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「来てほしい人に来てもらう仕組み作り」高千穂町観光協会が実践するマーケティングの取り組み

「来てほしい人に来てもらう仕組み作り」高千穂町観光協会が実践するマーケティングの取り組み

「来てほしい人に来てもらう仕組み作り」高千穂町観光協会が実践するマーケティングの取り組み

訪日インバウンドプロモーションを実施するにあたり、まずは、各種データの収集・分析に基づき、ターゲット層を明確化し、マーケットインの視点から、そのターゲット層を呼び込むためにどのコンテンツをどのように発信し誘客に繋げていくかの戦略を立てることが重要です。今回、各種データを収集することにより外国人のニーズを分析しインバウンド施策に活かしている一般社団法人高千穂町観光協会の取り組みを調査しましたので紹介します。

対象地域
宮崎県高千穂町
面積
237.54平方キロメートル
総人口
12,205人(平成30年10月1日現在)
主要観光資源
高千穂峡、高千穂神社、天岩戸神社、神楽、国見ケ丘の雲海、高千穂牛
公式サイト
http://takachiho-kanko.info/

日本人には外国人のことはわかりません

九州山地の山間、熊本県と大分県との県境にある小さな集落・高千穂町。町域の大半を農地と山林が占めるが農業の後継者は減り、若年層の流出が続く、典型的な過疎・高齢化の町である。

「人口流出をくい止めるには、魅力ある町づくりが必要です。外国人がたくさん来てくれるようになれば、実は高千穂町はすごいんじゃないかと考えて若い世代が地元の産業を継ぐ気になり、Uターン、Iターンの人も増えるのではないか」。高千穂町観光協会でデータ収集・分析、戦略立案を担当する飯干隆佑さんは、インバウンド取り組みの背景を話す。

高千穂町にはアジアを中心に外国人が訪れてはいるものの、阿蘇・黒川(熊本県)、竹田・別府(大分県)などの有名観光地の中継点になってしまい、日帰りでの立ち寄りが圧倒的に多い。また、日本人には「古事記」「日本書紀」に登場する神話の地として知られていても、多くの外国人には地名はおろか、日本に神話があることさえ知られていないのが実情だ。

もっと外国人に来てもらい、滞在・周遊してもらうにはどうしたらいいのか。

「ターゲットは外国人ですから、外国人のニーズを把握する“マーケットイン”の視点で考える必要があります。でも私たちは日本人で、外国人の本当のところは理解できません。ならばデータを集めようと考えたのです」(飯干さん)。

 

ポイント①現状把握:高千穂で何が起こっているか

DMO設立初年度の2017年は高千穂の課題をあぶりだし、翌年度以降に施策に落とし込むことを目標に地道なマーケティングに取り組みはじめた。まず初めの調査は、「高千穂で実際に何が起こっているのか」。どこから来た人が、何を目的に高千穂を訪れ、どんな旅をしているかを把握することだった。

具体的な手法は、第一にアンケート調査だ。協会が運営する事業所(観光案内所など)やみやげ店、宿泊施設に依頼しアンケート用紙を置かせてもらい、定期的に集計を行っている。第二に、町内で一番外国人が訪れている観光名所・高千穂峡での聞き取り調査だ。聞き取りは町が募集した「地域おこし協力隊」の英語ができるスタッフに依頼し不定期に行っている。

また、Googleアナリティクスを活用しウェブサイトのアクセス解析も実施。デジタルを活用すれば、手をかけず数多くのデータ(閲覧者の属性、どこからアクセスしているか、デバイスは何かなど)をスピーディーに集めることができる。アナログなアンケート・聞き取りとデジタルを併用しながらデータ収集・分析を進めている。

 

ポイント②ターゲットを明確化

アンケートや聞き取りによるデータ収集は時間と手間がかかるため、集計数はまだまだ少なく調査を継続する必要はあるものの、すでに有益な発見があったという。

たとえば、アンケート項目のひとつが「高千穂に宿泊している人の属性」だ。台湾、香港、中国といった東アジアが多いのは感覚としてわかっていたが、アンケートによりフランス・オーストラリアからの30代の少人数グループも一定数、宿泊していることが判明。さらに属性と、彼らが実際に訪れた場所をクロスしたグラフで検証したところ、東アジア人は主要観光スポットだけ訪れ滞在時間が短いのに対し、フランス人旅行者は「神楽」「トレッキング」など幅広いコンテンツを目的に滞在・周遊していることがわかった。

フランス人はもともと日本文化への興味・関心が高く、高千穂町が訴求したい「神話」を理解し周遊してくれる可能性が高いのではないか。そんな仮説を立て、ターゲットとして想定することにした。

 

