HOME JNTOの事業・サービス 地域インバウンド促進 地域の取り組み事例

データ分析とJNTO個別相談会を活用し、地域全体のマーケティング戦略に活かす

データ分析とJNTO個別相談会を活用し、地域全体のマーケティング戦略に活かす

データ分析とJNTO個別相談会を活用し、地域全体のマーケティング戦略に活かす

中央日本総合観光機構は、中央日本エリア9県をカバーする広域DMOです。同機構では、JNTO海外事務所SNSアカウントでの掲載実績を分析するなど、データに基づいたマーケティング活動を進めています。2022年には、JNTOの賛助団体として海外事務所とのオンライン個別相談会を活用し、各海外事務所SNSに係る調査を実施しました。こうしたデジタルマーケティング施策の狙いと成果について、同機構マーケティング部の山田萌絵さんに話を聞きました。

対象地域
富山県、石川県、福井県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県
主要観光資源
歴史、伝統文化、祭り、食、自然
公式サイト
https://go-centraljapan.jp/ja/index.html

デジタルの力で、広域連携のメリットを最大化する

―はじめに、中央日本総合観光機構がカバーする地域と、主な活動内容について教えてください。

私たちは、中部北陸9県(富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀)の観光事業を統括する中枢機関として、主にインバウンドによる観光振興を図り、観光交流を通じた9県の経済・文化の向上発展に資することを目的として活動しています。観光客に当該エリアを広域的に周遊してもらえるよう、地域に個々にあるコンテンツをターゲットに合わせてつなげていくという役割があります。

中央日本総合観光機構
中部広域観光ポータルサイト『GO CENTRAL JAPAN』

 

広域連携DMOにはさまざまな役割が求められていますが、中でも大きな役割が「エリア全体の戦略策定」です。中部・北陸エリアは、日本を代表する観光スポットを抱え、地名そのものがブランドとなるような個性豊かな自治体が集まっています。多様な特色を持つ自治体が一緒に広域的な共通課題を発見し、解決していくためには、客観的なデータの把握が欠かせません。

そこで、中央日本総合観光機構が重点的に取り組んでいるのが「データに基づいたマーケティング」です。私たちはデジタルを積極的に活用し、造成した観光コンテンツを海外のターゲットに向けて発信し、データを収集しています。

例えば、地域の隠れた観光コンテンツを紹介し、エリア内のさまざまな観光データを蓄積するデータダッシュボードを構築して、エリア内の自治体など向けに提供しています。それが「データに基づいた戦略策定」ができる環境づくりに繋がっていきます。

―中部北陸9県において広域連携を展開するメリットと課題について教えてください。

このエリアには、名古屋に代表される「都市」、長野・岐阜に象徴される「自然」、城や古戦場などの「歴史(武将観光)」、寺社仏閣、金箔、陶磁器などの「文化・伝統」といった多彩なコンテンツがあり、訪日旅行者の多様なニーズに応えることができます。

ただ、残念ながら現在は、訪日旅行者が多く訪れるスポットは飛騨高山、白川郷、金沢、白馬などの有名観光地が中心です。「首都圏を起点にこれらのエリアを訪問する」観光は実現していますが、「有名観光地を中心に中央日本エリアを周遊する」ところまでは至っていないというのが現状なのです。

現在は「点」として認識されている観光スポットを、新たな楽しみ方を提案することによって「面」として認識してもらうことで、中央日本エリア全体に貢献したい。それが私たちが取り組んでいる課題です。

その代表的な例が『昇龍道プロジェクト』です。初めて日本を訪れる方は、東西方向に移動するゴールデンルートが一般的ですが、中部国際空港を起点に小松空港まで、南北方向に移動してもらおうというのが狙いです。

 

中央日本総合観光機構2
昇龍道プロジェクト『ようこそ昇龍道』より

 

