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「本物」の力で海外からのお客様をおもてなし

2018年7月23日

「本物」の力で海外からのお客様をおもてなし

「本物」の力で海外からのお客様をおもてなし

「平成28年度商店街インバウンド実態調査モデル事例」(発行:平成29年3月 経済産業省 中小企業庁)から、山形県山形市にある七日町商店街振興組合の取り組み事例をご紹介します。 <タイプ> 広域型商店街 <立地環境> JR山形駅から約3km徒歩30分程度の距離にある山形市の中心商業地 <店舗数> 82店舗

対象地域
山形県
面積
9,323.15平方キロメートル (平成29年10月1日現在)
総人口
1,092,632人 (平成30年5月1日現在)
主要観光資源
蔵王山、蔵王温泉、山寺、最上川、出羽三山、銀山温泉、山居倉庫
公式サイト
http://www.pref.yamagata.jp/
http://yamagatakanko.com/
http://en.tohokukanko.jp/

プロフィール

関ヶ原の戦いで功績を上げた最上義光の時代に現在の街並みの基礎ができ、城下町の中心として栄えた。旧県庁舎「文翔館」から南へ約300mの街路が伸び、店舗が並んでいる。1990年代後半、郊外に2つの大型店が立地したことにより、商店街の売上は落ち続け、10年後には売上が半減した。この状況を打開するために商店街や商店主は様々な施策を積極的に実行し、2008年には山形市が策定した「中心市街地活性化基本計画」のもと「水の町屋 七日町御殿堰(ごてんぜき)」という歴史的建物改修プロジェクトの実施により賑わいと売上を取り戻すことに成功している。

インバウンド事業取組の背景

山形市は、30年近く前から海外へ目を向けた大きなプロジェクトを実施し定着させてきた。1989年に始まった「山形国際ドキュメンタリー映画祭」(隔年開催)は、今やアジア・欧米から多くの関係者やファンが訪れる、世界から注目されるドキュメンタリー映画祭となった。この他、国内外のプロオーケストラメンバーが集う「アフィニス夏の音楽祭」(隔年開催)やFISスキージャンプワールドカップレディースなど、インバウンド事業の下地となる国際的なイベントが充実している。また、山形大学の留学生も商店街を訪れることから、インバウンド事業を実施するうえで大きな存在となっている。

ここ数年、行政主導で外国人観光客に人気の高い観光スポットである「蔵王」と「山寺」を結ぶツアールートを確立しようという動きがある。スキーと温泉という山形の冬の魅力をトータルでアピールする中で、「歴史ある買い物の町」として七日町の知名度はさらに上がってきている。

取組のポイント

東日本大震災以降の東北地方でインバウンド事業はなかなか成功しないという意見もあったが、地域の消費が落ち込んだ今こそ、新しい取組を実施していくべきだと考えた。その際、商店街の財政基盤がしっかりしていることも、取組を支える原動力となった。

クルーズ船から多くの乗客がやってくるわけでもなく、七日町の個性をどう創り上げるかを熟考した結果、歴史が培ってきた「本物」を見直すという発想が生まれた。

「水の町屋 七日町御殿堰」は、1624年に最上義光の後に山形城主になった鳥居忠政が生活用水や農業用水を確保するために作った「山形五堰」のひとつである「御殿堰」を再生させ、その運営にあたり商店主が出資者となり、「株式会社七日町御殿堰開発」を立ち上げた。「水の町屋 七日町御殿堰」の開発は、新規店舗の参入を促し、伝統と現在がうまく混在する魅力的スポットとなっている。ここに飾り気のない純粋な「日本」を求めて、台湾やタイからやってくる外国人観光客のニーズにマッチしていることは間違いない。

山形市の人口が25万人から年々減少しているにも関わらず、七日町商店街を訪れる外国人観光客数は少しずつ増えているのは、七日町を訪れた外国人観光客がSNS等を通じて、母国で七日町の魅力を発信していることも大きい。

取組の全容及び事業実施体制

行政の補助を活用して商店街全体のFree Wi‐Fi化を県内で初めて実施したことに続き、免税手続一括カウンターの設置に踏み切った。設置にあたり、先例である岡山市下之町商店会を視察し、買い物をしてから免税手続一括カウンターで免税処理を行うまでの一連の仕組みを構築した。現在9店舗が参加しているところであるが、これからも導入店舗を拡大していく予定だ。

