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  • 「民間の本気の力を発揮させる仕組みづくり」秩父地域おもてなし観光公社の取り組み

観光誘客は行政だけでやるよりも、民間のさまざまな発想やアイデアを政策に取り込み、実際に参画してもらうことでそれぞれの持ち味が生きるため、事業の幅が広がり柔軟性が生まれます。同時に、地域内での連携や情報共有を通じて、地元民の関わりが増えるため意識改革にも繋がります。
ここでは、民間との協働によるインバウンド事業の一例として、官民問わずインバウンドに関わる実務担当者が自由に意見交換できる場を設け、地域内の意見取りまとめ役を担っている「半官半民なDMO」、一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社の取り組みをご紹介します。

対象地域
埼玉県秩父地域(秩父市・横瀬町・皆野町・長瀞町・小鹿野町)
面積
892.62平方キロメートル(1市4町合計)
総人口
99,958人(1市4町合計/平成30年12月1日現在)
主要観光資源
芝桜の丘、天空のポピー、長瀞の桜、秩父札所めぐり、秩父夜祭、長瀞ライン下り
公式サイト
https://www.chichibu-omotenashi.com/

目次

地域連携にありがちな「総論賛成、各論反対」

埼玉県西部の秩父盆地には1市4町(秩父市・横瀬町・皆野町・長瀞町・小鹿野町)があり、それぞれ単体では小さな自治体だが、医療、福祉、交通などの分野で連携することで都市・生活機能の充実を図っている。そのなかの観光分野を担っているのが、秩父地域おもてなし観光公社だ。

「もともと秩父地域は観光資源に恵まれ、知名度もあります。しかし、それらを効果的・戦略的に売り出すことと、増加する外国人観光客に対応する取り組みに関しては十分とはいえない状況でした」と話すのは、事務局長の井上正幸さんだ。そこで公社が発足したが、地域連携ならではの問題に直面してしまった。各自治体・事業者ごとに「観光」の具体的な内容・受け取り方、期待する施策が異なり足並みがそろわないのだ。「“1市4町がひとつになって秩父地域を盛り上げる”という基本的な合意はできますが、具体策になるとまったく意見がまとまらない。地域連携ではどうしても“総論賛成、各論反対”になりがちです」(井上さん)。

 

官民が情報を共有し事業決定する、インバウンド政策コア会議

方針さえまとまらない原因のひとつを情報共有不足と考えた井上さんは、「議論のベースとなる情報を全員が収集(インプット)・共有できる効率的な仕組み」として「インバウンド政策コア会議」を立ち上げた。

コア会議は、秩父地域のインバウンドに関わる者がひとつの場に集まり、誰でも自由にプレゼンし、意見を戦わせ、事業を決定していく場だ。参加者は、1市4町の観光行政担当や観光関係団体、そして秩父地域に乗り入れている西武鉄道をはじめとする交通、旅行、グルメサイト、通信などの民間事業者である。公社は事務局として会議の運営にあたる。開催は1~2カ月に1回、毎回秩父市で行う。民間企業の担当者はほとんどが東京からの出席となり、公社から謝礼・交通費などの支払いは一切ない、いわゆる“手弁当”だが、出席率は高く熱のある話し合いが行われている。

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民間を“本気”にさせる―「おもしろい」と思わせるコア会議のルール

「コア会議は、インバウンドに関わる官民が同じ情報をインプットできるメリットがあるほか、複数の民間事業者を同じ場で競わせることで、“民間の本気のアイデア”が出るのではないかという期待もあります」と井上さんは明かす。

民間の本気力を発揮してもらうには、しがらみや不透明性を排除し、活発な意見交換ができる環境を整える必要があると考えた井上さんは、次のようなルールを設けている。

①役職・発言権の強い人は参加しない(自由に意見を言えなくなるため)

②出入り自由(いつでも参加でき、抜けるのも自由)

③事業提案したい場合は、まずコア会議に出席すること

④各企業が得意な事業をプレゼンし、他企業の領域は侵さないこと

⑤コンサルティング系の提案は不可(公社が決定権を握るためと、ノウハウを地域に蓄積するため)

