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住民と観光客 両方から愛される商店街になるために

2018年8月20日

住民と観光客 両方から愛される商店街になるために

住民と観光客 両方から愛される商店街になるために

「平成28年度商店街インバウンド実態調査モデル事例」(発行:平成29年3月 経済産業省 中小企業庁)から、岐阜県高山市にある高山本町三丁目商店街振興組合の取り組み事例をご紹介します。 <タイプ> 近隣型商店街 <立地環境> JR高山駅から約700m、飛騨高山朝市で有名な宮川に隣接し、高山駅と観光名所である古い街並みを結ぶ観光ルートの北側、観光区域と生活居住区域の狭間に位置する商店街 <店舗数> 27店舗

対象地域
岐阜県
面積
10,621.29平方キロメートル(平成29年10月1日現在)
総人口
2,001,654人(平成30年5月1日現在)
主要観光資源
高山の古い町並み、白川郷、鵜飼、馬籠宿、下呂温泉、郡上八幡
公式サイト
https://www.kankou-gifu.jp/
http://kankou.city.takayama.lg.jp/
http://www.hida.jp/english/

プロフィール

高山駅の東側徒歩約10分、清流「宮川」に沿った、50年の歴史がある商店街。代表的な観光名所である「古い街並み」からは少し離れており、地元住民を主な購買層として成り立ってきた。近年は、大規模商業施設の郊外進出や中心市街地の人口減少と少子高齢化により、商店街を取り巻く環境は厳しいものとなっており、特に商店街の半径300m圏内では女性住民の53.6%が60歳以上(2010年国勢調査)となっている。

近隣の他の商店街と比べ来街者数が伸び悩む中、地元住民を購買層とした取組だけでなく、観光客、特に急増する外国人観光客を新たな顧客として取り込むことが商店街活性化の鍵と考え、外国人観光客の取り込みに向けた受入環境整備を行っている。

インバウンド事業取組の背景

高山本町三丁目商店街は、2012年にTVアニメの舞台として取り上げられたことにより、いわゆる「聖地巡礼」を目的とした観光客が商店街を訪れる機会が増えた。これにより、各店舗は、初めて観光客を集客の対象として意識するようになった。また、高山市を訪れる外国人観光客が飛躍的に増加したことから、次第に外国人観光客の受入環境整備をする必要があると考えるようになった。

このような背景を踏まえ、「地元住民」と「観光客」の両方を意識したハイブリッドなまちづくりや店づくりに実際に着手するようになったきっかけは、2014年に商店街の1店舗が導入した「消費税免税制度」(一般型免税店)により、いわゆる外国人観光客の「爆買い」を体験したことにあった。

取組のポイント

高山市を訪れる外国人観光客が飛躍的に増加する中、商店街が最初に取り組んだことは、Wi-Fi環境の整備と、クレジットカード決済端末の導入である。

特に「銀聯カード」の取扱いを可能にしたことで、外国人観光客の半数を占める中国人の誘客に絶大な効果を発揮した。店舗入口に銀聯カードが使用可能であることを示すステッカーを貼ることで、外国人観光客の安心感を得られ、売上の向上に直結した。

また、免税手続一括カウンターの設置とともに、免税手続の案内を掲載した多言語対応の免税店マップの作成、外国人観光客にもわかりやすいイラストを用いた店内案内の実施を行い、また夕方以降の外国人観光客が多いことから、電飾掲示板を設置するなど積極的に誘客対応を行ってきた。

取組の全容及び事業実施体制

外国人観光客という新たな客層の誘客と、商店街全体の意識改革を促すため、Wi-Fiの導入、クレジットカード決済端末の導入、また全国初となる「商店街単独型」の免税手続一括カウンターの設置を実施した。

このうち、クレジットカード決済端末の導入にあたっては、市の補助金を活用し、各店舗の負担が軽減されたことで導入店舗の増加につながり、商店街として外国人観光客を受け入れる機運も高まった。

