「平成28年度商店街インバウンド実態調査モデル事例」(発行:平成29年3月 経済産業省 中小企業庁)から、福岡県北九州市にある魚町商店街振興組合の取り組み事例をご紹介します。

<タイプ>
超広域型商店街
<立地環境>
JR小倉駅から南へ徒歩約5分の距離にある小倉の目抜き通り商店街
<店舗数>
95店舗

対象地域
福岡県
面積
4,986.52平方キロメートル(平成29年10月1日現在)
総人口
5,090,752人(平成30年5月1日現在)
主要観光資源
太宰府天満宮、九州国立博物館、キャナルシティー博多、中洲、門司港レトロ、小倉城
公式サイト
https://yokanavi.com/route/
http://www.gururich-kitaq.com/
http://www.gururich-kitaq.com/en/

目次

キャッチフレーズ

海陸交通の要衝として栄えた小倉の城下で、魚問屋が連なる通りだったことから「魚町」の名が付いた。1951年、全国の商店街で初めてアーケードを設置し、そのジュラルミンの天井から「魚町銀天街」という愛称が定着した。その後、政令指定都市となった北九州市の中心である小倉を象徴する街として栄えたが、高度経済成長期の終焉とともに客足も減少し、商店街の空き店舗率が30%を超えた時期もあった。このような状況を打開するため、2010年には「小倉家守(やもり)構想検討委員会」が設立され、現在はリノベーションによるまちづくりの先進地として輝きを放っている。

インバウンド事業取組の背景

福岡市には大型クルーズ船が年に200隻以上来航しているが、バス不足や交通渋滞などの要因が重なり、これ以上外国人観光客を受け入れることが難しくなっていた。そこで、北九州市が積極的に大型クルーズ船の誘致を行い、響灘ターミナルに年に数隻が来航するようになった。また、北九州空港では釜山便などの直行便が運航を開始し、韓国からの観光客も多く来街するようになった。

リノベーションによって常に新しいまちづくりを目指してきた魚町商店街だが、これまでは外国人観光客に対して特別な対応を実施してこなかった。しかし、次第に増えてきた外国人観光客層が若いことに注目し、リノベーションした先端的なまちの風情をもっと前面に押し出すことで、インバウンド需要の取り込みを進めていこうと考えた。

取組のポイント

2015年9月、商店街近くの古いビルの1フロアをリノベーションして、外国人観光客向けゲストハウス「Tanga Table (タンガテーブル)」を立ち上げた。この名前は、商店街に連なる小倉市民の台所「旦過(たんが)市場」に由来している。旦過市場の存在をゲストハウスでもPRしており、宿泊客の大半が自炊用の食材を旦過市場で購入している。また利用者の多くが韓国人の若者だが、これには韓国人ブロガーを招致して街を案内し、商店街の紹介記事をブログに掲載してもらったことが大きく影響している。

「Tanga Table (タンガテーブル)」の運営を担当する「株式会社タンガテーブル」は、これまでリノベーションの取組で連携を図ってきた会社や、「一般財団法人民間都市開発推進機構」、地域住民などの出資を受け設立された。運営担当組織を株式会社化したのは、きちんと収益を上げて事業を継続していくためだ。現在その経営を担っているのは若い世代で、スタッフも同年代である。スタッフのほとんどがバイリンガルで、宿泊客も同年代が多いことから円滑なコミュニケーションを取ることができている。設立後約1年半が経過し、採算が取れるようになってきた。

ゲストハウス「Tanga Table(タンガテーブル)」受付

取組の全容及び事業実施体制

インバウンド対応のため、2010年に国の補助金を得て、商店街内に公共無線LANシステムを構築した。ID・パスを入れる必要がなく、自動的にWi-Fiに接続できるシステムを採用し、認証画面に接続した後は自動で魚町商店街のサイトに接続されるようになっている。また、様々なカードに対応する決済端末を導入したことにより、中国で一般的なカード「銀聯」にも対応可能となった。

また、広報事業として、マップやパンフレットの多言語化は北九州市の補助金を活用した。街区内の掲示板に英語・中国語・韓国語の看板を設置するとともに、魚町商店街を紹介するチラシを作成して北九州空港やJR小倉駅に設置している。街区内の放送も3か国語で行うほか、各店舗では多言語化で表記した指差しボードを活用し、組合員が外国人観光客と積極的にコミュニケーションが取れる環境を整えている。また、北九州市が主導する広報事業として、若い女性旅行者や留学生を対象に、着物を着てまちを歩くツアーや食べ歩きツアーも実施した。参加者からは大好評で、口コミによるPR効果も大きかった。

