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  • 環境の維持が観光促進、さらには経済活性化へ。バードウォッチングを中心とした自然体験(金武町の取り組み)

沖縄本島中央部東海岸に位置する金武町は、タコライス発祥の地として知る人ぞ知る町。とはいえ「金武町(キンチョウ)と読める人はなかなかおらず、どこにあるのか知らない人が多い」という知名度の低さが悩みの種でした。観光客が通り過ぎてしまう、何もないかのような町でしたが、ここ数年、バードウォッチングや町を流れる億首(オククビ)川のマングローブ林を巡る自然体験を主体とした観光ツアーで注目を集めています。ツアーの魅力や今後の展開が期待されるアドベンチャーツーリズム(AT)への意欲、ATの促進に向けた課題などについて、ネイチャーツアーを企画・運営する沖縄ネイチャーオフィス(ONO)の嵩原(たけはら)氏、金武町観光協会の喜久山事務局長 にお話を伺いました。(ページトップの画像:金武町を代表する留鳥のひとつリュウキュウヨシゴイ、写真提供:沖縄ネイチャーオフィス)

目次

はじめの一歩は、野鳥が多い特別な場所であることを地元の人に知ってもらうこと

―はじめに、金武町の特徴について教えてください。

喜久山氏「沖縄本島のほぼ中央に位置し、大きな金武ダム湖や億首川など豊富な水資源が金武町にはあります。そのため農業が盛んで水田の他、沖縄の伝統料理に欠かせない田芋の栽培地が広がっています。億首川の河口にはマングローブが自生し、数多くの鳥類が見られる探鳥地としてバードウォッチャーにはつとに知られた地です。日本国内だけでなく海外からもバードウォッチングに訪れる人がいるほどです。

県内の人にとっての金武町は、米軍の海兵隊が所属するキャンプ・ハンセンがある基地の町というイメージが強いかもしれません。町には米兵向けの飲食店が数多くあり、コロナ以前は賑わいを見せていました。観光協会は、今年やっと8年目を迎えたところで、これまではあまり県外に出て町のPRをすることもありませんでしたが、対外的に金武町のイメージがあまり伝わっていない状況にあること、バードウォッチングをはじめとするネイチャーツアーが人気となっていることなどから、今後PRに力を入れていきたいと考えています」

―趣味の世界では名高かった探鳥地としての特性を活かしてネイチャーツアーをつくろうとしたきっかけを教えてください。

嵩原氏「フィリピン、マレーシア、中国などのアジア諸国が参加するアジア・バードフェアに出席した際、エコツーリズムとしてバードウォッチングを据えている地域があることを知りました。日本ではまだバードウォッチングを組み込むようなツアーをあまり見かけませんでしたが、私は長年野鳥を追いかけて調査などをしてきましたので、金武町には高いポテンシャルがあると思いました。福花原 (フッカバル)地区、武田原(ンタバル)地区の田芋栽培地や水田域をはじめ、億首川流域などに飛来する渡り鳥や留鳥は270種を超えています。リュウキュウヨシゴイやジャワアカガシラサギ、ブロンズトキやレンカクなど、国内では極めてまれにしか見られない鳥が訪れやすく、飛来情報が流れると、本土から飛行機を乗り継いでやってくるファンもいるほど。バードウォッチングを中心としたネイチャーツアーを展開すれば、金武町の観光振興に寄与し、インバウンドにもつなげられるはずだという期待感を持ちました。

こうして金武町ややんばるの自然に触れるさまざまなネイチャーツアーを企画・運営する沖縄ネイチャーオフィス(ONO)*が2019年9月に設立されました。やんばるの固有種であるノグチゲラ、ホントウアカヒゲ、ヤンバルクイナを観ることを目指しながら、その他の野鳥観察や自然観察を楽しむ『やんばるの固有種3種ツアー』や、早朝にカヌーで漕ぎ出して日の出を水上から眺め、マングローブ林や野鳥観察をしながら自然と戯れる『億首川サンライズカヌーツアー』など、さまざまな自然体験をセットにしたガイドツアーが好評を博しています。参加者からは『こんなに野鳥が多いとは思わなかった』という驚きの声が届いている他、地元の人がバードウォッチングを楽しむことも増えていたり、インバウンドに対応したツアーを実施したり、波及効果が出ています」

