インバウンド促進は、地域それぞれでプロモーションするよりも、広域で連携し、テーマ性を持った一体感のあるプロモーションを行うことにメリットが発生します。そこでは、いかにプロモーションのノウハウを地域に落とし込み、関係者を広域でまとめられるかが重要です。
今回は、広域連携のインバウンド促進取り組み事例として、海外での知名度の低さを課題としている山陰地方で活動する、国内最小の広域連携DMO、山陰インバウンド機構が、認知度向上のためにそれまでのプロモーション方針を大きく切り替えてインバウンド促進に向けて挑戦する、「ゲートウェイ戦略」をはじめとする各取り組みをご紹介します。

対象地域
島根県・鳥取県
面積
10,215.29平方キロメートル
総人口
1,240,143人(島根県679,626人/鳥取県560,517人)(平成30年10月1日現在)
主要観光資源
出雲大社、出雲の神話、足立美術館、鳥取砂丘、大山隠岐国立公園、松江城、山陰ジオパークエリア など
公式サイト
https://www.sanin-tourism.com/
https://sanin-japan.com/

目次

知名度不足と地方特有の課題を抱える山陰

「山陰のインバウンドの課題は“Nobody knows=誰も知らない”、つまり知名度の圧倒的な低さ」と話すのは、山陰インバウンド機構事務局長・市村節子さん。山陰には歴史、神話、文化、里山の自然など、外国人に響く観光コンテンツがあるものの、外国人にはほとんど知られていない。それどころか、山陰という地域が日本に存在することさえ知られていないのが現実だ。また定住人口の減少、高齢化、人材不足、二次交通、増加するFITへの対応やデジタルインフラの遅れといった、地方特有の課題も抱えている。

 

山陰インバウンド機構が取り組むゲートウェイ戦略

機構ではこれまでマーケット別戦略として海外の旅行イベントに参加してきたが、山陰の知名度の低さから誘客実績は伸び悩んでいた。そこで2018年、「ゲートウェイ戦略」に方針転換した。ゲートウェイ戦略とは、海外と山陰をダイレクトに結ぶ入り口である国際空港と国際港に加え、羽田発の地方空港路線、近県の国際空港とつながる鉄道や、高速バスなどを含めて山陰への入り口(ゲートウェイ)ととらえ、すでに来日している=日本に関心がある外国人にプロモーションをすることで効率よく山陰へ引き込む構想だ。

具体的には、以下が想定される。

①空路=ANAの「Experience JAPAN Fare」、JALの「Japan Explorer Pass」で山陰の5つの空港に降り立ってもらう

②鉄路=JRのジャパン・レール・パスやジャパン・ウェスト・レール・パスで関西圏や広島、岡山に訪れている外国人に山陰まで足を延ばしてもらう

そこで各社のホームページに山陰特設ページを設け、相互にリンクを貼り、各社のサイトから誘導することで山陰の魅力を効果的に伝え、誘客促進を図っている。

 

外国人目線のグローバルサイトで知名度を上げる

認知度の低い山陰だからこそ、せっかく山陰に来てくれた外国人にはなるべく滞在・周遊してほしいし、リピーターになってほしい。そこで機構は、2018年12月に「DISCOVER ANOTHER JAPAN SAN’IN」をコンセプトとしたグローバルサイトをオープンして、デジタルプロモーションを強化している。

グローバルサイト作成にあたってはJNTO(日本政府観光局)作成のガイドラインを参考に、写真使いやコンテンツ紹介の仕方を外国人向けにし、出雲神話を翻訳表現するにあたり外国人が監修するなど、全体に「外国人目線」にこだわった。また訪日外国人には固有名詞でコンテンツを紹介しても伝わらないため、「アクティビティ」「自然体験」などジャンル・カテゴリーを入り口に詳しいコンテンツへ誘導する仕組みにしている。

今後はGoogle Analyticsによるアクセス解析を行い、ターゲットの明確化、外国人がどのような行動・思考をするかを可視化したカスタマージャーニー設定を行うなど、デジタルマーケティングにも取り組む計画だ。

 

地方の課題解決への取り組み

機構はまた、人材不足、二次交通、FITへの対応とデジタルインフラの遅れといった課題への対策として、以下の3つの取り組みを行っている。

1つめはHuber.との連携だ。Huber.は、ガイドしてほしい外国人とガイドしたい日本人のマッチングサービス「TOMODACHI GUIDE」を展開している。このC to Cの仕組みは、日本在住の外国人や留学生などの人材を発掘しツーリズムに巻き込むとともに、有償ガイドとして新たな雇用を生み出すチャンスにもなり得る。さらに地域の人が案内することで、点在する観光資源を効率よく周遊できるため、二次交通問題の緩和も期待される。

