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「東日本大震災からの復興」を成し遂げようとする中で、自分たちのまちにどのような宝があるのかを掘り起こそうとした岩手県釜石市。そしてそれが「釜石オープン・フィールド・ミュージアム」(以降、釜石OFM)という、エリア全体を「生きた博物館」に見立てる構想につながり、サステイナブルツーリズムを施策の柱のひとつに掲げて取り組んでいます。これは持続可能な観光の構築に向けて「自分たちのまちでなにができるのかわからない」と悩む地域の方々のヒントになるかもしれません。釜石OFMを推進する釜石市商工観光課の二本松主幹、中田主査、(株)かまいしDMCの河東代表取締役に、これまでの取り組みについて伺いました。

公式サイト
https://visitkamaishi.jp/

目次

観光客だけでなく、地元の人も元気にする「釜石オープン・フィールド・ミュージアム 」のプログラム

—最近では2019年に開催されたラグビーワールドカップの開催地というイメージが釜石市にはありますが、釜石市の特徴を教えてください。

二本松氏「釜石市は人口約3万2000人(2021年8月現在)の小さなまちですが、かつては『鉄のまち・釜石』として栄えた、新日本製鐵の企業城下町でした。世界遺産構成資産に登録された『橋野鉄鋼山』があり、日本の近代製鉄発祥の地でもあります。また入り組んだ複雑な地形のリアス海岸が続き、山と海を同時に楽しめる場所がたくさんある他、国立公園や県立自然公園、湿原などを有し、豊かな自然環境にも恵まれています。2019年に全線開通した『みちのく潮風トレイル』では、県道吉里吉里釜石線から箱崎半島を一周し、三陸浜街道の鳥谷坂・石塚峠・鍬台峠を経由して大船渡に抜ける、森・川・海が続くダイナミックな眺望が楽しめます」

中田氏「魅力を数えればきりがありませんが、その一方で、もちろんマイナスの側面もあります。鉄のまちとして栄えた頃には約10万人いた人口が、鉄冷えによる合理化で約3万5000人にまで減り、これから日本の多くの自治体が直面するであろう急激な人口減少を目のあたりにした地です。また東日本大震災時だけでなく、過去にも周期的に津波が襲う地でもありました。

釜石市は多くの人が訪れるような有名な観光スポットを持つ観光都市ではありません。しかし市民とともに釜石市の観光資源を探る中で、独自の文化・風土だけでなく、試練を何度経験してもその都度立ち上がってきた不屈の歴史があることに気づきました。そこから、釜石市を訪れる人と釜石市民との観光交流を通じて、あらゆる方面に復興への光を見いだせるのではないかと考えたのです」

—そこで釜石市全体を「生きた博物館」に見立てる釜石OFM構想が動き出したわけですね。

河東氏「釜石OFMは、釜石市の自然・歴史・文化などを直接体験したり学習したりできるシステムのことです。一般のミュージアムはなにかを展示することによって、人々への学びのきっかけづくりや、展示する品々の保全などを役割としています。釜石OFMも展示物の役割を果たすプログラムによって、体験者の学びや、環境の保全につなげたりすることはもちろんのこと、加えて、来訪者がさまざまなプログラムに参加することで地域との交流が生まれてつながりができたり、市民が地元の良さを再発見したりすることなども目的としています。

たとえば人気が高い漁船を使ったプログラムは、釜石湾を知り尽くした漁師さんが操る小型の漁船に乗り、漁師さんだからこそ知る海からの絶景ポイントを眺めたり、養殖の様子を見学したりする内容です。観光客は、普段の生活では見られない釜石の美しい海の景観や漁業について知ることができます。それに加え、漁師さんも自分たちの仕事に関係したものを観光客が見て喜ぶさまを見て、漁業や風土の素晴らしさを再認識したり、誇りを持てたりするのだと思います。交流も生まれて、もしかしたら、漁業のおもしろさや意義を知った観光客から後継者が生まれることもあるかもしれません。

