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[2017年度調査] 地方を旅行する欧米豪からの訪日客はどんな人? ~JNTO自主調査レポート②~

[2017年度調査] 地方を旅行する欧米豪からの訪日客はどんな人? ~JNTO自主調査レポート②~

[2017年度調査] 地方を旅行する欧米豪からの訪日客はどんな人? ~JNTO自主調査レポート②~

JNTOでは「欧米豪訪日客の価値観」に焦点を当て、定量調査とオンラインコミュニティによる定性調査を実施しました。第2回目となる今回のレポートでは、前回の調査結果から見えてきた「地方誘客に向けた欧米豪からの旅行者タイプ」の全体像についてご紹介します。

>JNTO自主調査レポート①(2018.04.16)はこちら<

ポイント

・日本各地でインバウンド誘客受入に取り組む地域関係者に向けて、欧米豪からの訪日客を対象とした調査結果を基にした「顧客像(旅行者タイプ)」を複数提示する。

・デモグラフィック(人口統計学的)な定量的なデータだけでなく、サイコグラフィック(心理的属性)な観点も踏まえた「旅行者タイプ」を参照することで、ターゲットとすべき顧客への理解が深まり、欧米豪旅行者の「地方への誘客」と「消費の拡大」に向けた域関係者の意識共有、提供内容の改善が期待できる。

・「地方誘客のための欧米豪旅行者タイプ」については、「価値観」をベースとした「志向軸」と、地域づくりの観点をベースとした「地域へのエンゲージメント(愛着心・思い入れ)軸」という2つの観点から、地域のターゲットとなり得る各層の全体像を整理した。


来訪者に満足してもらうためには、相手のニーズを知り、相手の期待以上のものを提供する必要があります。「欧米豪からの訪日客」というターゲットに向けて、自地域の強みを最大限発揮するとしても、その方向性が彼らの求めている方向性と一致していなければ、空回りしてしまいかねません。その時に必要なのが、「欧米豪」といった漠然としたイメージではなく、「価値観」や「ニーズ」、「目的」に紐づいた、いくつかの「具体的な旅行者のバリエーション」となります。今回のJNTO自主調査レポートでは、「欧米豪訪日客の価値観」に焦点を当てた調査結果から、「地方誘客に向けた欧米豪の旅行者タイプ」についてご紹介します。

1.「欧米豪」からの「旅行者タイプ」を描き出す意義

●キーワードは「価値観の言語化」

各旅行者タイプを紹介する前に、そもそも何故、こうしたタイプ分けをするのかについて、最初に触れておきましょう。

全国各地でインバウンド誘致に取り組む皆さんの中には、有望市場として、「欧米豪」といったターゲットの話を日々耳にしながらも、「うちの地域は、欧米豪市場の開拓は難しい」と考えている地域もあるかと思います。

その「難しさ」を紐解いてみると、「欧米豪からの訪日客に関する情報不足」、「関係者の合意形成不足」、「環境整備の不足」、「ターゲットへのアプローチ方法・接点の不足」に起因することが多いのではないでしょうか。

訪日客の誘客、満足度の向上に向けて、受入地域が取り組むべきことを定めるためには、まず、ターゲット像を具体化する必要があります。漠然と「欧米豪」と捉えていたのでは、具体的なアクションは起こせません。

JNTOでは、重点20市場のマーケティングデータ各種統計データの情報提供を行っている他、皆様の関心に沿って各種統計データの結果を表示できるサイトも公開しています。こうした定量的なデータ分析による各市場の傾向把握に加えて、「旅行者タイプ」を描き出すことで、「市場開拓が難しい」と感じる原因を軽減できる可能性があります。

「旅行者タイプ」が描き出すのは、「性・年代」や「国籍」といったデモグラフィック(人口統計学的)の観点だけではなく、「ライフスタイル」や「旅行動機」、「具体的な情報収集方法」、「人生において大切にしていること」等のサイコグラフィック(心理的属性)の観点です。こうしたサイコグラフィック(心理的属性)の観点を踏まえた「旅行者タイプ」を活用する利点については、大きく2点が挙げられます。

1つ目の利点は、ターゲットとすべき顧客への理解が深まる点です。数値データからは、個別の具体的事例だけを見ていたのでは見えにくい、訪日客全体の傾向を掴むことができます。一方で、ターゲットの具体的な「人となり」までは見えてきません。今回の自主調査では、調査対象者が「普段からどういうことが好き」で、「どのようなきっかけで日本と出会い」、「これまでどのように日本を旅してきたのか」、「これからの生活や目標をどのように描いているのか」等々、彼らの「価値観」を明らかにすることを重視してきました。オンラインコミュニティを活用することで、調査期間中、通常のグループインタビューよりも遥かに多くの人々を対象に、様々な観点からの問い掛けを行い、コメントのやり取りを踏まえて、彼らの「人となり」を知り得ることができました。こうして旅行者タイプを描き出していった訳です。いわば「顔の見えるターゲット」を描き出すことで、彼らの気持ちに寄り添いながら、自分達の地域は彼らにどのような経験を提供できるのかを検討するヒントになるのです。旅行者本人の具体的なコメントを用いて「旅行者タイプ」を描き出すことで、彼らの行動目的や嗜好を想像で決め付けるのではなく、より実態に即したターゲットをイメージすることができ、より効果的な施策の検討が可能となると考えます。定量データと定性データのそれぞれの利点を相互補完的に活用していただけると幸いです。

