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海外レップやエージェントと連携し、世界マーケットでのプレゼンスを高める(木曽おんたけ観光局の取り組み)

海外レップやエージェントと連携し、世界マーケットでのプレゼンスを高める(木曽おんたけ観光局の取り組み)

海外レップやエージェントと連携し、世界マーケットでのプレゼンスを高める(木曽おんたけ観光局の取り組み)

2017年設立の木曽おんたけ観光局は、中山道文化と木曽路ウォーキングに加え、御嶽山信仰といった資源を観光に活かし、B to Bプロモーションを主軸に誘客を実施。本サイトでもその取り組みを紹介しました(https://action.jnto.go.jp/casestudy/1769)。新型コロナウイルスの影響で訪日外国人旅行者は激減したものの、アフターコロナを見据えた新たな取り組みを推進しています。こちらの記事では、コロナ禍でのインバウンド施策について、木曽おんたけ観光局でB to Bのセールス&マーケティングを担当する山田氏にお話を伺いました。

公式サイト
https://visitkiso.kisodani-trail.com/

B to Bプロモーションに特化し、好調な売上を達成する中でコロナに直面

―コロナ以前の、木曽おんたけ観光局のインバウンド施策について教えてください。

「木曽おんたけ観光局では、2017年の設立以来、税金や補助金に頼らない『自走するDMO』を目指して活動してきました。

最初に行ったのが『 B to Bに特化したプロモーションを行う』という基本方針の策定です。 B to Cで広告を打つのは莫大な予算がかかるわりに、『実際にどれくらい旅行者が来てくれるのか』といった効果を測定できません。そこで、ファムトリップを通じて海外エージェントに木曽の魅力を体感してもらい、ツアー商品に木曽の観光コンテンツを組み込み、確実に送客につなげようという戦略を立てたのです。

また、『海外から木曽への導線』を基準にメインターゲットとなる国・地域を絞り込みました。具体的には、木曽への入口として、東京(羽田、成田)、名古屋、関西を想定し、この3都市の空港に直行便が就航している国・エリアを調査。その中から『街道歩き』『歴史』『文化体験』『木曽ヒノキの木工体験』という木曽の観光コンテンツに魅力を感じてもらえる旅行者層を想定し、最終的に台湾、ドイツ、イギリス、オーストラリアをメインターゲットとしました。

同時に、海外のターゲット国に観光レップを設置しました。 プロモーションを実施するたびに現地を訪れると旅費による経費がかさんでしまうため、経費削減を目的に現地事業者に木曽のプロモーションを依頼する仕組みを構築したのです。

さらに、第2種旅行業登録を取得し、海外エージェントが木曽おんたけ観光局独自のシステムを用いてオンラインで宿泊施設を予約できるシステムも構築しました。予約時の手数料収入が観光局の重要な財源になると考えたからです。

現在では、ドイツ、イギリス、オーストラリアにレップを置くほか、世界の約320社のエージェントと常時つながっていて、『新たな旅行商品の発売』『宿泊施設の宿泊料金』といった情報をニュースレターで定期的に発信しています。

こうした取り組みによって、2019年度は約2,000人のゲストを迎え、1億円を超える売上を達成することができました。3年間でここまで到達して、次の課題が見え始めたタイミングでコロナ禍に見舞われたというのが現状です」

木曽おんたけ観光局の「B to Bプロモーション」について、詳しくは下記の記事をご覧ください。

海外レップやエージェントとのつながりを維持するための取り組みに注力

―新型コロナの影響で、木曽おんたけ観光局のインバウンド戦略には、どのような影響が生じたでしょうか?

「B to Bプロモーションを軸としたインバウンド戦略は、コロナ禍になってからも変わっていません。ただ、木曽地域の観光需要の大半がインバウンドの観光客によって支えられていましたので、やはりコロナの影響は大きいです。実際、複数の宿泊施設が事業継続を断念せざるを得ない状況に陥りました。現在のところ、2021年10月、11月には宿泊予約が入っているのですが、今後の感染状況によって海外からの渡航解禁が遅れ、この予約が消滅してしまうような事態になると、さらに厳しい状況になると危惧しています」

―コロナ禍の影響を受けた現状を踏まえ、現在はどんな施策を実施されているでしょうか?

「2020年4月に日本への渡航制限が本格化した段階で、私たちは各国のレップに連絡して、各エージェントがコロナ禍の今、どの程度活動できているのかを把握しました。残念ながら、過去にファムトリップに参加してくれた60のエージェントのうち約半数は、担当者が変わったなどの理由から、以前のようなビジネスを維持できない状況になっているようです。

現在は、インバウンドがいつ戻ってくるかわからないこともあって、当面9月末までは海外マーケットへのアプローチはすべてストップしています。ただ、海外レップやエージェントに対しては、オンラインでのトレーニングの他、観光局で製作したビデオやパンフレットを配布するなどの活動を通じて、300社以上あるパートナーとの関係を維持する努力をしています。この困難な状況の中でも木曽のプレゼンスを保っていられるのは、やはり海外パートナーのネットワークが構築できていたおかげだと感じています」

Kiso English Brochure

海外レップやエージェント向けに制作したパンフレット

 