このようなマッチングサービスの機能を前述のグローバルサイトに導入することで、訪日旅行前からFITの訪日旅行客の潜在ニーズを把握して、更なる顧客満足に繋げていくことも今後の狙いだ。

2つめは旅マエ・旅ナカに使える周遊パスポートアプリ「Visit San’in Tourist Pass」の開発だ。FIT増加に伴い、訪日旅行者の旅行手配(予約・購入)もデジタルに移行している。この流れを受け、1度観光パスを購入すれば、これを各施設で提示することで山陰の主な有料観光施設への入館や体験プログラムの割引サービスが受けられる周遊パスポートアプリを開発し、外国人がデバイスひとつで旅ができる環境を整備した。

3つめは農山漁村滞在推進の取り組みだ。機構は2017年10月に宿泊施設・民宿の仲介サイトAirbnbとの提携をスタート。Airbnbは手数料が安く、また決済まで管理してくれるため地方の民泊業者にはメリットが多いと判断し、各地域のDMOや観光協会などと連携しながら民泊施設の登録を進めている。

Airbnb、Huber.といった民間との連携で、二次交通、言語、ITなど、特に地方特有の課題を改善し、地域の人材を発掘・活用することを目指している。

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外国人が集まるゲートシティで効率的にプロモーション

プロモーションでは、英語・韓国語・繁体字・簡体字・フランス語の5言語でフリーマガジン「DISCOVER ANOTHER JAPAN SAN’IN」を制作し、羽田・成田両空港や飲食店、観光案内所などに設置した。マガジンの制作にあたっては外国人目線を意識し、山陰の風土に知見のある外国人が監修して、彼らが魅力を感じるテーマを取り上げた。2018年3月に発行した第1号で「刀」と「石見神楽」を特集したところ、1万2,000部用意したフリーマガジンが早々に無くなり、多くの外国人にリーチすることができた。

また東京駅直結の観光案内所「TIC TOKYO」の英語版ホームページに山陰地域の観光案内所を紹介するウェブサイト(https://sanintic.com/)を作成した。すでに世界中に知られている「東京」を入り口に山陰を認知してもらい、プロモーションすることで首都圏からのさらなる誘客を図っている。

 

地域が稼ぐために 人材発掘と魅力の洗い出し

今後の課題は、山陰に複数ある地域DMOや観光協会が自走できる体制を作ること。機構ではセミナーを開催したり、個々の団体をまわりながらインバウンドに関わる情報・ノウハウを共有したりしている。

一例が、奥出雲町観光協会(島根県)との連携だ。スリランカ出身の観光プロデューサー、サミーラ・グナワラデナさんを地域のキーマンとして、サミーラさんを通じて民泊施設のAirbnb登録を進めるほか、奥出雲の伝統・文化である「たたら製鉄」や「そろばん」といった資源を磨き、外国人が体験できるような着地型商品を開発した。田舎では人材がネックになりがちだが、田舎ならではのネットワーク・口コミ力を生かして各地域のキーマンを発掘し、他地域にも連携を広げ、山陰全体の魅力の底上げを図っていく。

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メッセージ 山陰インバウンド機構事務局長 市村節子さん

山陰インバウンド機構は鳥取・島根2県からなる日本で一番小さな広域連携DMOです。事務局は鳥取・島根両県の職員と、山陰に関係の深い企業からの出向社員で組織される、寄り合い所帯。規模の小ささ、多様性を弱みではなく強みに変えて、既成のやり方に捉われない戦略をたててインバウンド促進に取り組んでいます。フリーマガジン「DISCOVER ANOTHER JAPAN SAN’IN」の制作では、機構・自治体は一切口を出さず、あくまで「外国人目線」を守りました。地域DMO、各観光協会さんと連携しながら地域一丸となってインバウンド・地方創生に取り組んでいきます。

 

プロフィール

鳥取、島根から山口県萩市に至る山陰地方。もともと複数の地域DMO、観光協会があり個々に取り組みを行ってきたが、地域全体のマーケティング・プロモーションを一元化する組織として設立したのが、広域連携DMO「山陰インバウンド機構」だ。山陰に点在する12の魅力的なエリアを結ぶ「縁の道~山陰~」は、国交省が認定する11の広域周遊ルートのひとつで、「縁の道」ブランドを核に山陰地方をプロモーションし2020年40万人泊を目指している。

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今回は海外における知名度を上げるための戦略とプロモーション、地域DMO、観光協会と連携しながら外国人を呼び込める観光地づくりに取り組む山陰インバウンド機構をご紹介しました。

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