旅行者の情報収集手段として、スマートフォンの利用増加に伴い、デジタルマーケティングの重要性が増しています。
そのような状況の中、日本政府観光局では、デジタルマーケティングを活用することにより、ターゲットの明確化、進捗の可視化、プロモーション結果の数値化などが可能となり、PDCAサイクルを回しより効果的にプロモーションを実施できると考え、デジタルマーケティングへの取り組みを推進しているところです。
そのデジタルマーケティングを活用したプロモーションの地域の取組事例として、福島県の取り組みを調査しましたので紹介します。

対象地域
福島県
面積
13,783.90平方キロメートル(平成30年1月1日現在)
総人口
1,862,705人(平成30年10月1日現在)
主要観光資源
会津若松城、大内宿、只見線第一橋梁ビューポイント、三春の滝桜、スカイラインの紅葉
公式サイト
http://diamondroutejapan.com/
http://iplayfukushima.com/

目次

デジタルマーケティングで福島に興味をもってくれる人を探し出す

「福島にとってインバウンドは、震災で傷ついたプライドを取り戻すためのものでした」。福島県観光交流局観光交流課の藤井智生さんはそう話す。

震災前、福島県には中国・韓国を中心に年間約9万人の訪日客が訪れていたが、震災を機に激減。原発事故の風評にも苦しめられ、インターネット上には誤解やネガティブな情報が氾濫していた。海外でプロモーションを行おうとしたところ市民から反対の声が上がり、直前にイベントが中止になることさえあったという。

しかし世界中のすべての人が福島にネガティブなイメージをもっているわけではない。たとえば福島県二本松市にある「エビスサーキット」は震災後もインターネットで検索され、世界中からドリフト好きが訪れていた。強力な観光コンテンツを、インターネットやSNSを通じて発信することで外国人は必ず来てくれる。風評を払拭し世界から観光客を呼び戻し、福島県のプライドを取り戻すために……デジタルマーケティングへの挑戦が始まった。

 

会津若松城と大内宿はサムライ・歴史をテーマにプロモーションした結果、多くの外国人が訪れている

 

デジタルマーケティング①ターゲット国を絞る

地方への訪日旅行者を増やすためには、年間1000万人以上が訪れる東京から引き込みたい。そこで福島県に誘客するためのマーケティングを、SWOT分析などの手法も活用しながら実施。そこから、単県でのプロモーションを行うより、隣接する栃木県、茨城県と連携するほうが効果的と考え、東京―栃木・茨城・福島を結ぶ広域周遊ルート「ダイヤモンドルート・ジャパン」を立ち上げた。

同時にGoogleやマーケティングの専門家と連携し、ターゲット国を選定するためにデジタルマーケティングを展開。それまでの中国・韓国に加え東南アジア、オセアニアにまで範囲を広げ、ウェブによるアンケートを実施した。そして風評が比較的少ない国のなかから、チャーター便が就航したベトナム、訪日客数が伸びているタイ、台湾、そして冬にスキー客の取り込みが期待できそうなオーストラリアの4カ国に絞り込んだ。

 

周遊ルート「ダイヤモンドルート・ジャパン」より。エビスサーキット(福島)、日光(栃木)

 

デジタルマーケティング②ターゲット国の嗜好を調べプロモーションに活かす

「ダイヤモンドルート・ジャパン」のプロモーションでは「お客様=外国人目線」を重視するために、デジタルマーケティングでターゲット国の嗜好をリサーチした。またGoogle画像検索などの媒体を活用しターゲット国の嗜好分析を行い3県の観光コンテンツとマッチングさせたところ、「ヒストリー」「アウトドア」「ヘルス」「ネイチャー」という4つのテーマが浮かび上がった。そこで、海外のクリエイターに依頼し、4テーマでのPR動画を制作。テーマの切り取り方、映像のタッチなども外国人の感覚を取り入れ、「ダイヤモンドルート・ジャパン」のブランド名を前面に押し出した。そして現地レップを通じて各国の嗜好に合わせた商品造成・プロモーションを展開するとともに、B to Cの取り組みとしてYouTubeインストリーム広告を配信したところ高い評価を得て、早いリーチで再生回数延べ1200万回に上った。

 

ダイヤモンドルート・ジャパンPR動画より(ネイチャー、アウトドアのイメージ)

