「平成28年度商店街インバウンド実態調査モデル事例」(発行:平成29年3月 経済産業省 中小企業庁)から、東京都新宿区にある新宿大通商店街振興組合の取り組み事例をご紹介します。

<タイプ>
超広域型商店街
<立地環境>
JR新宿駅東口から地下鉄新宿御苑前駅に至る新宿通りに面して、近代的な店舗ビル・集合ビルが並ぶ都市型の商店街
<店舗数>
95店舗

対象地域
東京都
面積
2,193.96平方キロメートル (平成29年10月1日現在)
総人口
13,831,421人(平成30年6月1日現在)
主要観光資源
皇居、雷門、新宿、原宿、渋谷、上野、高尾山、国立新美術館、根津美術館
公式サイト
https://www.gotokyo.org/en/index.html
http://www.kanko-shinjuku.jp/

目次

プロフィール

新宿駅は、一日の乗降客数が世界一となっており、その周辺は 24 時間人の流れが絶えない。メインストリートである新宿通りも昔から人の集まる場所だった。江戸時代には甲州街道の宿場町「内藤新宿」として賑わい、明治期に鉄道駅ができると「新宿高野」や「新宿中村屋」が創業し、昭和初期にはデパートの華やかなファッションが人を惹き付け「紀伊国屋書店」を中心に映画館やカフェがモダンな文化を牽引した。戦後の闇市、高度経済成長期、バブル期と、人が集まる街として常に注目を浴び続けており、現在は日本人だけでなく非常に多くの外国人観光客がこの街を目指してやってきている。

インバウンド事業取組の背景

新宿周辺には、外国人観光客に人気のある「新宿御苑」をはじめ「歌舞伎町」「ゴールデン街」という世界に名の通った場所がいくつもある。外国人観光客を惹き付ける力が強いという利点を生かし、従来から継続的なインバウンド対応が各店舗及び地域の活性化のため重要であった。

2020年に開催される東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場は新宿区にあり、また商店街に近いことからも、組合員はインバウンド対応のさらなる強化が必要だと考えた。新宿駅に近い大規模店では、外国語対応をはじめとして早期から外国人観光客向けの販売システムを確立しており、有名ブランド店や大型量販店は特に力を入れていた。このように大規模店が着実にインバウンド対応を進めていくなか、商店街としても、新宿の強烈な個性を前面に打ち出して、他で真似のできない魅力をアピールしたいと考えていた。

取組のポイント

2014年、組合理事で構成される「共同宣伝委員会」が、東京オリンピックを意識した外国人観光客向け事業として、新宿駅前広場でのイルミネーションと街路灯へのフラッグ掲揚を始めた。しかしながら、商店街の予算は限られており、六本木や原宿のイルミネーションのような大規模なものは望めないことから、必然的にアイデア勝負ということになった。委員会では、新宿を訪れる外国人観光客が興味のあるものや、リピーターとなるための動機などについて話し合い、自国に帰っても記憶に残るデザインや再度訪日したいと思わせるコンテンツは何かを検討していった。

その結果、「和」をテーマにすることを決定。このテーマを新宿らしいスタイルで表すデザインを模索し、「富士山」「歌舞伎」「花札」といった「華やかで面白い日本」を伝えるイルミネーションを駅前広場に登場させた。

このイルミネーションは毎年11月中旬に点灯され、2016年の冬には「富士山」のイルミネーションの前で記念撮影をしている若い外国人観光客の姿が多く見られた。インターネット上では「来年は何が“光る”のか?」と話題が広がっている。

取組の全容及び事業実施体制

マップ・パンフレット・サイン・案内板などの多言語化、情報発信ツールの整備、外貨両替機や免税手続一括カウンターの設置、通訳案内士の配置、外国語対応可能な観光案内所の開設など、インバウンド対応の環境整備を、他の商店街に先んじて実施できているのは、新宿区や東京都と外国人観光客の集客に向けたまちづくりを戦略的に進めてきた成果である。