そのひとつの切り口として、期間内に指定の路線の高速バスに自由に乗ることができる『昇龍道フリーバスきっぷ』があります。このきっぷの登場によって、中部国際空港から入国し、名古屋、高山、白川郷、富山、金沢などを巡り、小松空港から出国する訪日旅行者が2017年から2019年にかけて年々増加し、アジアからの航空便が圧倒的に増えたのです。特に中華圏からの訪日旅行者に対するブランド認知向上効果は大きく、現在では、中央日本エリアは東アジア訪日客の割合が75%を占めるほど東アジア比率が高い日本屈指のエリアとなっています。

―中央日本総合観光機構が主催する「デジタル横断会議」の概要、目的、参加者、内容について教えてください。

デジタル横断会議は2021年7月からスタートしました。その背景として、コロナ禍で訪日旅行者がいなくなり、それに伴って訪日旅行客による情報発信量も激減してしまったことによる、「観光地としての日本が忘れられてしまうのではという危機感」がありました。そこで、SNSなどのデジタルを活用した継続的な情報発信を行い、訪日旅行者の興味・関心をつなぎとめる必要があったのです。

一方、各自治体のウェブサイトやSNS、Googleマップなどのデジタル担当者は若手職員が多く、期待が大きい反面、経験が浅く、組織内に知見を持った人も少ないため、課題に直面しても相談する相手がいないという現状がありました。また、自治体間でも、互いの現状を知ったり、最新の情報を共有したりする場がありませんでした。そうした状況を打開するために広域連携DMOが会議体を作り、デジタル担当者の疑問や不安を解消する場を設けたのです。

デジタル横断会議では、各自治体のデジタル担当者のスキル向上によって、ウェブサイトやSNSコンテンツの品質を高めることを目指しています。良質なコンテンツが増えれば、JNTO海外事務所などにリポストされる機会も多くなります。その結果、エリアの観光情報が広く露出し、地域の認知度が高まるのです。また、訪日旅行に高い興味・関心を持つ外国人が集まるJNTO 海外事務所のSNSアカウントで数多く取り上げてもらうことでリーチを増やし、中央日本エリアの認知・興味・関心を高めたいという狙いもあります。

 

中央日本総合観光機構3
デジタル横断会議 22年度参加自治体・団体一覧

 

デジタル横断会議はオンラインで毎月開催しています。参加者は、域内の9県3市の自治体と観光協会などのデジタル担当者です。1年目は8県2市3団体でしたが、2年目は域内すべての担当者が参加し、さらに2022年度からは、JNTO地域連携部と中部国際空港もオブザーバーとして参加しています。 JNTOとの連携強化は必須です。各地域単位の要望をJNTOに届けるのは難しいため、私たちが地域の「点」の情報をつなげることで、まとめて発信できます。また逆に、JNTOが発信している情報を各地域に届けることもできます。

デジタル横断会議の内容は、大きく分けて2つです。ひとつは「各自治体の担当者がSNSを運用する際の参考になる内容」です。各県のSNSにおける反響の多い投稿などを月ごとに分析し、発信内容や分析データの共有を行っています。

もうひとつが「今後のデジタル施策の参考になる内容」です。専門家によるデジタルマーケティングのトレンド解説のほか、JNTOにも国のプロモーション施策などについて解説していただいています。さらに、デジタルの専門家から「効果測定の方法」「SEO対策」など、実践的な内容について学んでいます。このような場づくりは、私たちのような広域連携DMOだからこそ可能だと自負しています。

 

JNTO 海外事務所アカウントでの掲載を目指し、コンテンツを強化

―デジタル横断会議では、「JNTO海外事務所および各県アカウント投稿実績」の分析・結果共有を行っていますが、この取組について教えてください。

私たちは従来から「JNTO海外事務所による紹介件数」のデータは収集していたのですが、2022年4月からは、投稿実績の詳細な分析を始めました。具体的には、月次のフォロワー数の増減や、反応の良かった記事の情報を集め、「国内各エリアの掲載件数」「中央日本域内各県の掲載件数」「その記事に対する反応」などの分析を行っています。