免税手続一括カウンターについては、国、高山市、高山商工会議所等と連携し、2016年1月に設置した。免税の加盟店は4店舗からスタートしたが、組合員への説明会の開催を通じて、3か月後には現在の7店舗まで増えた。参加店舗は、薬、化粧品、文房具、仏具等を扱う店舗など多岐にわたり、今後も参加店舗の増加が見込まれている。各店舗の免税手続にかかる手数料は無料とし、年中無休で免税手続一括カウンター利用に対応している。各店舗における外国人観光客へのアプローチの方針は「習うより慣れろ」。また会話に自信がなければ会話しなくてもいい方法を考えようと、免税店マップの作成やイラストでの案内を行った。このような外国人観光客への対応を進めたことで、各店舗が次第に免税手続に慣れていき、消費税免税制度が外国人観光客にも認知されてきた。

現在は、商店街を訪れた外国人観光客のさらなる取り込みと域内の滞在時間の増加を目指し、「株式会社まちづくり飛騨高山」と連携して、ランチや夕食を提供する「イータウン飛騨高山」の整備を進めており、2017年4月にオープンの予定だ。

また、空き家となっている建物をリノベーションして宿泊施設にするなど、新規事業の計画も立ち上がっており、これからも外国人観光客の誘客に力を入れていく。

取組みのプロセスで生じた課題と対応

商店街で「免税制度」を導入した当初は、外国人観光客が買い物時にパスポートを携帯しておらず免税手続を行えないケースが多かった。そこで多言語化対応の商店街パンフレットを作成する際、観光客の目に留まるよう表紙にキャラクターのイラストを用いるなど工夫を凝らし、「パスポートをお持ちください」の一文をわかりやすく記載した。この取組により、パスポートを忘れて免税手続ができないという外国人観光客が激減した。

免税手続一括カウンター設置など商店街の取組は、外国人観光客の誘客に力を入れる企業や行政機関だけでなく、新聞やテレビ局など様々なメディアに取り上げられており、商店街の知名度向上にもつながっている。

成果・継続へ向けた視点

免税手続一括カウンターを設置してから、免税対応店での売上は30%増加した。また、免税手続の回数は、上半期(2016年1月~6月)に対し、下半期(2016年7月~12月)は60%増加するなど着実に増加している。

外国人観光客の増加は、商店街の売上向上だけではなく、新たな交流の輪にもつながった。単に商品を販売するだけでなく、レジカウンターで折り紙をプレゼントするなどの小さな交流が、外国人観光客へのおもてなしとなっており、結果として、外国人観光客の満足度向上、リピーターの創出へと結びついている。

今後は、免税手続一括カウンターでの手荷物預かりや、直接海外へ荷物を発送するサービス事業の展開、レンタカーを利用する外国人観光客が増加していることから、旅行会社と連携した駐車場の割引制度の導入などを検討している。

また、「株式会社まちづくり飛騨高山」と連携した、外国人観光客向け施設の整備(飲食や宿泊)や、タブレットを活用した同時通訳システム、モバイル決済のWeChatペイの導入など外国人観光客のニーズに合わせた受入環境整備を進め、外国人観光客全体へのPRと商店街の賑わいの創出、そして「ハイブリッドな商店街」として、さらなる魅力発信を目指す。

キーマンからのアドバイス

中田 智昭氏 高山本町三丁目商店街振興組合 理事長

事業を進めるにあたっては、「即断即決」で、とにかくスピード感が重要です。様々なシステムも書類も日々目まぐるしく変化しているため、昨年の事例が参考にならないことも多々あります。そのため、目の前にあることを着々とこなし、 実績の積み上げをしていくことが必要だと考えます。

高山本町三丁目商店街は、アニメの聖地であることや、全国初となる「商店街単独型」免税手続一括カウンターを設置したことなどにより、様々な機関で取り上げていただく機会が増えました。結果として、これらの取組が特別な観光施設が「何もない」商店街全体の底上げへとつながり、商店街の活力となっています。

外国人観光客の受入は始まったばかりですが、外国人観光客への対応は、習うより慣れることが大事です。外国人観光客の受入状況は刻々と変化しており、常にトライ&エラーの繰り返し。しかし、「変化し続ける、という事実だけが変化しない」という言葉を胸に、常に前進していくことが大切だと考えます。

<竪町商店街振興組合(石川県金沢市)   黒門市場商店街振興組合(大阪府大阪市)※8/27更新予定>