 

デジタルマーケティング③質の高い動画が拡散、誘客につながる

そんななかでうれしい出来事が起こった。「ダイヤモンドルート・ジャパン」プロモーション動画を在スペイン日本大使館が公式Facebookで取り上げてくれたことをきっかけに、期せずして欧米でも拡散され26万回再生を記録。特に「ヒストリー」動画の反響が高く、「ここに行きたい」「初めて広告をスキップしなかった」という好意的なコメントが数多く寄せられた。福島県としては予算をかけなかったにも関わらず、実際にその数ヵ月後にはスペインからの旅行客が急増したのだ。

動画配信によるデジタルマーケティングで欧米にも潜在的な顧客がいて、また「歴史・サムライ」が福島の強力なコンテンツになる可能性があるということがわかった。そこで2017年度は4ヵ国に加え、欧米にもターゲットを広げ新たに「ヒストリー&サムライ編」動画を流したところ、SNSで大きく拡散され2週間で2200万回再生を記録。動画をスキップしない「視聴率」が、アメリカ・スペイン・ロシアで70%という驚異的な数値をたたき出した(平均は20~30%)。視聴率が高くなったことで配信単価は一視聴あたり、10円未満まで下がった(欧米で平均10~15円/回)。訪日客数も約9万6000人を超え、ついに震災前の水準を上回った。

 

ダイヤモンドルート・ジャパンPR動画より(サムライのイメージ)

 

デジタルマーケティング④新しいコンテンツをコミュニティに向けてSNS発信

「デジタル技術を活用したことで多くのターゲットにリーチすることができ、さらにどの国のどの層に、どのテーマが響くのかというデータを得られるなど、費用対効果の高いマーケティングができました。今後はそれを集客に結び付けることが課題です」と藤井さん。

「ヒストリー&サムライ編」動画の反響の大きさを受け、福島県では2018年度に「サムライ・スピリット・ツーリズム」事業をスタートさせた。東京・浅草から日光、福島を旅する「Samurai Trainで行く会津・日光モニターツアー」を造成し、2018年11月に1回目を実施。日光、会津若松城、会津藩校だった日新館での弓道体験などを提案した。

また、「花好き」「武道好き」「パウダースノー好き」など、コアな嗜好をもつコミュニティにSNSなどでアプローチし、福島ファンを増やしていく取り組みも始めていく。

「ダイヤモンドルート・ジャパン」のウェブサイトでは風評コメントは1%以下になったものの、福島単県でのプロモーションサイト「I PLAY FUKUSHIMA」ではネガティブな風評コメントが今も少なくないという。藤井さんは「風評コメントを読んでいると心が苦しくなりますが、ネガティブなコメントにも真摯に向き合うことで、福島は風評を乗り越えようとしています」と話している。

 

メッセージ 福島県観光交流局観光交流課 藤井智生さん

「ターゲッティング×観光コンテンツとのマッチング×外国人目線」により、「ダイヤモンドルート・ジャパン」のブランディングは期待以上の成果を得ることができました。今後はオンラインだけでなく、旅行商品造成、海外でのプロモーションなど、B to Bの取り組みにも引き続き力を入れていきます。

風評に対しては、一つひとつのコメントに「安全ですよ」と丁寧に回答しています。そうすることで理解して、応援してくれる人が少しずつでも増えると信じています。根気よく、負けない心が大切です。

 

プロフィール

福島・栃木・茨城が連携し、東京と3県を結ぶ広域周遊ルート「ダイヤモンドルート・ジャパン」を2016年にスタート。「ヒストリー」「アウトドア」「ヘルス」「ネイチャー」という“外国人に刺さる”テーマを押し出した、クオリティの高いプロモーション動画が反響を呼び、じわじわと訪日客数を増やしている。特に福島では会津藩の歴史とパウダースノーへの関心が高く、2017年には9万6000人と震災前の水準を突破した。2018年度には「サムライ・スピリット・ツーリズム」を立ち上げ、会津若松城や会津藩の藩校だった日新館、大内宿などを訪れる「歴史・サムライ」をテーマにした着地型商品を造成するなど、新しい観光コンテンツでインバウンドに取り組む。

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今回は、デジタルマーケティング活用の一例として福島県の取り組みをご紹介しました。

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