2つ目の利点は、地域の関係者間でターゲットのイメージを共有することができる点です。インバウンドへの取組は、言わば「地域の総力戦」です。誘客のためのマーケティング調査や国内外でのプロモーションといった対外的な取り組みが必須であると同時に、対内的には受入態勢の構築や地域での滞在プログラムの造成、景観の保全・整備等の地域づくりの観点も欠かせません。さらには、住人と来訪者との良好な関係も望まれるでしょう。その時に、地域内の関係者がバラバラの方向を向いていたのでは、効果的な取り組みは望めません。今回のような旅行者タイプを描き出すことで、効果的なインバウンド誘客と、より良い受入環境の整備に向けて、ターゲットとすべき旅行者像を共有できるのです。そうすることで、ターゲットに向けた、地域全体としてのメッセージ、滞在プログラムやモデルルートの造成、土産物の開発等を行う際のコンセプトのブレを防ぎやすくなります。

●「価値観の言語化」を通じて消費のポイントを探る!

また、「どのようなタイプの人が、ゴールデンルート以外の日本の地域をどのように旅行しているのか」という「地方誘客」の観点と共に、「どうしたら、彼らに高い満足感と共に消費してもらえるか」という「消費拡大」の観点も重要な探求ポイントです。この時、重要になってくるのが「価値観の言語化」です。

例えば、ある自然豊かな地域の温泉地を訪れる旅行者でも、「癒し・居心地の良さ」を求める旅行者であれば、「滞在する旅館の空間の充実」、「プライベート温泉」、「配慮の行き届いたサービス」等を求めるでしょうし、「刺激・チャレンジ」を求める旅行者なら「アクティビティの充実」、「未知なる異文化体験」を求めるでしょう。たとえ同じ金額だとしても、自分の価値観に合うもの、満足できるものであれば、人は納得してお金を支払いますし、そうでなければ「高い」と感じるでしょう。訪日客の「価値観」を言葉にすることで、受入側の私達の意識を共有化し、訪日客の消費のポイントを押さえた提案につながり得る訳です。

2.地方誘客に向けた欧米豪からの訪日客の旅行者タイプ

●地方を訪れる8つの旅行者タイプ

それでは、「地方誘客に向けた欧米豪の旅行者タイプ」について見ていきましょう。今回の自主調査では、自主調査レポート①でご紹介したオンラインコミュニティを活用した定性調査(※1)から、欧米豪を中心とした200人以上の訪日旅行の履歴、2,800以上のコメントを収集した他、イギリス、ドイツ、フランス、米国、カナダ、オーストラリアの6市場への定量調査を基に、8つの「旅行者タイプ」を描き出しました(表1)。

※1: 今回の定性調査の対象者には、欧米豪訪日客の中でも熱心な日本ファンが多く、今回の8つのタイプが必ずしも欧米豪訪日客全体を代表している訳ではありません。東京・京都・大阪以外の地方訪問経験率は約9割と、他の調査と比較して高い人々が多く含まれています。しかし、「一歩先を行く訪日客の動向」という意味で示唆に富むコメントが多く、今後の地方誘客において有意義なものであると考えられます。

図1 地方誘客のための欧米豪旅行者タイプ(志向軸別整理)

私達は横軸に「居心地の良さ重視」と「チャレンジ重視」を、縦軸に体験したいことの深度として「本物志向・ありのままを重視」と「ちょこっと体験でOK」という観点を置いてみました。横軸の「居心地の良さ重視」というのは、場所や人々、サービス等に対して馴染みがあり、「予想の範囲内」を好むという意味です。馴染みの対象は、「日本」に関連した場所や人々、サービス等の場合(留学先の地域、ホストファミリー等)もあるでしょうし、「自国」に関連した居心地の良さの場合(自国料理のレストラン、欧米式の宿泊施設等)もあるでしょう。

一方、「チャレンジ重視」というのは、日本という「異文化」や「自然・アクティビティ」、「新しいこと」等に果敢に挑戦していくことを重視する人々で、「自分の文化と大きく異なっていること」や「予想の範疇を越えること」に面白みを見出す人々です。

縦軸には、体験したいことの深度を置きました。なるべく深く、日本の本物を極めていきたい、あるいは観光客向けにアレンジされたものではなく、日本人の普段の生活を知りたいというのが「本物志向・ありのままを重視」するタイプです。一方、苦労や時間を掛けてまでの経験は望んでおらず、楽しく入門的な日本体験ができれば良いというタイプを「ちょこっと体験でOK」としました。

