「平成28年度商店街インバウンド実態調査モデル事例」(発行:平成29年3月 経済産業省 中小企業庁)から、沖縄県那覇市にある那覇市国際通り商店街の取り組み事例をご紹介します。

<タイプ>
広域型商店街
<立地環境>
行政機関、金融機関などが並ぶ業務集積地に隣接する国内外からの観光客で 賑わう那覇市の中心に位置する商店街
<店舗数>
275店舗

対象地域
沖縄県
面積
2,280.98平方キロメートル(平成29年10月1日現在)
総人口
1,444,226人(平成30年5月1日現在)
主要観光資源
美ら海水族館、首里城、国際通り、万座毛、玉泉洞、八重山諸島
公式サイト
http://www.okinawastory.jp/spot/
https://www.visitokinawa.jp/

目次

プロフィール

「国際通り」の名前は、1948年に米軍の占領下で完成した「アーニーパイル国際劇場」に由来する。通りの全長が1.6km(1マイル)であることと、戦後僅か7年で目覚ましい復興を遂げたことから、商店街は「奇跡の1マイル」とも呼ばれている。沖縄県には、国内外から年間700万人を超える観光客が訪れている。「国際通り」は那覇市の中心に位置し、那覇市の顔とも言えるメインストリートとなっている。通りにはデパート・飲食店・雑貨店などの生活関連商業施設と、ホテル・土産物店などの観光客を対象にした商業施設が混在している。2010年頃から地元住民の来街が減少し始める一方で、外国人観光客の来街が急激に増加している。

インバウンド事業取組の背景

少子高齢化などの影響により、将来的には本土からの観光客の減少が予測されることから、増加傾向にある外国人観光客への対応を強化していくこととした。しかしながら、2014年時点では、Wi-Fiの整備は行ったものの各店舗の外国人観光客に対する不安を払拭するような方策を打ち出せず、受入体制は整っていなかった。具体的には、会話すらままならず、外国人観光客に尻込みしてしまう店舗も多くあった。また、免税対応の店舗も少なく、煩雑な免税手続などから、外国人観光客の購買意欲を削いでしまうこともあった。

このような背景から、店舗と外国人観光客の双方の煩わしさや不安を解消するために、早急なインバウンド対応の実施が必要となっていた。

取組のポイント

まず考えたのは免税手続の簡素化である。最初に免税手続一括カウンターの導入を検討したが、1.6kmもある国際通りでは専用カウンターを何箇所にも設置する必要があることから、パスポートリーダーを導入した。これにより、手書きで15分ほどかかっていた免税手続をわずか30秒で行えるようになった。

パスポートリーダーの読み取り機

次に、リストバンド型ICタグ「スマイルタグ」を導入した。「スマイルタグ」には25,000円分までのチャージが可能で、現金決済が不要となる。「スマイルタグ」は、パスポートリーダーで一度読み取った情報を専用のタブレットと連動させることにより、国際通りの店舗で買い物をした後に、別の店舗で買い物をしても、専用のタブレットがあればタグをかざすだけで免税手続ができる。

「スマイルタグ」(左)、「スマイルタグ」の読み取り機(右)

さらに国際通り沿いに2箇所のコミュニティセンターを設置した。ここは観光客と地元住民の交流の場となっているのみならず、「スマイルタグ」の受付・登録やチャージも可能だ。

これら一連の取組は、外国人観光客の利便性を向上させただけでなく、店舗スタッフの接客のハードルを下げることにもつながった。手続が簡素化し説明が少なくて済むようになったことで、スタッフの中にコミュニケーションを取る余裕が生まれたとの声も聞いている。

取組の全容及び事業実施体制

Wi-Fiは那覇市の主導で初期の整備が行なわれ、沖縄県の取組によってその機能が拡充された。インターネットへの接続環境が整備されたことで、商店街インフォメーション画面にタイムリーな店舗情報の掲載を行うなど、来街者の利便性向上をめざしている。

