、といった形となります。移動時間を少なくするために、隣接県間で宿泊し、県間移動は新幹線もしくは在来特急を利用している個人旅行者の動きが見えてきました。

 

②ターゲットのインサイトを知る・・・特徴的な市場をターゲットとして設定し、オープンデータを活用した分析に加え、ヒアリング調査等から旅行者の生の声を把握することで、定量・定性の両面で情報を集め、属性や同行者のパターン、旅行の目的、時期などを把握します。

国・地域ごとに属性を確認していくため、まずターゲット国・地域を設定します。今回見た旅行実態から、来訪者数が圧倒的に多い台湾、またFIT旅行者の周遊プランの作成という目的から、1旅行あたりの宿泊数が多く、訪問県が多いオーストラリアの2カ国をターゲットとして設定します。

まず、台湾について見てみましょう。観光庁の訪日外国人消費動向調査から入国空港をみると、東京圏/関空/北海道圏/沖縄に分かれます。東北方面に向かう旅行者の大部分は東京圏からの入国だと想定され、仙台空港はまだ数字が小さいのが現状です。また、訪日回数は豊富で、女性の20~40代、男性30代がボリュームゾーンになります。同行者は家族や友人が多く、宿泊場所は、ホテルと旅館で9割を超えます。観光庁の宿泊旅行統計調査から東北エリアへの旅行時期を確認すると、訪日全体の傾向と比較して、4月と10~11月が増えていて、1-2月が全国並み、5-9月と12月が少なめになっており、桜と紅葉と雪が目的であることが想定されます。

次に、オーストラリア人について把握します。入国空港を見ると、東京圏と関空に分かれ、東北方面へ向かう旅行者の大部分は東京圏からの入国だと想定されますまた、男女の20代がボリュームゾーンとなり、同行者は夫婦・家族・友人が多いです。来日経験は初来日となる人が多いと想定され、また旅館やゲストルームなども活用している様子がうかがえます。東北エリアへの旅行時期を確認すると、スキー需要のため1-2月が突出しており、また、全国的な傾向と比べ、4月の宿泊が少なく、7月の宿泊が多い印象を受けます。

 

③周遊プランを作る・・・地域の観光資源情報を集約するとともに、現地ヒアリング等にて季節ごとに強い訴求力をもつ観光資源の精査を行い、旅行実態から見えてきた旅程パターンと、ターゲットインサイトから見えてきた旅行スタイルとを組み合わせてルートプランニングを行います。

ここでは、「台湾・20代・女子旅」を一例として取り上げます。

台湾の東北エリア訪問のメインシーズンのうち「紅葉時期」、受容度の高い旅程パターンのうち「岩手×秋田」を選択し、周遊ルートを作成していきます。選択した県のうち、評価が高く、紅葉時(もしくは年間を通して)に強い観光資源を選出します。評価の指標にはいくつか選択肢がありますが、今回は、口コミサイトでのランキングや、問い合わせの多いものなどに点数を付け、それらを足し上げる形としました。その結果、岩手県では中尊寺や厳美渓、秋田では田沢湖や角館武家屋敷等が上位に上がります。

次に、旅の目的となりそうな強い観光資源で、かつ交通の便がよさそうなエリアを選出します。すると、仙北市を宿泊拠点として田沢湖や角館、一関市や平泉町を拠点として中尊寺や厳美渓に訪問する組み合わせが出来上がります。これに加え、「台湾・20代・女性」が魅力を感じるものを前項のインサイトから考えると、「体験型コンテンツ」に魅力を感じる層であることがわかることから、漁業や着物、酒造等の体験をこれら地域にて組み合わせていくことが魅力を高めることに繋がると考えられます。このように旅程パターンに目玉となる観光資源を紐づけ、周遊プランの骨格を作ります

以上の各項目を整理し、「プランの特徴・差別性」、「ターゲットにとっての価値」、「観光地にとっての価値」さらには「想定されるリスク」等をブリーフィングシートのかたちにまとめていきます。これらを全て整理した上で、組み合わせた地域や観光資源を周遊する具体的なプランを、実際の時刻表等を参照しながら、実現可能性を伴った魅力的なモデルルートとして作成します

このように、FIT旅行者に対して、バックデータを複数組み合わせて活用しながら周遊ルートを提案することで、旅行者が気づいていない日本各地の魅力や、それら地域への訪問の可能性についても気づきを与え、地域への誘客に繋げることができます。

 

詳しくは、「東北エリア 広域周遊プランニングガイド」及び「瀬戸内エリア 広域周遊プランニングガイド」をご覧ください。