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岐阜県では“日本の源流に出会える旅”をコンセプトに、持続可能性(サステイナビリティ)を意識したプレイス・ブランディングを行っています。持続可能な観光を推進するオランダのNPO“Green Destinations”が選ぶ「2020年サステイナブルな旅行先トップ100(2020 Sustainable Top 100 Destinations)」に白川村が選出されるなど、サステイナブル・ツーリズムに関する取組は、国際的にも高い評価を集めています。こちらの記事では、持続可能な観光地マネジメントに取り組む岐阜県観光国際局海外戦略推進課の加藤英彦様へのインタビュー(前編)を掲載します。自治体によるサステイナブル・ツーリズムの推進やブランディングにご関心のある方はぜひご参考ください。
※所属・役職は取材当時の情報です。

公式サイト
https://visitgifu.com/

目次

ブランド価値として考えてきたものが、サステイナビリティに繋がっていた

──岐阜県ではいつ頃からどのような経緯で、ブランド戦略にSDGsやサステイナブル・ツーリズムの観点を取り入れたのでしょうか?

「岐阜県には、日本を代表するようなテーマパークがあるわけではなく、有名なところで言えば、自然や昔ながらの文化が残る飛騨高山や、日本三名泉のひとつである下呂温泉、1300年の歴史を持つ長良川鵜飼くらいで、国内外にPRする観光コンテンツはあまり多くありませんでした。そこで2009年から飛騨・美濃じまん運動『岐阜の宝もの認定プロジェクト』と銘打ち、“知ってもらおう、見つけだそう、創りだそう ふるさとのじまん” を合い言葉に、県民一人一人が身近にある様々な観光資源に磨きをかけ、情報発信することで、地域の特性を活かした誇りを持てるふるさとづくりを目指す取組をスタートさせました。

この『岐阜の宝もの』に認定されると、組織の体制づくりや維持・運営、そして国内外へのPRなどのサポートが受けられますが、それ以上に、この運動により、先人から受け継がれて来た自然や伝統・文化、技術など多くの地域資源に観光コンテンツとしての光が当たることになるのです。たとえば、『地歌舞伎』『小坂の滝めぐり』『中山道ぎふ17宿』『乗鞍山麓五色ヶ原の森』など、まさにサステイナブルな観光資源として、今や岐阜県の魅力の中心となっています。

海外戦略における知事の考えは、『世界で評価されるものは必ず日本でも評価される。最初から海外を視野に入れて戦略を立てるべき。』というものでした。自治体は、基本的に縦割りの組織ですから、どうしても部局を横断しての連携が弱く、分野を超えた一体的なプロモーションが難しい傾向にあります。しかし、岐阜県は、少ない予算で最大限の効果を発揮するため、各分野が個々に取り組むのではなく、部局の壁を取り払い、『観光・食・モノ』を三位一体でPRしようと、2009年から『飛騨・美濃じまん海外戦略プロジェクト』として、海外プロモーションをアジアでスタートさせました。

その後、伝統・文化、農業、林業、歴史、人道精神などへと、さらにその枠を全庁的に広げ、『オール岐阜』の魅力として世界にアピールしていこうという流れとなりました。こうして、アジアを中心に始めたプロモーションを、2012年からは欧州、2016年には米国、2019年は豪州など、欧米豪でも展開してきました。この全庁的に連携したプロジェクトこそが、図らずも多角的な取組を必要とするSDGsやサステイナブル・ツーリズムの推進に繋がっていると思います」

──「飛騨・美濃じまん海外戦略プロジェクト」では「観光・食・モノ」をどのようにPRしていったのでしょうか?

「このプロジェクトの中では、岐阜県の魅力ある地域資源を以下のようにPRしてきました。

○世界遺産にも登録された合掌造り集落で有名な白川村。合掌造りは、岐阜県以外の地域にもありますが、その多くは、入場料を払い見学するだけの施設です。しかし、白川村の場合は、今もそこで人々が生活を営んでいます。観光客は、そこに宿泊し、囲炉裏を囲んで食事をするなど、その暮らしぶりを体験することもできます。

○江戸時代に整備された五街道のうち、連なった町並みが最も多く残ると言われる中山道。岐阜県には、その沿線を中心に、地歌舞伎という伝統芸能が根付いてきました。当時、娯楽の少なかった住民が興行で訪れた歌舞伎役者を見よう見まねで始めた地歌舞伎は、江戸時代から脈々と受け継がれ、地歌舞伎の保存団体も芝居小屋も日本一多く残っています。

○岐阜県中濃地域にある関市は、世界三大刃物の産地のひとつと言われています。徳川家御用達の刀匠である25代目藤原兼房さんは、26代目となる息子さんとともに今も刀鍛冶の技術を継承しています。また、ユネスコ世界文化遺産に登録された美濃和紙は、正倉院に保存されている戸籍の一部に使用されていたとの記録が残る日本最古の紙であり、1300年の歴史があります。このように、岐阜県は、刄物、和紙、陶磁器、木工など、日本一レベルのモノづくりの集積地であり、“匠の技”が今も受け継がれています。