外国人観光客を見ただけで奥へ引っ込んでしまうスタッフがいる店舗や、外国語を話せるスタッフがいないことで免税店となることを敬遠する店舗も一方で存在し、言葉の壁を打ち破ることは難しいという意見もあった。そのため、接客用として多言語指さし会話シートを作成し、パスポートリーダーの説明を容易に行えるようにした。また、ATM・外貨両替所・トイレなどの場所を多言語表記したマップ(英語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語)を作成し、一体的な取組として外国人観光客に対応できるようにインバウンド事業を実施している。

毎週、日曜日の午後に「トランジットモール」と名付けた歩行者天国を実施している。国際通りを通行する車両をストップし、ストリートパフォーマンスやライブが繰り広げられるとともに、周辺の店舗でもオープンカフェやワゴンセールなどが展開されている。本来は近隣住民の集客を狙った取組であったが、外国人観光客にも「沖縄の日常に触れる」イベントとして人気が高まっている。

インバウンド事業の取組を進めていく中で、重要な役割を担っているのは地元企業だ。例えば、パスポートリーダーと「スマイルタグ」の開発・導入は、組合員でもある企業と連携したものであり、各店舗がインバウンド対応に積極的に取り組むきっかけ作りにもなった。

取組みのプロセスで生じた課題と対応

パスポートリーダーと「スマイルタグ」の導入には時間がかかった。導入前は、外国人観光客が来ても対応に困るだけ、手間のかかることはやりたくないという商店主が多く、免税対応を行っていた店舗はわずか6店舗にすぎなかった。また、文化やマナーの違いから外国人観光客を敬遠し、外国人観光客の売上をあてにしない店舗もあった。このような状況下でも、とにかく地道に説明して回り、少しずつ免税対応店を増やしていった。現在では、全275店舗のうち81店舗がシステムを導入している。

大型店舗では、免税手続の簡素化が功を奏して外国人観光客の回転率が上がり、結果的に売上も上がっている。商店街内の個店からは、これまで来店しなかったような客層が来ているという報告もあることから、効果はこれからも徐々に上がっていくものと考えている。

成果・継続へ向けた視点

各店舗は外国人観光客の接客にある程度慣れてきてはいるが、一方でこのままでは継続的に集客が見込めないのも事実である。

2014年、那覇港に常設のクルーズ船ターミナルができ、通常で週に1回、夏の繁忙期には2、3日に1回という頻度でクルーズ船が来港するようになった。従来の中国、韓国からの来街者に加え、シンガポール、欧米からの来街者も急増した。それにともない、商品の原材料を聞かれるなど高度な接客が求められるようになってきた。これは、外国人観光客の買物の質が上がってきたことに起因するものと言える。言葉の壁を乗り越えるのが難しい各店舗が、この変化に対応できるようになるのはまだまだ先のことだが、地元住民との接客内容と同じような対応をできる店舗となることが理想の姿だ。パスポートリーダーの導入といったハード面もさることながら、サービスマナーの向上といったソフト面への取組に徐々に移行していくことが重要となってくる。

キーマンからのアドバイス

砂川 正信氏 那覇市国際通り商店街振興組合連合会 事務局長

店舗に対して、商工会議所が行っているサービスマナーの研修会を紹介したり、観光協会が派遣している通訳を紹介したりしています。インバウンド対応では、まず店舗の方自身に当事者意識を持ってもらうことが重要です。一方で商店街では、店舗の方がノウハウを身に付けていくときのストレスをできるだけ減らすような支援をする必要があります。いずれにしても事務的に何かを「提供」するのではなく、日頃からコミュニケーションを密にして、店舗が今何に困っているのか、何を必要としているのかをなるべく早く知ることが大事だと思っています。

また、店舗が単独でお金をかけて新しいことをするのは大変です。しかしそのニーズが1店舗だけではないかも知れません。多くの店舗がやりたいと思っていることならば商店街としても支援しやすくなります。そういう意味でも、店舗とのコミュニケーションがとても重要だと思います。

<魚町商店街振興組合(福岡県北九州市)     七日町商店街振興組合(山形県山形市)>

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