⑥会議の場で、出席者の多数決で事業決定まで行うこと。多数決に公社は参加しないこと

みんなが提案し、みんなで決めるという明確なルールがあるから、民間事業者が「自由に発言できておもしろい」と、本気で秩父地域のために知恵を絞ってくれるという。

 

民間を“本気”にさせる―コア会議で決めた事業は必ず通す

「自治体から民間事業者への発注は一方的になりがちです。コア会議では、“秩父のために何がベストか”を基準に議論したうえで、自由にプレゼンを行い、事業決定はあくまで多数決」(井上さん)と、事業決定プロセスも明確だ。井上さんの大きな役割は会議で決定された事業を予算化すること。みんなの総意で決めたことは、井上さんが理事会や自治体を説得して必ず実現させてくれるという信頼があることも、民間を本気にさせるポイントのひとつと言えそうだ。

 

民間を“本気”にさせる―公社ではなく、民間がやりたいことを提案・議論

コア会議では公社はあくまで裏方に徹し、各提案者がやりたいことをプレゼンしてもらう。たとえば、コア会議の最初のテーマは「ターゲット国の選定」だった。秩父地域のターゲットは台湾、アメリカ、フランス、タイの4カ国だが、台湾に関しては埼玉県の提案が採用されたかたちだ。というのも埼玉県は台湾の修学旅行・農泊誘致を進めており、秩父地域に受け入れを要請しコア会議で提案した。費用のかかるプロモーションは県が負担する案件だったこともあり提案は採用され、2016年度に3校、2017年度に10校の外国校の受け入れ実績を残している。

また民間の事例としては、西武鉄道系旅行会社は着地型商品として秩父夜祭での山車曳き体験ツアーを提案。地域の受け入れ協力が欠かせない企画だけに公社には受け入れ態勢づくりを依頼し、プロモーション・集客は西武鉄道系旅行会社が行うことで実現した。

公社が決めた事業を民間に発注するのではなく、提案者がやりたいプランを実現化するから提案者のリソースを活用でき、公社の少ない予算で大きな成果を上げることに成功している。

 

自走するDMOを目指して

公社の今後の課題は、自主財源を増やすことだ。現在の収益は、農泊の手数料、レンタサイクルの売り上げ、インバウンドの視察・研修受け入れなどが中心だが、それだけで売り上げを伸ばすには限界がある。そこで今後は「地域ブランドの確立と特産品の販売促進」に力を入れていく。そのひとつの取り組みとして、西武秩父駅前の商業施設に「LOVE CHICHIBU ショップ」を設置し1市4町の地場産品を公社ブランドとして販売し、今後は新商品開発・販売をさらに進めていく。

 

メッセージ 一般社団法人秩父おもてなし観光公社 事務局長 井上正幸さん

コア会議では、「自分たちがやりたいことを、自由にプレゼンし­­­­­­­­­­­­­­てくれ」とお願いし、公社は裏方に徹しています。言いたいこともあるけれど、グッと我慢しています。

コア会議で決定された事業を理事会に通すのが私の役割で、本当に苦労するところです。理事にとっては自分の出席していない会議で決められたことなので、理解が得られないこともあります。そんなときも、各首長をはじめとする理事と個別に会って丁寧に話を聞き取り、まずは相手の要望を叶え、最終的に決めた事業企画を通す。こうした手間・時間をかけることも重要なことだと思っています。

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プロフィール

埼玉県西部に位置する秩父地方。豊かな自然と歴史・文化が残る秩父盆地にありながら、西武鉄道が都心と秩父を約1時間半で結んでおり、アクセスの良さも強みである。最近はアニメの聖地という魅力も加わり、入込観光客数は2014年度に900万人を突破、2017年度に980万人超と右肩上がりが続く。訪日客に関しても長瀞ライン下りや札所めぐりなどの従来の観光コンテンツに加え、台湾の修学旅行・農泊受け入れが順調に伸び、年間13万人以上の誘客に成功している。

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今回は民間との協働取り組み事例として、秩父地域おもてなし観光公社の「インバウンド政策コア会議」を中心にご紹介しました。

>「一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社 インバウンド 事例調査レポート」PDFはこちら<

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