8つの旅行者タイプと、やや細かく分けていますが、大きく分類すると、図1の4つの各象限とその中央部という、5タイプに集約されます。「日本探求型(タイプ3-B)」は、「主要観光地周遊型(タイプ3-A)」の派生形で、基本的に「日本のいろいろな地域を周遊したい」というニーズがある中で、この層は有名観光地だけでなく、無名とされる地域も含めて自分で訪ねたいという志向性を持っています。また、「テーマ追求型(タイプ5-B)」と「地域定住型(タイプ5-C)」は、「日本通(タイプ5-A)」の派生形で、より「本物志向」、「地域のありのままに対する志向」が強く、彼らは目的達成までの道のりが長くても、より個別のテーマや地域に深く入っている層です。

受入地域の皆様は、自分達の地域の特徴と併せて図1を見てみて下さい。例えば、有名観光地ではないけれど、世界に誇る地場産業があったり、日本文化の源流となるような場所であったり、日本の里山文化の原風景と言えるような地域であれば、図1の上半分の立ち位置に自地域を置いてみるのも良いでしょうし、逆に、本格的でなくても、少しずついろいろな体験を用意できるのであれば、図1の下半分となるでしょう。癒しやリラックスを提供するのか(図1の左半分)、チャレンジ精神を掻き立てるのか(図1の右半分)等々、自地域の資源や目指すべき方向性と重ねてみることで、現状の施策の検証や様々なアイデア出しにもつながると思います。

●地方を訪れる「ビジター」「ファン」「サポーター」

理解を深めていただくために、図1の旅行者タイプを「地域づくり」や「プロモーション」の目線から捉え直してみましょう。ここでは、日本の地方旅行をする欧米豪からの訪日客を大きく、「ビジター」「ファン」「サポーター」という3つに分類したいと思います(表1)。

表1 地方誘客のための欧米豪旅行者タイプ(地域へのエンゲージメント[ 愛着心・思い入れ ] 別整理)

「ビジター」とは、訪日旅行の経験が浅く、従って地域との個人的なつながりも薄い一般的な旅行者を指します(表1の水色に掛かる層))。

「ファン」とは、「ビジター」よりも、もう一歩、「日本」あるいは「特定の地域」と心理的なつながりを既に深めている旅行者の層(表1のピンク色に掛かる層)を指します。

「サポーター」とは、「ファン」よりもさらに各地域に入り込んでいる層で、ライフワークあるいは事業として地域と具体的に関わっている層(表1の赤色に掛かる層)を指します。

後者ほど、地域との心理的な結び付きが強くなっていきます。「ファン」や「サポーター」は情報発信側にもなり得ますので、こうした層の獲得は重要になります(この点は、次回のレポートで見ていきたいと思います)。

当然、これらのタイプ別に、アプローチの仕方も異なります。読者の皆様は、よく「地域のファンを増やせ」という話を聞くかと思いますが、今回の調査結果を踏まえ、私達は、この「ファン」にもいくつかのタイプがあり、ファンよりもさらに熱心な「サポーター」と呼べるタイプの存在がいる点にも注目したいと考えています。「ビジター」、「ファン」、「サポーター」が、それぞれどのような点に価値を置いて訪日旅行をしているのか。また、受入地域としては、どのようにエンゲージメント(愛着心・思い入れ)を高めていけるだろうか。そうした観点で、地方を訪れる欧米豪からの訪日客を紐解いていきたいと思います。

今回の区分けは、基本的に旅行者当人の「価値観」を中心に考えています。この価値観は、そうそう変わらないものと私達は捉えていますが、実際には、同行者の価値観を優先したり、何らかの刺激や、年代を経ることによって、態度変容が起こる可能性ももちろんあるでしょう。またもちろん、この8つの旅行者タイプが欧米豪から日本の地方を訪れる全ての旅行者を表し切れている訳ではありません。当然、細かく見ていけば、一人ひとりが異なる存在の旅行者ですし、いくつかのタイプに跨っている旅行者もいるでしょう。その前提の上で、今回の調査結果から、おおよそ「似たようなグループ」、あるいは「異なるグループ」として、8つの「旅行者タイプ」に大別しました。その意図としては、漠然とした限定的な顧客イメージを持って対処するのではなく、調査結果を基にした複数の旅行者タイプを知っておくことで、より訴求性のある積極的なアプローチ策や、より良い受入態勢、商品造成に関するアイデアに多様性が出てくると考えるからです。

次回のレポートでは、これら「地方誘客に向けた欧米豪からの8つの旅行者タイプ」の特徴を見ながら、各タイプ別のプロモーション策や消費拡大策、地域での活用方法について述べていきたいと思います。


次回のレポートは6月18日の掲載を予定しています。