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「なぜタイ人観光客は佐賀を目指すのか」佐賀県のロケツーリズムの取り組み

「なぜタイ人観光客は佐賀を目指すのか」佐賀県のロケツーリズムの取り組み

「なぜタイ人観光客は佐賀を目指すのか」佐賀県のロケツーリズムの取り組み

国内外の観光客に新たな地域への来訪動機を与え、地方誘客を図ることを目的とし、平成28年度から観光庁が取り組む「テーマ別観光による地方誘客事業」の選定テーマのひとつでもある「ロケツーリズム」。従来のロケの誘致に力点を置いたフィルムコミッションの取り組みと比べ、ロケの観光面での活用に力点を置き、地域活性化につなげることを重視しています。今回、タイをターゲットとした「ロケツーリズム」の取り組みにより成果を上げた佐賀県の事例を調査しましたのでご紹介します。

対象地域
佐賀県
面積
約2,400平方キロメートル
総人口
819,011人(平成30年11月1日現在)
主要観光資源
食(佐賀牛・呼子のイカなど)、日本酒、温泉、有田焼、自然(花、紅葉)、神社、果物狩り
公式サイト
https://www.saga-tripgenius.com/

新ターゲットはビザ緩和&直行便が飛ぶ国・タイ

福岡県・長崎県という有名観光県に挟まれ素通りされがちで、観光資源が乏しく知名度が低い佐賀県。だがタイ人に限ってみると、2013年に370人泊だった宿泊観光客数が2016年には5,830人泊にまで急増。その主な理由は、タイをターゲットとしたロケツーリズムの取り組みだ。タイ人の割合は佐賀のインバウンド全体の2.3%に過ぎないものの、「この宿泊数の伸びは佐賀にとっては非常に大きい」と、観光課の田中英敏さんは話す。

佐賀県でロケ誘致・支援を行う佐賀フィルムコミッション(佐賀FC)は、県民に映像文化に親しんでもらい、佐賀のPR、ツーリズムにもつなげていくことを目的に2005年に設立された。2011年に韓国映画の誘致に成功して以来、海外作品でも実績を重ねているが、「2013年頃には、日本全国に100以上あるフィルムコミッションのなかで競争が激しくなっていました。そのため、それまでの韓国・中国を中心とした誘致が難しくなり、新たなターゲット国を探す必要がありました」と、誘致を担当した近野顕次さん(現在、佐賀県政策部広報広聴課)は当時を振り返る。

そんななか、2013年7月にタイ人の訪日観光ビザ制度が緩和されることとなった。ビザ緩和に伴いタイからの集客増が見込まれ、しかも隣県の福岡空港へはバンコクから直行便が就航している。そこでタイにおける「経済成長率」「映画・テレビ業界の動向」「日本への興味が高いか」「佐賀への導線」「日本の他地域でのロケ実績」の5項目について入念に調べあげ、韓国・中国に代わる新しいターゲットとしてタイを選定した。

 

「佐賀だけにあるもの」ではなく、「佐賀にもあるもの」で誘致

佐賀の認知度を上げ誘客につなげるには、作品そのものがヒットしなければ意味がない。そこで佐賀FCはインターネットなどを使いタイの映画・ドラマで実績のあるプロデューサー、受賞歴のある監督や人気俳優についてコツコツとリサーチ。同時に全国のフィルムコミッションの活動支援を行うジャパンフィルムコミッションの協力も得て、タイの映画・テレビ業界とのコネクションを作っていった。

2013年7月にバンコク入りしセールスを開始。電話帳を手にかたっぱしから売り込みをするなか、「タイ国外の漁村でのロケを検討中らしい」という情報をキャッチし最初に会ったのが、タイ映画界の大御所ノンスィー・ニミブット監督だった。事前に撮影しておいた佐賀の漁村のイメージ写真を見せて監督にプレゼンしたところ、10分程度話をしただけで佐賀に決めてくれたという。

近野さんは誘致成功の理由について、「他地域のFCより早く監督に会えたタイミングの良さ。また自分たちが見てほしい、来てほしいところを推すのではなく、相手が欲しいロケーションを提案できたこと」と分析する。近野さんによると、ほとんどの海外の映像関係者が求めるのは、桜、神社、雪、忍者といった定番の日本イメージだという。それなら東京や京都に行かなくても、佐賀にもある。さらに佐賀で撮影すればコストを抑えられること、佐賀FCは撮影実績が豊富で十分な支援ができることをアピールした。特別なものはないけれどそれを逆手に取り、“佐賀にもあるもの”で勝負した。

 

ロケでインバウンドプロモーションの布石を打つ

誘致成功を受け観光課では急きょ、タイへのプロモーションに予算と人員を大幅に投入することを決定。映画を活用し「主演女優が表紙の観光PR冊子」を制作したいと考えた。実現するにはタイ側の協力が不可欠だ。そこで佐賀FCでは制作者のリクエストに全力で応え撮影の準備をし、また佐賀での撮影中には佐賀FCも観光課スタッフも頻繁に現場に顔を出し、監督や俳優、スタッフたちと信頼関係を築いていった。