また防災関連プログラムも参加者が多い人気のプログラムのひとつです。“『釜石の出来事』の背景を紐解く津波避難道体験 ”は、震災時に津波から児童・生徒の99.8%が生き抜いた理由を学びます。これらのプログラムを考えた当初は、震災に関連したことでお金を取るべきじゃないという意見もあがりました。漁船クルーズのプログラムにしても、それよりも震災時に大槌町に乗り上げてしまった観光船『はまゆり』 を再建すべきだという声もありました。しかし他県から多くの人が訪れ、体験し、学んでいく姿を見た市民からは、次第にそうした声はなくなり、今は『これでいいんじゃないか』と認めていただいています。震災という大きな苦難から立ち上がろうとする釜石市民の姿や行動を観光客に直に見てもらうこと、それが釜石の人自らが地域を誇りに思う気持ちを醸成することもつながるのです。釜石OFMを運営するかまいしDMCとしては、地域の宝である観光資源を探求し続けてプログラムの受け入れ先を確保し、またそれぞれのプログラムに磨きをかけて、釜石OFMが持続するように頑張っていくつもりです」

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他の自治体に先駆けて実践したサステイナブルツーリズムの国際認証取得

—釜石OFM構想には、サステイナブルツーリズムの視点が盛り込まれ、2018年には国際認証機関が主催する「世界の持続可能な観光地100選」に選ばれています。なぜサステイナブルツーリズムに目を向けたのか教えてください。

二本松氏「震災からどのように復興するかを考えた際、国が『観光立国』を推し進めていたこともあり、釜石市も観光を通じて震災から復興しようというビジョンを立てました。しかし釜石市はもともと観光地ではなく、訪れる人といえば出張のビジネスパーソンばかり。観光地運営をどうすべきかまったくわからない中で模索していると、世界では『持続可能な観光』に目が向けられ、さらに持続可能な観光のあり方の共通の理解と質の向上のために国際基準がすでに整っていることがわかりました。それがGlobal Sustainable Tourism Criteria、GSTC指標と呼ばれるものです。まだ日本の自治体でサステイナブルツーリズムの国際認証取得に向けた取り組みをしているところはありませんでしたが、これにチャレンジすることを決めました」

河東氏「GSTCの認証機関のひとつであるオランダのグリーン・デスティネーションズのプログラムを翻訳することから始める手探りのような試みでしたが、国内第1号の事例となるべく、基本的な教育プログラムに参加。GSTCの理解を深めるためにカンファレンスに出席したり、釜石市内で専門家のサポートを受けたりした結果、2018年に日本で初めて『世界の持続可能な観光地100選』に選ばれました。その後も連続して『世界の持続可能な観光地100選』に選出されています。さらに2019年には『グリーン・デスティネーションズ・アワード』のブロンズ賞も獲得し、現在はそのひとつ上のシルバーの獲得を目指しています」

※1:「世界の持続可能な観光地100選」とは、持続可能な観光の国際的な認証機関であるオランダの非営利団体「グリーン・デスティネーションズ」が実施している表彰制度。持続可能な観光地であるための国際基準の中でも、特に重要な15以上の取り組みについて高評価が得られた地域が選出される。

※2:「Global Sustainable Tourism Criteria(GSTC)」とは、持続可能な観光のための国際基準を開発した国際非営利団体。

—「グリーン・デスティネーションズ・アワード」のシルバー賞を目指す中で、どのような取り組みを進めているのでしょうか?