組合員は、売上の一端を担うインバウンド対応の重要性をいち早く認識し、Free Wi-Fi導入など、消費需要獲得のための環境整備を自ら積極的に行なってきた。牽引役は組合員であり、商店街は組合員の対応状況・整備状況を確認しながら、各店舗の調整役に回っている。

一方でイルミネーション事業のように公共の場を使った企画や、組合員を横断する企画の場合には、商店街が主導することになる。例えば、東京オリンピックに向けた企画の立案や、オリンピック終了後のインバウンド対応に向けたビジョン策定についてだ。

商店街には、総務、共同宣伝、環境、防災という4つの委員会があり、これらの委員会で出された事業のアイデアや予算について、執行部と理事会で採択する体制をとっているが、老舗店舗と新規店舗が混在している新宿大通商店街にとって、コミュニケーションとスムーズな意思決定は重要なポイントとなっている。

商店街にとって外国人観光客は欠かすことができない存在となっており、帰国した外国人観光客が、新宿や商店街の素晴しさを友人に伝えるための仕掛けづくりも重要だと認識している。

取組みのプロセスで生じた課題と対応

新宿区では伝統的に各町会の存在が非常に大きく、各店舗は組合員である前に町会の会員である。新規店舗や大規模店であっても「町民」であることに変わりないというのが商店街の姿勢であり、理事たちが当たり前のように清掃活動に参加しているのはその現れといえる。

2014年からインバウンド対応として取組を始めたイルミネーション事業は、設置場所が新宿駅前広場という公共空間で行われるため、行政機関との調整は欠かせない。課題となる事案については、ひとつずつ区と相談を重ねることで解決してきた。区と商店街の連携体制がうまく取れているからこそ継続的な事業実施が可能となり、年々大規模で魅力ある取組へと成長している。商店街のコミュニケーション力は、常に人が集まる街として、先頭を走ってきたからこそ生まれたものであり、それを支えているのは、伝統を大切にしながら、同時に新しいことを積極的に許容してきたベテラン組合員の存在が大きい。

成果・継続へ向けた視点

外国人観光客のリピーターをいかに確保するかという視点から、新宿らしいイベントを展開している。外国人観光客の来街形態は、団体からグループ、グループから個人へと変化しつつある。さらなる外国人観光客の獲得を目指すためには、個人へのアピールが欠かせないものと考えており、食事や映画などの情報をタイムリーに発信するデジタルサイネージの設置などを検討している。

さらには東京オリンピックを想定した際には、「安全」と「安心」への配慮をより進展させる必要があり、商店街単独では進められない事柄も多々予想されるが、警察や関係機関とのコミュニケーションを密にし、「規制」と「自由」のバランスをうまく取りつつ、東京オリンピック成功の一助となれるよう取り組んでいきたいと考えている。

新宿におけるインバウンド対応には、否応なく最先端が求められているが、これからは「訪れる人と迎える人の関係」から「一緒に街を楽しむ人という関係」になれるよう、新宿大通りという大繁華街が、買い物や飲食はもとより、様々な国籍の人々が出会う場所として世界中に認知されることを目指していく。

キーマンからのアドバイス

山本 豊氏 新宿大通商店街振興組合 共同宣伝委員長

新宿には「雑多なものが入り混じっている方が新宿らしい」という雰囲気があります。これは新宿の大きな魅力です。しかし、東京オリンピックを迎えるにあたっては、この玉石混合のまちで秩序をどう保っていくのかが大きな課題になると考えています。全てがきちんと整理されていたら面白くありません。「規制」と「自由」両者のバランスを取ることが大切です。

この解決策を探っていくときに必ず助けになると思うことは、商店街として培ってきたコミュニケーションの力です。個々の店では対応できない問題が増えることは間違いありません。オリンピックという大きなイベントを自分たちらしい方法で受け止めて、外国人観光客に楽しんでもらえたらいいと考えています。

 御岳山商店組合(東京都青梅市)  七日町商店街振興組合(山形県山形市)

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