*:合同会社沖縄ネイチャーオフィスは2019年9月設立。金武町をはじめとする沖縄・やんばる地域の自然をより深く知ってもらうために、鳥類やマングローブ林、海洋生物などの専門家たちがガイドするツアーなどを開催している。

福花原での探鳥会の様子(写真提供:沖縄ネイチャーオフィス)

福花原での探鳥会の様子(写真提供:沖縄ネイチャーオフィス)

―野鳥が飛来する水田や田芋の生産者には、ツアーへの理解をどのように得たのでしょうか。また観光協会とはどのような連携がありますか?

嵩原氏「これだけの鳥類が見られるというのは、野鳥の生息に適した環境があるからに他ありません。これまで維持し続けてくれた農家の方々に深い敬意を表します。ツアーを始めるにあたっては観光協会と協力して、金武町でよく見られる鳥類と観察方法を記したパンフレットを作成して、学校や観光事業者に配っただけでなく、農家にも併せて配布しました。これを見た農家の方々から『ここに載っていた鳥がいた』と野鳥の情報があがってくるようになりました。野鳥は時に農作物の若い芽をついばんだりして迷惑をかけるものもいるのですが、『これは鳥の分』だと、作物を少し残してくれたりすることもあるようです。

また野鳥パンフレットを参考に、自分の農作業所の壁に野鳥の絵を描いた農家の方もいます。野鳥の重要性や観光振興に貢献するであろうことが農家の方々に伝わり、これまでは農家の敵のように思われてきた野鳥を好意的にとらえてもらえるようになってきているのではないでしょうか。今後は町全体で協力体制を組み、振興していこうという機運もあがってきているところです。私たちも観察中に夢中になりすぎて農作業を邪魔しないように、参加者に対しては配慮するよう声がけをしています。また同様に、観光資源のひとつであるマングローブの干潟に入って根を荒らすことのないよう立ち入り制限を設けるなど、今後はルールの徹底も必要になってくると考えています」

農作物の調整・加工を行う作業所の自然イラスト(写真提供:沖縄ネイチャーオフィス)

農作物の調整・加工を行う作業所の自然イラスト(写真提供:沖縄ネイチャーオフィス)

 

ポテンシャルのリサーチを進め、インバウンドに向けて体制づくりを強化

―インバウンドの受け入れ体制や、今後拡がることが予想されるアドベンチャーツーリズム(AT)への対応として、どのようなことを準備されているのでしょうか。

喜久山氏「ATについてはまだ勉強中の段階です。今は民間の旅行会社に入ってもらい、どんなことができるのか検討を重ねているところですが、旅行会社からは『金武町は条件が整っている』とお墨付きをもらっています。野鳥、川やマングローブ林といった魅力的な自然があり、ONOをはじめアクティビティを主催する団体もしっかりしている。さらにハワイをはじめ海外への移民を多く送り出した町の歴史的背景や、米軍基地があるという学びの要素もあるし、豊かな食環境もある。今はまだこれらが点と点でしかありませんが、体制を整えながら魅力をしっかりと発信できるように、点をつなげて地域一体となって取り組んでいきたいと考えています。

インバウンドについては、まずキャンプ・ハンセンにいる米兵とその家族たちをターゲットに、ニーズを掘り下げていこうと動き始めたところです。月に1回、基地に赴いてガイドブースを設けガイドブックを配りながら、金武町でどんなことをやりたいかアンケートをとっています。米兵は任期が大体2年間です。アメリカに帰った時に『金武町は良いところだった』と言ってもらえれば、それだけで良いPRになると思います。彼らからニーズをつかみ、インバウンドを受け入れるベースづくりをしたいと考えています。そのひとつの施策として、キャッシュレス化を急いで進めていきたいところです。コロナ禍が終息した時に、米兵にもっと町に出てきてもらうためにも、キャッシュレス化を進めれば経済効果が一気に上がるのではと期待しています」