「木曽の多面的な魅力発信」と「人材育成」で、ツーリズム視点のまちづくりを目指す

―「アフターコロナ」を見据えた新たな取り組みがありましたら、ご紹介ください。

「2021年は、新たな着地型オプショナルツアーの開発を行っています。コロナ以前は、ウォーキング、ハイキング目的の外国人リピーターが数多く訪れてくれていたため、正直なところ、新たな観光コンテンツ開発が手薄になっていたことは否めません。『1泊のみのお客様が多いこと』『雨でハイキングが楽しめない場合の代替コンテンツがないこと』が、私たちの課題でした。コロナ後は、街道歩きにとどまらない木曽の多面的な魅力を体験していただきたいと思っています。

そのひとつが、『食をテーマとしたガイド付き半日オプショナルツアー』の開発です。木曽地域には伝統的な酒蔵が数多くあります。『日本酒の製造工程を見学して試飲もできる』コンテンツを開発しています。

もうひとつが、『滝行を含めた体験型コンテンツ』の開発です。宮司さんをガイド役に御嶽古道をたどり、昼食は精進料理、最後に白装束に着替えて滝に打たれるという内容です。FIT (Foreign Independent Tour=自由気ままな個人旅行者) 向けにはすでに提供しているものですが、木曽の歴史や文化に触れたいという海外からのお客様に『滝行が体験できますよ』と紹介すると、多くの方が興味を示してくれます。そこで、このプログラムをさらに改善して、インバウンド向けのオプショナルツアーとして販売しようと考えています。

着地型オプショナルツアーの開発には、『延泊』や『観光コンテンツの多様化』以外にも『販売チャネルの多様化』というメリットがあります。たとえば、東京には食に特化したインバウンド向けツアーの開発・販売を行っているオプショナルツアー会社があります。こうした会社は世界中のエージェントともつながっていますから、開発したツアーを彼らのチャネルを活用して販売することも期待できるのです。他社のチャネルも活用して木曽地域の多様な観光コンテンツ情報を発信していくことが、2022年に向けての私たちの課題です。

私たちのターゲットは『オーバーツーリズムになっている地域のお客様を木曽に呼び込む』ことです。海外のエージェントたちに話を聞くと、ほぼ間違いなく『日本の観光において人気観光地は必須』という答えが返ってきます。ただ一方で、人気観光地の旅館やホテルへ個別に話を聞いてみると『たくさんの方に来ていただくのはうれしいが手が回らない』という声も聞こえてくる。コロナ以前の人気観光地の中にはオーバーツーリズムになっていた地域もあると思っています。

私たちはコロナ以前から、もともと木曽に興味をもつエージェントを選定し、ファムトリップを通じて木曽の魅力を細かいところまで丁寧に説明してきました。その結果、ファムトリップで訪れたエージェントの多くが『木曽のファン』になり、実際にツアーを造成し、送客につなげてくれています。一度実績ができれば観光業界内で評判が広まりますから、今後はさらに木曽のファンを増やし、多くのエージェントに『何となく人気観光地』ではなく『どうしても木曽』と言ってもらえるよう努力していきたいですね」

―「アフターコロナ」に向けた中長期的な戦略について教えてください。

「第1は、『アジアマーケットの開拓』です。これまではヨーロッパ市場が絶好調だったため、アジアに注力していなかったのですが、コロナ禍の間にアジアマーケットの開拓も始めました。台湾、タイ、シンガポール、香港で約100社のエージェントと関係を築いています。

第2は、『人材育成』です。現在は、海外エージェントがWebサイト上で予約・決済できるシステムの構築・運用など、多くの業務を外部パートナーに委託しています。将来的には観光局のスタッフが自ら開発・運営・管理できるような体制を整え、木曽地域における観光業をサステイナブルな存在にしていかなければなりません。

旧来の観光施策は主に役場の職員が支えてきましたが、世界マーケットを相手にビジネスを行う現代の観光業は『スペシャリスト集団』でなければなりません。そのために、木曽町から東京や名古屋の大学に進学し、観光に関する専門知識を学んだ若者たちが地元に戻るというサイクルをつくり出したい。そのためには、この地域の若者たちに『地元を支える観光業は魅力的な仕事』と認識してもらえるような取り組みが必要だと感じています。

最近では、他地域から木曽町に移住して宿泊施設やレストランを経営する若者も増えてきています。こうした『外からの視点』を持つ人たちと協力し、時には意見を戦わせながら、『ツーリズム視点のまちづくり』を進めていきたいですね」

―最後に、インバウンドに携わっている全国の地域の方々へ向けたメッセージをお願いします。

「海外の観光関係者と話していると、ほとんどの人が『日本は本当にいいところだ』『日本に行ってみたが、すごく良かった』と言ってくれます。私自身、この仕事をしていて良かったと感じる瞬間でもあります。その半面、この恵まれた条件の下で、これまではベストの努力をしなくても集客できていた地域もあるように思います。しかし今後は、インバウンドによる訪日外国人旅行者が『戻ってくる地域』と『戻ってこない地域』の差が明らかになってくると感じています。コロナ禍の現在は、これまでの活動を見直し、改善につなげていくための絶好のチャンスなのです。

今こそ、各地のDMOが互いに情報を共有し、緊密に連携することで、さらに大きなスケールでインバウンド施策を語り合う土壌をつくっていきたいと思います。一緒に頑張りましょう」


木曽おんたけ観光局 山田 隆
観光産業、ホスピタリティ産業で15年以上の豊富な経験を持つ。 木曽おんたけ観光局では、海外セールス&マーケティングのディレクターとして、オセアニア、全ヨーロッパ、アジアマーケットを統括している。