ポイント③検証・改善:思い込みの危うさ

アンケート結果で飯干さんも意外だったと話すのは、「外国人が高千穂峡を訪れる目的」だった。高千穂峡は切り立った峡谷に真名井の滝が豪快に流れ落ちる風光明媚な場所で、ほとんどの日本人観光客は橋の上や展望台から見下ろす風景を楽しむ。外国人もそうだろうと考えていたが、外国人への聞き取り調査では風景を見ることはそれほど重要ではなく、渓流でのボート遊び目的の方が圧倒的という結果になった。

「こういう思い込みを排除するためにこそ、データが重要なのです」と飯干さん。高千穂町では観光従事者も高齢化が進み、どうしても過去の成功体験や経験則にとらわれてしまいがちだ。「ベテランの経験を頭ごなしに否定するのではなく、データを集めることでベテランの知恵と経験をどう生かせばいいかがわかります。高千穂峡のアンケートは日本人の嗜好とはまったく逆の結果となり、大きな発見でした」(飯干さん)。

 

ポイント④外国人の行動・心理を可視化したカスタマー・ジャーニー・マップの活用

外国人のニーズ・行動を把握するもうひとつの手法として、飯干さんは「カスタマー・ジャーニー・マップ」を活用している。カスタマー・ジャーニー・マップとは、ある旅行者(ターゲット)の旅マエ・旅ナカ・旅アトの行動と心理を図式化したもの。たとえば、「ある場所である時間にひと休みする」という行動・ニーズがわかれば、その場所・時間に休憩できる店や商品を用意すれば販売チャンスになるというわけだ。

「カスタマー・ジャーニー・マップを作る際は、客観的な視点、フラットな考えを持ち、ブレーンストーミング(自由に意見を言い合うこと)ができる人を集めることが肝心です。地域にいる外国人が参加すると、外国人目線の意見も聞けてより精度が上がるでしょう」(飯干さん)。外国人の行動・心理を理解することで、受け身ではなく能動的に戦略を立てるヒントになる。

 

神楽・神話をフックにしたプロモーション

「神話・神楽というコンテンツをインバウンドにつなげたい」と飯干さん。高千穂の神楽は毎年冬期に、豊穣に感謝し夜を徹して奉納される神事だ。だが外国人には知られておらず、外国人が理解するには難解でもある。まずは神楽を知ってもらおうと、2017・2018年に羽田空港国際線ターミナルで外国人に神楽を披露した。また高千穂神社では観光客向けにハイライトだけ1時間で楽しめる「夜神楽」を通年行い、外国人も気軽に鑑賞できる。今後は神楽を夜のコンテンツに、さらに冬の早朝に見られる雲海を朝のコンテンツとしてプロモーションし宿泊客を取り込んでいく。

情報発信・受け入れの面では、これまでウェブサイトやパンフレットの多言語化、観光案内所の英語対応などを実施してきた。次の課題は、ウェブサイトの全面リニューアルだ。「観光協会のウェブサイトを英訳しただけでは、旅マエの情報発信としては訴求力が弱く検索されにくい。ビジュアルをメインにしたグローバルウェブサイトを構築し、さらに外国人は体験者のレビューに影響されるというリサーチ結果もあるため、レビュー機能も強化していく計画です」と、飯干さんは今後の取り組みについて話す。

 

メッセージ 一般社団高千穂町観光協会 調査戦略立案専任 飯干隆佑さん

「データを集めること=マーケティング」と思っている人は少なくありませんが、本来は「売りたい人に売る、来てほしい人に来てもらうための仕組み作り」がマーケティングです。そのことを理解してもらうことから私たちのマーケティングはスタートしました。高千穂に合う人を探し、実際に来てもらうために、アンケート調査からコツコツと取り組んでいます。小さな町のDMOですが、宿泊業者による「高千穂観光マーケティング委員会」など若手プレーヤーも現れています。今後はデータを誘客につなげていくことが課題です。

 

プロフィール

「天岩戸神話」の舞台で、神話ゆかりのスポットや神社が多数点在する高千穂町。冬期に各集落で行われる神楽は、豊穣を祝って奉納される伝統的な神事で、国の重要無形民俗文化財に指定されている。また天然記念物の高千穂峡は国内外の旅行者に人気の観光スポットとなっている。DMO法人高千穂町観光協会は2017年に設立。基幹産業である農業が過疎・高齢化の課題を抱えるなか、農業を観光で支え、住民が誇りと郷土愛をもてる地域づくりを目指しインバウンドに取り組んでいる。

 

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今回は外国人のニーズを調査・集計し今後のインバウンド施策に活かす取り組み事例として、高千穂町観光協会をご紹介しました。

>「高千穂町観光協会 インバウンド 事例調査レポート」PDFはこちら<