○全国にある鵜飼いのうち、宮内庁式部職鵜匠に任命されているものは長良川鵜飼(岐阜市)と小瀬鵜飼(関市)のみで、1300年前の伝統漁法を今も見ることができます。長良川は、『清流長良川の鮎』として世界農業遺産にも登録されており、川の水をきれいに保ち続けてきた自然の循環システムがあります。関の刄物や美濃和紙も、清流長良川により育まれたものと言えます。

こうした岐阜県の魅力に共通しているのは、豊かな自然の下、先人から受け継がれてきた伝統・文化であり、観光用に作り上げられたものではないということです。そして、長い時を超えて人々の暮らしの中に息づいています。昨今、世界的にSDGsが注目されていますが、岐阜県には古来、自然や里山、伝統・文化、匠の技など、1300年の時を超えて今に受け継がれてきた地域資源がありました。『岐阜県の魅力=持続可能な地域資源』であり、SDGsを前面に打ち出さずとも、岐阜県がブランド価値として考えてきたものが、まさに『サステイナビリティ』に繋がっていたのです」

世界に通用する海外戦略

 

ブランドコンセプト“Timeless Japan, Naturally an Adventure”

──ブランディングを考える際に、サステイナブルを意識したそうですが、何が大切だと思われますか。また、どのような工夫をされましたか?

「最近、自治体等から『富裕者層だけを誘致したい』という声をよく聞きますが、大切なのは、『富裕者』とターゲットベースで考えることではなく、自分の地域の強みや他の地域と差別化できるものは何か、そして、来訪者がここで得られるものは何か、というブランドポジショニングを考えた上で、ターゲティングをすることが重要だと思います。

そこで私たちが辿り着いたのが、“Timeless Japan, Naturally an Adventure ” という岐阜県が持つブランド価値でした。“Timeless Japan”は伝統や文化などが長い時を超えて受け継がれてきたこと。“Naturally an Adventure”はそれが観光用に作ったものではなく、本来あったものであることを意味しています。長い時を超えて受け継がれた本物の日本を体験できる場所が岐阜県にはあるという想いがこの言葉に込められています。 そして、この岐阜県のブランドに価値を見出してくださる方こそが我々のターゲットであると考えました。

インバウンド向けの新たな取組み「プレイス・ブランディング」

以前は、海外のメディアを招請した際など、長良川の鵜飼いについて『チャップリンも船に乗りました』とか『水に映る漁火がきれいですよ』というような説明をしていました。しかし今では、職員にブランディングの意識が浸透しており、『長良川の鵜飼いの魅力は、1300年以上、地域住民がこの川をきれいに保ってきたことであり、美濃和紙や刄物も長良川流域だからこそ発展したと言えます。1300年も前の伝統漁法を今もご覧いただけます』と説明しています。それを聞いた記者は、地域住民による持続可能な取組に興味を持ち、記事の書き方や、メディアでの扱い方が全く変わった印象があります。

ちなみに、このブランディングでは、サステイナブルな要素を感じさせるようにしていますが、『SDGs』というワードは、一切出していません。『SDGs』という単語が持つアカデミックな響きに身構え、距離を感じてしまうかもしれないからです。しかし、コロナ禍において、世の中は『自然』や『安全・安心』への意識が強くなり、世界的にSDGsやサステイナブル・ツーリズムの必要性への認識が一気に高まったと言われています。このため、インバウンド向け県公式Webサイト のSEO対策として、今後は『SDGs』『サステイナブル』などのキーワードをより強く意識しようと考えています。

また、岐阜県のブランディング “Timeless Japan, Naturally an Adventure” のもと、『自然』『伝統』『文化・暮らし』『食』という4つのテーマを設け、外国人の目線による岐阜県のPR動画を制作し、YouTubeで配信しています 。動画を制作した映画『ダ・ヴィンチ・コード』のフランス人カメラマンチームにブランドコンセプトを丁寧に伝え、映画の予告編のイメージで制作しました。『映画の本編は、実際に岐阜県に来て体験してください』というメッセージを込めています。これが大変好評で、再生数は700万回を超えており、ここでもSDGsの理念に沿ったプロモーションの手ごたえを実感したところです。今後もサステイナブルな岐阜県の魅力を国内外へ発信し、アフターコロナにおいても“選ばれる旅先”を目指します」

 

サステイナブル・ツーリズムに関する取組

──現在(2021年3月)、サステイナブル・ツーリズムに関して、どのような取組を行っていますか?