その目的は、各自治体が「自分たちの立ち位置と課題」を測るベンチマークとして活用できること、そして、JNTO海外事務所SNSアカウントでどんな投稿がどんな反応を得ているかを知ることによって、自分たちが記事を発信する際の参考にしてほしいという思いからです。こうしたデータ分析を各自治体が単独で実施することは予算や人員の面で負担が大きいですから、各自治体からは大変喜ばれています。

こうした分析を通じて得た「気づき」がいくつかあります。そのひとつが「中央日本エリアの投稿は、JNTOSNS海外事務所アカウントで、ほぼ毎月紹介されている」ということです。関東エリアのリポスト数が多いのは予想の範囲内でしたが、それ以外のエリアでは紹介されない月もある中で、コンスタントに掲載されていることはうれしい結果でした。こうした分析結果を各自治体にフィードバックすることによって、SNS担当者たちの自信や気づきにつなげています。

 

中央日本総合観光機構_画像4
テーマカレンダ(9月) 昨年度主要JNTOアカウント発信状況

 

中央日本総合観光機構_画像5
2022年7月度投稿実績より・好反応記事の共有

 

また、「海外事務所では『いいね!』が獲得できるようなグルメ系情報があると、リポストしてくれる可能性が高くなる」とか、「アジアでは『映え系』の写真・スポットが人気だが、欧米では情緒に訴える落ち着いた写真・スポットが人気である」といった傾向もわかってきました。

こうしたSNS対策は、各県がバラバラでやっていると、自分たちがやっていることが本当に有効なのかどうか判断できません。その点、広域で、JNTOとも連携しながら分析を行うことで、自分たちの対策の有効性を客観的に判断することができ、結果として各自治体担当者のレベルアップにつながっていると考えています。

―JNTO海外事務所のSNSについて、どのように評価されていますか?

JNTO海外事務所が発信するSNS情報は、訪日旅行を検討している人たちにとって重要な判断材料になっていると思います。各事務所の投稿内容、投稿に対する反応を見ても、市場ごとに最適化したPRを行っていることがわかります。私たちも市場に合わせたスポット選定、写真の選び方などの参考にしています。

JNTO海外事務所のSNSアカウントを定期的にチェックしていると、クオリティが高く美しい写真や興味を引く動画などを使われているのはもちろんですが、それだけでなく「ユーザーとのコミュニケーション」を丁寧に行っている点が印象的です。ある投稿にユーザーがコメントすると、すかさず「いいところですよね。ぜひ来てください!」とコメントが返信される......そんなファンを大事にするコミュニティづくりの姿勢は、ぜひ真似したいですね。

 

JNTOオンライン個別相談会を活用し、さらに対策を強化

―今年の6~9月にJNTOの賛助団体・会員向けサービス「海外事務所とのオンライン個別相談会」を活用され、各海外事務所にSNS運用についてのヒアリングもされましたが、その目的を教えてください。

デジタル横断会議において、リポスト活用事例や毎月のSNSアカウント調査を共有する中で、域内自治体から「訪日旅行関心層への露出拡大を図りたい」という意見が多数寄せられました。そこで、「どんな工夫をすればJNTO海外事務所SNSアカウントで取り上げられるか」を知りたいと思ったのです。JNTO海外事務所がどのようにSNS運用を行っているか、どんな基準でリポストを含めた投稿記事を決定しているかを知ることによって、より効率的に域内自治体のニーズに応えることができるのではないかと考え、個別相談会の活用を決めました。

個別相談会の存在は以前から知っていたのですが、JNTO海外事務所のスタッフは会ったこともなく遠い存在で、今まで躊躇していたんです。また、イメージとして「〇〇市場では、△△県のどのスポットを打ち出すと響きますか?」「どういった旅行会社にアプローチすべきですか?」「現地での効率的なプロモーション手法は?」というように、直接的なアドバイスを受ける場だと認識していました。