その熱意が通じタイ側からさまざまな協力を得ることができた。当初から狙っていた観光PR冊子に関しては、観光課が手配したカメラマンが撮影に同行しロケの様子を撮影するほか、主演女優のコメントを取るなど素材を集めておいて、使用許可を得たうえで冊子「ADVENTURE SAGA」を制作。さらに映画公開イベントに観光課スタッフが登壇し佐賀をPRしたり、旅行観光イベントではニミブット監督をゲストとして呼び佐賀の魅力を話してもらった。

「ロケはゴールではなく、その後のプロモーションの環境を作る勝負の場」と近野さん。誘致と同時に観光課が早々に体制(予算、人員)を整え、さらに撮影時にタイミングを逃さず布石を打った「連係プレー」で、通常ではありえないインパクトのあるプロモーションが実現した。

5倍の外国人観光客宿泊者数を実現。タイ映画「タイムライン」の大ヒットを活用した、佐賀県観光課とフィルムコミッションの連携施策>>

作品公開で佐賀の知名度が急上昇

ニミブット監督の作品『タイムライン』は2014年2月にタイ全土で公開されるや初登場2位、同年のタイ映画年間興行収入5位の大ヒットを記録。主演女優はタイ最大の映画賞で最優秀主演女優賞を受賞した。135分の作品のうち佐賀のシーンは10分程度だったが、タイのメディアで「SAGA」の露出が急激に増えていった。
佐賀の知名度が上がったところで、観光課はタイでの旅行イベントに参加。過去にはエージェントに売り込んでも「佐賀ってどこ?」といわれパンフレットを受け取ってもらえないこともあったが、人気女優が表紙の「ADVENTURE SAGA」と映画の効果は絶大で、ロケ地を中心にしたツアー商品造成の話が次々に決まるようになった。実際にロケ地を中心に佐賀を訪れるタイ人が徐々に増え、映画公開された2014年の宿泊客数は前年の約4倍の1,540人泊に上った。

 

継続のための取り組み―公開のたびに集中プロモーションをし、確実に誘客する

2013年7月に売り込みし翌年には訪日客が増加したように、ロケツーリズムは比較的短期間で取り組みの効果が現れやすい。しかし一過性のブームにもなりやすく、継続して来てもらうための取り組みが重要になる。佐賀県では引き続き佐賀FCがタイへの営業に力を入れ、テレビドラマ『きもの秘伝』、LINE TVドラマ『STAY saga~私が恋した佐賀~』など毎年、新しい作品の誘致に成功。その都度、観光課では「ADVENTURE SAGA」を制作し、公開のタイミングに合わせ現地の旅行イベントに参加するなど集中的・効率的にプロモーションを展開。また「ADVENTURE SAGA」でロケ地だけでなく食、温泉など他のコンテンツも取り上げ、新規客、リピーターの獲得を図っている。

ドラマ・映画という派手な話題で注目を集め、そこへたたみかけるように集中プロモーションをすることで現地メディアに取り上げられるチャンスが増え、飛躍的に認知度が上がり、商品造成にもつながるという好循環が生まれている。

 

継続のための取り組み―タイとの文化交流への広がり

たくさんのタイ人が来るようになり、地域も変わり始めている。タイ語のあいさつを覚える人や、タイ語の案内看板を設置する商店街が現れた。『STAY saga~私が恋した佐賀~』のロケ地になった祐徳稲荷神社(佐賀県鹿島市)では多い日には200人ものタイ人が団体で訪れており、日本で初めてタイ語のおみくじや絵馬を制作。県民の間でタイ人を歓迎する機運が高まり、「佐賀の人は日本のどこよりもタイ人が大好きですと、自信をもってアピールできるようになりました」と、田中さんは話す。佐賀県はまた、「タイ人を迎え入れるには、佐賀県民にもタイのことを知ってもらうことが重要」と考え、タイ文化を紹介するイベントを県内で開催。さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピックで佐賀県はタイのホストタウンに決まった。観光から始まった佐賀とタイの交流は文化・スポーツにまで広がっている。

 

キーマンからのメッセージ 佐賀県政策部広報広聴課 近野顕次さん

ロケツーリズムでは、撮影誘致がゴールではなく、認知度アップと誘客が目標です。まずは佐賀FCが盛大に話題作りをし、注目度・認知度を上げてから観光課が現地向けにプロモーションをする。その役割分担と連携が、タイで成功できた理由だと思います。佐賀のポテンシャルで成功できたのですから、全国のどこでもロケツーリズムのチャンスは転がっているのではないでしょうか。

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プロフィール

佐賀県文化・スポーツ交流局には観光課と文化課があり、観光課と、文化課内のフィルムコミッションとが連携しながらロケツーリズムに力を入れている。その取り組みが実を結び訪日客は着実に増え、訪日外国人入込客数は対前年比249.5%(2016年)と高い伸び率を示している。
なお、今回紹介したタイのロケ誘致の取り組みは2015年、第1回ジャパンフィルムコミッションアワードで最優秀賞を受賞している。

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今回はフィルムコミッションの海外映像作品誘致への取り組みと、映像作品を活用したインバウンドプロモーションについてご紹介しました。

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