「『プロモーション』と『地域住民の理解を含む受入環境の整備』という2つの側面で取り組んでいます。プロモーションについては、地方の自然が豊かなエリアであれば、多くの地域が『サステイナブル』というワードを使ってプロモーションすることが予想されますが、Webサイトや動画、冊子等で、『我が地域はサステイナブルだ』と自負するだけではなく、『国際的に認められる』というエビデンスを示すことがカギになると思います。

岐阜県には、世界文化遺産『白川郷』をはじめ、世界農業遺産『清流長良川の鮎』、世界無形文化遺産『本美濃紙の手漉き和紙技術』など、多くの世界に誇る遺産があります。これらは環境(自然遺産の保護、資源のマネジメント)や、文化(有形・無形文化遺産の保護や継承)などの目標に対するPDCAが確立され、それが評価された証であり、SDGsの理念に合致しています。こうした世界的な評価に加え、たとえば、本美濃紙は『ルーブル美術館や大英博物館の東洋画の修復の9割に使用されている』『東京五輪の表彰状に採用された』など、世界的な話題となるストーリーも重要です。海外から訪れる価値がある場所だと感じられるようなアピールの手法を、あらゆるツールに盛り込んだプロモーションを行っています。

また、地域住民の理解を含む受け入れ環境整備は、さらに重要だと考えています。プロモーションによって訪日旅行者が増加しても、現場で持続可能な取組が実践されておらず、また観光事業者やガイドが全くSDGsを認識していなければ本末転倒です。

岐阜県では、これまで『匠の技』『伝統・文化』『自然アクティビティ』など、サステイナブルに資する着地型体験コンテンツ(オプショナルツアー)を数多く造成して来ました。これらに加え、2020年度は『サステイナブル・ツーリズム』をテーマに、『清流長良川の循環システム』や『下呂温泉の温泉管理、自然遺産の保全』などの体験コンテンツを造成し、約50本のラインナップが揃いました。また、単なる観光案内だけでなくSDGsの知識、伝統産業や文化の専門用語なども身につけ、より的確に岐阜県の魅力を伝えられる語り部を育成するため、外国語観光ガイド育成事業も実施しました。一般的な観光の知識だけでなく、お客様目線でのマニュアルを作成の上、座学と実地研修を実施し、3年間で約270名の方が受講されました。さらに、県内の学校をはじめ、国内外からの教育旅行の場として岐阜県が選ばれるため、また、事前にサステイナブル・ツーリズムを学習して来訪できるよう、教育旅行誘致ハンドブックも作成しました。

まだまだ、地域住民に浸透しているとは言えませんが、こうした地道な取組を積み重ね、少しでも多くの方が、サステイナブルこそ岐阜県の魅力であると自覚することにより、自然保護、文化・伝統の継承、受け入れ体制の向上、そして何より、住民自身の地域への満足度向上に繋がることを期待しています」

──現在(2021年3月)のSDGs、サステイナブル・ツーリズムの推進体制を教えてください。

「SDGsの推進については、総合政策を担う『清流の国づくり政策課』を筆頭に、全庁的に行っています。サステイナブル・ツーリズムについては、私が所属する『海外戦略推進課』が中心となり、庁内関係部局と連携しながら取り組んでいます。以前から多くの部署で事業ごとに数値目標や指標を設定しPDCAを回してきましたが、分野ごとにベクトルの方向がバラバラであったため、清流の国づくり推進課のアドバイス の下、文化・商工・農業・林業・環境など、庁内の18の部局に対し、様々な資料や指標、事業計画などSDGsに関するヒアリングを行いました。並行して、県内の市町村や民間企業など様々な取組調査を実施し、『グローバル・サステイナブル・ツーリズム協議会(GSTC)』や『日本版 持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)』などの指標を意識した『岐阜県サステイナブル・ツーリズムの指標』の素案を作成したところです。

各課からは、『なぜ観光国際局である海外戦略推進課がヒアリングをするのか』と質問されましたが、『観光というフィルターを通すことで、地域住民がSDGsをより身近なものとして捉えることができる』という考えを伝え、同じ方向に動き出すことができました。観光がSDGsに取り組む意義のひとつが、ここにあります。

一般的に企業や地域住民の皆様は、SDGsと言われると、どうしてもゴミやCO2削減などの環境問題に対するイメージを抱くことが多いようですが、SDGsは環境だけの話ではありません。約1300年もの間にわたって川を綺麗に保全し、文化・伝統・匠の技を受け継いできたという先人が守ってきてくれた岐阜県の宝も、立派なSDGsであり、海外から高い評価を受けています。

観光として魅力のある素材がすなわちサステイナビリティに資するものであることは先ほど述べた通りです。観光を通じてより多くの地域住民にSDGsを理解してもらい、地域に愛情と誇りを持ってもらうとともに、岐阜県の地域資源が今後50年後、100年後も持続可能であってほしいと願い、サステイナブル・ツーリズムに積極的に取り組んでいます。

2021年度には、清流の国づくり政策課の中に『SDGs推進室』ができるとともに、観光国際局観光企画課に『サステイナブル・ツーリズム推進係』が新設され、今後さらにSDGs&サステイナブル・ツーリズムの取組が加速することになりました」

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