私たちのように「JNTOのSNS運用方法について教えてほしい」とか、「投稿記事を選ぶ基準は?」といった質問は、個別相談会の趣旨に合わないのではないかと躊躇していたのです。しかし、私たちの課題も「現地の生の声を聴く」ことには変わらないと考え、今回、思い切ってサービスを活用しました。

デジタル横断会議に参加している専門家から推薦のあった事務所や、域内自治体の重点市場となっている事務所を中心に9つの海外事務所を選定し、個別面談を申し込みました。

―「オンライン個別相談会」の活用にあたっての準備や質問のポイントなどについて具体的に教えてください。

事前にJNTOの賛助団体向けシステムを通じて、各事務所に共通する質問項目を送付しました。そして個別相談会当日は、いきなり質問に入るのではなく、「私たちは、こんな特徴をもった地域で、こんな課題を抱えていて、地域の方々は課題解決の方法を知りたがっている、そのニーズに応えたいので教えてください」と、質問の意図や、その背景にある課題などについて詳しく説明した上で、質問に移りました。

ポイントとしては、SNSに掲載するコンテンツを決定する過程において、現地の委託事業者や日系の委託事業者、海外事務所の現地スタッフなどがそれぞれどのように関与しているのかなど、事務所ごとに異なる「リアルな実態」を回答として知ることができるような質問を心がけました。

あらかじめ準備した質問票に沿って話を聞くだけではなく、質問への回答をきっかけに、「その委託事業者はどんな会社ですか?」「どうやって選定しているのですか?」といった部分まで深掘りできたことは、有用だったと思います。

―「オンライン個別相談会」を活用してみて、感じたこと、気づいたことがありましたら教えてください。

個別面談ということでハードルが高いイメージをもっていましたが、JNTO海外事務所の方が終始面談をリードする形で進めてくれたので、知りたいことを漏らさず聞くことができました。皆さん、当然のことながら当該市場に対して幅広い知見を持っていて、質問内容だけでなく周辺情報についても提供してくれたことで、理解が深まりました。さらに、現地の人たちのSNS利用状況や人気のコンテンツ、各事務所のSNS運用方法など、詳しい内容を知ることができ、大変参考になりました。

SNS運用にあたっては、JNTO海外事務所の方々も「観光スポットへのアクセス感覚がつかみにくい」「地域とのつながりがないため、写真などの許諾確認・調整に時間がかかる」「最新情報が取得しにくい」など、さまざまな課題を抱えていることを初めて知りました。

「地域との接点を活かした情報発信」は、各自治体SNSアカウントの強みです。私たち自治体側が、「JNTOにとって使いやすいコンテンツは何か」を知り、そのポイントを押さえた投稿を実施していくことは、露出拡大を狙う地域とJNTOの双方にとってメリットになると改めて認識することができ、これまでの取組に自信を持つことができました。

特に参考になったのは、コンテンツの選定について「日本全体のバランスは考慮しつつも、市場の人が見て素敵な写真、有益な情報かどうかが優先」という言葉です。現地の事業者や職員の意見を聞きながら、海外現地の人の視点も持って選んでいることがわかりました。域内の自治体担当者にも、季節に合った良いコンテンツを投稿し、JNTOの目に留まればチャンスは広がっていくのだ、と伝えることができました。

―個別相談会の結果を踏まえ、今後、エリア内でどのように展開し、活用していきたいと考えていますか?

個別面談を通じて得られた成果については、共通事項をまとめるとともに、事務所ごとの詳細については細かく資料に記載しました。今後、各自治体においてターゲット市場を踏まえて活用していただきたいと考えています。

また、広域連携DMOとしてフォトギャラリーが整備できていない状況なので、今後、許諾関係がクリアであり、かつSNSに最適な「JNTO海外事務所の方が気軽に使える写真素材」をデータベース化していきたいと考えています。

今回の個別相談会や各種セミナーなどはJNTOのメーリングリストで案内が来ているので、今後も各種賛助団体・会員向けのサービスを活用し、デジタル横断会議等で展開・活用していきたいと考えています。