「平成28年度商店街インバウンド実態調査モデル事例」(発行:平成29年3月 経済産業省 中小企業庁)から、東京都青梅市にある御岳山商店組合の取り組み事例をご紹介します。

<タイプ>
山頂にある神社の門前商店街
<立地環境>
JR青梅線御岳駅からバス、ケーブルカーを乗り継ぎ、御岳山駅から徒歩約20分の距離にある商店街
<店舗数>
34店舗

対象地域
東京都
面積
2,193.96平方キロメートル (平成29年10月1日現在)
総人口
13,784,212人(平成30年4月1日現在)
主要観光資源
皇居、雷門、新宿、原宿、渋谷、上野、高尾山、国立新美術館、根津美術館
公式サイト
https://www.gotokyo.org/en/index.html
http://www.omekanko.gr.jp/

目次

プロフィール

御岳山商店組合は、御岳山駅から800mほど尾根道を進んだ、標高929mの御岳山の山頂に鎮座する武蔵御嶽神社門前に立地している。武蔵御嶽神社は、奈良時代に行基が東国鎮護を祈願したことに端を発し、関東屈指の歴史を持つ神社だ。組合員は古くから飲食、土産物店、宿坊を営み、主に青梅市内や関東一帯から、年間40万人以上訪れる参拝客や登山客をもてなしている。

インバウンド事業取組の背景

歴史ある神社によって一定の集客はあるものの、後継者不足は慢性的で、年々売上が減少する店舗が増えていく状況にあった。その状況に歯止めをかけるべく、これまで年始の初詣に始まり、親子昆虫観察会、子ども体験教室、薪神楽など様々なイベントを実施してきたが、思うような成果は上がらなかった。これまでの取組の中での反省を活かし、2011年に武蔵御嶽神社が祭る「おいぬ様(オオカミ)」と関連付けて、愛犬連れの登山客や参拝客を取り込んだ「おいぬ様」事業を実施し、国内の新規客層の開拓に成功した。また、この事業を契機に、青梅市や青梅市観光協会など、後に強固な連携先となる機関との関係が深まるきっかけにもなった。

近年、外国人観光客の増加傾向は御岳山エリアにも見られるが、その人数は御岳山エリアの総観光客数の約5%にあたる年間2、3万人程度であり、2020年の東京オリンピック開催を見据えるなかで、外国人観光客誘致のためのさらなる補強が必要と判断し、受入環境の整備や集客事業の実施を決意した。

取組のポイント

御岳山商店組合が実施したインバウンド対応の中で、もっとも注力し、後に核となった取組が「天空芸者ナイト」と名付けた芸者の「芸」を体験できるイベントの開催だ。2014年に八王子芸妓組合の協力を得て芸者を招聘し、第1回を開催※。以降、毎年8月から12月までの間、月1回のペースで定期的に開催している。外国人観光客が日本文化に積極的に触れてもらえるよう、第1部では野外特設ステージで芸者の踊りを鑑賞した後、第2部では宿坊でお座敷遊びと地酒を楽しめる構成とし、外国人観光客にも大変好評なイベントとなっている。さらに、集客を向上させるため、横田や横須賀をはじめとする在日米軍基地、羽田空港、都庁の東京観光情報センターなどに日英併記のポスターとチラシを設置し、専用サイトやFacebookの開設などの広報活動も積極的に行った。

※2014年度は計4回の開催(5回開催予定中、雨天中止が1回)。第1部の参加者数365人(うち外国人83人)、第2部の参加者数145人(うち外国人77人)を集客した。

取組の全容及び事業実施体制

商店街の一部の宿坊では広報活動の一環として、海外の旅行サイト「Booking.com」と契約し、固定客を獲得してきた一方で、商店街全体ではインバウンド事業に取り組むには至ってはいなかった。このままの状況では、商店街の将来性が見出せないという思いから、インバウンド事業への気運が高まった。ここから「天空芸者ナイト」のアイデアが生まれ、それと同時に外国人観光客受入環境の整備にも取りかかることとなった。

まず、外国人観光客からの要望も踏まえ2014年から3年がかりで、それまで3店舗だけだったFree Wi-Fiの導入を12店舗まで増やし、英語のWi-Fi案内表示も作成した。また、並行して、クレジットカード決済端末の導入も進めた。