嵩原氏「バードウォッチングは欧米人を中心に人気が高いアクティビティです。インバウンドへの対応としては、先程お話した野鳥パンフレットの英語版を作成し、無料で配布し活用してもらっています。また観光関係の講座にスタッフを参加させて、スタッフ教育も行っているところです」

喜久山氏「観光ガイドの育成を行い、2020年には17名が養成講座を卒業しました。ただコロナ禍なので、卒業しても実際にガイドとして活躍する場がないのが現状です。そうなるとせっかく学んだ知識やトークを忘れてしまいがちですし、モチベーションも下がってしまうでしょう。そこでチャンスが遠のいてしまっているガイドを対象に、能力のブラッシュアップを行ない、インバウンドにも対応ができるような講座を開設する予定にしています」

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人と自然が共生しつつ産業の活性化につながるサイクルづくりを進める

―環境を維持しながら観光客を呼んで地域経済を発展させるために、課題としてどんなことがあげられますか?

嵩原氏「環境の維持にあたっては、真っ先に『SDGs』の目標にも掲げられている、陸の生態系を守ることが課題として挙げられます。特にヤンバルクイナの数を減らした大きな原因のひとつである、外来種のマングースを減らしたいですね。マングースはハブの駆除のために持ち込まれ、数を増やして陸上の生態系を壊しています。野鳥に対しても、卵やヒナへの被害が見られるので、従来の生態を守るべく対策が急がれるところです。またマングローブ林には、絶滅危惧1A類に指定されているヒルギモドキが生育しています。日本の北限にあるヒルギモドキを過度な利用から守る意識付けも課題だと考えています。

そしてバードウォッチングには農家の方々の協力が不可欠ですが、こうした方々にも利益の一部を還元できる仕組みがつくれないかと思案しているところです。ただこれは民間の小さな会社だけでできることではありません。自治体などとも協力しながら、人と自然が共生して産業の活性化につながるサイクルをつくり、うまく機能させていかなければと思っています」

喜久山氏「環境維持と経済の活性化は、少し前までは相反するもののように捉えられていたと思います。しかし金武町では、環境を維持することが観光の促進につながり、経済の活性化にまで及ぶと考えています。これまで祖先たちが大切に維持してきた自然の重要性、そして自然とともに生きるということはどういうことなのかといったことなどを若い世代に伝えて受け継いでもらえるよう、おじいやおばあの話を聞くような身近なことから進めていければと思います」

―これからの金武町はどのような観光スタイルを確立していこうと考えているのでしょうか。

喜久山氏「これまで金武町は、那覇に来た観光客が『美ら海水族館』がある本部(モトブ)や、ダイナミックな自然環境が残る大宜味村、東村、国頭村といったやんばる地域に向かうまでのただの通過点でしかありませんでした。観光客がバードウォッチングで訪れたとしても町内に滞在しながらではなく、別の地域に宿泊する通過型でしかなかった。しかし今後はそれを滞在型に変えていきたいと考えています。『奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(奄美・沖縄)』が世界自然遺産に登録された ので、やんばる地域への注目度も世界規模で一気に上がるはずです。金武町はやんばる地域を広くとらえると、やんばるの入口にあたります。バードウォッチングを中心とした自然体験の素晴らしさを金武町でまず感じてもらい、さらに奥深い沖縄の自然を大宜味村、東村、国頭村などに足を伸ばして体験してもらう。そうした流れを、やんばる地域の北部12市町村と連携して共通したイメージづくりや宣伝活動をしていきながら、観光客が『訪れたい』と思う仕組みづくりをしたいと考えています」

沖縄ネイチャーオフィスの「バードウォッチングを中心とした観光誘致」の取り組みをはじめ、国内・海外から集めた野生生物を主体とする観光の事例集「生きものとの出会いの旅を創る」(環境省作成)を下記URLにて見ることができます。各団体がどのようにその地域ならではの取り組みに着手したか、きっかけや背景を含め掲載されています。

「生きものとの出会いの旅を創る」
https://www.env.go.jp/nature/wildlifetourism/20210315_20casestudiesofwildlifetourism.pdf

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