河東氏「GSTCのチェック項目は100項目以上あります。その中の60%をクリアしてブロンズ賞を獲得しましたが、今は残された項目の中で一つひとつできることを積み上げていこうと考えています。わかりやすいところでいえばプラスチック製品を使わないということもそのひとつです。プラスチックは私たちの生活のかなり細かなところまで入り込んでいます。たとえばイベントなどで料理ブースが作られた場合、料理を入れる容器、スプーンやフォーク、ストローなどもプラスチック製のものがやはり便利です。私たちが主催するイベントであればこうしたものも紙製のものに替えることはできるのですが、そうでない場合は、やはりなかなかプラスチックを使わないようにするのは難しい。それでもプラスチックゴミの問題はかなり多くの人が認識していることだと思うので、今後どこまでプラスチック削減に向けた行動ができるかが課題だと思っています」

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全国8自治体で構成する日本「持続可能な観光」地域協議会の立ち上げ

—アフターコロナを見据えて、全国8自治体で構成する日本「持続可能な観光」地域協議会が立ち上がったようですが、どのようなものなのでしょうか?

中田氏「GSTCに取り組んでわかったのは、サステイナブルツーリズムはなかなか難しいということです。複雑でわかりづらいことも多いので、自治体で連携して情報共有しながら取り組もうというものであり、釜石市では研修会の開催なども行う予定にしています。他にも協議会では、専門家の派遣や、合同サミットの開催、Webサイトの開設や運営なども行う予定にしています」

河東氏「現在の構成メンバーは、北海道のニセコ町と弟子屈町、長野県小布施町、京都府宮津市、徳島県三好市、熊本県小国町、鹿児島県与論町と我々岩手県釜石市の8自治体から成っていますが、他の自治体が途中から参加することも可能です。私見ではありますが、SDGsやサステイナブルツーリズムに取り組むと、意識の高い人が集まってくるので組織運営がしやすくなり、人材育成にも効果的であると感じています。サステイナブルツーリズムに取り組もうと考えている自治体はぜひご参加いただければと思います」

—他にもアフターコロナに向け、動き出していることがあれば教えてください。

河東氏「新しい旅のスタイルとして有力視されているワーケーションに力を入れていきたいと考えています。釜石市は首都圏から離れているので、ただ『環境を整えたので来てください』と言っても、一般の方の場合そこまで多くの方にお越しいただくのは難しい。そこで今は企業と提携して、所属する方々が釜石市でのワーケーションをしやすくなるように、企業と一緒になって受入体制を整えているところです。現在進めているのは、登録した人が24時間いつでも使えるワークスペースの創出です。和菓子屋さんだった空き店舗を改築して、会議スペースや個別のブースなどをつくっています。

これまでにもワーケーションで来た方から『復興のためになにか自分にできることがあればお手伝いしようという気持ちでいたのですが、大変な時期に立ち上がりこれまで頑張ってきた釜石市のリーダーの方々の話を聞いたら、自分の方が力をもらい元気になりました』というような声をたくさんいただいています。都市部で働く人と釜石市民との交流を通じて刺激しあい、人の輪が広がって互いに活性化できればいいですよね。

また、コロナ前の話になりますが、みちのく潮風トレイルに来る外国人旅行者が増えていました。自分の足で長い距離を歩きながら、訪れた土地の自然を体感し、地元の人々と交流しようとする人は、釜石OFMで実施しているサステイナブルツーリズムとの親和性が期待できます。今後海外に向けても、みちのく潮風トレイルと併せるなどしながら、釜石OFMを知ってもらうよう力を入れていきたいと思います。先ほど述べたワーケーションの取り組みについても、今は限られた国内の方をターゲットにしていますが、コロナ後にはもちろんインバウンドで訪れた方にとっても利用しやすい施設になるはずです。短期的な目線だけでなく、長期的な目線も大切にしながら今後も取り組みを進めていきたいと考えています。

長期的視野での取り組みというともうひとつ、人材育成にも力を注いでいます。釜石OFMでは、市民が自分の住む地域を再発見・再評価することで、釜石に住んでいることに自信と誇りを持つことを目指しています。学校教育と連動して、積極的に学校に出向き、コミュニティスクール等の開催を通じて郷土愛を育み、釜石の次世代リーダーを育成したいと考えています」

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