このようなインバウンド事業の連携先として、まず重要なのは北九州市の関係部局である。また、リノベーションによるまちづくりを継続する中で様々な会社が立ち上がり、それぞれの事業が進められているが、インバウンド事業においてもこれらの会社と連携し、地域全体で需要の取り込みを図っている。

その中でも、魚町商店街が出資する「株式会社タウンマネジメント魚町」は街区内の懸垂幕など外国人観光客向けの広告事業を主に担っており、その収益を商店街活動に還元している。商店街と組合員が出資した「株式会社鳥町ストリートアライアンス」は、オープンカフェ事業を行っており、その収益を商店街活動に還元。リノベーション事業を担当する「株式会社北九州家守舎」やゲストハウス「Tanga Table (タンガテーブル)」を運営する「株式会社タンガテーブル」など、それぞれの組織が強固な結びつきを保ちながらも自立しているというところが大きな特徴である。

取組みのプロセスで生じた課題と対応

北九州空港に到着した外国人観光客は、温泉のある別府方面に流れて行くことが多い。このような外国人観光客を北九州に引き寄せ、まちの交流人口を増やすためには、温泉と同様に魅力ある「別の何か」が求められていたが、観光資源が乏しい小倉では、魅力ある「別の何か」を新たに作り出す必要があった。

商店街全体で検討を重ねた結果、リノベーションした先端的なまちの風情が観光資源であることを見いだした。リノベーションによる建物デザインも、ゲストハウスの発想も、独自性を持ち話題を呼ぶものとなっている。これらの取組によって商店街を訪れた海外の若者たちが、隣接する旦過市場などを通してレトロで面白い魚町商店街の魅力を体感している。特に旦過市場のうどん屋は韓国からの観光客に人気で、平日でも満員になる。

以前から街にあったものを先端的な考えに基づいて加工するという方法で、全く新しい観光資源として創出し、まちの魅力を生み出すことに成功している。

賑わう「旦過市場」

成果・継続へ向けた視点

現在の外国人観光客による売上は、全体の売上に対して微々たるものだ。しかし、商店街では若手経営者による新しい業態の店舗が次々と登場しており、地域に定着したリノベーションの考え方を活かし古いものを先端的なデザインに加工した店が多い。このような店舗が若い外国人観光客にも好評で、まちを巡りながら様々なものが混ざり合う雑種的な商店街の魅力を体感している。

2017年度は、このような外国人観光客をさらにバックアップするため、Wi-Fiツールの拡充を行う。具体的には、セキュリティの強化とともに、10か国語に対応した認証画面と魚町商店街紹介サイトの更新を行う予定だ。これらのモバイルツールの充実は、外国人観光客のまち歩きをよりスムーズで楽しいものに変えるだろう。また、消費喚起の取組として、免税手続一括カウンターの整備も検討中だ。

魚町商店街と外国人観光客の関係は、サービスを提供する側とされる側という従来の商店と顧客の関係だけではない。まちも人も一緒になって空間と時間を共有し、インバウンド対応の取組を実施することで、まちが多様性を帯びたものになる。このような両者の関係こそが、これから先、魚町商店街がさらなるインバウンド対応に取り組む原動力となるはずだ。

キーマンからのアドバイス

梯 輝元氏 魚町商店街振興組合 理事長

私たちの中に全く無かったものをどこかから持ってきて提供しても、多分誰も共感してくれません。自分たちの特徴や蓄積してきたものを見直し、それを深掘して加工する。これはリノベーションによるまちづくりの考え方ですが、それがベースとなって、魚町商店街のインバウンド対応はかなりエッジの効いた独自のものになっていると自負しています。またこの先端性は、設計やデザインをはじめとする様々な分野の人たちの力、そして行政の人たちとの連携がなかったら生まれていません。商店街にいろいろな人が出入りしてくれた結果です。これからも、魚町商店街には雑多な人たちがどんどん入り込んで来て欲しい。商店街というのは、新しい人たちが新しいことを始める場ですから。

<高知市中心商店街(高知県高知市)

那覇市国際通り商店街振興組合連合会(沖縄県那覇市)※9/25更新予定>

pagetop