デパート内に設置された免税手続き一括カウンター

さらにインバウンド事業を実施するうえで大きな転換点となったのは、2014年に商店街が出資した「山形七日町まちづくり株式会社」の設立である。まちづくり会社の設立により、民間主導での「まちづくり」と「ものづくり」事業が進めやすくなり、若手から出た新しいアイデアを活発に具体化する取組がはじまった。若い柔軟な感覚が、伝統ある七日町を紹介することで、七日町の魅力はさらに大きなものとなっている。

また、連携体制を考えるうえで行政の存在は欠かせない。連携を密にすることで互いに良好な関係を築いてきた。商店街独自の予算で実施する事業と、行政の力を借りて実施する事業を振り分けることで、実効性と継続性が生まれている。例えば、海外へ向けた広報などは、市や県の力を借りて、大々的に発信した方が有効となる。

加えて、近隣の大学との連携も大きな効果を生んでいる。ソフト面では、人材育成、店舗間連携の仕組みづくり、情報発信といった事業を山形大学と連携し、リノベーションのデザインといったハード面では、東北芸術工科大学と連携している。両校の担当メンバーとは日常的にやり取りを繰り返し、インバウンド事業へ向けたビジョンの共有を心がけている。

これらの取組をスムーズに進めるにあたって、重要な働きをしているのが商店街事務局だ。商店街の意見や関係機関の意見を調整し集約する力に、老舗店主や若手経営者からも大きな信頼が寄せられている。

取組みのプロセスで生じた課題と対応

1975年、県庁が郊外に移転し中心街が寂れる中で、七日町には自分たちで活性化を図る気運が生まれた。しかし効果的な方策がなかなか打ち出せず、長い間商店街の活気は回復しなかった。これまで商店街が培ってきた伝統は壊したくないと思う一方で、店舗の経営が苦しくなるなか、経済に直結した事業を優先すべきといった考えもあり、商店街自体のゆとりだけでなく、各店舗間のコミュニケーションも次第に失われていった。「小規模だがゆったりとした風格を持つ商店街」という本来の強みを見失ったといっていい。

この窮地の中で始まった「山形国際ドキュメンタリー映画祭」が思わぬきっかけを生むこととなった。海外からやってきた映画祭関係者をもてなすことで、商店街本来の魅力を自ら再発見することになった。外からの目が、乗り越えられなかった壁を崩したといえる。この経験が下地となって、自分たちに合った取組と合っていない取組をしっかり識別して、できることをひとつずつ実現していくという姿勢を構築することができた。また、この過程で、老舗の年長者たちが新しい取組への道筋をつくり、次世代がそれを具体化していくという好循環が生まれた。

成果・継続へ向けた視点

急激ではないが着実に外国人観光客は増加している。しかしもっとも重要な成果は、外国人観光客とのふれあいにより、商店街自身が「もてなす心」や「伝統の力」を再発見したことにある。自分たちが暮らしやすい場所でなければ、外国人観光客を、気持ちよく迎えることはできない。インバウンド対応に特別なことをするのではなく、在るものを磨いて育てていくことが重要だと再認識できたことは大きい。

最近では、行政がプランニングを進める「雪」「温泉」「紅葉」といった地域資源を前面に出した外国人観光客向けのツアーに対し、他では真似できない七日町のアイデアを練っている。行政との連携を強化しながら、自分たちにあった取組を着実に実施していく予定だ。

キーマンからのアドバイス

下田 孝志氏 七日町商店街振興組合 事務長

海外の人向けに特別なことを考えるより、自分たちの持っている強みを認識してそのままの良さを提供する方がいいと考えています。「御殿堰」もそうですが、ごまかしのない本物というのが一番魅力的だと思います。自分たちの足元は見失いがちです。しかし「エリア・マネジメント」の第一歩は、埋もれている良さを再発見して、そこに新しい価値を付加することにあります。成果は数字でしか出てこないものですが、経済性と心の豊かさを両立させ、そのことを理解できる人材を七日町から多く輩出したいと考えています。

  新宿大通商店街振興組合(東京都新宿区)  那覇市国際通り商店街振興組合連合会(沖縄県那覇市)