現在は、両事業とも導入がさらに進んでいるが、当初は端末操作などに不慣れな商店主が多かったため、各商店主へのレクチャーに時間を要することとなった。

また、商店街の飲食店において不十分だった食事メニューの英語表記を徹底させ、さらにメニューの写真を掲載した立て看板を作成した。これにはすぐに反応が現れ、外国人観光客が入店から注文に至るまでの頻度が上がり、売上向上につながった。

事業実施にあたっては御岳山商店組合、武蔵御嶽神社、御岳登山鉄道、青梅市、青梅市観光協会、青梅商工会議所、青梅市中心市街地活性化協議会で構成される「インバウンド会議」を結成し連携を図っている。

この他、「学生と地域の協働プロジェクト」を実施する杏林大学との協力関係も長く続いている。特に「天空芸者ナイト」では、事前の屋外特設ステージの組立から、英語による参加者の誘導・通訳・内容説明、イベント後のアンケート実施など強力なサポートを受けている。

取組みのプロセスで生じた課題と対応

御岳山商店組合の組合員が生計を立てている立地は、陸の孤島のような山の上で、宿坊の客層も限られており、参拝から流れてくる固定客や登山客が大金を使うことは滅多にない。「おいぬ様」事業は一定の成功を収めたが、現状を大きく変えるものにはならなかった。

この状況を好転させたのは、組合長の、このままでは先がないという危機意識であった。「天空芸者ナイト」のアイデアはこの危機意識から生まれたと言える。しかし、組合員にとって「外国人観光客を御岳山に誘導する」という目標は、言葉の壁も含め、高いハードルであった。

組合長は、組合員が一つになってインバウンド事業に取り組まなければこの先はない、と組合員を説得して回った。連携先との相談を重ね、八王子芸妓組合からも快諾を得て、ようやく「天空芸者ナイト」のスタートまで漕ぎつけた。

蓋を開けてみれば取組は大成功。山の上の陸の孤島は「天空」という言葉で特別な場所に変わり、「芸者」を日本の伝統美の象徴としてアピールしたアイデアの勝利だった。何よりも力になったのは、参加した外国人観光客からの高い評価である。多くがリピーターとなり、今では帰国後の商店街の情報発信源にもなってくれている。組合員たちにとっては大きな挑戦が続いているが、取組が実際に利益に還元されたことで好循環が生まれている。

成果・継続へ向けた視点

「天空芸者ナイト」は、外国人観光客に対するユニークな取組として魅力を放ち、御岳山の知名度を上げた。また、組合員の間には、インバウンド対応が商店街の将来を切り拓く鍵だという自覚が生まれた。

しかし、これはまだ入り口に過ぎない。これからは、組合員の英語能力を向上させるための英会話教室の開催など、コミュニケーションの質を上げる取組を行っていく。また、専用サイトの多言語化をはじめとする情報発信の拡充も同時に進めていく予定だ。

重要視しているのは、これらの取組を背景に「食事」「土産」「宿泊」という商店街の利益向上を図ることである。そのための仕組みをいち早く構築することが継続に向けたポイントだと考えている。さらには、「天空芸者ナイト」のコンテンツの一つとして、御岳山の財産である豊かな自然を前面に出し、環境に関心の高い外国人観光客の集客につなげていく「天空もみじまつり」の充実を検討している。

キーマンからのアドバイス

馬場 善彦氏 御岳山商店組合 副組合長 御岳山観光協会 会長

何と言っても後継者をどう確保するかというのが究極の命題です。御岳山商店組合は小さな組合ですから、その中だけで考えていても上手くいかないと考えています。遠いようで一番近い方法は、インバウンド対応を先進的な形に発展させ充実させていくことだと思っています。そうなれば若い人の注目も集めるような気がします。イベント性の強い取組も続けますが、御岳山の精神性や姿勢で惹き付けていくような取組を加えていきたいですね。

これまで、人から驚かれるようなことに何度も取組んできましたが、何をやってもすぐに成果が上がることはありませんでした。今では一つの取組を3年から5年くらいのスパンで捉えています。大事なのは「成功するまで止めないこと」かも知れません。

  新宿大通商店街振興組合(東京都新宿区)>

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